リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミング
リブランディングとは何か
リブランディングとは、すでにあるブランドを、事業の現在地に合わせて作り直すことです。ロゴを変えることではありません。ロゴの変更は結果として起こる場合がありますが、目的ではありません。作り直すのは、その会社が何者で、誰に何を約束しているのか、という中身のほうです。
言い換えると、看板の描き直しではなく、看板に何と書くべきかの見直しです。
多くの相談は「ロゴを新しくしたい」「サイトが古くなった」という形で始まります。動機としては自然です。ただ、そこから話を進めていくと、本当に困っているのは見た目ではないことがよくあります。事業の中身が変わったのに、外からの見え方が昔のままになっている。その状態を指して、リブランディングという言葉が使われます。
似た言葉との違いにも触れておきます。ブランドリニューアル、CI刷新といった言い方もありますが、指している範囲はほぼ重なります。CIは視覚的な識別体系を指して使われることが多く、リブランディングはその手前の考え方まで含む、という程度の差です。
呼び方より、どこまでを対象にするかを社内で揃えるほうが、実務では重要になります。
この記事では、意味・ブランディングとの違い・必要になる場面・進め方・費用の考え方・判断のタイミングまでを順に説明します。
ブランディングとの違いは何か

ブランディングは新しく作る作業、リブランディングは既にあるものを作り直す作業です。違いは「ゼロから作るか」ではなく、「すでに誰かの頭の中にある認識を、扱わなければならないか」にあります。
| ブランディング | リブランディング | |
|---|---|---|
| 出発点 | 何もない状態 | すでに認識がある状態 |
| 前提 | 決めれば、それが正になる | 決めても、既存の認識と競合する |
| 制約 | 少ない | 既存の顧客・社員・取引先の理解 |
| 難しさ | 何を選ぶか | 何を残し、何を手放すか |
新規のブランディングでは、決めたことがそのまま出発点になります。誰も何も知らないので、矛盾が起きません。
リブランディングは違います。すでに顧客がいて、社員がいて、取引先がいます。その人たちが持っている認識は、こちらの都合では書き換わりません。
ここが最大の難所です。新しくしたいという動機だけで進めると、既存の顧客が手がかりを失います。実際にそれが起きた事例は、別の記事でまとめています(パッケージを変えたら売れなくなる)。
リブランディングが必要になるとき

事業の実態と、外からの見え方がずれたときです。ずれ方には型があり、大きく5つに分かれます。
1. 事業内容と、見え方がずれた
社名や既存のイメージが、いまの主力事業と合っていない状態です。
創業時の看板を掲げたまま、事業の重心が移っているとよく起こります。問い合わせの内容が、実際にやっていることとずれてくる。これがずれの現れ方です。
2. 代替わり・世代交代
経営者が交代し、これからの方向を示す必要が出た状態です。
前の代が作ったものを否定する話ではありません。引き継ぐものと、これから足すものを、外から見て分かる形にする作業です。
3. M&A・事業統合
複数の会社や事業が一つになり、対外的な見え方を整理する必要が出た状態です。
どちらかに寄せるのか、新しく立てるのか。社内の力関係ではなく、市場からどう見えるかで決める必要があります。
4. 採用で伝わらない
応募が集まらない、あるいは入社後の認識がずれる状態です。
原因が給与や待遇ではないこともあります。どんな会社で、何をやっていて、何を大事にしているのかが伝わっていない場合です。
5. 市場そのものが変わった
顧客の買い方や、競合の顔ぶれが変わった状態です。
自社は変わっていなくても、周りが変われば相対的な位置は動きます。「昔は説明しなくても伝わったことが、伝わらなくなった」という形で現れます。
進め方は、6つの工程に分かれます

