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中小企業のブランディング。決めたあとに時間を使う進め方

中小企業のブランディングとは、限られた人と時間のなかで、自社が何者として選ばれるかを決めていく取り組みです。 大企業とは、時間を置く場所が違います。大企業は決めるまでに時間を使い、中小企業は決めたあとに時間を使います。工程を小さくするのではなく、時間を置く場所を変える。それが、この記事でお伝えする進め方です。 ブランディングが進まないという相談を受けます。原因は体制でも予算でもありません。大企業向けにできた進め方を、そのまま持ち込んでいることです。 大企業とは条件が逆になる 決断の速さと、継続の力。この二つが、大企業と中小企業では逆になっています。 決めるまで 決めたあと 大企業遅い。決める人が複数いて、部門ごとに事情が違う続く。専任の担当と運用の体制がある 中小企業速い。社長が判断すればその日に決まる続かない。専任がおらず、決めた人が別の仕事も持つ 大企業のブランディングの進め方は、この表の左上を埋めるためにできています。調査、競合分析、ワークショップ、合意形成。どれも、決めるのが遅いという弱点を埋める工程です。 右上は、工程に入れなくても埋まります。専任のチームがいて、運用の予算が付いているからです。大企業の進め方が制作で終わってよいのは、その先を担当する人が社内にいるからです。 中小企業は、これがそっくり逆になります。 左下、つまり決めるまでの工程は、埋める必要がありません。社長が判断すれば、その日に決まるからです。稟議も、部門間の調整も、社内向けの説明資料も要りません。 ここが、この記事の要点です。右下、つまり決めたあとは、工程に入れなければ埋まりません。専任がいないので、決めたあとに誰も見ないからです。決めた言葉は残るのに、日々の判断では使われない。中小企業の進め方が制作で終わってはいけないのは、その先を担当する人が社内にいないからです。 だから、工程を小さくするだけでは足りません。前半を削って、後半を足す。時間の置き場所を、左から右へ移すことになります。 進まないときに起きていること 図をタップすると、拡大して見られます ブランディングが「進まない」と言われる状態は、三つに分かれます。原因が違うので、打ち手も違います。 一つめは、ブランディングが始まっていない状態です。必要だとは思っているが、着手していない。ここで止まっているなら、問題は何を決めるかではなく、誰がいつ決めるかです。 二つめは、始めたが止まった状態です。調査をした、ワークショップをやった、資料ができた。そこから先に進んでいません。成果物はあるのに、日々の仕事が変わっていない。 三つめは、作ったが使われていない状態です。ロゴができ、サイトができ、ガイドラインもある。ただ、判断の場でそれらが使われていません。案件を受けるかどうかを決めるとき、見積もりを出すとき、採用の合否を決めるとき。そこで持ち出されないなら、掲げてあるだけです。 二つめと三つめは、外から見ると同じに見えます。どちらも「やったのに変わらない」からです。打ち手が逆になるので、自社がどちらかを先に見分けます。 見分けるには、直近で判断が割れた場面を思い出して、そこで何を根拠に決めたかを辿ります。判断の根拠を見れば、決まった言葉が社内にあるのか、それとも無いのかが分かるからです。 判断の基準になる言葉が社内にないなら、二つめです。決める工程に戻ります。決め方はブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書いてあります。 根拠が声の大きさや役職だったなら、三つめです。決まったものを使う場所が決まっていません。「決めたあとに時間を置く」の章が、そこにあたります。 見た目を作り直しても変わらなかった、という形もあります。この構造はリブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いたとおりです。原因はデザインの手前にあります。 大企業向けの進め方が持ち込まれる 私たちのような受注側が大企業向けの進め方を持ち込むと、止まる場所は決まっています。最初の工程、つまり調査と合意形成です。 止まる理由は、その工程が前提にしている条件が、中小企業では揃っていないからです。大企業の調査は、決める人が複数いる会社で合意をつくるための材料集めです。合意する相手が社長ひとりなら、集めた材料を使う場面が来ません。条件の揃わない工程に人手と日程を割り当てるので、そこで詰まります。 具体的にはこうなります。調査に人手が割けない。ワークショップの日程が揃わない。合意形成の相手が、そもそも社長ひとり。社長が決めればその日に終わる話に、三ヶ月の工程が引かれます。そして日常業務が優先され、次の打ち合わせが延び、そのまま止まります。 止まったとき、原因はその会社にあると説明されます。優先度が低い、体制がない、社長が忙しい。どれも事実ですが、原因ではありません。その体制でも回る進め方を選んでいれば、止まりませんでした。 これは他社の話ではありません。私たちも、提案の形を大企業向けのまま出したことがあります。工程表を作り、フェーズを分け、調査から始める。その形のほうが提案として整って見えるからです。相手の体制に合わせて工程を組み直さずに、標準の工程表をそのまま出すなら、それは提案ではなく手続きの説明です。 次の章から、その組み直した形を書きます。その前に、避けたい形を挙げます。 やってはいけないこと 一つめは、見た目から入ることです。ロゴやサイトを先に作り、何を約束するかを後から考える。 この順番だと、制作の締切が決める締切になります。印刷や公開の日は動かせないので、その日までに出た案が採用されるからです。そして選ぶ基準がまだ無いので、決め手は好みになります。あとから「なぜこの形か」と聞かれても、答えが出てきません。 さらに、作ったものは残ります。次に何かを作るとき、前に作ったものに合わせることになるので、定まる前に作ったものが、あとから基準になります。 そのあとで何を約束するかを決めると、先に作ったものと食い違います。ここで、作り直すか、約束のほうを既にあるものに合わせて曲げるかになります。作り直せば費用が二重にかかり、曲げれば決めた意味がなくなります。どちらを選んでも損が出ますが、順番を戻すだけで避けられる失敗です。 代わりにやることは、作る日を先に決めないことです。何を約束するかが一文になってから、制作の日程を引きます。順番を入れ替えるだけで、決め手が好みから基準に変わります。 二つめは、全社を巻き込もうとすることです。参加した人の数だけ自分の言葉になる、というのは確かです。ただ、人数が増えるほど日程が揃わなくなります。専任がいない会社では、全員を集める日が来ないまま止まります。 代わりにやることは、巻き込む範囲を先に決めることです。部署ごとに一人でも入っていれば、伝える経路はその人の分だけできます。広げるより先に、決めます。 三つめは、一度で終わらせることです。決めた言葉も、作ったものも、置いておくと使われなくなります。人が入れ替われば、決めた過程を知らない人が増えるからです。結論だけを渡された人にとって、それは外から来た言葉になります。 代わりにやることは、決めた理由を一緒に残すことです。理由があれば、あとから入った人も、状況が変わったときに自分で判断できます。 三つとも、大企業では起きにくい失敗です。制作の締切に引きずられないだけの工程が組まれていて、全社を集める仕組みがあり、運用する担当がいるからです。 決めるまでを短くする 図をタップすると、拡大して見られます 決めるまでにやるのは、聞くこと、絞ること、言い切ることです。 聞く。社長に、直近で断った案件とその理由を挙げてもらいます。