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タグラインとは。キャッチコピーとの違いと、短くならないときの原因

タグラインとは。キャッチコピーとの違いと、短くならないときの原因

タグラインとは、その会社やブランドが何を約束しているかを、短い一文にしたものです。ロゴの近くに置かれ、社名だけでは伝わらない部分を補います。長さに決まりはありませんが、覚えていられる範囲に収めます。 タグラインが短くならないとき、詰まっているのは言葉ではなく、その手前の約束です。何を約束しているかが決まっていれば、短くする作業はそれほど難しくありません。決まっていないものは、何度書き直しても短くなりません。 この記事では、キャッチコピーとの違いから入ります。そのうえで、短くならないときに何が起きているのか、何を残して何を捨てるのかを書きます。 タグラインとは何か 社名は、何をしている会社かを伝えません。業種名が入っていても、そこから分かるのは業種までです。同じ業種の会社は他にもあるので、それだけでは選ぶ理由になりません。 タグラインは、その足りない部分を補います。何を約束しているのかを、社名の隣で一文にする。 ロゴと一緒に置かれるのは、見た人がその場で判断するからです。名刺を渡された相手は、説明を聞く前に目にします。サイトを開いた人は、内容を読む前に見ます。読む前に判断が始まる場所なので、そこに置きます。 補う部分は、会社によって違います。社名が抽象的なら、何をしているかを補います。業種名が社名に入っているなら、業種は要りません。誰に向けているのか、どう違うのかを補うことになります。同じ長さの一文でも、社名との組み合わせで中身が変わります。 タグラインを置かない会社もあります。社名だけで何をしているかが伝わるなら、補う必要がありません。要るかどうかは、社名が何を言えているかで決まります。 位置づけとしては、上流に約束を決める作業があって、タグラインはその出力です。先に決まっていないと、出力は作れません。この順番が、この記事の中心になります。 ブランディング全体のなかでどこに当たるかは、ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのかに書きました。 私たちは、タグラインを約束の出力として扱っています。業界で決まった線引きがあるわけではありませんが、こう置くと、書けないときにどこへ戻ればいいかが決まります。 キャッチコピーとの違い この二つは、混ざりやすい言葉です。どちらも短い一文で、目立つ場所に置かれます。 分かれるのは、対象と寿命です。 タグライン キャッチコピー 対象会社・ブランド商品・企画・広告 期間変えない前提期間で入れ替える 置き場所ロゴの近く広告・売り場 決める人経営担当・制作 違いが出るのは、表の二行目です。キャッチコピーは、入れ替える前提で作られます。季節が変われば変わりますし、商品が変われば変わります。入れ替えても困らない設計です。 タグラインは、入れ替えません。覚えてもらうまでに時間がかかるので、変えると積み上げた分が消えます。 混ざると何が起きるか。タグラインを毎年見直すことになります。そのたびに新しくなるので、誰も覚えません。逆に、キャッチコピーを長く使い続けると、いまの商品と合わなくなります。 決める人が違うのも、実務では効きます。キャッチコピーは担当や制作の側で決められますが、タグラインは会社が何を約束するかの話なので、決める人が上に来ます。 混ざる理由もあります。どちらも制作の場で作られるからです。同じ人が同じ会議で両方を出すこともあります。作る作業は似ていますが、決めたあとの扱いが違うので、どちらを作っているのかを先に決めておきます。 見分け方は単純です。その一文を、来年も使うつもりがあるか。あるならタグライン、無いならキャッチコピーです。 両方を持つ会社もあります。タグラインを変えずに置いたまま、企画ごとにキャッチコピーを入れ替える。この形なら混ざりません。役割が分かれているからです。 使い分けができていないと、依頼の段階でずれます。タグラインを頼んだつもりで、出てきたのが広告用の一文だった。逆に、企画の一文を頼んだのに、会社全体の話から始まった。どちらを作るのかを先に決めておくと、この行き違いは起きません。 スローガンという語も使われます。指す範囲が会社によって違うので、社内で話すときは何を指しているかを先に確かめると早く進みます。 短くならないときに起きていること 案は出るのに、決まらない。長い案しか出てこない。この状態は起こります。 書く力の問題ではないことがあります。短い一文を書くこと自体は、書き慣れた人なら難しくありません。それでも決まらないなら、別のところで詰まっています。 短くするというのは、捨てるということです。全部は入らないので、どれかを外します。 外せないのは、どれが要らないかを判断できないからです。判断するには基準が要ります。何を約束するかが決まっていれば、それに関係のない要素から外せます。決まっていなければ、どれも同じ重さに見えます。 だから、案が長くなります。捨てられないものを全部入れると、長くなるしかありません。 私たちが相談を受けるなかで見かけるのは、全部入れようとする形です。事業の説明も、強みも、姿勢も、これからのことも。一文にまとめると、何も言っていない文になります。どこかで見たことのある言い回しになるのも、要素が多すぎて具体を落とすからです。 判断できないまま進める方法もあります。並べた案から、良いと思うものを選んでもらう形です。その場では決まりますが、なぜそれにしたのかが残りません。あとで別の人が見たときに、変えていいのかどうかが分からなくなります。 そして、選んだ一文が実際に使われるかどうかも、そこで決まります。理由のない一文は、社内で説明できません。説明できない言葉は、名刺に印刷されても口には出ません。 詰まっているのが上流かどうかは、確かめられます。何を約束しているかを、一度書き出してもらう。書き出せるなら、短くする作業に戻れます。書き出せないなら、そちらが先です。書き出したものが長い場合も、同じことが起きています。約束のほうが絞れていないので、そこから短い一文は出てきません。 短くできないことは、失敗ではありません。上流が決まっていない、という情報です。作れないという症状が、どこに戻ればいいかを教えています。 もう一つ、決まっているのに書けない場合もあります。約束は決まっていて、それを一文にする作業自体でつまずいている。この場合は上流に問題がないので、次の章の手順に進みます。 戻る先は、誰に何を約束するかです。作り方と、それが機能しているかの見分け方は、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書きました。 短くならないと言われたときに、案を出し続けるのか、上流に戻すのか。ここで案を足すと、選べない案が増えるだけになります。戻すほうが、結果として早く終わります。 何を短くするのか 約束の全部は、一文に入りません。入れる要素を選びます。 候補は限られています。誰に向けているか。何を提供するか。どう違うか。相手にどうなってほしいか。 四つとも入れると、説明文になります。一文のなかに情報が並ぶだけで、覚えられません。 選び方の基準は、社名です。社名が言えていない部分を、タグラインが補います。社名に業種が入っているなら、業種を書く必要はありません。同じことを二度言うことになります。抽象的な社名なら、何をしている会社かを補うところから始まります。 同じ約束から、複数のタグラインが作れます。どれを選ぶかは、社名との組み合わせで決まります。他社のタグラインをそのまま参考にしても自社では成立しないのは、社名が違うからです。 もう一つの基準は、その場で判断される場面です。名刺を渡すとき、サイトを開いたとき。相手がまだ何も知らない状態で読む一文なので、前提を必要とする言葉は使えません。社内で通じる言い回しは、そこで落とします。 入れる要素で迷いやすいのが、どう違うか、です。他社と比べた違いを入れたくなりますが、比べる相手が変われば違いも変わります。相手に依存する内容は、長く使う一文には向きません。自社の側だけで言い切れることを選ぶと、比べる相手が変わっても残ります。 外す判断は、書いたあとにします。先に絞ってから書くと、書ける範囲が狭くなります。全部入れた長い版を一度書いて、そこから外していく順のほうが、残すものが決まります。 外す順番も決められます。まず、なくても意味が通る言葉から外します。次に、他社でも言えることを外します。最後に残るのが、その会社でしか言えない部分です。 残った部分が短ければ、それがタグラインになります。残った部分が長いなら、約束のほうにまだ絞る余地があります。ここでも、上流に戻る判断が出てきます。 書いた本人が説明できるかも、確かめます。なぜこの言葉にしたのかを、社内の人に説明する。説明の途中で言い直したくなるなら、まだ決まっていません。 長さと形をどう決めるか 長さに決まりはありません。基準は、覚えていられるかどうかです。 確かめ方は、声に出すことです。息継ぎなしで言えるなら、覚えられる範囲に入っています。読点が二つ以上入るなら、長い。 形にも選択があります。動詞で終えるか、名詞で止めるか。 動詞を入れると、動きが出ます。何をする会社かが伝わりやすくなります。ただ、動詞には期間の含みが出ます。これからそうする、という読み方をされることがあります。 名詞で止めると、状態になります。動きは弱くなりますが、時間の含みが消えます。長く使う前提なら、こちらが向いていることがあります。 英語にするか日本語にするかも、決めます。読む人が意味を取れるかで決めます。見た目で英語を選ぶと、意味が伝わらないまま置かれます。取引先が海外にいるなら、事情が変わります。 読みやすさも見ます。声に出したときに詰まる箇所があるなら、そこで読む人も止まります。音の並びは、意味とは別に効きます。 誰が読み上げるかも考えます。社員が電話で名乗るときに続けて言えるか。採用の説明会で口に出せるか。書いたときには収まっていても、話し言葉にすると長い、ということがあります。 そして、書いた形のまま使われるとは限りません。名刺では小さく組まれ、サイトでは大きく出ます。文字の大きさが変わっても読めるかを、決める前に確かめておきます。 決まらないときに案の数を増やすのは、前の章に戻る合図です。形の問題ではないことがあります。 案を数だけ出して選んでもらう形にすると、決める材料を渡していないことになります。それぞれが何を捨てた案なのかを添えないと、受け取った側は好みで選ぶしかありません。 決めたあとに変えるか タグラインは、変えない前提で作ります。覚えてもらうまでに時間がかかるからです。 それでも、変える場面はあります。事業が変わった、扱うものが変わった、約束そのものが変わった。中身が実態と合わなくなったなら、変えます。 判断が分かれるのは、言い回しが古いだけの場合です。表現が古いことと、考えが古いことは別です。当時の言い方で書かれているだけで、指している中身がいまも動いているなら、変える理由がありません。 変えると、それまで積み上げたものが消えます。覚えていた人にとっては、別の会社に見えます。付いている印象を変えるとどうなるかは、ブランドイメージとは。動かせる範囲と、ずれに気づく方法に書きました。 見直す時期は、期間ではなく出来事で決めます。何年経ったから見直す、という決め方だと、その日が来ても動きません。事業が増えたとき、扱うものが変わったとき、社名を変えたとき。そういう場面で見直すほうが、判断する材料がそろっています。 会社全体を作り直す判断になる場合は、タグラインだけの話ではなくなります。進め方はリブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングにまとめました。 変えると決めた場合も、切り替え方があります。ある日を境に全部を入れ替えるか、新しく作るものから順に変えるか。印刷物が残っているうちは、しばらく両方が並びます。並ぶ期間をどう扱うかを、変える前に決めておきます。 変えないという判断も、決めた結果です。見直して、変えないと決める。この記録が残っていると、次に同じ議論が起きたときに早く済みます。 どこに出すか 置く場所は、決めてから作るほうが早く済みます。ロゴの近く、名刺、サイトのヘッダー、会社案内の表紙、採用ページ。 出す場所を決めていないと、作った時点で作業が終わります。一文はできたが、どこにも出ていない、という状態です。 ロゴと組み合わせるなら、位置と余白を決めておく必要があります。組み合わせ方が決まっていないと、作る人ごとに置き方が変わります。この決めごとをどこに書くかは、ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書きました。 社内にも置きます。社員が説明できない一文は、外でも説明されません。名刺に印刷されていても、渡すときに触れられなければ、相手は読み飛ばします。 出す場所によって、扱いも変わります。ロゴの近くでは、短さが効きます。会社案内の表紙では、その下に補足を置けます。同じ一文でも、周りに何があるかで伝わり方が変わります。 使わない場所も決めておきます。あらゆる資料の隅に入れると、見慣れて意味が消えます。目に入る回数と、覚えられるかどうかは、別のことです。 置く場所ごとに、誰が管理するかも決めます。サイトは制作の担当、名刺は総務、会社案内は広報。担当が分かれていると、変えたときに片方だけが残ります。どこに出しているかの一覧を持っておくと、直す作業が短くなります。 そして、印刷物との相性も見ます。刷ってしまえば直せないので、出す前に社内で一度使ってみる。会議で口に出してみて、言いにくければ、そこで気づけます。 書けないことは、悪い知らせではない タグラインが短くならないとき、詰まっているのは言葉ではありません。何を約束するかが、まだ決まっていないということです。 短くするというのは、捨てるということでした。捨てるには基準が要り、基準は約束から出ます。順番としては、それだけです。 だから、書けないという症状は、どこに戻ればいいかを教えています。案を足す前に、上流を確かめる。そちらのほうが、結果として早く終わります。 一文が出てきたら、社内の何人かに言ってもらいます。言えるなら、決まっています。言い直しが入るなら、まだ途中です。 測った結果が「まだ決まっていない」でも、それは進んだということです。どこに戻ればいいかが分かった状態だからです。 逆に言えば、短い一文が書けたときには、上流が決まっているということになります。タグラインは成果物ですが、同時に、決まっているかどうかを測るものでもあります。 関連する記事 ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方 トーンアンドマナーとは。決めるのではなく、約束から翻訳する ブランドストーリーとは。材料の探し方と、どれを選ぶかの基準 記事一覧を見る