先に押さえることがあります。各工程で何をするかではなく、何を決めるかです。決めるものが曖昧なまま次へ進むと、後の工程で必ず戻ります。
| 工程 | 決めること |
|---|---|
| 1 現状把握 | いま何によって認識されているか |
| 2 変わらないものを見つける | その会社にとって動かせないものは何か |
| 3 方向の決定 | 誰に、何を、どう伝えるか |
| 4 設計 | 言葉・視覚・体験をどう組むか |
| 5 展開 | どの順で、どこから出すか |
| 6 定着 | 社内でどう使われ続けるか |
1. 現状把握
いま自社が、外からどう認識されているかを確かめます。
見る先は3つです。社内の認識、顧客の認識、そして競合との位置。
社内の自己認識と顧客の認識は一致しません。この差そのものが、リブランディングで扱う対象です。顧客への聞き取り、問い合わせ内容の傾向、競合との並びを見ていきます。
2. 変わらないものを見つける
その会社にとって、動かせないものが何かを見つけます。
ここは「変えないものを決める」ではありません。決めるのではなく、すでにそこにあるものを見つける作業です。
はじめに、その会社の歴史を調べます。ここは必ず通ります。何をしてきた会社なのかが分からないまま、変わらないものは見つけられません。
そのうえで、3つを見ていきます。会社の理念。大事にしていること。そして、社員が何気なく使っている言葉や考え方です。
歴史が資料から調べるものだとすれば、あとの3つは人から出てくるものです。この4つを紐解いていくと、変わらないものが少しずつ輪郭を持ってきます。
見つけておくと、後の工程で判断が速くなります。「これは変えてよいか」という問いに、根拠を持って答えられるようになるからです。
実例を一つ挙げます。コカ・コーラは2016年、種類ごとに違っていたパッケージの見た目を、赤い円を共通の要素として統一しました。各バリアントの独自性は手放しています。それでも赤い円は動かしませんでした。この工程で決めていたのは、そこです(パッケージを変えたら売れなくなる)。
3. 方向の決定
誰に、何を、どう伝えるかを決めます。
ここで決めるのは表現ではなく、狙いです。すべての人に良く見せようとすると、誰にも引っかからないものができます。優先順位をつけることが、この工程の実質です。
4. 設計
言葉・視覚・体験を具体的に組みます。
言葉は、名前とタグライン。視覚は、ロゴ、色、写真。体験は、サイト、資料、空間です。
ここで初めて見た目の話になります。3工程めまでが済んでいれば、判断の基準はすでにあります。
5. 展開
どの順で、どこから出すかを決めます。
出す先は、Webサイト、営業資料、採用まわり、パッケージ、店頭や空間といった領域に分かれます。全部を同時に切り替える必要はありません。
先に出す領域を限れば、反応を見てから広げられます。同時に「どうなったら戻すか」も決めておきます。
こちらも実例を一つ。ゼネラル・ミルズは2017年、シリアルのTrixで、旧版に戻すか新しい版を続けるかの選択を迫られました。同社が決めたのは、どちらかを選ばないことでした。新旧の両方を棚に置いています。
6. 定着
社内でどう使われ続けるかを決めます。
作った時点では終わりません。使い方が共有されていないものは、いつのまにか元に戻ります。ガイドライン、テンプレート、判断の窓口。誰が運用するのかまで決めて、ようやく完了です。
なぜ同じ依頼で、見積もりが大きく違うのか

片方が高いわけではありません。見積もっている範囲が違うのです。相見積もりで金額が大きく開くとき、原因はたいていここにあります。
ここでは金額の相場ではなく、金額を読むための物差しを説明します。
見積もりを動かす4つの要因
1つめは、範囲です。調査だけなのか、設計まで含むのか、制作物まで作るのか、運用の支援まで入るのか。同じ「リブランディング」という言葉でも、含まれる工程がまるで違います。
2つめは、タッチポイントの数です。顧客が触れる接点をいくつ作り直すか。ロゴだけと、サイト・会社案内・名刺・パッケージ・店頭・採用資料まででは、作業量がまったく違います。
3つめは、既存の資産をどこまで使えるかです。使える写真や素材があるか、撮り下ろしが必要か。文章が残っているか、取材から始めるか。ここが見積もりの差になりやすい箇所です。
4つめは、期間と体制です。短期で仕上げるには人数が要ります。関わる部署が多ければ、合意形成の時間もかかります。
比べるときに、揃えて聞くこと
金額を並べる前に、次の4点を各社に同じ形で聞いてください。揃っていない見積もりを比べても、判断材料になりません。
- どの工程まで含まれているか(調査/設計/制作/展開/定着)
- 制作物は何を、いくつ作るか
- 修正は何回まで、どの範囲で対応するか
- 誰が担当するか(体制と、想定している期間)
安い見積もりが悪いわけではありません。範囲が狭ければ安くなります。問題は、範囲が違うものを金額だけで比べてしまうことです。
金額が出せない段階もあります
範囲が決まっていなければ、そもそも見積もりは出せません。
「リブランディングをしたい」という段階では、何をどこまで作るかが決まっていないことがほとんどです。この状態で総額を求めると、各社がそれぞれ違う前提で数字を組み立てます。並べても比較にならない数字が集まります。
その場合は、範囲を決めるところまでを切り出して依頼する方法があります。調査と方向づけだけを先に発注し、決まってから制作の見積もりを取る。工程を分ければ、比べられる状態を作れます。
もっとも、この分け方を提案するのは、本来は見積もりを出す私たちの側の仕事です。
失敗しやすいのは、どんなときか
よくある型は5つあります。いずれも原因はデザインの出来映えではなく、その手前の判断です。
1つめ、見慣れたものが古く見える。長く使われた要素ほど、内側の人間には古びて見えます。しかし外から見れば、それは目印です。
2つめ、検討する場所と、使われる場所が違う。画面の上でじっくり比べたものが、売り場や名刺交換の場で同じように働くとは限りません。
3つめ、新規に寄せて、既存の道しるべを失う。新しい客は増えないのに、いつもの客が見つけられなくなる。私たちが相談を受けるなかで、いちばん多く見かける形です。
4つめ、会議室で評価した人と、実際に選ぶ人が違う。プレゼンで判断するのは決裁者ですが、買うのは別の人です。
5つめ、引き返す条件を決めていない。「どうなったら戻すか」を先に決めていれば、傷は浅く済みます。
それぞれの詳細と、実際に起きた事例は別の記事で扱っています(リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くない)。
なお、いずれの事例も動機は正しく、デザインの完成度も低くありませんでした。そこは押さえておいてください。
やるべきタイミングと、避ける時期