断った理由を聞くのは、そこにその会社の判断基準が出ているからです。何を選んだかより、何を選ばなかったかのほうに、基準がはっきり出ます。選んできた取引先と、譲らなかった条件についても、同じように聞きます。 社長への質問が終わったら、社員に聞きます。質問はひとつです。「うちは、どういうお客さんに向いている会社ですか」。会議ではなく、個別に聞きます。同じ場で聞くと、先に話した人の答えに寄ってしまい、揃っているのかどうかが分からなくなるからです。 ここまでが、大企業でいう調査にあたる工程です。ただし、大企業の調査とは目的が違います。集めるのは合意のための材料ではなく、すでに社内にある判断基準です。それを言葉にして取り出すだけなので、外から情報を持ってくる必要がありません。 絞る。集めた材料には、社長の言葉と社員の言葉が混ざっています。そこから、自社にしか言えないものを選びます。 選び方の基準は、他社の名前を入れ替えても成立するかどうかです。「お客様第一」「品質にこだわる」は、どの会社に入れ替えても成立します。成立するなら、その会社を選ぶ理由にはなっていません。 この作業をすると、残るものは少なくなります。少なくて不安になりますが、少ないほうが判断には使えます。候補が五つ残っているなら、絞る作業が途中で止まっています。 言い切る。残ったものを、誰に何を約束するかという一文にします。一文にするのは、判断の場で思い出せる必要があるからです。会議の途中で口に出せない長さなら、その場では使われません。 そして、約束しないことを決めます。速さを約束したなら、時間のかかる丁寧さは選べません。両方を約束すると、どちらも約束になりません。約束しないことが決まって、はじめて断る基準になります。 私たちが中小企業と進めるとき、ここまでで二週間から一ヶ月です。打ち合わせの回数でいえば、三回から四回。社長と担当者の二人で進められます。 揃っていないときは、どう揃えるか 前の章の工程で、社長の答えと社員の答えが揃わないことがあります。ここでつまずく会社が出ます。 揃わない状態には、二種類あります。社長の考えが社員に伝わっていない場合と、社長自身のなかで決まっていない場合です。打ち手が違うので、どちらかを先に見ます。 社員の答えがばらばらでも、社長の答えが一本なら、前者です。伝わっていないだけなので、伝える場を作れば揃います。このとき、社長が決めた言葉を、決めた理由と一緒に渡します。理由が付いていないと、受け取った側は結論だけを暗記することになり、少し違う場面で使えないからです。 社長の答え自体が場面ごとに変わるなら、後者です。この場合、社員に伝えても揃いません。伝える中身が定まっていないので、伝えるほど解釈が増えるからです。先に社長のなかで決める必要があります。 決め方は、前の章の「絞る」と同じです。断った案件を並べて、そこに共通の基準があるかを見ます。基準が見つからないなら、まだ決まっていません。そのときは、決めていないと認めるところから始めます。決まっていないものを決まったことにして進むと、あとで全部やり直しになるからです。 社員に伝える場は、大掛かりなものでなくても構いません。「やってはいけないこと」で書いたとおり、範囲を先に決めたほうが日程は揃います。 伝えたあと、もういちど個別に聞きます。答えが重なっていれば、揃っています。一言一句が同じである必要はありません。同じことを指しているかどうかを見ます。むしろ全員が同じ文を暗記している状態は、自分の言葉になっていない兆候です。 この工程の詳しい進め方は、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方にまとめています。採用や日々の判断にも効く作業なので、ブランディングの予算と切り離して考えたほうが進みます。 決めたあとに時間を置く 図をタップすると、拡大して見られます ここからが、大企業の進め方には入っていない部分です。 大企業の工程は、制作で終わります。方針を固めて、ロゴやサイトを作って、納品する。その先は専任のチームが引き受けます。 中小企業には、その担当がいません。なので、決めた後に何をするかまでを工程に入れます。ここが、時間を置く場所を左から右へ移すという意味です。 やることを順に書きます。 使う場所を決める。見積もりを出すとき、案件を受けるかを決めるとき、採用の合否を決めるとき、制作物の案を選ぶときなど。具体的な場面を挙げて、そこで使うと決めます。「意識する」では使われません。場面が決まっていないものは、思い出す機会がないまま、決めた直後から使われなくなるからです。 見る人を決める。決めるのは担当者の名前だけではありません。いつ見直すか、新しく入った人に誰がどこで渡すか、実態とずれたときに誰が言い出すか。専任を置く必要はありませんが、誰が見るかは決めます。決めないと、誰の担当でもなくなるからです。 理由を残す。残すのは、決めた言葉だけではありません。何を候補にして、なぜそれを選ばなかったのか。選ばなかったほうの記録が効きます。あとから入った人が、状況が変わったときに自分で判断できるからです。 制作物を作るのは、この三つを決めたあとです。順番を逆にすると、作ったものの使い方が誰にも分からないまま納品されます。ガイドラインの扱いはブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書いたとおりです。 工程の全体を並べると、こうなります。 工程 大企業 中小企業 調べる定量調査・競合分析。合意をつくる材料として要る社長と社員に聞く。すでにある判断基準を言葉にする 決める全社で合意形成決める人が決める 作る方針を固めてから制作同じ 続ける専任チームが運用する使う場所と、見る人と、理由を決める 左の流れは制作で終わり、右の流れは続けるところまで入っています。小さくしたものではない、というのはこの意味です。 体制については、参考になる調査があります。2022年版「中小企業白書」第2部第2章第1節では、デザイン経営に既に取り組み定着している企業の体制を調べており、「経営者がデザイン責任者」と回答した企業の割合が、他のどの体制よりも高くなっています(第2-2-13図)。デザイン経営はブランディングと同じものではありませんが、定着している会社では経営者が判断の位置にいる、という形が示されています。 「4要素」と言われているもの ブランディングを検索すると、要素を四つに整理した説明が出てきます。ターゲットを明確にする、選ばれる理由を明確にする、組織に浸透させる、自社の価値を体現する。この形のものです。 ただし、この四つで揃っているわけではありません。別の説明では、デザインの構成要素として四つを挙げています。中身が違います。そして、同じことを三つの要素として説明しているものもあります。 中身以前に、いくつあるかが揃っていません。 どの説明が間違っているという話ではありません。ブランディングという言葉が広い範囲を指すので、どこを切り取るかで数が変わるからです。誰に向けて言うかを切り取れば四つになり、伝え方の側から切り取れば別の四つになります。 要素の整理は、抜けを探す点検には使えます。ただ、当てはめた結果として何をするかは、別に決めることになります。この記事の「決めるまでを短くする」から「決めたあとに時間を置く」までが、そちらです。 外に頼むかどうかの判断 図をタップすると、拡大して見られます 全てを外に頼む必要はありません。頼まないほうが早い部分もあります。 社長の考えを言葉にする工程は、外の人がいたほうが進みます。本人には当たり前になっていることが、聞かれてはじめて言葉になるからです。ここは頼む価値があります。 社員に聞く工程は、社内でもできます。ただ、社内の人が聞くと、答える側が立場を意識します。外の人に聞かれたほうが、素直な答えが出ます。