トーンアンドマナーとは。決めるのではなく、約束から翻訳する

トーンアンドマナーとは。決めるのではなく、約束から翻訳する

トーンアンドマナーは、その場で決めるものではありません。すでに決まっていること、つまり誰に何を約束するかから、見え方と言い方に翻訳したものです。 決め方を探して来られた方が多いと思います。手順は要ります。色を選び、書体を選び、文章の調子を決める。その作業は誰かがやります。ただ、手順を動かすには入力が要ります。何から訳すのかが決まっていないと、選択肢を絞れません。 そして、訳したものが合っているかを判断できるのは、元を持っている側です。作る側だけで見ると、良いか悪いかの話になります。 この記事で書くのは、言葉の意味と、訳す元が何なのか、そして訳したものを誰がどう見るかです。決め方の手順そのものは、探せば出てきます。 トーンアンドマナーとは何か トーンアンドマナーとは、見え方と言い方をそろえるための決めごとです。どこで見ても同じ会社のものだと分かる状態を作るために置きます。 英語の Tone and manner をそのまま持ってきた言葉です。tone は調子、manner は作法にあたります。もともとは広告の表現をそろえる文脈で使われていました。媒体が違っても、同じ発信元だと分かるようにする。そこが出発点です。 ブランドの中では、外に出す形の部分にあたります。何を約束するかを決めたあと、それを目に見える形と、読める言葉にする。その形と言葉の決めごとが、トーンアンドマナーです。 使うのは、作る人です。社内で資料を作る人、サイトを更新する人、外の制作会社。人数が増えるほど、決めごとがないと形が分かれていきます。逆に言えば、作る人が一人しかいない会社では、決めごとがなくても揃います。その一人がいなくなったときに、初めて必要になります。 必要になる時期も、そこで決まります。人が増えたとき、外に頼み始めたとき、媒体が増えたとき。どれも「同じ人が全部作る」状態が終わる場面です。 会社の取り組み全体のどこに当たるかは、企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるかに書いています。この記事で扱うのは、決めたことを形にする段階です。 言い換えと、呼び方の違い 同じものを指す言葉が、いくつもあります。呼び方によって、指している範囲が少し変わります。 トンマナは、トーンアンドマナーを縮めた言い方です。社内の会話ではこちらが使われます。トーンマナーも同じもので、アンドが落ちた形です。トーン&マナーと書かれることもあります。どれも指しているものは同じです。 範囲が変わるのは、トーン・オブ・ボイスという言い方です。こちらは言い方だけを指します。文章の調子、呼びかけ方、使わない言い回し。見え方は含みません。海外の資料ではこの言葉で分かれていることがあり、翻訳された記事では範囲が違ったまま並んでいます。 もう一つ、ビジュアルアイデンティティという言葉があります。こちらは逆に、見え方だけを指します。ロゴ、色、書体、写真の選び方。言い方は含みません。 社内で呼び方が割れていると、話が噛み合いません。片方が言い方まで含めて話し、もう片方が見え方だけを想定している。どちらも「トンマナ」と言っているので、食い違いに気づくのが遅れます。最初に、この記事でどこまでを指すのかを決めておくと早く済みます。 確かめ方は、最初の打ち合わせで聞くだけです。文章の書き方まで含める話なのか、見た目だけの話なのか。ここが揃っていないまま進むと、納品の段になって「文章の指針が入っていない」という食い違いが出ます。範囲の確認は、費用の話より先に済ませておくほうが早く終わります。 以降は、見え方と言い方の両方を含む意味で使います。 決めるのではなく、翻訳する 「トンマナを決める」という言い方をしますが、実際にやっているのは変換です。何もないところから選ぶのではなく、すでにあるものを別の形に置き換えています。 色を選ぶ場面で考えると分かります。世の中には色が無数にあります。その中から選べと言われても、絞る理由がなければ決まりません。実際に絞っているのは、その会社が何を約束しているかです。落ち着いた印象を約束しているなら、彩度の高い色は外れます。外れる理由があるから、候補が減ります。 書体も同じです。読みやすさを重視するのか、独自性を出すのか。どちらを取るかは、その会社が何で選ばれたいかによります。文章の調子もそうです。丁寧に説明するのか、短く言い切るのか。相手が誰で、どういう場面で読むかによって決まります。 元がないまま選ぶと、選ぶ理由が好みしか残りません。好みで選んでも形にはなります。ただ、次に別のものを作るときに、同じ基準を再現できません。作る人が変われば、また違う好みが入ります。 上位に並ぶ記事を読むと、決め方の手順が書かれています。参考にする事例を集める、色を決める、書体を決める、ルールにまとめる。手順としては、そのとおりに進みます。書かれていないのは、その手順に何を入力するかです。入力が空のまま手順だけを動かすと、出てくるのは作った人の好みになります。 事例を集める工程が、入力の代わりになると思われがちです。似た業種の会社を並べて、その中から選ぶ。作業としては進みますが、選んでいるのは他社が出した答えです。その会社が何を約束しているかは、集めた画像には写っていません。参考にすること自体は役に立ちますが、参考にする前に、自社の側で絞る理由が要ります。 絞る理由があると、事例の見方も変わります。似ているものを探すのではなく、同じ約束をしている会社がどう訳したかを見ることになります。業種が違っても参考になり、同業でも参考にならない、という分かれ方をします。 案を出す前に、何から訳すのかを確かめる。ここは引き受けた側の作業です。色の候補を並べる前に、約束が言葉になっているかを聞く。決まっていなければ、そこから始めることになります。 翻訳の元になるもの 翻訳の元になるのは、誰に何を約束するかです。ここが言葉になっていれば、見え方と言い方は導けます。 速さを約束している会社なら、迷わせない形が合います。情報を絞り、次にどうすればよいかが一目で分かる置き方になります。文章も短くなります。説明を尽くすより、たどり着かせるほうを優先するためです。 手厚さを約束しているなら、逆になります。情報は増え、文章も長くなります。読む手間はかかりますが、その手間自体が約束の表れになります。同じ「読みにくい」でも、片方は失敗で、片方は意図です。 ただし、約束と形は一対一で決まりません。同じ「丁寧さ」でも、扱うものが工業製品か食品かで、合う形は変わります。相手が法人か個人かでも変わります。対応表を作って当てはめる作業ではありません。元があることで候補が絞れる、というところまでです。 だから、元が言葉になっていないと翻訳は始まりません。「なんとなく上品な感じ」では、絞る材料になりません。上品さが何のために要るのか、誰に対して要るのかが決まって、はじめて形の候補が出てきます。 元が言葉になっているかは、確かめられます。社内の別々の人に、うちは誰に何を約束している会社かを聞く。答えが揃うなら、訳す元があります。人によって違う言葉が返るなら、まだ訳せる状態ではありません。この確認は、色の候補を見る前に済ませておくほうが手戻りが減ります。 約束をどう決めるかは、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書いています。決まっていない状態でトンマナの話に入ると、決めることと訳すことが混ざります。混ざったまま進むと、形を見ながら約束を決めることになります。順番が逆になった状態です。 この順番でも、形は出来上がります。案を見ているうちに「うちはこういう感じだ」という合意ができて、それが約束の代わりになる。ただ、その合意は形に紐づいているので、次に別の媒体を作るときに持ち出せません。形が変われば、また合意し直すことになります。 合っているかを誰が見るか 訳したものが合っているかは、元を持っている側が判断します。ここが、この記事で実務に効くところです。 案が並んだとき、作る側だけで見ると、良いか悪いかの話になります。作る側は形の善し悪しを見る訓練をしているので、そちらの話が得意です。ただ、その判断には元が入っていません。きれいだが約束と合っていない案は、きれいなので通ります。 判断の材料は、約束と合っているかです。速さを約束しているのに、案が丁寧さを表していないか。手厚さを約束しているのに、情報が削られていないか。この問いに答えられるのは、約束を決めた人です。 だから、決めた人が見る場にいる必要があります。案を持ち帰って伝言で伝えると、伝わるのは形の説明だけになります。なぜその形なのかは、伝言では残りません。残らないまま決裁されると、次に直すときの根拠も失われます。 決める人がいない場で進むと、その場で立場が上の人の意見で決まります。決まること自体は問題ありません。ただ、その決め方だと、次に別のものを作るときも同じ手順を踏むことになります。基準が残らないので、毎回やり直しになります。 見る回数も決めておきます。案が出そろってから一度だけ見る形にすると、直しの幅が大きくなります。方向が決まった段階で一度、形になった段階でもう一度。二回に分けると、大きくずれたまま進む時間が短くなります。 案を出す側にも、やることがあります。案と一緒に、何に合わせて訳したかを出す。この色はこの約束から、この書体はこの相手から。そう書いてあれば、受け取った側は好き嫌いではなく、合っているかどうかで見られます。形だけを並べて「どれがお好みですか」と聞くのは、判断の材料を渡していない状態です。 書いておくと、決めたあとにも効きます。時間が経って別の媒体を作るとき、なぜその色なのかが残っています。残っていなければ、そのときいた人の記憶で決まります。 揃わないのは決まっていないから 複数の人が作ると、見え方と言い方はばらつきます。ばらつき自体は自然に起きるので、そこは問題ではありません。 対処として出てくるのは、決めごとを増やすことです。色を指定する、書体を指定する、文末の形を指定する。増やせば、指定した範囲は揃います。指定していない場面が来たときに、また分かれます。 そして、実務で起きることは指定の外に出ます。新しい媒体が増える、想定していなかった場面で使う、社外の相手が作る。そのたびに指定を足していくと、決めごとは増え続けます。増えるほど読まれなくなり、読まれない決めごとは守られません。 増やす方向で進めるかどうかは、判断できます。指定していなかった場面が出てきたとき、それが繰り返し起きることなら、決めごとを足す価値があります。一度きりなら、その場で判断して終わりにする。この見分けをせずに全部を足していくと、一度きりの事情が決まりとして残ります。 根が別のところにある場合があります。元が決まっていないと、そもそも何に揃えるのかが共有されていません。この状態で決めごとだけを増やしても、増えた分は暗記の対象になります。暗記したものは、書いてある場面でしか使えません。 決めごとが守られなくなる形は、これとは別にもあります。書いてあるのに読まれない、理由が失われたまま形だけ守られる。そちらは運用の話で、次の章で送る記事に書いてあります。この章で言っているのは、元がないまま決めごとを作った場合です。 元が共有されていれば、書いていない場面でも判断できます。新しい媒体が出てきたときに、「うちは何を約束しているから、ここではこうする」と考えられます。決めごとを読んでいない人でも、約束を知っていれば近いところに着きます。決めごとの数ではなく、元が共有されているかどうかが効きます。 書き残すときの形 訳したものが固まったら、書き残す段階になります。ここから先は、ガイドラインの話です。 何を書くか、何を書かないか、誰が運用するか。書き残す段になると、決めることが変わります。書く内容よりも、使われ続けるかどうかのほうが難しくなります。そちらはブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書いています。 書き残す前に固めておくものがあります。訳す元と、訳した結果と、そのあいだの理由です。理由まで書いてあると、あとで事情が変わったときに見直せます。結果だけを書くと、合わなくなっても動かせません。 この記事で扱ったのは、その手前です。書き残すものが、何から訳されたのか。訳す元が決まっていないまま書き残すと、決めごとの一覧はできますが、書いていない場面で使えません。 トンマナは、約束の写し トーンアンドマナーは、その場で決めるものではありません。誰に何を約束するかを、見え方と言い方に写したものです。 写す元が決まっていなければ、写せません。色も書体も文章の調子も、絞る理由がないまま選ぶことになり、残るのは選んだ人の好みです。 そして、写し方が合っているかを判断できるのは、元を持っている側です。作る側は案を出し、決めた側が約束と照らす。この役割が分かれていると、好き嫌いの話にならずに済みます。 揃わないと感じたときに見るのは、決めごとの数ではありません。何に揃えるのかが、社内で共有されているかどうかです。共有されていれば、書いていない場面でも近いところに着きます。 関連する記事 ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方 ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのか ブランドイメージとは。動かせる範囲と、ずれに気づく方法 記事一覧を見る

ブランドアーキテクチャとは。ブランド体系を、後から並べ直す

ブランドアーキテクチャとは。ブランド体系を、後から並べ直す

ブランドアーキテクチャとは、会社が持っている名前——会社名、事業名、商品名、サービス名——の関係を決めることです。日本語ではブランド体系と呼ばれます。 調べると、設計という言葉が出てきます。全体の形を先に決めて、そこに一つずつ置いていく。整った説明です。 ただ、中小企業で実際に起きるのは、設計ではありません。すでに増えたものを、並べ直す作業です。先に設計する機会は、すでに過ぎています。1つ目を出したときに、2つ目の予定がなかったからです。 この記事では、なぜ名前が増えるのか、どう並べ直すのか、そして変えないという判断をどこで下すのかを書きます。 ブランド体系とは何か ブランドアーキテクチャとブランド体系は、同じものを指しています。英語をそのまま使うか、訳すかの違いです。記事によってどちらかが使われますが、中身は変わりません。 決めるのは、名前どうしの上下と並びです。会社名を前に出すのか、商品名を前に出すのか。事業ごとに名前を分けるのか、まとめるのか。 型は三つあります。会社名を前に出す形、商品を独立させる形、両方を併記する形です。どれを選ぶかは、その商品を買う人が会社の名前を知っているかどうかで決まります。 この記事で扱うのは、その型を選んだあとの話ではありません。型を選ぶ機会がないまま、名前が増えてしまった会社の話です。 決めることの中身も変わります。これから出すなら、何を共通にして何を分けるかを決めます。すでに増えているなら、どれを残してどれをやめるかを決めます。後者のほうが、材料は多いのに、選べる幅は狭くなります。すでに外に出したものは、こちらの都合では消えないからです。 名前が付く対象は、商品だけではありません。事業、サービス、部門、拠点。会社によっては、拠点ごとに違う屋号を使っていることもあります。外に出ているものは、どれも体系の一部になります。社内だけの呼び分けとは、分けて数えます。 名前が何本あるかを数えたことがない会社は、珍しくありません。数えないまま増えるからです。増やすときは1本ずつなので、そのつど「もう1つくらい」で済みます。合計が見えるのは、並べたときだけです。 設計と、並べ直しは違う ブランド体系の説明は、設計という言葉で書かれています。全体の形を先に決めて、そこに一つずつ置いていく。手順としては分かりやすく、実際にその順で進められます。 この説明は、先に全体がある会社に向いています。事業が複数あって、新しい商品を出す予定が立っていて、置き場所を決める段階にいる。そういう会社なら、設計から入るほうが早く終わります。 条件が揃わないのは、増えたあとに気づく場合です。1つ目の商品を出したとき、2つ目の予定はありませんでした。2つ目を出したとき、3つ目の予定もありませんでした。設計する機会が無かったのではなく、設計する対象が、そのときは1つしかなかったのです。 だから設計の説明が間違っている、という話ではありません。順番の話です。先に全体がある、という条件が揃っているかどうかで分かれます。 並べ直しは、設計と進み方が逆になります。設計は、決めた形に合わせて中身を置いていきます。並べ直しは、いま外に出ているものを集めてから、形を決めます。先に形を決めると、すでに出ているもののうち、形に合わないものが見えなくなります。 見えなくなったものは、消えるわけではありません。名刺に残り、請求書に残り、看板に残ります。図の上では整理されたのに、外から見た会社の名前は前のままだった、という形になります。 手をつける場所も逆になります。設計から入るなら、どういう会社になりたいかを決めるところから始まります。並べ直しから入るなら、いま何があるかを数えるところから始まります。行き着く先はどちらも決めごとですが、最初に開く引き出しが違います。 名前は、意図せず増える 会社の名前は、増やすと決めなくても増えます。増える場面が、決める場面と別のところにあるからです。 増え方を挙げると、こうなります。商品名、サービス名、屋号、略称、部門名、キャンペーン名、社内での通称。それぞれ、必要になった場面で付けられています。 名刺を作るときに部門名が要ります。請求書を出すときに正式名称が要ります。看板を出すときに短い名前が要ります。SNSを始めるときにアカウント名が要ります。展示会に出るときにブースの表記が要ります。そのつど、その場で決まります。 決めた人は、それぞれ違います。名刺は総務、請求書は経理、SNSは若手、看板は社長。誰も増やすつもりがないのに、合計は増えていきます。 気づくのは、社外の人に説明できなくなったときです。「御社の○○というのは、△△とは違うものですか」と聞かれて、答えに詰まる。あるいは、社員によって説明が違う。ここで初めて、名前が何本あるのかを数えることになります。 増えるのを止める仕組みは、置かれていません。止める理由が、その場では見当たらないからです。名刺に部門名を入れるのは自然で、SNSのアカウント名を短くするのも自然です。一つずつ見れば、どれも正しい判断です。 そして、増えた名前は簡単には消えません。印刷物は在庫として残り、サイトのページは検索に残り、取引先の台帳には登録した時点の名前が残ります。増やすのは自社だけでできますが、減らすには相手側の作業が要ります。 増えること自体は、悪いことではありません。必要があって付いたものだからです。問題になるのは、関係が決まっていない場合です。どれが上でどれが下か、どれとどれが同じものを指しているのか。それが決まっていないと、聞かれるたびに、その場で説明を組み立てることになります。 まず、並べてみる やることは、いま外に出ている名前を1枚に書き出すことです。判断は、そのあとになります。 拾う場所は、社外の目に触れているもの全部です。名刺、サイト、請求書、見積書、パンフレット、SNSのアカウント名、看板、メールの署名、名簿への掲載名、展示会の表記。出どころで分けないことが大事です。営業が使っているものと、経理が使っているものを分けて数えると、重なりが見えません。 書き出すのは、名前そのものと、どこに出ているかです。表記のゆれも、別の行にします。アルファベットとカタカナ、正式名称と略称、中黒のある無し。同じものだと思っているものが、外では別々に見えていることがあります。 形式は、紙でも表計算でも構いません。決めておくのは、1行に1つ書くことだけです。まとめて書くと、まとめた時点で判断が入ります。判断はあとに回します。 集める人は、一人に決めます。分担すると、拾う基準が分かれるからです。ある人は正式名称だけを拾い、別の人は略称まで拾う。基準が違うと、一覧にしたときに数が合いません。 並べると、出てくるものがあります。同じものが2つの名前で呼ばれている。違うものが似た名前になっている。社内では使っているのに、外にはどこにも出ていない名前がある。逆に、外に出ているのに社内では誰も使っていない名前がある。 一覧にしないと、これは見えません。1つずつ見ているあいだは、どれも正しいからです。名刺の表記は名刺として正しく、請求書の表記は請求書として正しい。並べたときに初めて、揃っていないことが分かります。 この作業に、時間はかかりません。かかるのは、集める手間だけです。判断はまだ入れないので、進め方に迷う場面も出てきません。先に全部を出して、評価はそのあとにします。 どれを残すかの決め方 残す基準は、社内の思い入れではありません。外で使われている名前です。 確かめる場所は三つあります。請求書の宛名、問い合わせの書き出し、そして紹介されたときの言い方です。相手が何と呼んでいるか。そこに出ている名前が、実際に通っている名前になります。 なぜそこを見るのかというと、名前は覚えられて初めて働くからです。覚えられていない名前を残しても、機能は増えません。残す本数を増やすほど、どれも覚えられなくなります。 残す本数は、少ないほうが動きます。増やすときは1本ずつでも、覚える側は合計で受け取るからです。相手の頭のなかで、自社に割り当てられている場所は決まっています。 外で使われていない名前は、消さなくても構いません。社内向けの呼び名として残します。社内で通じているなら、そこでは働いているからです。分けるのは、外に出すかどうかの線です。 判断に迷うのは、社長が付けた名前が外で使われていない場合です。ここは正面から確かめます。思い入れがあるかどうかではなく、その名前で問い合わせが来たことがあるか。来ていないなら、まだ外では働いていません。 残すと決めた名前については、何を指すのかを一文にします。「これは、○○のときに使う名前」。この形まで決めておかないと、次に迷ったときに同じ問いが立ちます。約束の中身そのものを決める作業は範囲が広いので、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に分けて書いてあります。 やめると決めた名前は、いつやめるかまで決めます。決めないと、やめたつもりのものが残ります。在庫のパンフレット、更新していないSNS、印刷済みの封筒。やめる日を決めていないものは、やめていません。 やってはいけないこと 一つめは、全部を会社名に統一することです。並べてみると本数が目に付くので、まとめたくなります。ただ、外で通じている名前を消すと、それまで積み上げた分がなくなります。相手はその名前で覚えているからです。 代わりにやることは、外で通じている名前を先に確かめることです。統一するかどうかは、そのあとに決めます。通じていない名前だけを整理すれば、失うものはありません。 二つめは、名前を増やして解決しようとすることです。関係が分かりにくいときに、まとめるための新しい名前を付ける。上位の概念を1つ作れば整理される、という考え方です。ただ、新しい名前を足せば、本数は1本増えます。外から見る人にとっては、覚えるものが増えただけになります。 代わりにやることは、いま何本あるかを数えることです。数える前に足すと、足した理由が残りません。数えたうえで足すなら、それは判断です。 上位の概念を作ること自体が悪いのではありません。それを足すことで、すでにある名前を1本減らせるなら、足した意味があります。減らさずに足すと、増えるだけです。 三つめは、一度に全部を変えることです。並べ直すと、直したい箇所がまとめて見えます。ただ、印刷物と請求書は取引先の記録に残ります。途中で変えると、相手側で照合ができなくなります。 代わりにやることは、変える順番を決めることです。差し替えやすいものから変えます。サイトとSNSは先に変えられます。名刺と請求書は最後です。取引先の経理が、前の名前で処理を続けている期間があるためです。 三つとも、名前が少ないうちは起きません。1本か2本なら、統一も、追加も、一斉の変更もできます。通らなくなるのは、外に出ている名前が数えられる数を超えたあとです。 変えないという判断 並べ直した結果、変えないほうがよい場合があります。整理できることと、整理すべきことは別だからです。 変えるとかかるものを、先に見ます。印刷物の作り直し。登記の変更。取引先への連絡と、先方の台帳の書き換え。検索で見つけてもらい直すまでの期間。このうち、こちらで完結しないものが混ざっています。取引先の台帳と、検索での再認知は、相手側の都合で進みます。 判断の基準は、混乱が実際に起きているかどうかです。起きていないなら、記録だけ残します。並べた一覧と、どれとどれが同じものかのメモ。それだけで、次に人が入ったときに説明できます。 起きている合図は、外から来ます。問い合わせで、こちらが使っていない名前を言われる。社員の説明が人によって違う。請求書の宛名が定まらず、相手ごとに書き分けている。このどれかが出ているなら、整理する理由があります。 出ていないなら、急ぎません。名前が複数あること自体は、混乱ではないからです。関係が説明できていれば、複数あっても通ります。 社名そのものを変える場合は、範囲が変わります。判断の材料はリブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングにまとめています。名前を変えると、ロゴと、ロゴが乗っているもの全部が付いてきます。どこまでが納品に含まれるかはロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わるに書いたとおりです。 そして、変えなくてよいと伝えるのは、引き受けた側の仕事です。並べ直した一覧を見れば、直せる箇所は必ず出てきます。直せることと、直す必要があることは違う。この線を引かずに全部を作り直すと、費用は増えて、外から見た会社は変わりません。 増やす前に、1つ決めておく 並べ直したあとにやることは、次に増やすときのルールを1つ決めることです。ルールが無ければ、また同じ増え方をします。 決めるのは、新しい名前を出すかどうかを誰が判断するか、その1点です。細かい規則は要りません。判断する人が決まっていれば、その人のところに話が集まります。集まる場所があることが、数を止めます。 判断する人が決まっていれば、増やさないという結論も出せます。誰も決めていない状態では、増やさない判断をする人がいません。反対する人がいないので、そのまま増えます。 新しく1本増やすかどうかの枠組みは、ブランド戦略とは。マーケティング戦略との違いと、事業戦略との関係に書いてあります。会社全体としてどこから手をつけるかは、企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるかに、作業の分け方をまとめています。 関連する記事 商品ブランディングとは。共通にするものと、分けるものを決める 企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるか ブランド戦略とは。マーケティング戦略との違いと、事業戦略との関係 記事一覧を見る

