ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのか

ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのか

ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのか

ブランディングとは、自社が何者で、何を大事にしているのかを決めて、外に出るものすべてを、それに揃えていく取り組みです。ロゴやデザインを新しく作ることを指す言葉ではありません。作る前に決めるところから、決めたあとに揃え続けるところまでを含みます。

この記事では、意味だけでなく、自社が何から手をつけるのかまでを書きます。この言葉が指す範囲は広いので、どこが詰まっているかによって、次にやることが変わります。

ブランディングとは何か

日本語の訳語が定着していません。ブランド化、商標化、銘柄づくり。辞書にはありますが、実務で使っている場面を見かけません。

定着しない理由は、日本語にすると「作る」側に寄るからだと考えています。ブランド化と言うと、何かをブランドにする作業に聞こえます。実際にやっているのは、決めること、作ること、揃えること。この三つのうち、訳語が拾えているのは真ん中だけです。

私たちは、訳さずに使っています。日本語にすると、範囲が狭くなるためです。

もう一つ、言葉の使われ方に幅があります。ロゴを作ることをブランディングと呼ぶ場面もあれば、会社の方向を決めることを指す場面もあります。同じ語で別の作業を指したまま話が進むと、見積もりの段階で食い違います。安くなったわけでも高くなったわけでもなく、最初から違う話をしていた、ということが起きます。

幅があること自体は、悪いことではありません。広い言葉なので、入口としては使いやすい面があります。ただ、作業の話に入る時点では、狭めておく必要があります。

だから、この記事では最初に範囲を書きました。決めるところから、揃え続けるところまでです。範囲の違う相手と話すときは、そこを先に合わせておくと早く進みます。

「3要素」と言われているもの

ブランディングの3要素、という整理を見かけます。検索でも出てくる問いです。

ただ、調べてみると、指しているものが同じではありません。

品質・デザイン・売り方を挙げる説明があります。事業を構成する要素として並べたものです。論理・信頼・情熱を挙げる説明もあります。こちらは人を説得するときの要素で、古典の弁論術から来ています。ブランドのアイデンティティ・パーソナリティ・体験を挙げる説明もあります。ブランドそのものを分解した形です。

三つとも「3要素」と呼ばれていますが、階層が違います。事業の話、人の動かし方の話、ブランドの構造の話。同じ棚に並べられるものではありません。

どれかが間違っている、という話ではありません。それぞれの文脈では成立しています。問題は、どれを持ってきても自社の作業には接続しないことです。「うちの品質・デザイン・売り方はどうか」と考えても、明日何をするかは決まりません。

なぜ整理が一致しないのかにも、触れておきます。ブランディングという語自体が、指す範囲の広い言葉だからです。事業の話をしている人と、デザインの話をしている人と、社内の話をしている人が、同じ語を使っています。それぞれの立場から要素を三つ挙げれば、三つとも別のものになります。

要素の分け方が揃わないのは、この言葉の性質から出ています。統一されるのを待っても、おそらく揃いません。

私たちは、決めることと作ることに分けて見ています。要素で分けるのではなく、作業で分けます。決めるほうと作るほうでは、必要な材料も、決める人も、かかる時間も違うからです。次の章がその中身です。

決めることと、作ること

やっていることを分けると、決めること、作ること、揃えることになります。

決めることは、自社が何者で、何を大事にし、誰に何を約束するかを言葉にする作業です。作ることは、ロゴ、サイト、パッケージ、会社案内、店の内装、採用資料。目に見えるものを形にする作業です。揃えることは、作ったものを決めたものに合わせ続ける作業で、これには終わりがありません。

この三つのうち、成果物が見えるのは真ん中だけです。

決めることには納品物がありません。会議をして、言葉が決まって、資料が1枚できる。かけた時間に対して、見えるものが少ない。揃えることも同じで、続けている間は成果が形になりません。

だから、相談は作るほうから始まります。ロゴを新しくしたい、サイトを作り直したい、パッケージを変えたい。作るところから始まるのが普通ですし、それで進む場合もあります。

ただ、決めるほうを飛ばして作ると、あとで揃わなくなります。ロゴを決めた人と、サイトを作った人と、パッケージを作った人が、それぞれ自分の判断で良いものを作る。個々は良くても、並べると別の会社に見える。