どちらを取るかは、社内の関係によります。 作る工程は、外に頼むことになります。ロゴ、サイト、資料。技術が要るので、内製できる会社は限られるからです。 続ける工程は、社内でやります。外に置くと止まるからです。使う場所と見る人を一緒に設計するところまでは外の人が入れますが、動かすのは社内です。 どの型の会社に頼むかは、ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に書いてあります。決める工程から頼むのか、作る工程だけを頼むのかで、選ぶ相手が変わります。 そして、いま頼まないほうがよい場合があります。事業の方向が変わっている最中、主力商品が入れ替わる時期、資金繰りが詰まっているとき。決めても、決めた前提のほうが先に変わるからです。この判断はパーパス経営とは。「意味がない」と言われる理由と、中小企業での使いどころでも扱っています。時期が合っていないと伝えるのは、引き受けた側の仕事です。受けたほうが売上にはなりますが、止まった案件は実績になりません。 小さいことは、不利ではない ブランディングが進まない原因は、規模ではありません。大企業向けにできた進め方を、そのまま持ち込んでいることです。 大企業の工程は、決めるのが遅いという弱点を埋めるためにできています。中小企業にはその弱点がないので、前半は要りません。代わりに、続ける体制がないという弱点があります。だから後半に時間を置きます。 決めるまでは二週間から一ヶ月。そのあと、使う場所と見る人と理由を決める。この形なら、専任がいなくても続きます。

ブランドブックとは。ガイドラインとの違いと、どちらが要るかの決め方

ブランドブックとは、自社のブランドについて、考え方や大事にしていることをまとめた冊子です。ただ、この言葉が何を指すかは会社によって違います。デザインの決めごとまで含むこともあれば、読み物として作られることもあります。 だから、名前から入っても決まりません。決まるのは目的のほうです。決めごとを守らせたいのか、考え方を読ませたいのか。ここが分かれば、作るものは決まります。分からないまま名前で頼むと、出てくるものが想定と違います。 この記事では、ブランドガイドラインとの違い、自社にどちらが要るのか、そもそも要らない場合までを書きます。 ブランドブックとは何か この言葉を調べると、説明が揃っていません。 社内向けに配る小冊子だと書かれていることがあります。社内と社外の両方に向けたものだ、と書かれていることもあります。デザインの決めごとまで含めた体系的な文書として説明されることもあれば、商品に同梱して届ける読み物として扱われることもあります。 同じ語で、別のものを指しています。 どれかが間違っている、という話ではありません。その会社でそう呼んでいる、というだけです。業界で決まった定義がないので、それぞれの現場で決まった使い方が残っています。 そのため、この語で話を進めると、途中まで噛み合いません。冊子を作る話をしているつもりの人と、決めごとを整理する話をしているつもりの人が、同じ会議に座っていることがあります。分量も、作る期間も、関わる人も変わるので、あとから食い違いが出ます。 私たちは、読ませるためのものとして扱っています。決めごとを守らせるためのものは、別に呼び分けています。ただ、これも私たちの使い方であって、業界の定義ではありません。 だから、この記事の読み方としては、自社での使い方に置き換えてください。確かめるのは、社内でその語が何を指しているかです。 確かめ方は簡単です。すでにその語を使っている資料があるなら、中身を見ます。決めごとが並んでいるならガイドラインに近いもので、読み物として書かれているならブランドブックに近いもの。無いなら、これから決めることになります。 ガイドラインとの違い 図をタップすると、拡大して見られます 呼び分けている会社では、役割が分かれています。 ブランドガイドライン ブランドブック 目的守らせる読ませる 読む人作る人(社内担当・制作者)働く人・関わる人 中身決めごと考え方と、その背景 使われ方参照される通読される 失敗の形守られない読まれない 表の下の二行が、この二つを分けています。 参照されるものは、必要になったときに開きます。ロゴを配置する場面で、余白の決まりを確かめる。全部を読む必要はありません。索引が要るのは、この種類のものです。 通読されるものは、最初から順に読まれます。途中から開いても意味が取れません。順序が要るのは、この種類のものです。 失敗の形も逆になります。ガイドラインは、守られないことで失敗します。制作物を並べれば分かるので、気づけます。ブランドブックは、読まれないことで失敗します。配った数は記録に残るので、届いたように見えます。 ガイドラインの中身と、それが使われなくなる形については、ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書きました。この記事では、そちらを繰り返しません。 そして、呼び分けていない会社もあります。その場合、どちらの語も同じものを指します。一冊のなかに決めごとと考え方が両方入っている、という形です。それで回っているなら、分ける必要はありません。 ただ、一冊にまとめると、片方が弱くなります。決めごとを詳しく書けば分量が増えて、読み物としては重くなる。読み物として整えれば、参照するときに探しにくくなる。求めているものが逆を向いているので、両方を高い水準で満たすことはできません。 では、自社に要るのはどちらなのか。次の章がその話です。 どちらが要るのかを決める 図をタップすると、拡大して見られます どちらが要るかは、名前からは決まりません。決めるのは、その会社がいま困っていることのほうです。 作ったものが揃わない。名刺とサイトと会社案内が、別の会社のものに見える。この場合に要るのは、決めごとのほうです。誰が作っても同じになるように、先に決めて渡します。 社員が自社を説明できない。人によって言うことが違う。この場合に要るのは、読ませるもののほうです。決めごとを渡しても、説明は揃いません。 症状が違うので、作るものも違います。そして、片方を作っても、もう片方は解決しません。だから、頼まれたほうをそのまま作ると外れます。どちらが要るのかを先に判定するのは、引き受ける側の仕事です。 両方が困っている場合もあります。そのときは順番を決めます。同時に作ると、一冊のなかで求めるものが逆を向きます。先に作るのは、いま止まっているほうです。制作物が出続けているなら決めごとが先、人が増えているなら読み物が先になります。渡す相手が分かれている場合も同じで、制作者に渡すものと社員に渡すものが別なら、分けて作ります。 片方から始めても、あとからもう片方に伸ばせます。読み物を先に作った会社が、制作物が増えた段階で決めごとを足す。逆の順もあります。最初に両方をそろえる必要はありません。 そして、どちらも要らない場合があります。 事業が一つで、判断する人が数人で、作るものが月に数点なら、その場で確認するほうが早く済みます。決めごとを文書にする手間より、聞く手間のほうが小さい。この段階で作っても、効きはじめるのは目が届かなくなってからです。作るのが早すぎたというより、まだ使う場面が来ていない、ということになります。 要るようになるのは、目が届かなくなったときです。人が増える、委託先が増える、事業が増える。確かめる相手が増えて、確かめきれなくなったところが境目です。 もう一つ、早すぎる場合があります。何を約束するかが決まっていないと、どちらを作っても中身が入りません。色や書体は決められますが、なぜその色なのかを書けません。読み物のほうも、伝える中身がないまま体裁だけができます。 その場合に先に決めるものは、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書きました。