BtoBブランディングとは。会っていない人に、どう伝わるか

BtoBブランディングとは。会っていない人に、どう伝わるか

BtoBブランディングとは、法人を相手にする会社が、選ばれる理由を決めて、それが相手の社内で伝わる形にしておく取り組みです。 効くのは、名前を広く知られることではありません。会って話した相手が、その場にいない人に説明できる形にしておくことです。BtoBでは、提案を聞いた人と、決める人が違うからです。 打ち合わせが終わったあとに、こちらが手を出せない時間があります。そこで決まります。この記事では、なぜそうなるのか、その時間に向けて何を用意するのか、効いているかをどう見るのかを書きます。 決める人は、会議室にいない 図をタップすると、拡大して見られます BtoBでは、提案を聞いた人が決めるとは限りません。使う部門、選ぶ担当、決裁する人が別々にいて、それぞれ見ている場所が違うからです。 分かれる理由は、金額と期間です。法人どうしの取引は、個人の裁量で決められる範囲を超えます。超えた分は、社内の誰かに承認をもらうことになります。承認する人は、その打ち合わせに出ていません。 だから提案は、必ず一度は又聞きされます。打ち合わせの場でどれだけ伝わっても、そのあとに、聞いた人が聞いていない人へ説明し直す場面が来ます。 しかも、又聞きは一度で終わりません。担当者が課長に、課長が部長に、部長が役員に。段を上がるたびに説明は短くなり、短くなるたびに、残る言葉が絞られます。最後まで残った一言が、相手の会社にとっての自社の説明になります。 段の数は、相手の会社の規模で変わります。担当者が決裁まで持っている会社なら一段で済み、部長と役員が挟まる会社なら三段になります。段が増えるほど、最初に渡した一言の精度が効いてきます。三段を通って残るのは、こちらが力を入れた説明ではなく、短くて言いやすかった言葉のほうだからです。 提案書のどこが読まれるかも、これで決まります。時間をかけて書いた背景の説明は、担当者の手元では読まれても、その先には運ばれません。運ばれるのは、担当者が自分の言葉で言い直せた部分だけです。 その一言を選ぶのは、こちらではありません。相手です。渡した資料の枚数も、話した時間の長さも、選ぶ基準にはなりません。分厚い資料は社内で回覧されるより先に要約され、要約する人は、こちらがどこに力を入れたかを知りません。 こちらにできるのは、選ばれやすい一言を用意しておくことだけです。BtoBのブランディングが効く場所があるとすれば、それは自社がいない場所です。 BtoC・CtoCと、何が違うのか 三つの言葉は、取引する相手の組み合わせを指しています。BtoBは法人と法人、BtoCは法人と個人、CtoCは個人と個人です。 ただ、言葉の意味より、決まり方の違いのほうが実務では効きます。 決める人 決まるまで 効くもの BtoB聞いた人と決める人が違う長い。社内を通る説明されたときに残るか BtoC買う人が決める短い。その場で決まる見たときに思い出すか CtoC個人どうし相手による相手を信用できるか BtoCでは、買う人がその場で決めます。店の前で、画面の前で、その人が決めて終わります。だから、見たときに思い出せるかどうかが効きます。広告や露出が効くのは、この形をしているからです。 CtoCでは、売る側も個人です。会社の看板がないので、評価や取引の履歴が信用の代わりになります。決めるのは相手の個人で、ここも間に人が入りません。 BtoBだけ、自社がいない場所で決着がつきます。打ち合わせが終わってから決まるまでのあいだ、こちらは何もできません。この時間の長さと、その間に何が起きるかが、他の二つとの違いです。 BtoBでは感情が効かない、という話ではありません。担当者が推してくれるかどうかは、その人の判断です。ただ、推すという行為は、社内で説明するという形をとります。気に入られることと、説明してもらえることは、同じではありません。印象がよくても、社内で言える形になっていなければ、推しようがありません。 同じ会社でも、売る相手によって形が変わります。法人向けの事業と個人向けの事業を両方持っているなら、進め方は分けることになります。片方で効いた進め方をもう片方に持ち込むと、合いません。決める人の位置が違うからです。 認知の施策が前提にしていること BtoBブランディングの説明では、認知を広げることが先に来ます。名前を知られていれば、何かが必要になったときに候補に挙がる。この筋自体は通っています。 ただ、この進め方には前提があります。広げれば買う人の数が増える市場である、という前提です。個人向けなら、知った人が増えれば、そのうち何割かが買います。母数が増えれば、結果も増えます。 BtoBでは、買う会社の数が先に決まっています。ある業種の、ある規模の、ある課題を持った会社。その数は、こちらが認知を広げても増えません。増えるのは、買わない人の認知です。 だから認知の施策が間違っている、という話ではありません。予算があって、検討の入り口にすら立てていないことが課題なら、有効です。名前を知られていない会社は、候補の一覧に載りません。 測っている対象も変わります。認知の施策が見るのは、知っている人の割合です。BtoBで効いてくるのは、候補に入った案件で決まる割合のほうです。二つは別の数字なので、知っている人の割合が上がっても、受注が動かないことがあります。動かないときにさらに広げると、同じ場所で落ち続けることになります。 条件が合わなくなるのは、予算が限られている場合です。広げる施策は、続けているあいだだけ効きます。止めれば戻ります。止めれば戻るものに使うか、止めても残るものに使うか。限られた予算では、そこの判断になります。 広げる施策と、詰める施策のどちらかだけが正しい、という話ではありません。順番の話です。買う会社の数が決まっている面では、詰めるほうが先に効きます。 残るほうに使うなら、先に手をつけるのは、候補に挙がったあとの詰めです。何を約束して、何を約束しないか。相手の数が見えている面では、一社あたりにかける手間を増やせます。約束しないことまで決めておく範囲は、ブランド戦略とは。マーケティング戦略との違いと、事業戦略との関係に書いてあります。 又聞きされる前提で、何を用意するか 図をタップすると、拡大して見られます 用意するのは、資料の量ではありません。担当者が社内で言える形です。渡したものがそのまま届くわけではなく、担当者の言葉に置き換わって届くからです。 一つめは、一文で言えるかどうかです。会議の途中で口に出せない長さなら、その場では使われません。「あの会社は、こういうときに頼むところ」。この形まで縮まっていないと、又聞きの段で落ちます。 ここで作る一文は、自社の判断に使う一文とは向きが違います。ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方で書いたのは、案件を受けるかどうかを自社が決めるための一文でした。こちらは、相手が社内で復唱するための一文です。同じ内容でも、覚えやすさにかける比重が変わります。 二つめは、決裁する人が知りたいことを、先に置くことです。決裁する人は、技術の中身を評価できません。評価できるのは、何が解決して、あとに何が残るかです。技術の説明は、それが実現できる根拠として下に付けます。順番が逆だと、要約された段で技術のほうが落ちます。残るのは、何をしてくれる会社なのかが分からない説明です。 三つめは、サイトです。サイトは、担当者が上司に見せる場所です。打ち合わせのあと、相手の社内で最初に開かれるのがそこになります。会社概要と実績だけが並んでいると、何を頼めるところなのかは担当者が口で補うことになります。補えなかった分は、そのまま落ちます。作り直すかどうかの判断は、コーポレートサイトのリニューアル。作り直す前に、何が変わったかを見るにまとめています。 三つに共通しているのは、相手の手間を減らしているという点です。説明する側の負担が軽いほど、説明は正確に運ばれます。 説明が割れると、又聞きも割れる 図をタップすると、拡大して見られます 自社の営業が三人いて、三通りの説明をしているなら、相手の社内でも三通りになります。又聞きは、聞いた人の言葉に置き換わって進むからです。元が割れていれば、置き換わった先はもっと割れます。 これは、相手の理解力の問題ではありません。渡す側で揃っていないものは、受け取る側で揃いようがありません。 割れているのは、営業の力量の差でもありません。決まっていないことを聞かれた人は、自分の経験から答えるからです。経験は人によって違うので、答えも人数分に分かれます。揃えるのは説明の上手さではなく、決めごとのほうです。決めごとが一つあれば、言い方が違っても、指しているものは同じになります。 新しく入った営業がいる会社では、ここが先に表に出ます。前からいる人は、決まっていなくても経験で埋められます。埋められない人が入ってきたときに、決まっていないことが見えます。人が増えたタイミングで説明が割れ始めるのは、そのためです。 確かめ方は、社内で聞くことです。営業の担当者に、別々に「うちは何を頼まれる会社ですか」と聞きます。答えが重なっていれば、揃っています。一言一句が同じである必要はありません。同じことを指しているかどうかを見ます。 割れていた場合にやるのは、資料を作り直すことではありません。何を約束するかを先に決めることです。決まっていないものを資料にすると、書いた人の解釈が入ります。人数分の解釈が、資料に載るだけです。 この作業は外向けの仕事に見えますが、中身は社内向けです。進め方はインナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に書いています。営業の資料を作るより先に、ここが済んでいるかを見ます。 揃っているかを確かめずに制作を進めるのは、引き受けた側の落ち度です。三通りの説明がある状態でサイトを作れば、四通りめが増えます。確かめる場を提案に入れておくのは、受けた側の仕事です。 やってはいけないこと 図をタップすると、拡大して見られます 一つめは、認知を広げるところから始めることです。知られていないから決まらない、と決めつけると、実際にどこで落ちているかを見ないまま予算が動きます。 代わりにやることは、直近で失注した案件で、誰が決めたかを確かめることです。会った人が決めていたのか、会っていない人が決めていたのか。会っていない人が決めていたなら、そこは認知の問題ではありません。又聞きの段で落ちています。 失注した案件を一件ずつ見ると、落ちている場所が分かれます。会う前に落ちているのか、会ったあとに落ちているのか。会う前なら認知の話で、会ったあとなら又聞きの話です。分けずに予算を組むと、起きていないほうの問題に寄ります。 二つめは、技術の説明を厚くすることです。作る側は、技術の精度で選ばれたいと思います。ただ、決裁する人はその精度を判断できません。判断できないものは、判断できる項目に置き換わります。置き換わった先が金額になることがあります。 代わりにやることは、何が解決するかを先に置くことです。技術は、それができる根拠として下に付けます。順番を変えるだけで、比べられる項目が変わります。 三つめは、個人向けの言葉づかいを持ち込むことです。短くて印象に残る言い回しは、個人が見た瞬間に思い出すために作られています。BtoBで要るのは、思い出すための言葉ではなく、他人に説明できる言葉です。 代わりにやることは、社内で復唱される言葉かどうかで選ぶことです。声に出して、そのまま伝わるか。整って見えるかより、そこを見ます。 三つとも、個人を相手にする商売では通る進め方です。通らなくなるのは、決める人が別にいる場合です。 効いているかを、どう見るか 図をタップすると、拡大して見られます BtoBのブランディングは、数字が出るまでに時間がかかります。ただ、測れないと言って終わらせると、続けるかどうかを判断できません。見るのは三つです。 一つめは、失注の理由です。「知らなかった」「聞いたことがなかった」が減っているか。減っているなら、候補に挙がる段までは効いています。 二つめは、決まるまでの打ち合わせの回数です。回数が減っているなら、又聞きの段で落ちていないということです。説明のやり直しが要らなくなると、回数は減ります。 三つめは、相手の社内で誰が推してくれたかです。会った担当者が推したのか、会っていない人が賛成したのか。会っていない人が賛成したなら、又聞きが機能しています。 三つめは、聞かないと分かりません。決まった直後に、なぜ通ったのかを聞いておきます。断られた場合も、何と比べて落ちたのかを聞きます。ここは聞きにくいので、発注側の宿題にすると出てきません。聞きにいくのは、引き受けた側の範囲です。 三つとも、社内の記録には残りません。失注の理由も、推してくれた人の名前も、聞かなければ出てこないからです。案件が決まった直後に一度聞く、という手順を先に決めておきます。手順にしていないと、忙しい時期に飛びます。 見ないほうがよい数字もあります。サイトの閲覧数や、SNSの反応です。増やせる数字ですが、増えたところで買う会社の数は変わりません。動かせる数字と、効いている数字は別です。混ぜて追うと、動かせるほうだけを見ることになります。 三つとも、月ごとに動く数字ではありません。年の単位で見るものです。短い期間で判定すると、効き始める前に止めることになります。見る時期と見る項目は、先に決めておきます。決めていないと、都合のいい時期の数字を選ぶことになるからです。 広げなくても、届く BtoBブランディングで効くのは、広げることではありません。会っていない人に伝わることです。決める人がその場にいない以上、伝わり方のほうが先に効きます。 決めるのは、選ばれる理由と、それを一文にすることです。一文が決まっていれば、担当者は社内でそれを使えます。使われた一文だけが、自社のいない場所まで届きます。 決めるのは一度ですが、使われるのは提案のたびです。その一文が担当者の口から出ているかどうかを見ます。出ていないなら、決めた言葉が相手まで届いていません。 相手の数が限られていることは、不利ではありません。数が見えているぶん、一社ごとに手間をかけられます。広い面に向けて撃ち続けなくてよいのは、BtoBの側の条件です。 会社全体としてどこから手をつけるかは、企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるかに、作業の分け方を書いています。 関連する記事 企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるか ブランドストーリーとは。材料の探し方と、どれを選ぶかの基準 ブランドイメージとは。動かせる範囲と、ずれに気づく方法 記事一覧を見る