そのときに直すのは、作ったものではありません。決めていなかったところに戻ることになります。そして戻ると、作り直しが発生します。

順番の話であって、作ることが軽いという話ではありません。決めた言葉は、形にならなければ誰にも届きません。

揃えることについても、書いておきます。決めて、作って、終わりではありません。会社は動き続けるので、新しく作るものが出てきます。採用のページ、展示会のブース、来期の資料。そのたびに、決めたものに合わせるかどうかの判断が発生します。

この判断を毎回ゼロからやり直していると、担当者が変わったところでずれます。決めたことを、他の人が判断できる形にして渡しておく必要があります。

似た言葉との違い

近い場所で使われる言葉があります。混ざると、頼む先も変わります。

マーケティングは、売れる仕組みをつくる作業です。誰に、どの経路で、いくらで届けるか。ブランディングは、選ばれる理由をつくる作業です。どちらが上ということではなく、扱っているものが違います。仕組みがあっても選ぶ理由がなければ価格で比べられますし、選ぶ理由があっても届く経路がなければ知られません。

デザイン制作は、作ることの一部です。前の章で挙げた三つのうち、真ん中にあたります。ブランディングは、その手前の決めることを含みます。

広報は、決めたことを伝える機能です。何を伝えるかが決まっていないと、伝え方の話だけが進みます。

そして、この分け方をしない考え方もあります。ブランディングも空間も映像も、同じ判断から出てくるものだから領域で分けない、という立場です。私たちがなぜそう考えているかは、なぜ私たちは、ブランディングも空間も映像も分けないのかに書きました。

もう一つ。すでにあるものを作り直す場合は、リブランディングと呼びます。新しく作るのか、あるものを見直すのかで、最初にやることが変わります。意味と進め方は、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングにまとめました。

言葉が混ざると、相談する先が変わります。売れる仕組みの話をマーケティングの会社に持っていくのは筋が通っていますが、選ばれる理由が決まっていない状態で行けば、仕組みだけが増えます。逆に、届く経路がない状態で選ばれる理由だけを整えても、知られません。どちらが足りないのかは、症状を見れば見当がつきます。次の章がその話です。

いま何が起きているかを見分ける

相談は、目の前の困りごとから始まります。応募が来ない、見積もりがばらつく、社員の説明が揃わない。ブランディングが必要かどうか、という形では来ません。

そして、症状と原因は一致しません。見えている症状の手前に、詰まっている場所があります。

見えている症状 詰まっている場所
作ったものが、並べると揃わない 決めていない
社員によって会社の説明が違う 決めたが、社内で使われていない
採用で応募が集まらない 外に出している言葉が、中と合っていない
見積もりが会社ごとに大きく違う 何を頼むかが決まっていない

同じ症状でも、詰まっている場所が違うことがあります。応募が来ないのは、募集要項の書き方かもしれませんし、そもそも会社として何を言うかが決まっていないのかもしれません。ロゴが古いから応募が来ない、という筋道は、あるとしても後のほうです。

見分ける問いは、決まっていないのか、決めたが使われていないのか、作るものが決まっていないのか。このどれかに入ります。

どれに当たるかは、聞けば見当がつきます。

決まっていないかどうかは、社内の何人かに同じ問いを出すと見えます。うちは何をする会社ですか、と聞いて、返ってくる説明が重なるかどうか。一言一句が揃う必要はありません。同じことを指しているかどうかを見ます。

決めたが使われていないかどうかは、あとから入った人に聞くと早く分かります。入る前に見ていた会社の説明と、入ってから聞いた説明が同じだったか。ずれていたなら、外に出している言葉と、中で使っている言葉が別になっています。

作るものが決まっていないかどうかは、見積もりに出ます。同じ依頼で会社ごとに金額が大きく動くなら、頼む範囲が決まっていません。差は、相手の価格設定より先に、依頼の書き方から出ます。

決めたのに社内で使われていない状態は、それだけで一本の作業になります。進め方と、何を見れば効いたと分かるのかは、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に書きました。

採用の場面で出ている場合は、扱いが少し違います。採用広報との切り分けと、手をつける順番は、採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番にまとめています。

相談の入口で言われた言葉を、そのまま作業の範囲にしているなら、見立てていないということです。ロゴを作りたいと言われてロゴを作るのは、注文を受けたのであって、詰まっている場所を見たことにはなりません。

状態別に、次に読むもの

見分けがついたら、次にやることが決まります。詰まっている場所ごとに書きます。

順番としては、言葉が決まっていない場合が手前にあります。決まっていなければ、作るものも、頼む相手も決められないからです。逆に、言葉が決まっているなら、そこは飛ばして構いません。すでに決まっているものを決め直すのは、時間の使い方として重くなります。