順序としては、そちらが先になります。自社が何から手をつけるかの全体は、ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのかにまとめています。 読ませるものの作り方 図をタップすると、拡大して見られます 読ませるものなので、順序が要ります。 決めごとの一覧とは、設計が違います。一覧は、探しやすさで並べます。項目ごとでも、五十音順でもかまいません。読み物は、読み進められる順で並べます。 順序は、なぜ、何を、どうする、になります。 なぜ、から始めます。この会社が何のためにあるのか。どういう経緯でいまの形になったのか。ここを先に置かないと、続く内容が指示に見えます。 次に、何を。誰に何を約束しているのか。大事にしていること。三つに分けて持っているなら、その言葉を載せます。三つの関係と、ぶつかったときの扱いはMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書きました。 最後に、どうする。日々の判断で、何を選ぶのか。ここは抽象度を下げます。具体的な場面が出てこないと、自分の仕事と接続しません。 そして、載せた言葉には、決めた経緯を添えます。結論だけを並べると、読んだ人には根拠のない指示として届きます。なぜその言葉になったのか、何と何を比べたのか。経緯があると、書いていない場面でも判断できます。 載せないものもあります。規定、禁止事項の一覧、細かい数値。入れると、読み物から参照物に変わります。そして参照物になった時点で、通読されなくなります。 分量の上限は、誰に読ませるかで決まります。次の章で書きます。 書き手についても、決めておくことがあります。社内で書くのか、外に頼むのか。社内で書くと、中の言葉がそのまま出ます。読む人には近い言葉になりますが、内側でしか通じない言い回しが混ざります。外に頼むと整いますが、整えすぎると自分たちの言葉に見えなくなります。 どちらでも成立します。ただ、外に頼む場合でも、材料を出すのは社内です。何を大事にしてきたか、どういう判断をしてきたか。ここを渡さずに書いてもらうと、どこの会社にも当てはまる文が返ってきます。 誰に読ませるのか 相手が決まっていないと、中身が決まりません。 社員に読ませるのか。新しく入る人に渡すのか。取引先に見せるのか。顧客に届けるのか。全員に向けようとすると、誰にも届かない文になります。 新しく入る人に向けると、形が決まりやすくなります。前提を知らない人なので、説明を省けません。省けないぶん、書くべきことがはっきりします。そして、入社のたびに渡す場面があるので、読まれる機会も決まります。 すでにいる社員に向ける場合は、逆になります。前提を知っているので、説明を丁寧に書くと退屈になります。ここで要るのは、知っていることの言語化です。日々やっていることに、名前が付く。そういう読み方になります。 採用の場面で使う場合は、扱いが変わります。読む相手が、まだ社内の人ではありません。何を出して何を出さないかの線引きが要ります。そのあたりは採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番に書きました。 顧客に渡す場合は、社内向けの言葉がそのままでは使えません。社内向けは、判断に使える具体性で書きます。顧客向けは、短く覚えられることが要ります。同じ内容でも、書き方を分けることになります。 相手が決まると、分量も決まります。新しく入る人に渡すなら、入社の説明に収まる長さ。取引先に見せるなら、打ち合わせの合間に目を通せる長さ。読む場面にかけられる時間が、そのまま分量の上限になります。 相手を一つに決めても、他の人が読まないわけではありません。社員向けに作ったものを、取引先が見ることはあります。だから、外に出て困る内容は入れません。ただ、それは書く相手を絞らない理由にはなりません。誰に向けて書いたかがはっきりしているもののほうが、他の人が読んでも伝わります。 作ったのに読まれないとき 図をタップすると、拡大して見られます ブランドブックを作って配った。それでも社員が読んでいない。この状態は起こります。 配り方を工夫しても、そこだけでは変わりません。読まれるかどうかは、配る前に決まっているからです。 読まれない理由は、いくつかに分かれます。 分量が、読む場面に合っていない。前の章で書いた上限を超えると、途中で止まります。一度止まったものは、そのままになります。 順序が付いていない。決めごとの一覧に近い形になっていると、通読する動機がありません。開いて、閉じられます。 自分の仕事と接続しない。抽象度が高いままだと、読んでも次の行動が変わりません。読んだこと自体は覚えていても、判断のときに出てきません。 渡される場面がない。机に置かれているだけ、共有フォルダにあるだけ。渡す場面を決めていないものは、渡されません。 読ませる場面を作らないと、渡すだけでは読まれません。入社の説明に入れる、案件の開始時に読み合わせる、年に一度の場で使う。使う場面が決まっていれば、読まれます。そして、この場面を決めるところまでが、作る側の仕事です。納品で区切れば、読まれるかどうかは発注側の努力の問題になります。 読まれていない状態は、作った側からは見えにくくなります。配ったあとに苦情は来ません。読まれていないことを、誰も報告しないからです。何も起きないことが、順調に見えます。だから、読まれたかどうかは、こちらから確かめに行くしかありません。 確かめる方法は、配った数ではなく、聞くことです。何が書いてあったかを、自分の言葉で言えるか。要約が返ってくるなら読まれています。良かったです、だけが返るなら、開いただけです。 この確認を最初から予定に入れておくと、読まれない形になっていることに早く気づけます。作り直すより、渡し方を変えるほうが早く済むことがあります。 そして、読まれたあとに何が起きるかは、別の作業になります。読んだ内容が判断に出てくるまでには、間があります。そこをどう進めるかはインナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に書きました。 冊子にするかどうか 紙にするか、画面のままにするか。この判断があります。 製本すると、更新できなくなります。刷った時点で固まるので、事業が変わっても直せません。直せないものは、いずれ現実と合わなくなります。 一方で、製本には読ませる力があります。画面のファイルは開かれません。フォルダのどこかにあると分かっていても、開く理由がなければ開きません。紙で手元にあるものとは、そこが違います。 判断の基準は、中身が固まっているかどうかです。固まっていないうちに製本すると、早く合わなくなります。 分けて持つ方法もあります。変わらない部分を冊子にして、変わる部分を別に置く。何のためにあるのか、何を大事にするのか。ここは頻繁には変わりません。事業の説明や、具体的な進め方は変わります。 この判断は、更新できる形にしておくというガイドライン側の原則と、同じところに行き着きます。製本するかどうかではなく、変わるものと変わらないものを分けているかどうかが要点です。 刷る前に、社内で回して読んでもらう方法もあります。読み切れるか、途中で止まるか。止まる箇所が分かれば、刷る前に直せます。 部数も、決める前に使う場面から考えます。全員に配るのか、新しく入る人に渡すのか、来客に見せるのか。場面が決まっていないと、余った分が倉庫に残ります。 名前で決めない 「ブランドブック」が何を指すかは、会社によって違います。だから、名前から入っても決まりません。 決まるのは、目的のほうからです。守らせたいのか、読ませたいのか。作ったものが揃わないのか、人によって説明が違うのか。困っていることが分かれば、作るものは決まります。 そして、どちらも要らない場合があります。目が届いているうちは、その場で確認するほうが早く済みます。 作ると決めたなら、次に決めるのは相手です。誰に読ませるのかが決まると、書く内容も、分量も、渡す場面も決まります。先に決めるのは、中身ではなく相手のほうです。 名前を先に決めると、その名前に合う中身を探すことになります。順番が逆になると、作ったあとに使いどころを探すことになります。 そして、作ったあとに要るのは、渡す場面です。作る作業より、渡し続ける作業のほうが長く続きます。