ブランドストーリーとは。材料の探し方と、どれを選ぶかの基準

ブランドストーリーとは、その会社や商品が、なぜいまの形になったのかを伝える文章です。創業の経緯、扱うものを決めた理由、続けてきたこと。読む人が、その会社を選ぶかどうかを判断する材料になります。 そして、これは作る話ではありません。すでに起きたことのなかから、どれを話すかを選ぶ話です。創業の経緯も、断ってきた仕事も、もう起きています。書けないのは材料がないからではなく、どれを選ぶかが決まっていないからです。 この記事では、材料をどこから探すか、どれを選ぶか、どこから始めてどこで終わるかを書きます。 ブランドストーリーとは何か 図をタップすると、拡大して見られます 会社の説明なら、会社概要で足ります。事業内容、設立年、所在地、従業員数。事実としては正確です。 事実の並びは、比べるときには使えます。従業員数、設立年、拠点の数。他社と並べて数えられるからです。ただ、数えて分かるのは規模で、何を選ぶ会社かは分かりません。同じ規模の会社が二社あったときに、どちらを選ぶかの材料になりません。 それでも別に物語の形を用意するのは、事実を並べただけでは、読む人が判断に使えないからです。 判断に使うというのは、こういうことです。取引先を選ぶとき、応募先を決めるとき、読む人は「この会社は信用できるか」を見ています。事業内容を読んでも、そこは分かりません。なぜその事業をやっているのかが分かると、次に何を選ぶ会社かが見当つきます。 物語の形にすると、順番と理由が付きます。これがあって、こう考えて、こうした。順番と理由が付いた情報は、書いていない場面にも当てはめられます。この会社なら次はこうするだろう、と読んだ人が推測できるようになります。 私たちは、判断の材料として扱っています。読んで感心してもらうためのものではなく、選ぶかどうかを決めてもらうためのものです。業界で決まった線引きがあるわけではありませんが、こう置くと、載せる話の選び方が決まります。 ブランディング全体のなかでどこに位置するかは、ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのかに書きました。 ストーリーテリングとの違い ブランドストーリーは、話の中身です。ストーリーテリングは、それを伝える手法を指します。こう使い分けられることがあります。 中身と手法なので、順番があります。何を話すかが決まっていないと、どう伝えるかは決められません。 ただ、実際には手法から入ることがあります。動画にしよう、記事にしよう、社史にまとめよう。どれも形としては成立しますし、作れば納品物になります。中身が決まらないまま手法だけが増えると、同じ話を別の形で何度も出すことになります。 手法から入るのには理由があります。手法のほうが決めやすいからです。動画にするか記事にするかは、予算と期間で決められます。どの出来事を話すかは、決める材料が社内にしかありません。だから、そこを飛ばして先に進めたくなります。 そうなると、見た人には会社が何を言いたいのかが伝わりません。形が変わっても、選ぶ理由は増えないからです。 先に決めるのは、どの出来事を話すかです。それが決まれば、動画に向く話か、文章に向く話かも見えてきます。長さも決まります。 もう一つ、混ざりやすいものがあります。創業者の個人的な経歴です。経歴そのものは事実ですが、それが会社を選ぶ理由につながっていなければ、読む人にとっては別の話になります。誰の話をしているのかと、何を判断してほしいのかは、分けて考えます。 言葉そのものにも幅があります。ストーリーテリングという語は、企業以外の場面でも使われます。指しているものが会社によって違うので、社内で話すときは何を指しているかを先に確かめると早く進みます。 材料はすでにある 図をタップすると、拡大して見られます 材料は、探しに行く場所が決まっています。新しく考えるものではありません。 探す先を挙げます。 一つめは、創業の経緯です。なぜこの事業を始めたのか。前に何をしていて、そこから何を変えたのか。 二つめは、扱うものを決めた理由です。この商品を作ると決めた場面、この領域をやると決めた場面。選ばなかった選択肢のほうに、理由が残っています。 三つめは、断ってきた仕事です。受けた仕事より、断った仕事のほうが基準が出ます。受ける理由は後から作れますが、断るには基準が要るからです。 四つめは、値下げを断った場面です。条件が良くても受けなかった、逆に条件が悪くても引き受けた。そこに、何を優先しているかが出ます。 五つめは、揉めて決めた案件です。社内で意見が割れて、最後に何かを通した。通したもののほうが、大事にしているものになります。 どれも記録に残っていません。議事録には結論だけが書かれていて、なぜそう決めたかは残らないからです。残っているのは、その場にいた人の記憶のなかです。 だから、集め方は聞くことになります。一人で思い出そうとしないほうが早く済みます。当事者より、隣で見ていた人のほうが覚えていることがあります。決めた本人にとっては当たり前の判断でも、見ていた人には引っかかった出来事だからです。 聞くときは、良い話を探さないほうが集まります。良い話を、と頼むと、話す側が選別してから話します。選別の基準がその人のものになるので、載せたい話が落ちます。 聞くのは、判断した場面です。あのとき何を迷ったか、なぜそちらにしたか。判断の話を集めておいて、選ぶのはあとにします。集める作業と選ぶ作業を同時にやると、集まる量が減ります。 集めた話は、その場で書き留めます。聞いたときには覚えているつもりでも、選ぶ段になると細部が抜けます。抜けた細部のほうに、判断の理由が入っていることがあります。 集める範囲は、社内だけではありません。長く取引している相手に、なぜ続けているかを聞くと、自分たちが気づいていない理由が出てきます。内側からは当たり前に見えている部分が、外からは選ぶ理由になっていることがあります。 材料が無いのではありません。言葉になっていないだけです。 どれを選ぶか 図をタップすると、拡大して見られます 集めた話を、全部は載せられません。読む人の時間が限られているので、選ぶ基準が要ります。 基準は、いま何を約束しているかです。約束と関係のない出来事は、面白くても外します。 外す理由は、読む人の側にあります。読む人が知りたいのは、この会社がこれから何をするかです。過去の出来事は、そこを推測する材料として読まれます。約束につながらない話は、その材料になりません。 何を約束しているかが決まっていない場合は、そちらが先です。作り方と、それが機能しているかの見分け方は、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書きました。 もう一つ、面白い話と、選ばれる理由になる話は別です。 苦労話は、読み物としては強くなります。ただ、苦労したことと、いまの仕事が信用できることは、別の話です。読む人が苦労話から受け取るのは、この会社は大変だったんだな、というところまでです。そこから先の判断につながるかどうかを見ます。 つながる形にするなら、苦労のなかで何を選んだかまで書きます。何を諦めず、何を手放したか。そこが判断の材料になります。 選ぶ数も決めます。載せる数を増やしても、伝わる量は増えません。読む人が覚えていられるのは、限られた数の出来事だからです。三つ選んで書き切るほうが、十並べるより残ります。 そして、選ぶのは経営です。書く人ではありません。どの出来事を会社の説明に使うかは、何を大事にするかを決めることと同じだからです。書く人が選ぶと、書きやすい話が選ばれます。材料を集めるのは何人でもできますが、選ぶところは戻してください。 最後に、選んだ話が、いまやっていることと矛盾していないかを確かめます。昔の話として正しくても、いまの動き方と食い違っていれば、読んだ人はそちらに気づきます。 確かめ方は、社内の人に読んでもらうことです。読んだ人が、いまの仕事と違うと感じるなら、外から読んでも同じところで引っかかります。社内で違和感が出ない話が、外でも通ります。 基準を示さずに「いい話を教えてください」と聞くと、話しやすい話が出てきます。何を基準に選ぶかを先に置くのは、引き受けた側の仕事です。話を集める前に、いまの約束を確かめておきます。 どこから始めて、どこで終わるか 図をタップすると、拡大して見られます 話の始点は、創業とは限りません。 創業から書く形は見かけます。順番としては分かりやすく、その形でも伝わります。ただ、事業が途中で変わっている会社では、創業の話といまの約束がつながりません。 始点は、いまの約束につながる出来事です。事業を変えた時点、扱うものを変えた時点。そこから始めると、話の全部が約束の説明になります。 創業が関係ない会社もあります。引き継いだ事業を別のものに変えたなら、変えた判断のほうが起点です。創業者への敬意と、話の始点をどこに置くかは、別に考えます。 終わりのほうが、外れやすくなります。 過去の出来事で終えると、いまの会社の話になりません。読んだ人には、昔はそうだったんだな、というところまでしか伝わらない。判断の材料として読まれるので、現在に着地させます。 着地のさせ方は、いまも同じ基準で動いていると分かる形です。過去に決めたことが、いまの仕事のどこに出ているか。ここが一行あるだけで、読み方が変わります。 これからの話を足すかどうかは、分かれます。目指す先を書くと前を向いた文になりますが、書いていないことを約束したように読まれることがあります。期限のある目標を持っているなら、そちらの言葉と揃えます。三つに分けて持っている場合の扱いは、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書きました。 始点と終点のあいだも、全部は書きません。拾うのは、約束につながる判断が起きた場面だけです。年表のように順に埋めると、関係のない出来事が混ざります。混ざると、読む人はどこを読めばいいのかが分からなくなります。 飛ばしても構いません。読む人は、社史を読んでいるわけではないからです。 長さの目安も、始点と終点が決まると出ます。始点から現在までのあいだで、約束につながる出来事だけを拾うので、拾える数がそのまま分量になります。先に文字数を決めてから埋めると、関係のない出来事が入ります。 書けないと感じるとき うちには語れる話がない。この言い方を聞くことがあります。 そう感じるのは自然です。自分の会社の出来事は、内側から見ると当たり前に見えます。毎日やっていることなので、話す価値があるとは思えません。 見えなくなるのは、繰り返しているからです。同じ判断を何度もしていると、判断していること自体を忘れます。外の人が聞けば、そこが選択だったと分かります。 ただ、材料がないわけではないことがあります。前の章までに挙げた探し先を、実際に見ていない場合があるからです。断った仕事も、揉めて決めた案件も、思い出そうとしなければ出てきません。 探していないのと、無いのは違います。 もう一つ、特別な出来事を探していることがあります。特別である必要はありません。読む人が見ているのは、この会社が何を基準に選ぶかです。基準が分かる出来事なら、地味でも材料になります。 他社の事例と比べている場合もあります。規模も業種も違うので、比べる相手が違います。事例として出てくるのは、話として整った会社です。整っているのは、選んだあとだからです。選ぶ前の状態と、選んだあとの結果を比べています。 見分け方は、探し先を一つずつ当てることです。断った仕事はありますか、と個別に聞く。無いと言われたら次に移る。開いた問いで「何かありませんか」と聞くと、当たり前になっているものほど出てきません。 一つずつ当てて、それでも出てこないなら、そのときは材料が足りない段階だということになります。創業から間もない場合は、実際にそうなります。 外側だけを整えても、選ぶところが決まらなければ元に戻ります。何が起きるかは、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないに書きました。 書けないと言われたときに、材料がないと受け取るのか、選べていないと見るのか。ここを見分けるのは、引き受けた側の仕事です。材料がないと受け取れば、外から話を作ることになります。 どこに置くか 図をタップすると、拡大して見られます 置く場所は、いくつかあります。サイトの会社紹介、会社案内、採用ページ、営業の資料。 場所によって、長さと書き方が変わります。サイトなら通して読まれる前提で書けますが、営業の資料に同じ長さを入れると、その場では読まれません。 一度書いて全部に使い回すと、どこでも浮きます。元になる話は同じでも、置く場所ごとに切り出す長さを変えます。 置く前に、どの版が元なのかを決めます。元が決まっていないと、直すときにどれを直せばいいのかが分かりません。サイトを直したのに会社案内が古いまま、という状態は、元が決まっていないところから起きます。 元は、長い版にします。短い版は、そこから切り出します。逆にすると、足すときに書き足す形になり、元の話とずれていきます。 採用の場面では、読む相手がまだ社内の人ではありません。何を出して何を出さないかの線引きが要ります。 そして、社内にも置きます。社員がこの話を説明できないと、外に出した話だけが独り歩きします。取引先が読んだ話と、担当者が話す内容が違えば、読んだ側は担当者のほうを信じます。社内で使われる状態をどうつくるかは、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に書きました。 更新の扱いも決めておきます。事業が変われば、約束が変わります。約束が変われば、選ぶ話も変わります。書いた時点で固めると、変わったあとに古い話だけが残ります。どこに置いたかを記録しておくと、直すときに探す手間が減ります。サイトだけ直して、会社案内が古いまま、ということが起きます。 選んだ時点で、決めている 図をタップすると、拡大して見られます ブランドストーリーの材料は、すでに社内にあります。新しく作るものではありません。 選ぶ基準は、いま何を約束しているかです。約束につながる出来事を拾い、現在に着地させる。順番としては、それだけです。 そして、どれを話すかを選んだ時点で、何を大事にしているかを決めています。過去の出来事は変えられませんが、どれを会社の説明に使うかは選べます。選び方のほうに、いまの判断が出ます。 書き上がった話を読み返して、いまの仕事の説明になっているかを見ます。なっていなければ、選んだ出来事が合っていないか、約束のほうが実態から離れています。どちらにしても、直す先は文章ではありません。 選び直すこともできます。事業が変われば、拾う出来事も変わります。変えられないのは起きたことのほうで、どれを話すかは、いつでも決め直せます。 関連する記事 ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方 タグラインとは。キャッチコピーとの違いと、短くならないときの原因 トーンアンドマナーとは。決めるのではなく、約束から翻訳する 記事一覧を見る