言葉が決まっていない場合

決めるところから始めます。ただ、決めるものにも種類があります。

誰に何を約束するかを決めたいなら、ブランドコンセプトです。外に向けた約束を一つの形にする作業で、作り方と、それが機能しているかの見分け方はブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方にあります。

会社の内側を三つに分けて持ちたいなら、MVVです。何を果たすのか、どこへ向かうのか、何を選ぶのか。三つの違いと、ぶつかったときにどうするかはMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書きました。

すでに理念があって、作り直すかどうかで迷っているなら企業理念とは。経営理念との違いと、作り直すときの判断です。ゼロから作る場合と、あるものを見直す場合では、やることが別になります。

なぜこの会社が存在するのか、というところから考えたいなら、パーパスです。掲げたのに使われない状態がなぜ起きるかも含めて、パーパス経営とは。「意味がない」と言われる理由と、中小企業での使いどころにまとめました。

全部を一度に決める必要はありません。要るものから決めるほうが、使われる形になります。

作ったものが揃わない場合

決めてはいるが、出てくるものが揃わない。この場合、決めたことが作る人に渡っていない可能性があります。

渡す形にしたものが、ブランドガイドラインです。何を書き、なぜ使われなくなるのかはブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書きました。

ただ、揃わない原因は分かれます。決めていないから揃わないのか、決めたが渡っていないから揃わないのか。前者なら、一つ前の節に戻ります。

誰に何を頼むか決まらない場合

作ることは決まっているが、どこに頼むか決まらない。この場合は、頼む相手の型から見ます。

会社によって、得意な範囲が違います。型の分け方と、自社に必要な型の見分け方はブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方にあります。

頼むものが決まっているなら、それぞれに書いたものがあります。サイトを作り直すならコーポレートサイトのリニューアル。作り直す前に、何が変わったかを見る、パッケージならパッケージデザイン会社の選び方。依頼できる範囲と、決めておく条件、ロゴならロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わるです。

一式で提案するほうが、引き受ける側は楽です。ただ、一式にすると順番が消えます。どれを先にやるかを決めて示すところまでが、提案だと考えています。

順番を間違えるとどうなるか

作ってから決めると、決めた内容に、作ったものが合いません。

言葉が後から決まると、すでに作ったものを見ながら決めることになります。作ったものに合う言葉を選ぶ形です。順序が逆なので、決めた言葉が判断の役に立ちません。すでにあるものを説明するだけの文になります。

外側を先に変えても、決め方が変わらなければ元に戻ります。ロゴを変え、サイトを作り直し、それでも相談が来る内容は変わらない。そこで何が起きているかは、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないに書きました。

売り場で同じことが起きた場合は、戻る先がもう少し手前にあります。パッケージを変えたら売れなくなる。その手前で、何が起きているのかがその話です。

順番を守れない理由は、はっきりしています。作るほうには納期があり、決めるほうにはありません。期限のあるものが先に進むので、決めるほうが後回しになります。

戻ったときの負担は、作り直しの費用だけではありません。一度やったことを、もう一度やることになります。社内では「この前決めたはずでは」という空気が出ますし、二度目は集まる人の熱が下がります。同じ議論を、前より低い温度でやり直すことになります。

作ることから入る提案が通りやすいのも、成果物が見えるからです。見えにくいほうを先に売るのは、引き受ける側の仕事だと考えています。先にやる理由が当時なかったのも事実で、形にならないものに時間を割く判断は、発注側だけで下せるものではありません。

決めることが先で、作ることは後

ブランディングは、何かを新しく作ることではありません。すでにあるものを決めて、外に出るものを揃えていく作業です。

決めるところには成果物がないので、飛ばされます。飛ばしても作れますし、作ったものは形になります。ただ、飛ばした分は、あとから作り直しとして出てきます。

自社がどこで詰まっているかは、症状から辿れます。作ったものが揃わないのか、決めたことが使われていないのか、頼む相手が決まらないのか。入口が分かれば、次に読むものが決まります。

そして、決めることには終わりがありますが、揃えることには終わりがありません。会社が動き続けるかぎり、新しく作るものが出てきます。そのたびに、決めたものに合わせるかどうかを判断する。ブランディングという言葉が指しているのは、この続きのほうです。

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