ブランドポジショニングとは。マップは、決めたあとに描く

ブランドポジショニングとは、自社が誰のどの場面で、何として思い出されるかを決めることです。ポジショニングマップは、それを決めたあとに描くものです。空いている場所を探して埋める道具ではありません。空いている場所には、空いている理由があります。 調べると、マップの描き方が並びます。軸を2本選ぶ。競合を置く。空いているところを探す。そこに自社を置く。手順としては分かりやすく、実際に描けます。 図が要らないという話ではありません。決めたことを見比べるには、図があるほうが早く済みます。順番の話です。 ブランドポジショニングとは何か 図をタップすると、拡大して見られます 市場のなかで自社が立つ場所を選ぶ作業です。決めるのは、相手と場面と、その場面で何として挙がるか。相手を選ぶだけでは足りず、どの場面に入るかまで下ろします。 思い出される、という言い方をしているのには理由があります。決めた位置が効いてくるのは、相手が何かを必要としたときです。そのときに名前が挙がるかどうか。日ごろどう見られているかより、必要になった場面で候補に入るかどうかのほうが、実務では効きます。 順番が入れ替わると、図の上で空いている場所が、そのまま狙う場所になります。図はきれいに埋まりますが、そこを選んだ理由は図の外に残りません。理由を確かめるのは、立つ場所を決めたあとになります。 この記事で書くのは、何を決めることなのかと、決めるために何を見るのか、そして図をどこで使うのかです。 似た言葉との違い 近い言葉がいくつかあります。決めているものが違います。 決めること 基準になるもの ブランドポジショニング誰のどの場面で、何として思い出されるか相手の頭のなか ブランドプロポジションその相手に何を約束するか約束の中身 ターゲティング誰を相手にするか相手の範囲 差別化他社と何が違うか他社 この分け方も、私たちの整理です。まとめて扱う考え方もあります。 分けている理由は、基準にするものが違うからです。差別化は他社を見ます。他社がやっていないことを探す形になるので、他社が動くと基準も動きます。ポジショニングは相手を見ます。相手が何と比べているかが基準なので、他社の動きより先に、相手の比べ方が変わったかどうかを見ます。 この違いは、打ち手にも出ます。差別化から入ると、他社にない要素を足す方向に向かいます。足せば違いは出ますが、相手がそこを見ていなければ、選ばれる理由にはなりません。ポジショニングから入ると、まず相手が何を見ているかを確かめるので、足すかどうかはそのあとになります。 ブランドプロポジションは、ポジショニングを決めたあとに来ます。どの場面で思い出されるかが決まって、その場面で何を保証するのかが約束になります。約束の決め方はブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書いてあるので、そちらを見てください。 ターゲティングとの違いは、決める深さです。ターゲティングは相手を選ぶところまでで、ポジショニングはその相手のどの場面に入るかまで決めます。年齢や業種で切ると相手は決まりますが、場面は決まりません。場面まで下ろすと、自社の仕事と直接つながります。 場面という単位にしておくと、確かめるのも簡単になります。属性は本人に聞いても答えが変わりませんが、場面は具体的な出来事なので、実際にあったかどうかを聞けます。あった場面が集まれば、そこが実在する入口です。 すでにある位置を変えることを、リポジショニングと呼びます。新しく決める場合と手順は同じですが、いまの位置で選んでくれている人がいる点が違います。移した先に人がいるかを確かめる前に動くと、いまいる人だけを失います。 ブランディング全体のなかでの位置づけは、ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのかにまとめてあります。 マップは、決めたあとに描く 図をタップすると、拡大して見られます ポジショニングマップは、決めた結果を確かめる道具です。決めるための道具ではありません。 描いてから決めると、軸に引っ張られます。先に選んだ2本の軸が、答えの候補を決めてしまうからです。価格と品質で描けば、価格と品質の話にしかなりません。その2本が、相手が実際に迷っている軸だとは限りません。 順番を入れ替えると、こうなります。相手が何と比べているかを聞く。比べるときに何を見ているかを聞く。そこで出てきた見方を軸にして、図を描く。図は、聞いた話を並べ直したものになります。 この順番だと、図を描く前に決まっていることがあります。誰の、どの場面か。その場面で相手が何を天秤にかけているか。図はそれを目に見える形にするだけなので、描いても新しい発見は出ません。出ないのが正しい状態です。 逆に、図を描いてから「では、ここが空いていますね」と発見が出るとき、その発見は図の作り方から出ています。軸を変えれば別の場所が空きます。発見に見えるものが、道具の副産物だという状態です。 だから、図を描き始める前に聞くことがあります。何を決めたいのか、いま何が決まっていないのか。そこを聞かずに軸を2本決めて持っていくのは、聞く前に答えを絞ったということです。 会議の場で描くと、これがはっきり出ます。ホワイトボードに軸を引いて、参加者が競合を置いていく。埋まっていない場所が見えたとき、そこに向かう空気が生まれます。図が目の前にあると、図の上で考えることになるためです。 そして、一度描いた図は残ります。資料に入り、次の会議に持ち込まれ、新しく入った人はそれを前提として受け取ります。描いたときの軸の選び方は、資料には残りません。残るのは結論のほうです。 空いている場所が空く理由 図をタップすると、拡大して見られます 図の空白は、機会の印ではありません。空いているのには、理由があります。 理由はいくつかに分かれます。そこに需要がない。需要はあるが、その値段では成立しない。規制や資格で入れない。すでに誰かが試して、続かずに撤退した。どれも、外から見ると同じ空白に見えます。 需要がない場合は、置いても誰も来ません。速くて安いという場所が空いているとして、そこを求める人がいなければ、立っても意味がありません。速さも安さも価値ですが、その組み合わせを探している人が実在するかは別の話です。 成立しないコスト構造の場合は、置けますが続きません。手厚くて安いという位置は、相手にとっては魅力的です。ただ、その組み合わせで利益が出る作り方がないなら、受注が増えるほど苦しくなります。しばらくは仕事が取れるので、問題が見えるのは遅れます。 規制や資格の場合は、そもそも入れません。ここは調べれば分かるので、確かめれば済みます。業種によっては、この確認が先に来ます。 見分けにくいのは、撤退したあとの空白です。少し前まで誰かがいたので、需要があったように見えます。ただ、続かなかった理由は図に残りません。確かめ方は、そこにいた会社がいまどこにいるかを見ることです。別の位置に移っているなら、移った理由があります。なくなっているなら、続かなかったということです。 だから、空白を見つけたら次に見るのは、そこで買っている人がいるかどうかです。