商品ブランディングとは。共通にするものと、分けるものを決める

商品のブランディングで決めるのは、その商品の中身だけではありません。ほかの商品や会社と、どこを共通にして、どこを分けるかまでが、決める範囲に入ります。 見た目を決めるのは、要る作業です。色も、形も、名前も、いつかは決めます。ただ、その前に揃えておくものがあります。揃っていないと、色や形を選ぶときの基準が出てきません。 そして商品は、1つで終わるとは限りません。1つ目がうまくいけば、2つ目を出します。共通にするものを決めていないと、増えたところで社内の判断が揃わなくなります。 この記事で書くのは、その決め方です。何を共通にして、何を分けるか。決めた結果をどう残すか。そして、決まっていないまま進めると何が起きるか。 商品ブランディングとは何か 商品ブランディングとは、その商品が誰のどの場面で選ばれるかを決めて、それが伝わる形にすることです。決めるのは価値の中身で、形にするのは名前や見た目になります。 会社のブランディングとは、決める対象が違います。会社のほうは「何をしている会社か」を決めます。商品のほうは「この商品は何か」を決めます。同じ会社でも、商品ごとに答えが変わります。 小さい会社では、この二つが重なることがあります。商品が1つで、その商品で知られているなら、会社の説明と商品の説明は同じで足ります。分ける必要が出てくるのは、商品が増えてからです。 重なっているうちは、どちらの言葉で説明しても通じます。ただ、2つ目を出した時点で、会社の説明が片方の商品に寄っていることに気づきます。会社の紹介文が1つ目の商品の話で埋まっている、という形です。 販促と混ざりやすいところでもあります。値引き、キャンペーン、売り場での見せ方。どれも売るための工夫ですが、決めているのは売り方であって、選ばれる理由ではありません。選ばれる理由が決まっていない状態で売り方だけを変えると、その施策をやめた時点で元に戻ります。 会社ごと見直す話は、企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるかに書いています。この記事で扱うのは、商品の側です。 商品が1つか、複数か 図をタップすると、拡大して見られます はじめに確かめるのは、いま扱っている商品が1つか、複数かです。ここで決めることが変わります。 商品が1つなら、会社の話と商品の話を分ける必要はありません。会社名で覚えてもらっても、商品名で覚えてもらっても、指しているものは同じです。決めることは少なく、迷う場面も少なくなります。 2つ以上あると、決めることが増えます。それぞれの商品に別々の顔を持たせるのか、同じ顔で揃えるのか。この判断が入るためです。揃えれば作る手間は減りますが、商品ごとの違いは伝わりにくくなります。分ければ違いは出ますが、そのつど作り直しになります。 商品が複数あっても、決めることが増えない場合もあります。売る相手が同じで、使われる場面も同じなら、商品の違いは中身の違いだけになります。容量の違い、味の違い、色の違い。この場合は同じ顔で並べるのが自然で、迷う場面は出てきません。 決めることが増えるのは、相手か場面が変わるときです。同じ会社が、業務用と家庭用の両方を出す。あるいは、既存の商品とは別の売り場に置く商品を出す。このとき、同じ顔のままでよいのかという問いが立ちます。 いま1つでも、増える見込みがあるなら、決めておく価値はあります。1つのうちに決めておくほうが、決める材料が少なくて済むからです。商品が3つある状態で「どこを揃えるか」を決めようとすると、すでに作ったものが3つあるので、そのどれに合わせるかという話から始まります。 扱っている商品を、相手と場面で並べてみると分かります。同じ相手に、同じ場面で使われるものは、ひとまとまりです。相手か場面が変わるところに線が引かれます。線が何本引けるかが、決めることの量になります。 この記事の以降は、複数ある場合、または増える見込みがある場合を前提にします。1つで終わる商品なら、その商品の価値を決めるところに集中して構いません。 共通にするものと、分けるもの 図をタップすると、拡大して見られます 複数の商品を扱うとき、決めるのは3つの層です。名前、見た目、約束。この3つは、それぞれ独立して決められます。 業界に定まった分け方があるわけではありません。私たちは、作るときに手が分かれる単位で切っています。 層 共通にすると 分けると 名前会社名や共通の冠がつく商品ごとに独立した名前になる 見た目色・書体・型が揃う商品ごとに世界観が変わる 約束会社として保証することが乗るその商品だけの価値で立つ 名前を共通にすると、新しい商品を出したときに、既に知っている人が気づきやすくなります。会社名を冠する形が分かりやすい例です。分けると、その商品だけで勝負することになります。前の商品の印象を引きずらない代わりに、ゼロから知ってもらう必要が出ます。 見た目を共通にすると、棚に並んだときに同じ会社のものだと分かります。作る手間も減ります。共通にするのは全部ではなく、色だけ、書体だけ、枠の形だけ、という決め方もできます。どこか一つ揃っていれば、同じ会社のものとして見えます。 約束を共通にするというのは、会社として保証していることを、どの商品にも乗せるという意味です。丁寧に作る、素材を選ぶ、といったことがそれにあたります。商品ごとの価値は、その上に乗ります。 3つのうち、見落とされやすいのは約束の層です。名前と見た目は決めないと作れないので、必ず誰かが決めます。約束は、決めなくても商品は出せます。決めないまま進むと、商品ごとに違うことを言う状態になり、あとから揃えるのが難しくなります。 3つは組み合わせられます。名前は分けて、見た目は揃える。あるいは名前は揃えて、見た目は商品ごとに変える。どれが正しいという話ではなく、何を優先するかで決まります。 決めるときに見るのは、次の商品を出す間隔です。短い間隔で出していくなら、共通にする層を増やすほうが回ります。1つの商品を長く売るなら、分けても手間は増えません。 そして、この3層のどれを共通にするかを聞かないまま見た目から作り始めるのは、引き受けた側の順番の問題です。色の候補を出す前に、揃えるものが決まっているかを確かめるところまでが、最初にやる仕事です。 増えると、基準が言えなくなる 図をタップすると、拡大して見られます 決めたことを書き残しておかないと、商品が増えたところで判断が揃わなくなります。理由は、覚えている人がいなくなるからです。 1つ目を作るときは、決めた人がその場にいます。なぜこの色にしたのか、なぜこの名前にしたのかを、本人が説明できます。書き残していなくても困りません。 2つ目までは、1つ目を見ながら作れます。並べて比べれば、揃っているかどうかは目で分かります。決めた人が別の仕事をしていても、現物があるので追いつけます。 その次から変わります。担当が替わる、時間が空く、外に頼む相手が変わる。そのとき、現物は残っていても、なぜそうしたのかは残っていません。揃えるべきものと、変えてよいものの区別がつかなくなります。 区別がつかないまま進めると、その場の判断で決まります。新しい商品だから新しい見た目にしよう、という判断は、それ自体は自然です。ただ、それが続くと、棚に並んだときに同じ会社のものに見えなくなります。 防ぎ方は、決めたことを短く書いておくことです。長い文書は要りません。揃えるものはどれで、変えてよいものはどれか。この2行があれば、次に作る人が判断できます。 もう1行足すなら、なぜそう決めたかです。理由が書いてあると、事情が変わったときに見直せます。理由がないと、書いてあること自体が守るべき決まりになり、合わなくなっても動かせなくなります。 書く場所は、どこでも構いません。前の商品のデータと一緒に置いておけば、次に作る人が見ます。別の場所にきれいにまとめると、見に行かれません。 会社の名前を前に出すか 商品に会社の名前を付けるかどうかは、3層のうち名前の話です。ここは事業の形で決まります。 会社の名前を前に出すと、会社の信用がそのまま商品に乗ります。取引先が知っている会社なら、新しい商品も受け取ってもらいやすくなります。営業の場面でも、説明が短く済みます。 同時に、会社の評判も乗ります。ある商品で問題が起きたとき、会社名がついている商品には影響が及びます。扱う商品の種類が離れているほど、この影響は読みにくくなります。 逆の向きもあります。商品が知られると、会社が知られます。会社名を出していれば、その商品で覚えた人が、次の商品も同じ会社のものとして見ます。採用の場面でも、商品を知っている人が応募してくるようになります。 商品を独立させると、その商品だけで判断されます。会社が知られていない段階では、独立させても差は出ません。知られている会社ほど、独立させる意味が出てきます。 中小企業では、会社の名前を出す形のほうが手数は少なくなります。作るものが減り、伝える先も一つで済むためです。ただ、扱う商品が離れている場合は別です。食品と工業製品を同じ名前で出すと、どちらの説明も曖昧になります。 中間の形もあります。商品の名前を前に出しつつ、会社名を小さく併記する。棚では商品として見えて、手に取ると作り手が分かります。どちらかを選ばなければならない話ではありません。 決め方としては、その商品を買う人が、会社の名前を知っているかどうかを見ます。知っているなら乗せる意味があります。知らないなら、会社名は情報として増えるだけです。 知っているかどうかは、聞けば分かります。既存の取引先に、うちの会社名を聞いたことがあるかを確かめる。答えが割れるなら、まだ乗せる段階ではありません。 見た目から入ると選べない 図をタップすると、拡大して見られます 色や形を決める場面では、選ぶ基準が要ります。基準がないと、その場にいる人の好みで決まります。 基準は、これまでの章で決めたものから出てきます。共通にすると決めた層があるなら、そこは動かせません。分けると決めた層は、その商品だけで考えられます。決まっていれば、案を見たときに「揃えるはずのものが揃っているか」で判断できます。 決まっていない状態で案を見ると、判断の材料は見た目の印象だけになります。良いか悪いかで話すことになり、決められる立場の人の意見で決まります。決まったこと自体は問題ありませんが、その決め方だと次の商品でも同じことが起きます。 案を見る手順は決めておきます。まず、既存の商品と並べます。次に、揃えるはずの層が揃っているかを見ます。そのうえで、分けると決めた層が、この商品らしくなっているかを見ます。順番を先に決めておくと、好みの話は最後に来ます。 その商品が何を約束するかの決め方は、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書いています。約束が言葉になっていれば、見た目の案をそこに当てられます。 すでに売っている商品を作り直す場合は、注意が要ります。いま買っている人は、色と形で棚から見つけています。揃えるために見た目を変えると、その手がかりが消えることがあります。この話はパッケージを変えたら売れなくなる。その手前で、何が起きているのかに書いています。共通化を進めるときに、既存商品をどこまで触るかは別に判断してください。 どこまでを誰に頼むか 商品が複数あると、頼み方も変わります。1つずつ頼むか、まとめて頼むかで、出てくるものが違います。 1つずつ頼むと、その商品に集中できます。ただ、共通にすると決めた部分は、頼むたびに伝え直すことになります。伝え漏れると揃いません。相手が変わればなおさらです。 伝え直す手間は、回数分かかります。1つ目で決めたことを2つ目でも説明し、3つ目でも説明する。説明する側が飽きた時点で、省略が始まります。 まとめて頼むと、共通の部分は一度で決まります。そのかわり、1つ目が遅れると全部が止まります。発売の時期がばらばらな商品を無理にまとめると、待つ時間が生まれます。 間を取る形もあります。共通にすると決めた部分だけを先に決めて、そのあと商品ごとに分けて頼む。共通部分は一度きりの作業なので、まとめる意味があります。商品ごとの部分は、発売の時期に合わせて動かせます。 ただ、この形は依頼する側からは出てきにくいものです。商品ごとの依頼として続けるほうが、頼む側には分かりやすく、引き受ける側も説明が要りません。その形のまま進むと、共通の部分は商品ごとに作り直されます。先に分けて決めましょう、と言い出すところが、引き受けた側の役割になります。 頼む相手が替わる場面も出てきます。そのときに渡すのは、前に作ったものではなく、決めたことのほうです。現物だけを渡すと、相手はそこから決まりを推測することになります。推測は外れることがあり、外れたまま作られたものは、並べてはじめて分かります。 どこまでを頼めるかは、相手によって違います。範囲の決め方はパッケージデザイン会社の選び方。依頼できる範囲と、決めておく条件に書いています。複数商品の場合も、範囲の考え方は同じです。 商品は1つでは終わらない 商品のブランディングは、その商品だけの作業ではありません。ほかの商品や会社との関係まで含めて決めることになります。 決めるのは3つの層です。名前、見た目、約束。それぞれについて、共通にするか分けるかを選びます。選び方に正解はなく、次の商品を出す間隔と、会社の名前が知られているかどうかで決まります。 そして、決めたことは短く書き残します。揃えるものはどれで、変えてよいものはどれか。書いていないものは、担当が替わった時点で失われます。 いま商品が1つでも、増える見込みがあるなら、決める材料が少ないうちに決めておくほうが早く済みます。決めるのは短い2行と、その理由だけです。 関連する記事 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中小企業のブランディング。決めたあとに時間を使う進め方