判断の分かれ目は、変えれば解決する問題かどうかです。やるべきサインと、避けたほうがよい時期を順に見ていきます。
やるべきサイン
「必要になるとき」で挙げた5つのうち、2つ以上が同時に起きているときは、着手の時期に来ています。ずれが一箇所なら部分的な対応で済むことが多いのですが、複数が重なると個別対応では追いつきません。
中期計画の節目も適した時期です。方向を決める作業がすでに走っているので、接続できます。
体制を作れることも条件です。決裁の経路がはっきりしていて、担当者が動ける状態かどうか。ここが曖昧なまま始めると、途中で止まります。
避けたほうがよい時期
商品やサービス自体に課題があるときは、先にそちらです。見え方を変えても、中身の問題は解決しません。むしろ期待だけが上がって、落差が大きくなります。
社内の合意が取れていないときも避けてください。決めた後で反対が出ると、決め直しになります。作業のやり直しよりも、決定そのものへの信頼が失われることのほうが痛手です。
繁忙期も向きません。リブランディングは、社内から情報を引き出す作業を含みます。関係者が時間を取れない時期に始めると、材料が集まらないまま形だけが進みます。
迷ったときの目安を一つ挙げます。「変えたら解決するのか」を先に自問してみてください。答えが出ないなら、まだ課題が特定できていない段階です。その状態で着手すると、出来上がったものが正しかったのかどうかも判定できません。
相談する前に整理しておくこと

相談の前に社内で整理しておくと、話が速く進みます。すべて埋まっている必要はありません。埋まらない箇所が、最初に一緒に考える論点になります。
1. なぜ変えたいのかを、一文で書けるか
書けない場合、まだ課題が特定できていない段階です。それ自体は問題ありません。
2. 変えて、何を実現したいのか
問い合わせを増やしたいのか、採用に効かせたいのか、社内をまとめたいのか。目的が違えば、作るものも変わります。
3. 変わらないものを3つ挙げられるか
自社にとって動かせないものを、社内で先に出しておきます。ここは制作会社と一緒に見つける工程でもあるので、候補で構いません。
4. 誰が決めるのか
決裁の経路と、最終判断者を確認しておきます。途中で判断者が増えると、決まったことが戻ります。
5. いつまでに、どこまでやるのか
期限と範囲です。決まっていなければ「決まっていない」と伝えてください。曖昧なまま見積もりを取ると、比べられないものが集まります。
リブランディングは、探す作業から始まる
この記事で示した6つの工程は、2番目に「変わらないものを見つける」を置いています。3番目の「方向の決定」より前です。順番は、ここが要になります。
決めるより先に、見つける。逆にすると、決めた方向に合わせて「変わらないはずのもの」を選ぶことになります。それは見つけたことになりません。
見つかっていれば、大きく変えても壊れません。コカ・コーラが赤い円だけを動かさなかったように、変える範囲が広くても、目印が残っていれば客は迷わずに済みます。
最初の一歩は、8章の3番目です。自社にとって変わらないものの候補を、3つ挙げてみてください。社内で人によって違うものが出てくるなら、そこがリブランディングの出発点です。