いないなら、その人たちはいま何を買っているのかを聞きます。代わりに買っているものがあるなら、需要はそちらにあります。何も買っていないなら、そこに用事がありません。 この確かめは、図の空きを機会として示す側がやります。空いていますね、で終わる提案は、確かめる作業を相手に残しただけです。 調査をやるという話ではありません。相手が数えられる範囲なら、聞けば分かります。既存の取引先に「これがあったら使いますか」と聞く。断られた相手に、いま何を使っているかを聞く。規模が小さいほど、この確かめ方は速く済みます。 軸の選び方で答えが変わる 図をタップすると、拡大して見られます 軸を2本選んだ時点で、答えは半分決まっています。 選びやすいのは、測れる軸です。価格、納期、対応の速さ、品目の数。数字で置けるので、図がきれいに描けます。ただ、きれいに描けることと、相手がそこで迷っていることは別です。 測れる軸に寄るのには、別の事情もあります。説明しやすいからです。社内で図を見せるとき、価格と納期なら誰も異論を挟みません。根拠を問われたときに数字を出せます。説明のしやすさで軸が決まると、相手の見方は図に入ってきません。 相手が迷っている軸は、言葉になっていません。頼んだあとに気を遣わずに済むか。途中で仕様が変わったときに嫌な顔をされないか。担当が変わっても話が通じるか。測りにくいので図にしにくく、そのぶん誰も軸にしていません。だから、ここを軸に取ると図の形が変わります。 こうした軸は、相手の言葉から取ります。選んでくれた理由を聞いたときに出てきた言い回しを、そのまま軸の名前にします。整えると、こちらの言葉に戻ってしまいます。 言い回しをそのまま使うと、図は見た目が整いません。軸の名前が長くなり、対になっていないこともあります。それでも構いません。図は社外に出すものではなく、社内で判断するための道具です。整った図より、実際の言葉が残っている図のほうが、あとで使えます。 同じ会社でも、軸を変えると別の場所に立ちます。価格と納期で描けば真ん中に埋もれる会社が、相談のしやすさと事業理解の深さで描くと端に出ます。どちらの図も間違っていません。見ている面が違うだけです。 図が1枚しか出てこない提案は、軸の選び方を問えません。なぜその2本なのかは、図の外で決まっています。選んだ理由が言えない軸で描いた図は、結論を確かめる道具になりません。 だから、軸は答えではなく問いとして扱います。この2本で見ると、うちはここに立つ。別の2本で見ると、ここに立つ。複数の図を並べたときに、どの図でも同じ場所に立つなら、それは強い位置です。図によって位置が変わるなら、まだ決まっていません。 何を見て決めるか 決めるために見るのは、競合の一覧ではありません。相手が何と比べているかです。 比べている相手は、同業とは限りません。制作を頼むかどうかで迷っている会社が、比べているのは他の制作会社ではなく、社内でやることかもしれません。あるいは、いま何もしないことかもしれません。同業だけを並べた図では、この比較相手が出てきません。 聞く相手は、選んでくれた人と、選ばなかった人の両方です。選んだ理由は聞きやすく、そのぶん当たり障りのない答えが返ります。情報が出てくるのは、断られたほうです。何と比べて、どこで決まったのか。ここは聞きにくいので、聞かないまま終わることがあります。 聞く時期も効いてきます。決まった直後なら、比べた内容を覚えています。時間が経つと、選んだ理由をあとから整理した話になります。受注しても失注しても、決まった直後に一度聞いておくと、そのときの比べ方が残ります。 聞き方は、良かったところを聞くより、何と迷ったかを聞くほうが具体が出ます。「他にどこを見ていましたか」「決め手は何でしたか」。迷った相手の名前が出てきたら、そこが実際の比較相手です。自社が競合だと思っている相手と、違う名前が出ることがあります。 断られた理由を集めにいくのは、発注側の宿題ではありません。引き受けた側が調べにいく範囲です。決めた相手には言いにくいことも、第三者になら言えます。ここは受けた側のほうが向いています。 決まった位置に対して、何を約束しないかまで決める必要があります。ここは範囲が広いので、ブランド戦略とは。マーケティング戦略との違いと、事業戦略との関係に書いてあります。約束することだけを決めて終わらせない、という部分がそこにあたります。 決まっているかの確かめ方 図があるかどうかでは分かりません。図は描けば残りますが、決まっていることの証明にはなりません。 確かめ方は、社内で聞くことです。別々の人に「うちはどの場面で選ばれていますか」と聞きます。答えが揃うなら、決まっています。営業と制作と経営で違う場面が出てくるなら、まだ揃っていません。決めたつもりのことが、社内で共有されていない状態です。 もう一つは、直近の提案で使われたかどうかです。提案の内容を決めるときに、その位置づけが判断に入ったか。入っていないなら、決めた図と、実際の動き方が別々になっています。 見るのは、資料に書いてあるかどうかではありません。書くだけなら、あとから足せます。何かを選ぶ場面で、その位置づけを理由に選択肢を落としたことがあるか。落とした記録があるなら、判断に使われています。 確かめる手立ては、図と一緒に残しておきます。図だけを納めて終わると、あとから当たっているかを見る方法が手元にありません。 位置そのものは、頻繁に変えるものではありません。何として思い出されるかが期ごとに変わると、選んだ側から見て別の会社になります。変えるかどうかではなく、まだ当たっているかを確かめるという形で見ます。 確かめる場面は決めておきます。新しい事業を始めたとき、主力の相手が変わったとき、選ばれ方がこれまでと変わったとき。このうち三つ目は、早い段階で出る合図です。自社が動いていなくても、位置は動きます。 会社全体としてどこから手をつけるかを見直す場合は、企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるかに、作業の分け方を書いています。 図は結論を確かめる道具 ポジショニングマップは、決めたことを目に見える形にするための道具です。 空白から始めると、そこが空いている理由を確かめる前に、立つ場所が決まります。空いている場所には理由があり、需要がない、値段が合わない、入れない、続かなかった、のどれかです。 決めるために見るのは、相手が何と比べているかです。同業の一覧ではなく、相手が実際に天秤にかけたものを聞きます。聞いてから軸を選び、選んでから図を描く。図に新しい発見が出ないなら、順番は合っています。

コーポレートアイデンティティとは。MI・BI・VIと、作れるものと作れないもの