中小企業のブランディングとは、限られた人と時間のなかで、自社が何者として選ばれるかを決めていく取り組みです。 大企業とは、時間を置く場所が違います。大企業は決めるまでに時間を使い、中小企業は決めたあとに時間を使います。工程を小さくするのではなく、時間を置く場所を変える。それが、この記事でお伝えする進め方です。 ブランディングが進まないという相談を受けます。原因は体制でも予算でもありません。大企業向けにできた進め方を、そのまま持ち込んでいることです。 大企業とは条件が逆になる 決断の速さと、継続の力。この二つが、大企業と中小企業では逆になっています。 決めるまで 決めたあと 大企業遅い。決める人が複数いて、部門ごとに事情が違う続く。専任の担当と運用の体制がある 中小企業速い。社長が判断すればその日に決まる続かない。専任がおらず、決めた人が別の仕事も持つ 大企業のブランディングの進め方は、この表の左上を埋めるためにできています。調査、競合分析、ワークショップ、合意形成。どれも、決めるのが遅いという弱点を埋める工程です。 右上は、工程に入れなくても埋まります。専任のチームがいて、運用の予算が付いているからです。大企業の進め方が制作で終わってよいのは、その先を担当する人が社内にいるからです。 中小企業は、これがそっくり逆になります。 左下、つまり決めるまでの工程は、埋める必要がありません。社長が判断すれば、その日に決まるからです。稟議も、部門間の調整も、社内向けの説明資料も要りません。 ここが、この記事の要点です。右下、つまり決めたあとは、工程に入れなければ埋まりません。専任がいないので、決めたあとに誰も見ないからです。決めた言葉は残るのに、日々の判断では使われない。中小企業の進め方が制作で終わってはいけないのは、その先を担当する人が社内にいないからです。 だから、工程を小さくするだけでは足りません。前半を削って、後半を足す。時間の置き場所を、左から右へ移すことになります。 進まないときに起きていること 図をタップすると、拡大して見られます ブランディングが「進まない」と言われる状態は、三つに分かれます。原因が違うので、打ち手も違います。 一つめは、ブランディングが始まっていない状態です。必要だとは思っているが、着手していない。ここで止まっているなら、問題は何を決めるかではなく、誰がいつ決めるかです。 二つめは、始めたが止まった状態です。調査をした、ワークショップをやった、資料ができた。そこから先に進んでいません。成果物はあるのに、日々の仕事が変わっていない。 三つめは、作ったが使われていない状態です。ロゴができ、サイトができ、ガイドラインもある。ただ、判断の場でそれらが使われていません。案件を受けるかどうかを決めるとき、見積もりを出すとき、採用の合否を決めるとき。そこで持ち出されないなら、掲げてあるだけです。 二つめと三つめは、外から見ると同じに見えます。どちらも「やったのに変わらない」からです。打ち手が逆になるので、自社がどちらかを先に見分けます。 見分けるには、直近で判断が割れた場面を思い出して、そこで何を根拠に決めたかを辿ります。判断の根拠を見れば、決まった言葉が社内にあるのか、それとも無いのかが分かるからです。 判断の基準になる言葉が社内にないなら、二つめです。決める工程に戻ります。決め方はブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書いてあります。 根拠が声の大きさや役職だったなら、三つめです。決まったものを使う場所が決まっていません。「決めたあとに時間を置く」の章が、そこにあたります。 見た目を作り直しても変わらなかった、という形もあります。この構造はリブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いたとおりです。原因はデザインの手前にあります。 大企業向けの進め方が持ち込まれる 私たちのような受注側が大企業向けの進め方を持ち込むと、止まる場所は決まっています。最初の工程、つまり調査と合意形成です。 止まる理由は、その工程が前提にしている条件が、中小企業では揃っていないからです。大企業の調査は、決める人が複数いる会社で合意をつくるための材料集めです。合意する相手が社長ひとりなら、集めた材料を使う場面が来ません。条件の揃わない工程に人手と日程を割り当てるので、そこで詰まります。 具体的にはこうなります。調査に人手が割けない。ワークショップの日程が揃わない。合意形成の相手が、そもそも社長ひとり。社長が決めればその日に終わる話に、三ヶ月の工程が引かれます。そして日常業務が優先され、次の打ち合わせが延び、そのまま止まります。 止まったとき、原因はその会社にあると説明されます。優先度が低い、体制がない、社長が忙しい。どれも事実ですが、原因ではありません。その体制でも回る進め方を選んでいれば、止まりませんでした。 これは他社の話ではありません。私たちも、提案の形を大企業向けのまま出したことがあります。工程表を作り、フェーズを分け、調査から始める。その形のほうが提案として整って見えるからです。相手の体制に合わせて工程を組み直さずに、標準の工程表をそのまま出すなら、それは提案ではなく手続きの説明です。 次の章から、その組み直した形を書きます。その前に、避けたい形を挙げます。 やってはいけないこと 一つめは、見た目から入ることです。ロゴやサイトを先に作り、何を約束するかを後から考える。 この順番だと、制作の締切が決める締切になります。印刷や公開の日は動かせないので、その日までに出た案が採用されるからです。そして選ぶ基準がまだ無いので、決め手は好みになります。あとから「なぜこの形か」と聞かれても、答えが出てきません。 さらに、作ったものは残ります。次に何かを作るとき、前に作ったものに合わせることになるので、定まる前に作ったものが、あとから基準になります。 そのあとで何を約束するかを決めると、先に作ったものと食い違います。ここで、作り直すか、約束のほうを既にあるものに合わせて曲げるかになります。作り直せば費用が二重にかかり、曲げれば決めた意味がなくなります。どちらを選んでも損が出ますが、順番を戻すだけで避けられる失敗です。 代わりにやることは、作る日を先に決めないことです。何を約束するかが一文になってから、制作の日程を引きます。順番を入れ替えるだけで、決め手が好みから基準に変わります。 二つめは、全社を巻き込もうとすることです。参加した人の数だけ自分の言葉になる、というのは確かです。ただ、人数が増えるほど日程が揃わなくなります。専任がいない会社では、全員を集める日が来ないまま止まります。 代わりにやることは、巻き込む範囲を先に決めることです。部署ごとに一人でも入っていれば、伝える経路はその人の分だけできます。広げるより先に、決めます。 三つめは、一度で終わらせることです。決めた言葉も、作ったものも、置いておくと使われなくなります。人が入れ替われば、決めた過程を知らない人が増えるからです。結論だけを渡された人にとって、それは外から来た言葉になります。 代わりにやることは、決めた理由を一緒に残すことです。理由があれば、あとから入った人も、状況が変わったときに自分で判断できます。 三つとも、大企業では起きにくい失敗です。制作の締切に引きずられないだけの工程が組まれていて、全社を集める仕組みがあり、運用する担当がいるからです。 決めるまでを短くする 図をタップすると、拡大して見られます 決めるまでにやるのは、聞くこと、絞ること、言い切ることです。 聞く。社長に、直近で断った案件とその理由を挙げてもらいます。断った理由を聞くのは、そこにその会社の判断基準が出ているからです。何を選んだかより、何を選ばなかったかのほうに、基準がはっきり出ます。選んできた取引先と、譲らなかった条件についても、同じように聞きます。 社長への質問が終わったら、社員に聞きます。質問はひとつです。「うちは、どういうお客さんに向いている会社ですか」。会議ではなく、個別に聞きます。同じ場で聞くと、先に話した人の答えに寄ってしまい、揃っているのかどうかが分からなくなるからです。 ここまでが、大企業でいう調査にあたる工程です。ただし、大企業の調査とは目的が違います。集めるのは合意のための材料ではなく、すでに社内にある判断基準です。それを言葉にして取り出すだけなので、外から情報を持ってくる必要がありません。 絞る。集めた材料には、社長の言葉と社員の言葉が混ざっています。そこから、自社にしか言えないものを選びます。 選び方の基準は、他社の名前を入れ替えても成立するかどうかです。「お客様第一」「品質にこだわる」は、どの会社に入れ替えても成立します。成立するなら、その会社を選ぶ理由にはなっていません。 この作業をすると、残るものは少なくなります。少なくて不安になりますが、少ないほうが判断には使えます。候補が五つ残っているなら、絞る作業が途中で止まっています。 言い切る。残ったものを、誰に何を約束するかという一文にします。一文にするのは、判断の場で思い出せる必要があるからです。会議の途中で口に出せない長さなら、その場では使われません。 そして、約束しないことを決めます。速さを約束したなら、時間のかかる丁寧さは選べません。両方を約束すると、どちらも約束になりません。約束しないことが決まって、はじめて断る基準になります。 私たちが中小企業と進めるとき、ここまでで二週間から一ヶ月です。打ち合わせの回数でいえば、三回から四回。社長と担当者の二人で進められます。 揃っていないときは、どう揃えるか 前の章の工程で、社長の答えと社員の答えが揃わないことがあります。ここでつまずく会社が出ます。 揃わない状態には、二種類あります。社長の考えが社員に伝わっていない場合と、社長自身のなかで決まっていない場合です。打ち手が違うので、どちらかを先に見ます。 社員の答えがばらばらでも、社長の答えが一本なら、前者です。伝わっていないだけなので、伝える場を作れば揃います。このとき、社長が決めた言葉を、決めた理由と一緒に渡します。理由が付いていないと、受け取った側は結論だけを暗記することになり、少し違う場面で使えないからです。 社長の答え自体が場面ごとに変わるなら、後者です。この場合、社員に伝えても揃いません。伝える中身が定まっていないので、伝えるほど解釈が増えるからです。先に社長のなかで決める必要があります。 決め方は、前の章の「絞る」と同じです。断った案件を並べて、そこに共通の基準があるかを見ます。基準が見つからないなら、まだ決まっていません。そのときは、決めていないと認めるところから始めます。決まっていないものを決まったことにして進むと、あとで全部やり直しになるからです。 社員に伝える場は、大掛かりなものでなくても構いません。「やってはいけないこと」で書いたとおり、範囲を先に決めたほうが日程は揃います。 伝えたあと、もういちど個別に聞きます。答えが重なっていれば、揃っています。一言一句が同じである必要はありません。同じことを指しているかどうかを見ます。むしろ全員が同じ文を暗記している状態は、自分の言葉になっていない兆候です。 この工程の詳しい進め方は、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方にまとめています。採用や日々の判断にも効く作業なので、ブランディングの予算と切り離して考えたほうが進みます。 決めたあとに時間を置く 図をタップすると、拡大して見られます ここからが、大企業の進め方には入っていない部分です。 大企業の工程は、制作で終わります。方針を固めて、ロゴやサイトを作って、納品する。その先は専任のチームが引き受けます。 中小企業には、その担当がいません。なので、決めた後に何をするかまでを工程に入れます。ここが、時間を置く場所を左から右へ移すという意味です。 やることを順に書きます。 使う場所を決める。見積もりを出すとき、案件を受けるかを決めるとき、採用の合否を決めるとき、制作物の案を選ぶときなど。具体的な場面を挙げて、そこで使うと決めます。「意識する」では使われません。場面が決まっていないものは、思い出す機会がないまま、決めた直後から使われなくなるからです。 見る人を決める。決めるのは担当者の名前だけではありません。いつ見直すか、新しく入った人に誰がどこで渡すか、実態とずれたときに誰が言い出すか。専任を置く必要はありませんが、誰が見るかは決めます。決めないと、誰の担当でもなくなるからです。 理由を残す。残すのは、決めた言葉だけではありません。何を候補にして、なぜそれを選ばなかったのか。選ばなかったほうの記録が効きます。あとから入った人が、状況が変わったときに自分で判断できるからです。 制作物を作るのは、この三つを決めたあとです。順番を逆にすると、作ったものの使い方が誰にも分からないまま納品されます。ガイドラインの扱いはブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書いたとおりです。 工程の全体を並べると、こうなります。 工程 大企業 中小企業 調べる定量調査・競合分析。合意をつくる材料として要る社長と社員に聞く。すでにある判断基準を言葉にする 決める全社で合意形成決める人が決める 作る方針を固めてから制作同じ 続ける専任チームが運用する使う場所と、見る人と、理由を決める 左の流れは制作で終わり、右の流れは続けるところまで入っています。小さくしたものではない、というのはこの意味です。 体制については、参考になる調査があります。2022年版「中小企業白書」第2部第2章第1節では、デザイン経営に既に取り組み定着している企業の体制を調べており、「経営者がデザイン責任者」と回答した企業の割合が、他のどの体制よりも高くなっています(第2-2-13図)。デザイン経営はブランディングと同じものではありませんが、定着している会社では経営者が判断の位置にいる、という形が示されています。 「4要素」と言われているもの ブランディングを検索すると、要素を四つに整理した説明が出てきます。ターゲットを明確にする、選ばれる理由を明確にする、組織に浸透させる、自社の価値を体現する。この形のものです。 ただし、この四つで揃っているわけではありません。別の説明では、デザインの構成要素として四つを挙げています。中身が違います。そして、同じことを三つの要素として説明しているものもあります。 中身以前に、いくつあるかが揃っていません。 どの説明が間違っているという話ではありません。ブランディングという言葉が広い範囲を指すので、どこを切り取るかで数が変わるからです。誰に向けて言うかを切り取れば四つになり、伝え方の側から切り取れば別の四つになります。 要素の整理は、抜けを探す点検には使えます。ただ、当てはめた結果として何をするかは、別に決めることになります。この記事の「決めるまでを短くする」から「決めたあとに時間を置く」までが、そちらです。 外に頼むかどうかの判断 図をタップすると、拡大して見られます 全てを外に頼む必要はありません。頼まないほうが早い部分もあります。 社長の考えを言葉にする工程は、外の人がいたほうが進みます。本人には当たり前になっていることが、聞かれてはじめて言葉になるからです。ここは頼む価値があります。 社員に聞く工程は、社内でもできます。ただ、社内の人が聞くと、答える側が立場を意識します。外の人に聞かれたほうが、素直な答えが出ます。どちらを取るかは、社内の関係によります。 作る工程は、外に頼むことになります。ロゴ、サイト、資料。技術が要るので、内製できる会社は限られるからです。 続ける工程は、社内でやります。外に置くと止まるからです。使う場所と見る人を一緒に設計するところまでは外の人が入れますが、動かすのは社内です。 どの型の会社に頼むかは、ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に書いてあります。決める工程から頼むのか、作る工程だけを頼むのかで、選ぶ相手が変わります。 そして、いま頼まないほうがよい場合があります。事業の方向が変わっている最中、主力商品が入れ替わる時期、資金繰りが詰まっているとき。決めても、決めた前提のほうが先に変わるからです。この判断はパーパス経営とは。「意味がない」と言われる理由と、中小企業での使いどころでも扱っています。時期が合っていないと伝えるのは、引き受けた側の仕事です。受けたほうが売上にはなりますが、止まった案件は実績になりません。 小さいことは、不利ではない ブランディングが進まない原因は、規模ではありません。大企業向けにできた進め方を、そのまま持ち込んでいることです。 大企業の工程は、決めるのが遅いという弱点を埋めるためにできています。中小企業にはその弱点がないので、前半は要りません。代わりに、続ける体制がないという弱点があります。だから後半に時間を置きます。 決めるまでは二週間から一ヶ月。そのあと、使う場所と見る人と理由を決める。この形なら、専任がいなくても続きます。 関連する記事 企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるか ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのか ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方 記事一覧を見る

ブランドブックとは。ガイドラインとの違いと、どちらが要るかの決め方

ブランドブックとは、自社のブランドについて、考え方や大事にしていることをまとめた冊子です。ただ、この言葉が何を指すかは会社によって違います。デザインの決めごとまで含むこともあれば、読み物として作られることもあります。 だから、名前から入っても決まりません。決まるのは目的のほうです。決めごとを守らせたいのか、考え方を読ませたいのか。ここが分かれば、作るものは決まります。分からないまま名前で頼むと、出てくるものが想定と違います。 この記事では、ブランドガイドラインとの違い、自社にどちらが要るのか、そもそも要らない場合までを書きます。 ブランドブックとは何か この言葉を調べると、説明が揃っていません。 社内向けに配る小冊子だと書かれていることがあります。社内と社外の両方に向けたものだ、と書かれていることもあります。デザインの決めごとまで含めた体系的な文書として説明されることもあれば、商品に同梱して届ける読み物として扱われることもあります。 同じ語で、別のものを指しています。 どれかが間違っている、という話ではありません。その会社でそう呼んでいる、というだけです。業界で決まった定義がないので、それぞれの現場で決まった使い方が残っています。 そのため、この語で話を進めると、途中まで噛み合いません。冊子を作る話をしているつもりの人と、決めごとを整理する話をしているつもりの人が、同じ会議に座っていることがあります。分量も、作る期間も、関わる人も変わるので、あとから食い違いが出ます。 私たちは、読ませるためのものとして扱っています。決めごとを守らせるためのものは、別に呼び分けています。ただ、これも私たちの使い方であって、業界の定義ではありません。 だから、この記事の読み方としては、自社での使い方に置き換えてください。確かめるのは、社内でその語が何を指しているかです。 確かめ方は簡単です。すでにその語を使っている資料があるなら、中身を見ます。決めごとが並んでいるならガイドラインに近いもので、読み物として書かれているならブランドブックに近いもの。無いなら、これから決めることになります。 ガイドラインとの違い 図をタップすると、拡大して見られます 呼び分けている会社では、役割が分かれています。 ブランドガイドライン ブランドブック 目的守らせる読ませる 読む人作る人(社内担当・制作者)働く人・関わる人 中身決めごと考え方と、その背景 使われ方参照される通読される 失敗の形守られない読まれない 表の下の二行が、この二つを分けています。 参照されるものは、必要になったときに開きます。ロゴを配置する場面で、余白の決まりを確かめる。全部を読む必要はありません。索引が要るのは、この種類のものです。 通読されるものは、最初から順に読まれます。途中から開いても意味が取れません。順序が要るのは、この種類のものです。 失敗の形も逆になります。ガイドラインは、守られないことで失敗します。制作物を並べれば分かるので、気づけます。ブランドブックは、読まれないことで失敗します。配った数は記録に残るので、届いたように見えます。 ガイドラインの中身と、それが使われなくなる形については、ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書きました。この記事では、そちらを繰り返しません。 そして、呼び分けていない会社もあります。その場合、どちらの語も同じものを指します。一冊のなかに決めごとと考え方が両方入っている、という形です。それで回っているなら、分ける必要はありません。 ただ、一冊にまとめると、片方が弱くなります。決めごとを詳しく書けば分量が増えて、読み物としては重くなる。読み物として整えれば、参照するときに探しにくくなる。求めているものが逆を向いているので、両方を高い水準で満たすことはできません。 では、自社に要るのはどちらなのか。次の章がその話です。 どちらが要るのかを決める 図をタップすると、拡大して見られます どちらが要るかは、名前からは決まりません。決めるのは、その会社がいま困っていることのほうです。 作ったものが揃わない。名刺とサイトと会社案内が、別の会社のものに見える。この場合に要るのは、決めごとのほうです。誰が作っても同じになるように、先に決めて渡します。 社員が自社を説明できない。人によって言うことが違う。この場合に要るのは、読ませるもののほうです。決めごとを渡しても、説明は揃いません。 症状が違うので、作るものも違います。そして、片方を作っても、もう片方は解決しません。だから、頼まれたほうをそのまま作ると外れます。どちらが要るのかを先に判定するのは、引き受ける側の仕事です。 両方が困っている場合もあります。そのときは順番を決めます。同時に作ると、一冊のなかで求めるものが逆を向きます。先に作るのは、いま止まっているほうです。制作物が出続けているなら決めごとが先、人が増えているなら読み物が先になります。渡す相手が分かれている場合も同じで、制作者に渡すものと社員に渡すものが別なら、分けて作ります。 片方から始めても、あとからもう片方に伸ばせます。読み物を先に作った会社が、制作物が増えた段階で決めごとを足す。逆の順もあります。最初に両方をそろえる必要はありません。 そして、どちらも要らない場合があります。 事業が一つで、判断する人が数人で、作るものが月に数点なら、その場で確認するほうが早く済みます。決めごとを文書にする手間より、聞く手間のほうが小さい。この段階で作っても、効きはじめるのは目が届かなくなってからです。作るのが早すぎたというより、まだ使う場面が来ていない、ということになります。 要るようになるのは、目が届かなくなったときです。人が増える、委託先が増える、事業が増える。確かめる相手が増えて、確かめきれなくなったところが境目です。 もう一つ、早すぎる場合があります。何を約束するかが決まっていないと、どちらを作っても中身が入りません。色や書体は決められますが、なぜその色なのかを書けません。読み物のほうも、伝える中身がないまま体裁だけができます。 その場合に先に決めるものは、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書きました。順序としては、そちらが先になります。自社が何から手をつけるかの全体は、ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのかにまとめています。 読ませるものの作り方 図をタップすると、拡大して見られます 読ませるものなので、順序が要ります。 決めごとの一覧とは、設計が違います。一覧は、探しやすさで並べます。項目ごとでも、五十音順でもかまいません。読み物は、読み進められる順で並べます。 順序は、なぜ、何を、どうする、になります。 なぜ、から始めます。この会社が何のためにあるのか。どういう経緯でいまの形になったのか。ここを先に置かないと、続く内容が指示に見えます。 次に、何を。誰に何を約束しているのか。大事にしていること。三つに分けて持っているなら、その言葉を載せます。三つの関係と、ぶつかったときの扱いはMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書きました。 最後に、どうする。日々の判断で、何を選ぶのか。ここは抽象度を下げます。具体的な場面が出てこないと、自分の仕事と接続しません。 そして、載せた言葉には、決めた経緯を添えます。結論だけを並べると、読んだ人には根拠のない指示として届きます。なぜその言葉になったのか、何と何を比べたのか。経緯があると、書いていない場面でも判断できます。 載せないものもあります。規定、禁止事項の一覧、細かい数値。入れると、読み物から参照物に変わります。そして参照物になった時点で、通読されなくなります。 分量の上限は、誰に読ませるかで決まります。次の章で書きます。 書き手についても、決めておくことがあります。社内で書くのか、外に頼むのか。社内で書くと、中の言葉がそのまま出ます。読む人には近い言葉になりますが、内側でしか通じない言い回しが混ざります。外に頼むと整いますが、整えすぎると自分たちの言葉に見えなくなります。 どちらでも成立します。ただ、外に頼む場合でも、材料を出すのは社内です。何を大事にしてきたか、どういう判断をしてきたか。ここを渡さずに書いてもらうと、どこの会社にも当てはまる文が返ってきます。 誰に読ませるのか 相手が決まっていないと、中身が決まりません。 社員に読ませるのか。新しく入る人に渡すのか。取引先に見せるのか。顧客に届けるのか。全員に向けようとすると、誰にも届かない文になります。 新しく入る人に向けると、形が決まりやすくなります。前提を知らない人なので、説明を省けません。省けないぶん、書くべきことがはっきりします。そして、入社のたびに渡す場面があるので、読まれる機会も決まります。 すでにいる社員に向ける場合は、逆になります。前提を知っているので、説明を丁寧に書くと退屈になります。ここで要るのは、知っていることの言語化です。日々やっていることに、名前が付く。そういう読み方になります。 採用の場面で使う場合は、扱いが変わります。読む相手が、まだ社内の人ではありません。何を出して何を出さないかの線引きが要ります。そのあたりは採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番に書きました。 顧客に渡す場合は、社内向けの言葉がそのままでは使えません。社内向けは、判断に使える具体性で書きます。顧客向けは、短く覚えられることが要ります。同じ内容でも、書き方を分けることになります。 相手が決まると、分量も決まります。新しく入る人に渡すなら、入社の説明に収まる長さ。取引先に見せるなら、打ち合わせの合間に目を通せる長さ。読む場面にかけられる時間が、そのまま分量の上限になります。 相手を一つに決めても、他の人が読まないわけではありません。社員向けに作ったものを、取引先が見ることはあります。だから、外に出て困る内容は入れません。ただ、それは書く相手を絞らない理由にはなりません。誰に向けて書いたかがはっきりしているもののほうが、他の人が読んでも伝わります。 作ったのに読まれないとき 図をタップすると、拡大して見られます ブランドブックを作って配った。それでも社員が読んでいない。この状態は起こります。 配り方を工夫しても、そこだけでは変わりません。読まれるかどうかは、配る前に決まっているからです。 読まれない理由は、いくつかに分かれます。 分量が、読む場面に合っていない。前の章で書いた上限を超えると、途中で止まります。一度止まったものは、そのままになります。 順序が付いていない。決めごとの一覧に近い形になっていると、通読する動機がありません。開いて、閉じられます。 自分の仕事と接続しない。抽象度が高いままだと、読んでも次の行動が変わりません。読んだこと自体は覚えていても、判断のときに出てきません。 渡される場面がない。机に置かれているだけ、共有フォルダにあるだけ。渡す場面を決めていないものは、渡されません。 読ませる場面を作らないと、渡すだけでは読まれません。入社の説明に入れる、案件の開始時に読み合わせる、年に一度の場で使う。使う場面が決まっていれば、読まれます。そして、この場面を決めるところまでが、作る側の仕事です。納品で区切れば、読まれるかどうかは発注側の努力の問題になります。 読まれていない状態は、作った側からは見えにくくなります。配ったあとに苦情は来ません。読まれていないことを、誰も報告しないからです。何も起きないことが、順調に見えます。だから、読まれたかどうかは、こちらから確かめに行くしかありません。 確かめる方法は、配った数ではなく、聞くことです。何が書いてあったかを、自分の言葉で言えるか。要約が返ってくるなら読まれています。良かったです、だけが返るなら、開いただけです。 この確認を最初から予定に入れておくと、読まれない形になっていることに早く気づけます。作り直すより、渡し方を変えるほうが早く済むことがあります。 そして、読まれたあとに何が起きるかは、別の作業になります。読んだ内容が判断に出てくるまでには、間があります。そこをどう進めるかはインナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に書きました。 冊子にするかどうか 紙にするか、画面のままにするか。この判断があります。 製本すると、更新できなくなります。刷った時点で固まるので、事業が変わっても直せません。直せないものは、いずれ現実と合わなくなります。 一方で、製本には読ませる力があります。画面のファイルは開かれません。フォルダのどこかにあると分かっていても、開く理由がなければ開きません。紙で手元にあるものとは、そこが違います。 判断の基準は、中身が固まっているかどうかです。固まっていないうちに製本すると、早く合わなくなります。 分けて持つ方法もあります。変わらない部分を冊子にして、変わる部分を別に置く。何のためにあるのか、何を大事にするのか。ここは頻繁には変わりません。事業の説明や、具体的な進め方は変わります。 この判断は、更新できる形にしておくというガイドライン側の原則と、同じところに行き着きます。製本するかどうかではなく、変わるものと変わらないものを分けているかどうかが要点です。 刷る前に、社内で回して読んでもらう方法もあります。読み切れるか、途中で止まるか。止まる箇所が分かれば、刷る前に直せます。 部数も、決める前に使う場面から考えます。全員に配るのか、新しく入る人に渡すのか、来客に見せるのか。場面が決まっていないと、余った分が倉庫に残ります。 名前で決めない 「ブランドブック」が何を指すかは、会社によって違います。だから、名前から入っても決まりません。 決まるのは、目的のほうからです。守らせたいのか、読ませたいのか。作ったものが揃わないのか、人によって説明が違うのか。困っていることが分かれば、作るものは決まります。 そして、どちらも要らない場合があります。目が届いているうちは、その場で確認するほうが早く済みます。 作ると決めたなら、次に決めるのは相手です。誰に読ませるのかが決まると、書く内容も、分量も、渡す場面も決まります。先に決めるのは、中身ではなく相手のほうです。 名前を先に決めると、その名前に合う中身を探すことになります。順番が逆になると、作ったあとに使いどころを探すことになります。 そして、作ったあとに要るのは、渡す場面です。作る作業より、渡し続ける作業のほうが長く続きます。 関連する記事 ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのか 理念浸透とは。「浸透しない」の中身を分けて、打ち手を決める インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方 記事一覧を見る

ブランドポジショニングとは。マップは、決めたあとに描く

ブランドポジショニングとは、自社が誰のどの場面で、何として思い出されるかを決めることです。ポジショニングマップは、それを決めたあとに描くものです。空いている場所を探して埋める道具ではありません。空いている場所には、空いている理由があります。 調べると、マップの描き方が並びます。軸を2本選ぶ。競合を置く。空いているところを探す。そこに自社を置く。手順としては分かりやすく、実際に描けます。 図が要らないという話ではありません。決めたことを見比べるには、図があるほうが早く済みます。順番の話です。 ブランドポジショニングとは何か 図をタップすると、拡大して見られます 市場のなかで自社が立つ場所を選ぶ作業です。決めるのは、相手と場面と、その場面で何として挙がるか。相手を選ぶだけでは足りず、どの場面に入るかまで下ろします。 思い出される、という言い方をしているのには理由があります。決めた位置が効いてくるのは、相手が何かを必要としたときです。そのときに名前が挙がるかどうか。日ごろどう見られているかより、必要になった場面で候補に入るかどうかのほうが、実務では効きます。 順番が入れ替わると、図の上で空いている場所が、そのまま狙う場所になります。図はきれいに埋まりますが、そこを選んだ理由は図の外に残りません。理由を確かめるのは、立つ場所を決めたあとになります。 この記事で書くのは、何を決めることなのかと、決めるために何を見るのか、そして図をどこで使うのかです。 似た言葉との違い 近い言葉がいくつかあります。決めているものが違います。 決めること 基準になるもの ブランドポジショニング誰のどの場面で、何として思い出されるか相手の頭のなか ブランドプロポジションその相手に何を約束するか約束の中身 ターゲティング誰を相手にするか相手の範囲 差別化他社と何が違うか他社 この分け方も、私たちの整理です。まとめて扱う考え方もあります。 分けている理由は、基準にするものが違うからです。差別化は他社を見ます。他社がやっていないことを探す形になるので、他社が動くと基準も動きます。ポジショニングは相手を見ます。相手が何と比べているかが基準なので、他社の動きより先に、相手の比べ方が変わったかどうかを見ます。 この違いは、打ち手にも出ます。差別化から入ると、他社にない要素を足す方向に向かいます。足せば違いは出ますが、相手がそこを見ていなければ、選ばれる理由にはなりません。ポジショニングから入ると、まず相手が何を見ているかを確かめるので、足すかどうかはそのあとになります。 ブランドプロポジションは、ポジショニングを決めたあとに来ます。どの場面で思い出されるかが決まって、その場面で何を保証するのかが約束になります。約束の決め方はブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書いてあるので、そちらを見てください。 ターゲティングとの違いは、決める深さです。ターゲティングは相手を選ぶところまでで、ポジショニングはその相手のどの場面に入るかまで決めます。年齢や業種で切ると相手は決まりますが、場面は決まりません。場面まで下ろすと、自社の仕事と直接つながります。 場面という単位にしておくと、確かめるのも簡単になります。属性は本人に聞いても答えが変わりませんが、場面は具体的な出来事なので、実際にあったかどうかを聞けます。あった場面が集まれば、そこが実在する入口です。 すでにある位置を変えることを、リポジショニングと呼びます。新しく決める場合と手順は同じですが、いまの位置で選んでくれている人がいる点が違います。移した先に人がいるかを確かめる前に動くと、いまいる人だけを失います。 ブランディング全体のなかでの位置づけは、ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのかにまとめてあります。 マップは、決めたあとに描く 図をタップすると、拡大して見られます ポジショニングマップは、決めた結果を確かめる道具です。決めるための道具ではありません。 描いてから決めると、軸に引っ張られます。先に選んだ2本の軸が、答えの候補を決めてしまうからです。価格と品質で描けば、価格と品質の話にしかなりません。その2本が、相手が実際に迷っている軸だとは限りません。 順番を入れ替えると、こうなります。相手が何と比べているかを聞く。比べるときに何を見ているかを聞く。そこで出てきた見方を軸にして、図を描く。図は、聞いた話を並べ直したものになります。 この順番だと、図を描く前に決まっていることがあります。誰の、どの場面か。その場面で相手が何を天秤にかけているか。図はそれを目に見える形にするだけなので、描いても新しい発見は出ません。出ないのが正しい状態です。 逆に、図を描いてから「では、ここが空いていますね」と発見が出るとき、その発見は図の作り方から出ています。軸を変えれば別の場所が空きます。発見に見えるものが、道具の副産物だという状態です。 だから、図を描き始める前に聞くことがあります。何を決めたいのか、いま何が決まっていないのか。そこを聞かずに軸を2本決めて持っていくのは、聞く前に答えを絞ったということです。 会議の場で描くと、これがはっきり出ます。ホワイトボードに軸を引いて、参加者が競合を置いていく。埋まっていない場所が見えたとき、そこに向かう空気が生まれます。図が目の前にあると、図の上で考えることになるためです。 そして、一度描いた図は残ります。資料に入り、次の会議に持ち込まれ、新しく入った人はそれを前提として受け取ります。描いたときの軸の選び方は、資料には残りません。残るのは結論のほうです。 空いている場所が空く理由 図をタップすると、拡大して見られます 図の空白は、機会の印ではありません。空いているのには、理由があります。 理由はいくつかに分かれます。そこに需要がない。需要はあるが、その値段では成立しない。規制や資格で入れない。すでに誰かが試して、続かずに撤退した。どれも、外から見ると同じ空白に見えます。 需要がない場合は、置いても誰も来ません。速くて安いという場所が空いているとして、そこを求める人がいなければ、立っても意味がありません。速さも安さも価値ですが、その組み合わせを探している人が実在するかは別の話です。 成立しないコスト構造の場合は、置けますが続きません。手厚くて安いという位置は、相手にとっては魅力的です。ただ、その組み合わせで利益が出る作り方がないなら、受注が増えるほど苦しくなります。しばらくは仕事が取れるので、問題が見えるのは遅れます。 規制や資格の場合は、そもそも入れません。ここは調べれば分かるので、確かめれば済みます。業種によっては、この確認が先に来ます。 見分けにくいのは、撤退したあとの空白です。少し前まで誰かがいたので、需要があったように見えます。ただ、続かなかった理由は図に残りません。確かめ方は、そこにいた会社がいまどこにいるかを見ることです。別の位置に移っているなら、移った理由があります。なくなっているなら、続かなかったということです。 だから、空白を見つけたら次に見るのは、そこで買っている人がいるかどうかです。いないなら、その人たちはいま何を買っているのかを聞きます。代わりに買っているものがあるなら、需要はそちらにあります。何も買っていないなら、そこに用事がありません。 この確かめは、図の空きを機会として示す側がやります。空いていますね、で終わる提案は、確かめる作業を相手に残しただけです。 調査をやるという話ではありません。相手が数えられる範囲なら、聞けば分かります。既存の取引先に「これがあったら使いますか」と聞く。断られた相手に、いま何を使っているかを聞く。規模が小さいほど、この確かめ方は速く済みます。 軸の選び方で答えが変わる 図をタップすると、拡大して見られます 軸を2本選んだ時点で、答えは半分決まっています。 選びやすいのは、測れる軸です。価格、納期、対応の速さ、品目の数。数字で置けるので、図がきれいに描けます。ただ、きれいに描けることと、相手がそこで迷っていることは別です。 測れる軸に寄るのには、別の事情もあります。説明しやすいからです。社内で図を見せるとき、価格と納期なら誰も異論を挟みません。根拠を問われたときに数字を出せます。説明のしやすさで軸が決まると、相手の見方は図に入ってきません。 相手が迷っている軸は、言葉になっていません。頼んだあとに気を遣わずに済むか。途中で仕様が変わったときに嫌な顔をされないか。担当が変わっても話が通じるか。測りにくいので図にしにくく、そのぶん誰も軸にしていません。だから、ここを軸に取ると図の形が変わります。 こうした軸は、相手の言葉から取ります。選んでくれた理由を聞いたときに出てきた言い回しを、そのまま軸の名前にします。整えると、こちらの言葉に戻ってしまいます。 言い回しをそのまま使うと、図は見た目が整いません。軸の名前が長くなり、対になっていないこともあります。それでも構いません。図は社外に出すものではなく、社内で判断するための道具です。整った図より、実際の言葉が残っている図のほうが、あとで使えます。 同じ会社でも、軸を変えると別の場所に立ちます。価格と納期で描けば真ん中に埋もれる会社が、相談のしやすさと事業理解の深さで描くと端に出ます。どちらの図も間違っていません。見ている面が違うだけです。 図が1枚しか出てこない提案は、軸の選び方を問えません。なぜその2本なのかは、図の外で決まっています。選んだ理由が言えない軸で描いた図は、結論を確かめる道具になりません。 だから、軸は答えではなく問いとして扱います。この2本で見ると、うちはここに立つ。別の2本で見ると、ここに立つ。複数の図を並べたときに、どの図でも同じ場所に立つなら、それは強い位置です。図によって位置が変わるなら、まだ決まっていません。 何を見て決めるか 決めるために見るのは、競合の一覧ではありません。相手が何と比べているかです。 比べている相手は、同業とは限りません。制作を頼むかどうかで迷っている会社が、比べているのは他の制作会社ではなく、社内でやることかもしれません。あるいは、いま何もしないことかもしれません。同業だけを並べた図では、この比較相手が出てきません。 聞く相手は、選んでくれた人と、選ばなかった人の両方です。選んだ理由は聞きやすく、そのぶん当たり障りのない答えが返ります。情報が出てくるのは、断られたほうです。何と比べて、どこで決まったのか。ここは聞きにくいので、聞かないまま終わることがあります。 聞く時期も効いてきます。決まった直後なら、比べた内容を覚えています。時間が経つと、選んだ理由をあとから整理した話になります。受注しても失注しても、決まった直後に一度聞いておくと、そのときの比べ方が残ります。 聞き方は、良かったところを聞くより、何と迷ったかを聞くほうが具体が出ます。「他にどこを見ていましたか」「決め手は何でしたか」。迷った相手の名前が出てきたら、そこが実際の比較相手です。自社が競合だと思っている相手と、違う名前が出ることがあります。 断られた理由を集めにいくのは、発注側の宿題ではありません。引き受けた側が調べにいく範囲です。決めた相手には言いにくいことも、第三者になら言えます。ここは受けた側のほうが向いています。 決まった位置に対して、何を約束しないかまで決める必要があります。ここは範囲が広いので、ブランド戦略とは。マーケティング戦略との違いと、事業戦略との関係に書いてあります。約束することだけを決めて終わらせない、という部分がそこにあたります。 決まっているかの確かめ方 図があるかどうかでは分かりません。図は描けば残りますが、決まっていることの証明にはなりません。 確かめ方は、社内で聞くことです。別々の人に「うちはどの場面で選ばれていますか」と聞きます。答えが揃うなら、決まっています。営業と制作と経営で違う場面が出てくるなら、まだ揃っていません。決めたつもりのことが、社内で共有されていない状態です。 もう一つは、直近の提案で使われたかどうかです。提案の内容を決めるときに、その位置づけが判断に入ったか。入っていないなら、決めた図と、実際の動き方が別々になっています。 見るのは、資料に書いてあるかどうかではありません。書くだけなら、あとから足せます。何かを選ぶ場面で、その位置づけを理由に選択肢を落としたことがあるか。落とした記録があるなら、判断に使われています。 確かめる手立ては、図と一緒に残しておきます。図だけを納めて終わると、あとから当たっているかを見る方法が手元にありません。 位置そのものは、頻繁に変えるものではありません。何として思い出されるかが期ごとに変わると、選んだ側から見て別の会社になります。変えるかどうかではなく、まだ当たっているかを確かめるという形で見ます。 確かめる場面は決めておきます。新しい事業を始めたとき、主力の相手が変わったとき、選ばれ方がこれまでと変わったとき。このうち三つ目は、早い段階で出る合図です。自社が動いていなくても、位置は動きます。 会社全体としてどこから手をつけるかを見直す場合は、企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるかに、作業の分け方を書いています。 図は結論を確かめる道具 ポジショニングマップは、決めたことを目に見える形にするための道具です。 空白から始めると、そこが空いている理由を確かめる前に、立つ場所が決まります。空いている場所には理由があり、需要がない、値段が合わない、入れない、続かなかった、のどれかです。 決めるために見るのは、相手が何と比べているかです。同業の一覧ではなく、相手が実際に天秤にかけたものを聞きます。聞いてから軸を選び、選んでから図を描く。図に新しい発見が出ないなら、順番は合っています。 関連する記事 ブランド戦略とは。マーケティング戦略との違いと、事業戦略との関係 ブランドイメージとは。動かせる範囲と、ずれに気づく方法 ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方 記事一覧を見る