コーポレートアイデンティティとは、会社が何者であるかを、社内と社外の両方に対して一貫した形で示すための体系です。CIと略されます。 ロゴや社名の書体を指す言葉として使われますが、枠組みとしてはその手前まで含みます。含む範囲が広いぶん、「CIを作る」と言ったときに何が作られるのかが、人によって違います。 この記事では、CIが何を指すかをお伝えします。そのうえで、そのうちどこまでが発注して作れるものなのかを書きます。 コーポレートアイデンティティとは何か 図をタップすると、拡大して見られます 対象になるのは、会社が外に出すものすべてです。 名刺、封筒、サイト、看板、制服、車両、資料、社内文書。それぞれが別々に作られると、同じ会社のものに見えなくなります。CIは、それらを同じ会社のものとして見せるための体系を指します。 「体系」という言い方をするのは、個々の制作物ではないからです。ロゴ一点を指す言葉ではありませんし、マニュアル一冊を指す言葉でもありません。個々のものが、同じ考え方から出ていること。それが体系という部分の意味です。 日本では、1980年代から1990年代にかけて、大企業が社名やロゴを刷新する取り組みをCIと呼びました。その印象が残っているため、いまも社名変更やロゴ刷新の同義語として使われることがあります。 ただ、枠組みとして見ると、CIが含む範囲は視覚だけではありません。次の章で扱う三つの要素のうち、視覚はそのひとつです。 もうひとつ、CIは社外向けだけの言葉ではありません。社内に対しても、自社が何者かを示す働きを持ちます。外に見せる顔と、社内で共有している自己像がずれていると、外に出すものだけが整った状態になります。 MI・BI・VIは何を指すか 図をタップすると、拡大して見られます CIを説明するとき、三つの要素に分けた整理が使われます。MI、BI、VIと呼ばれます。 略 呼び方 何を指すか MIマインド・アイデンティティ理念、存在理由、大事にしていること BIビヘイビア・アイデンティティ行動規範、社内の文化、実際の振る舞い VIビジュアル・アイデンティティロゴ、色、書体、写真の扱い これは私たちの分類ではありません。CIを扱う場ではそう説明されており、私たちもその整理を使っています。 MIは、会社が何を大事にしているかです。理念や存在理由がここに入ります。ミッション・ビジョン・バリューを掲げている会社では、それらがMIにあたる部分を担います。それぞれの語が何を指すかはMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に整理してあります。 BIは、実際の振る舞いです。決めた考え方が、日々の仕事にどう出るか。顧客への対応、社内での決め方、断るときの伝え方。書かれた行動規範だけでなく、書かれていない習慣も含みます。 VIは、目に見える部分です。ロゴ、色、書体、写真の選び方、余白の取り方。会社に触れたときに、いちどに伝わるのはここです。 三つを分けている理由は、役割が違うのではなく、決まり方が違うからです。MIは考えて決めるもの、BIは日々の積み重ねで表れるもの、VIは形にして固定するもの。同じ体系のなかで、成り立ち方が別々です。 決まり方が違うということは、変わり方も違うということです。MIは、決めれば変わります。会議で議論して、言葉を置き直せばその日から新しくなります。VIも、作り直せば変わります。公開した日から、外に出るものが入れ替わります。 BIだけが、決めても変わりません。行動規範を書き換えても、翌日から社員の振る舞いが変わるわけではないからです。変わるのは、その規範が判断の場で使われるようになってからです。 この差が、CIの取り組みが途中で止まる理由になります。MIとVIは着手した期のうちに形になりますが、BIは形になったかどうかが分かりにくい。成果として報告しやすいものだけが進み、残りが手つかずになります。 そして、決まり方の違いは、もうひとつ別の違いを生みます。次の章で扱います。 三つのうち、作れるのはどれか 図をタップすると、拡大して見られます 発注して納品されるのは、VIだけです。 ロゴは発注できます。色の指定も、書体の選定も、それらをまとめたマニュアルも発注できます。期日を切って、成果物として受け取れます。作る側から見ても、範囲がはっきりしています。 MIは、発注できません。会社が何を大事にしているかを、外部が決めることはできないからです。私たちがやれるのは、すでに社内にあるものを聞き出して言葉にすることまでです。決めるのは会社の側で、私たちは形にする側です。 BIも、発注できません。行動は、日々の仕事のなかで積み重なるものだからです。行動規範を文章にすることはできますが、文章にした時点では行動が変わっていません。書いたものと実際の振る舞いが揃うまでには、運用の時間が要ります。 ここに、この記事の要があります。 「CIを作りましょう」という提案が、実際にはVIの制作を指している。この形になります。ロゴを作り、色を決め、マニュアルにまとめる。納品されるものだけを並べると、CIはVIと同じ範囲になります。 だから冒頭で書いたとおり、CIはロゴや社名の書体を指す言葉として使われるようになりました。使われ方が間違っているのではなく、発注できる部分だけが目に見えて残った結果です。 そして、そのVIが機能するかどうかは、発注できない二つのほうで決まります。理念が定まっていない会社のロゴは、何を表しているのかを説明できません。色を選ぶ場面で根拠がないので、決め手は好みになります。決めたあとに「なぜこの色か」と聞かれても、答えが出てきません。 行動が伴っていない会社の見た目は、触れた人に見抜かれます。整った資料を受け取ったあとの対応が雑なら、資料のほうが嘘だったことになります。見た目を整えるほど、その差は目立ちます。 つまり、VIへの投資は、残る二つが揃っている前提で効きます。揃っていない状態でVIだけを良くすると、食い違いが見えやすくなる方向に働きます。 なお、何が納品されて何が納品されないかを最初に示すのは、引き受けた側の仕事です。「CIをお願いします」という相談に対して、VIの見積もりだけを出して着手すれば、残る二つは誰も担当しないまま進みます。 似た言葉との違い CIの周りには、近い言葉がいくつもあります。 語 何を指すか CI会社が何者かを、一貫した形で示す体系 リブランディングすでにあるブランドを、事業の現在地に合わせて作り直すこと ブランディング選ばれる状態をつくっていく活動の全体 コーポレートステートメント会社の姿勢を短い文にしたもの タグラインその約束を短い言葉にしたもの コーポレートステートメントは、会社が何を大事にしているかを一文か数文で表したものです。サイトのトップや会社案内の冒頭に置かれます。MIを外向きの言葉にしたもの、と考えると位置がはっきりします。タグラインとの違いは、向いている先です。ステートメントは会社そのものを語り、タグラインは商品やサービスの約束を語ります。 CIとリブランディングの関係は、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの1章に書いたとおりです。CIは視覚的な識別体系を指して使われ、リブランディングはその手前の考え方まで含む。その差が生まれる理由が、前章で書いた「発注できるのはVIだけ」です。 ブランディングとの関係も、範囲の話になります。ブランディングは選ばれる状態をつくる活動の全体で、CIはそのうち「何者かを一貫して示す」部分を担います。CIが整っていても、選ばれる理由そのものが弱ければ売れません。逆に、選ばれる理由があってもCIが揃っていなければ、その理由が伝わるまでに時間がかかります。 呼び方そのものに正解はありません。会社によって指す範囲が違うので、相談の場では先に確かめたほうが早く進みます。「CIをやりたい」という言葉が、ロゴの刷新を指しているのか、理念から立て直す話なのか。同じ言葉で、見積もりが別のものになります。 CIとロゴの関係 図をタップすると、拡大して見られます ロゴはVIの一部であって、VIそのものではありません。 VIに含まれるのは、ロゴ、色、書体、写真の選び方、レイアウトの決まり、余白の取り方です。ロゴだけを新しくしても、残りが前のままなら、見た目の印象は変わりません。名刺の書体が違い、サイトの色が違い、資料のレイアウトが揃っていない。その状態でロゴだけを差し替えても、同じ会社のものには見えてきません。 逆に、ロゴを変えずにVIを整えることもできます。色の使い方を決め、書体を揃え、写真の撮り方に方針を持つ。ロゴは同じでも、揃えるだけで印象は変わります。費用のかかり方も、この二つでは違います。 ロゴの相談として来た依頼が、実際にはVI全体の話であることがあります。「ロゴが古い」という言葉の中身が、名刺やサイトを含めた見た目全体への違和感であることは、実務で起きます。 見分け方はあります。ロゴを隠して、名刺やサイトを見てもらう。