コーポレートアイデンティティとは。MI・BI・VIと、作れるものと作れないもの

コーポレートアイデンティティとは、会社が何者であるかを、社内と社外の両方に対して一貫した形で示すための体系です。CIと略されます。 ロゴや社名の書体を指す言葉として使われますが、枠組みとしてはその手前まで含みます。含む範囲が広いぶん、「CIを作る」と言ったときに何が作られるのかが、人によって違います。 この記事では、CIが何を指すかをお伝えします。そのうえで、そのうちどこまでが発注して作れるものなのかを書きます。 コーポレートアイデンティティとは何か 図をタップすると、拡大して見られます 対象になるのは、会社が外に出すものすべてです。 名刺、封筒、サイト、看板、制服、車両、資料、社内文書。それぞれが別々に作られると、同じ会社のものに見えなくなります。CIは、それらを同じ会社のものとして見せるための体系を指します。 「体系」という言い方をするのは、個々の制作物ではないからです。ロゴ一点を指す言葉ではありませんし、マニュアル一冊を指す言葉でもありません。個々のものが、同じ考え方から出ていること。それが体系という部分の意味です。 日本では、1980年代から1990年代にかけて、大企業が社名やロゴを刷新する取り組みをCIと呼びました。その印象が残っているため、いまも社名変更やロゴ刷新の同義語として使われることがあります。 ただ、枠組みとして見ると、CIが含む範囲は視覚だけではありません。次の章で扱う三つの要素のうち、視覚はそのひとつです。 もうひとつ、CIは社外向けだけの言葉ではありません。社内に対しても、自社が何者かを示す働きを持ちます。外に見せる顔と、社内で共有している自己像がずれていると、外に出すものだけが整った状態になります。 MI・BI・VIは何を指すか 図をタップすると、拡大して見られます CIを説明するとき、三つの要素に分けた整理が使われます。MI、BI、VIと呼ばれます。 略 呼び方 何を指すか MIマインド・アイデンティティ理念、存在理由、大事にしていること BIビヘイビア・アイデンティティ行動規範、社内の文化、実際の振る舞い VIビジュアル・アイデンティティロゴ、色、書体、写真の扱い これは私たちの分類ではありません。CIを扱う場ではそう説明されており、私たちもその整理を使っています。 MIは、会社が何を大事にしているかです。理念や存在理由がここに入ります。ミッション・ビジョン・バリューを掲げている会社では、それらがMIにあたる部分を担います。それぞれの語が何を指すかはMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に整理してあります。 BIは、実際の振る舞いです。決めた考え方が、日々の仕事にどう出るか。顧客への対応、社内での決め方、断るときの伝え方。書かれた行動規範だけでなく、書かれていない習慣も含みます。 VIは、目に見える部分です。ロゴ、色、書体、写真の選び方、余白の取り方。会社に触れたときに、いちどに伝わるのはここです。 三つを分けている理由は、役割が違うのではなく、決まり方が違うからです。MIは考えて決めるもの、BIは日々の積み重ねで表れるもの、VIは形にして固定するもの。同じ体系のなかで、成り立ち方が別々です。 決まり方が違うということは、変わり方も違うということです。MIは、決めれば変わります。会議で議論して、言葉を置き直せばその日から新しくなります。VIも、作り直せば変わります。公開した日から、外に出るものが入れ替わります。 BIだけが、決めても変わりません。行動規範を書き換えても、翌日から社員の振る舞いが変わるわけではないからです。変わるのは、その規範が判断の場で使われるようになってからです。 この差が、CIの取り組みが途中で止まる理由になります。MIとVIは着手した期のうちに形になりますが、BIは形になったかどうかが分かりにくい。成果として報告しやすいものだけが進み、残りが手つかずになります。 そして、決まり方の違いは、もうひとつ別の違いを生みます。次の章で扱います。 三つのうち、作れるのはどれか 図をタップすると、拡大して見られます 発注して納品されるのは、VIだけです。 ロゴは発注できます。色の指定も、書体の選定も、それらをまとめたマニュアルも発注できます。期日を切って、成果物として受け取れます。作る側から見ても、範囲がはっきりしています。 MIは、発注できません。会社が何を大事にしているかを、外部が決めることはできないからです。私たちがやれるのは、すでに社内にあるものを聞き出して言葉にすることまでです。決めるのは会社の側で、私たちは形にする側です。 BIも、発注できません。行動は、日々の仕事のなかで積み重なるものだからです。行動規範を文章にすることはできますが、文章にした時点では行動が変わっていません。書いたものと実際の振る舞いが揃うまでには、運用の時間が要ります。 ここに、この記事の要があります。 「CIを作りましょう」という提案が、実際にはVIの制作を指している。この形になります。ロゴを作り、色を決め、マニュアルにまとめる。納品されるものだけを並べると、CIはVIと同じ範囲になります。 だから冒頭で書いたとおり、CIはロゴや社名の書体を指す言葉として使われるようになりました。使われ方が間違っているのではなく、発注できる部分だけが目に見えて残った結果です。 そして、そのVIが機能するかどうかは、発注できない二つのほうで決まります。理念が定まっていない会社のロゴは、何を表しているのかを説明できません。色を選ぶ場面で根拠がないので、決め手は好みになります。決めたあとに「なぜこの色か」と聞かれても、答えが出てきません。 行動が伴っていない会社の見た目は、触れた人に見抜かれます。整った資料を受け取ったあとの対応が雑なら、資料のほうが嘘だったことになります。見た目を整えるほど、その差は目立ちます。 つまり、VIへの投資は、残る二つが揃っている前提で効きます。揃っていない状態でVIだけを良くすると、食い違いが見えやすくなる方向に働きます。 なお、何が納品されて何が納品されないかを最初に示すのは、引き受けた側の仕事です。「CIをお願いします」という相談に対して、VIの見積もりだけを出して着手すれば、残る二つは誰も担当しないまま進みます。 似た言葉との違い CIの周りには、近い言葉がいくつもあります。 語 何を指すか CI会社が何者かを、一貫した形で示す体系 リブランディングすでにあるブランドを、事業の現在地に合わせて作り直すこと ブランディング選ばれる状態をつくっていく活動の全体 コーポレートステートメント会社の姿勢を短い文にしたもの タグラインその約束を短い言葉にしたもの コーポレートステートメントは、会社が何を大事にしているかを一文か数文で表したものです。サイトのトップや会社案内の冒頭に置かれます。MIを外向きの言葉にしたもの、と考えると位置がはっきりします。タグラインとの違いは、向いている先です。ステートメントは会社そのものを語り、タグラインは商品やサービスの約束を語ります。 CIとリブランディングの関係は、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの1章に書いたとおりです。CIは視覚的な識別体系を指して使われ、リブランディングはその手前の考え方まで含む。その差が生まれる理由が、前章で書いた「発注できるのはVIだけ」です。 ブランディングとの関係も、範囲の話になります。ブランディングは選ばれる状態をつくる活動の全体で、CIはそのうち「何者かを一貫して示す」部分を担います。CIが整っていても、選ばれる理由そのものが弱ければ売れません。逆に、選ばれる理由があってもCIが揃っていなければ、その理由が伝わるまでに時間がかかります。 呼び方そのものに正解はありません。会社によって指す範囲が違うので、相談の場では先に確かめたほうが早く進みます。「CIをやりたい」という言葉が、ロゴの刷新を指しているのか、理念から立て直す話なのか。同じ言葉で、見積もりが別のものになります。 CIとロゴの関係 図をタップすると、拡大して見られます ロゴはVIの一部であって、VIそのものではありません。 VIに含まれるのは、ロゴ、色、書体、写真の選び方、レイアウトの決まり、余白の取り方です。ロゴだけを新しくしても、残りが前のままなら、見た目の印象は変わりません。名刺の書体が違い、サイトの色が違い、資料のレイアウトが揃っていない。その状態でロゴだけを差し替えても、同じ会社のものには見えてきません。 逆に、ロゴを変えずにVIを整えることもできます。色の使い方を決め、書体を揃え、写真の撮り方に方針を持つ。ロゴは同じでも、揃えるだけで印象は変わります。費用のかかり方も、この二つでは違います。 ロゴの相談として来た依頼が、実際にはVI全体の話であることがあります。「ロゴが古い」という言葉の中身が、名刺やサイトを含めた見た目全体への違和感であることは、実務で起きます。 見分け方はあります。ロゴを隠して、名刺やサイトを見てもらう。それでも古く感じるなら、原因はロゴの外にあります。ロゴだけを新しくしても、感じ方は変わりません。 順番としても、VI全体を先に決めるほうが進みます。ロゴを先に確定させると、そのロゴに合う色や書体を探すことになり、選べる範囲が狭まります。どういう見え方にするかを決めてから、それを担うロゴを作るほうが、選択肢が広く残ります。 決めたVIを保つには、使い方の決まりが要ります。誰がどこで使うか、迷ったとき誰に聞くか。この運用の話はブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書いてあります。作って終わりにすると、時間とともに元に戻ります。 なお、ロゴの相談を受けたときに、どこまでを対象にするかを聞くのは引き受けた側の仕事です。ロゴだけを作って納めれば、揃っていない状態は残ったままになります。 揃っているかを見分ける CIが機能しているかは、三つの層のあいだを見ると分かります。層ごとに見るのではなく、層と層が食い違っていないかを見ます。 食い違い 表れ方 MIとVI掲げている理念と、見た目の印象が合わない MIとBI理念に書いてあることと、社員の行動が合わない BIとVI実際の仕事の質と、見た目の格が合わない MIとVIの食い違いは、外から見えます。堅実さを掲げている会社の見た目が派手だったり、新しさを掲げている会社の資料が古い作りだったり。掲げた言葉と見た目のどちらかが、実態から離れています。 MIとBIの食い違いは、社内にいる人に見えます。理念に「顧客第一」とあるのに、社内の判断では期日が優先される。この状態が続くと、理念のほうが実態のない言葉として扱われるようになります。社内で言葉が揃っていない場合の進め方はインナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方にまとめてあります。 BIとVIの食い違いは、取引した相手に見えます。見た目は整っているのに、実際の仕事の進め方が雑だった。あるいはその逆で、仕事の質は高いのに資料が素人くさい。前者は失望として、後者は機会損失として表れます。 三つとも、新しく調べる必要はありません。すでに起きたことを並べて、食い違いがあるかを見るだけです。取引先から言われたこと、社員が口にすること、資料を見た人の反応。材料は手元にあります。 見るときの順番は、外から内へです。まず取引先や候補者に見えている食い違いを拾い、そこから社内の食い違いに遡ります。社内から見ると、慣れているぶん食い違いに気づきにくくなります。 そして、食い違いが見つかったときに直す先は、見た目とは限りません。理念と行動が合っていないなら、直すのは行動か、理念のどちらかです。見た目を直しても、食い違いの組み合わせが変わるだけです。どちらが実態に近いかを決めてから、もう一方を寄せます。 なお、食い違いを見つけて伝えるのは、引き受けた側の役割でもあります。VIの制作だけを頼まれていても、MIとの食い違いが見えているなら、そのまま形にするのは仕事の範囲を狭く取りすぎています。 どこから手をつけるか 入口は二つあります。VIから入るか、MIから入るかです。 VIから入るのは、見た目に困っている場合です。名刺が古い、サイトが会社の実態と合っていない、資料がばらばら。困りごとがはっきりしているので、着手しやすく、結果も目に見えます。 ただし、VIから入っても、途中でMIを確かめる工程が入ります。ロゴを作るには、何を表すかが要るからです。理念が決まっていなければ、そこで一度止まります。止まること自体は問題ではありません。止まったときに、決めずに見た目の好みで進めると、あとで説明できないものが残ります。 MIから入るのは、社内で言葉が揃っていない場合です。人によって会社の説明が違う、判断の基準が共有されていない。この状態でVIを作っても、何を表せばよいかが決まりません。 判断の目安は、「うちは何を大事にしている会社ですか」を社員何人かに個別に聞いて、答えが揃うかどうかです。揃っていればVIから入れます。揃っていなければ、MIが先です。 BIは、この二つのどちらから入っても、あとから付いてくる部分です。決めた考え方が日々の判断に使われるようになって、はじめて行動が変わります。先にBIだけを整えることはできません。 どちらから入るにしても、着手の前に決めておくと進みが変わることがあります。今回どこまでをやるか、です。三つ全部を一度に扱うと、期間が長くなり、途中で判断する人が入れ替わります。VIだけ、あるいはMIとVIだけ、と範囲を決めて始めるほうが、決めきれます。 範囲を決めるときは、やらない部分をどう扱うかも一緒に決めます。BIに手をつけないなら、いま行動がどうなっているかは前提として置くことになります。前提が崩れていれば、作ったVIは実態と合いません。やらないと決めることと、見ないと決めることは違います。 なお、VIの相談として受けたときに、MIが決まっているかを確かめるのは引き受けた側の仕事です。確かめずに着手すれば、途中で止まる工程が見積もりに入っていないことになります。 作るのではなく、揃える CIは、作る対象の名前ではありません。会社が何者かが、社内と社外で揃っている状態を指します。 三つの要素のうち、発注して作れるのはVIだけです。MIは会社が決めるもの、BIは日々の積み重ねで表れるもの。その二つが定まっていないまま見た目だけを整えると、揃っていないことが分かりやすくなるだけです。 だから、確かめるのは制作物の出来ではありません。掲げていることと、やっていることと、見せているものが、互いに食い違っていないかです。 食い違いは、外にいる人のほうが先に気づきます。取引先、候補者、辞めた社員。手元にある材料から遡れば、いま揃っているかどうかは確かめられます。作り直すかどうかは、そのあとの判断です。 関連する記事 ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのか ロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わる ブランドイメージとは。動かせる範囲と、ずれに気づく方法 記事一覧を見る