それでも古く感じるなら、原因はロゴの外にあります。ロゴだけを新しくしても、感じ方は変わりません。 順番としても、VI全体を先に決めるほうが進みます。ロゴを先に確定させると、そのロゴに合う色や書体を探すことになり、選べる範囲が狭まります。どういう見え方にするかを決めてから、それを担うロゴを作るほうが、選択肢が広く残ります。 決めたVIを保つには、使い方の決まりが要ります。誰がどこで使うか、迷ったとき誰に聞くか。この運用の話はブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書いてあります。作って終わりにすると、時間とともに元に戻ります。 なお、ロゴの相談を受けたときに、どこまでを対象にするかを聞くのは引き受けた側の仕事です。ロゴだけを作って納めれば、揃っていない状態は残ったままになります。 揃っているかを見分ける CIが機能しているかは、三つの層のあいだを見ると分かります。層ごとに見るのではなく、層と層が食い違っていないかを見ます。 食い違い 表れ方 MIとVI掲げている理念と、見た目の印象が合わない MIとBI理念に書いてあることと、社員の行動が合わない BIとVI実際の仕事の質と、見た目の格が合わない MIとVIの食い違いは、外から見えます。堅実さを掲げている会社の見た目が派手だったり、新しさを掲げている会社の資料が古い作りだったり。掲げた言葉と見た目のどちらかが、実態から離れています。 MIとBIの食い違いは、社内にいる人に見えます。理念に「顧客第一」とあるのに、社内の判断では期日が優先される。この状態が続くと、理念のほうが実態のない言葉として扱われるようになります。社内で言葉が揃っていない場合の進め方はインナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方にまとめてあります。 BIとVIの食い違いは、取引した相手に見えます。見た目は整っているのに、実際の仕事の進め方が雑だった。あるいはその逆で、仕事の質は高いのに資料が素人くさい。前者は失望として、後者は機会損失として表れます。 三つとも、新しく調べる必要はありません。すでに起きたことを並べて、食い違いがあるかを見るだけです。取引先から言われたこと、社員が口にすること、資料を見た人の反応。材料は手元にあります。 見るときの順番は、外から内へです。まず取引先や候補者に見えている食い違いを拾い、そこから社内の食い違いに遡ります。社内から見ると、慣れているぶん食い違いに気づきにくくなります。 そして、食い違いが見つかったときに直す先は、見た目とは限りません。理念と行動が合っていないなら、直すのは行動か、理念のどちらかです。見た目を直しても、食い違いの組み合わせが変わるだけです。どちらが実態に近いかを決めてから、もう一方を寄せます。 なお、食い違いを見つけて伝えるのは、引き受けた側の役割でもあります。VIの制作だけを頼まれていても、MIとの食い違いが見えているなら、そのまま形にするのは仕事の範囲を狭く取りすぎています。 どこから手をつけるか 入口は二つあります。VIから入るか、MIから入るかです。 VIから入るのは、見た目に困っている場合です。名刺が古い、サイトが会社の実態と合っていない、資料がばらばら。困りごとがはっきりしているので、着手しやすく、結果も目に見えます。 ただし、VIから入っても、途中でMIを確かめる工程が入ります。ロゴを作るには、何を表すかが要るからです。理念が決まっていなければ、そこで一度止まります。止まること自体は問題ではありません。止まったときに、決めずに見た目の好みで進めると、あとで説明できないものが残ります。 MIから入るのは、社内で言葉が揃っていない場合です。人によって会社の説明が違う、判断の基準が共有されていない。この状態でVIを作っても、何を表せばよいかが決まりません。 判断の目安は、「うちは何を大事にしている会社ですか」を社員何人かに個別に聞いて、答えが揃うかどうかです。揃っていればVIから入れます。揃っていなければ、MIが先です。 BIは、この二つのどちらから入っても、あとから付いてくる部分です。決めた考え方が日々の判断に使われるようになって、はじめて行動が変わります。先にBIだけを整えることはできません。 どちらから入るにしても、着手の前に決めておくと進みが変わることがあります。今回どこまでをやるか、です。三つ全部を一度に扱うと、期間が長くなり、途中で判断する人が入れ替わります。VIだけ、あるいはMIとVIだけ、と範囲を決めて始めるほうが、決めきれます。 範囲を決めるときは、やらない部分をどう扱うかも一緒に決めます。BIに手をつけないなら、いま行動がどうなっているかは前提として置くことになります。前提が崩れていれば、作ったVIは実態と合いません。やらないと決めることと、見ないと決めることは違います。 なお、VIの相談として受けたときに、MIが決まっているかを確かめるのは引き受けた側の仕事です。確かめずに着手すれば、途中で止まる工程が見積もりに入っていないことになります。 作るのではなく、揃える CIは、作る対象の名前ではありません。会社が何者かが、社内と社外で揃っている状態を指します。 三つの要素のうち、発注して作れるのはVIだけです。MIは会社が決めるもの、BIは日々の積み重ねで表れるもの。その二つが定まっていないまま見た目だけを整えると、揃っていないことが分かりやすくなるだけです。 だから、確かめるのは制作物の出来ではありません。掲げていることと、やっていることと、見せているものが、互いに食い違っていないかです。 食い違いは、外にいる人のほうが先に気づきます。取引先、候補者、辞めた社員。手元にある材料から遡れば、いま揃っているかどうかは確かめられます。作り直すかどうかは、そのあとの判断です。

ブランドイメージとは。動かせる範囲と、ずれに気づく方法

ブランドイメージとは、その会社や商品に対して、相手が持っている印象のことです。自社の資料の中ではなく、受け取った人の記憶の中にあります。そのため、直接は書き換えられません。自社が決められるのは、何を約束するかまでです。 この記事では、では何を動かせるのかを書きます。向上させることはできます。ただ、手を入れられる場所が決まっていて、そこを外すと、変えたのに印象が動かないという状態になります。 ブランドイメージとは何か 言い換えを探すと、この語がどこにあるものかが見えてきます。 評判、印象、世間の見方、認識。辞書や検索で出てくるのは、この種類の言葉です。 どれも、相手の中にあるものを指しています。自社が作るものを指す言い換えは出てきません。ロゴやスローガンは自社の中にありますが、それらの言い換えとして「ブランドイメージ」が使われることはありません。 ここが、この語の扱いにくいところです。会社の資料に書けるものではありません。書けるのは、こう思われたい、という希望のほうです。実際にどう思われているかは、聞いてみないと分かりません。 私たちは、相手の側にあるものとして扱っています。業界で決まった線引きがあるわけではありませんが、こう置くと打ち手が決まります。手を入れられるのは自社の側にあるものだけなので、何を動かすかがはっきりします。 もう一つ。イメージは、一人ひとり違います。同じ会社に対して、取引先が持っている印象と、応募者が持っている印象と、辞めた人が持っている印象は、別のものです。一つに揃うことはありません。 「ブランドイメージが良い会社」という言い方も、誰にとって良いのかで中身が変わります。買う人にとって良いことと、働く人にとって良いことは、同じとは限りません。 コンセプトとの違い 図をタップすると、拡大して見られます 自社の中にあるものと、相手の中にあるもの。この二つを分けると、打ち手が決まります。 ブランドコンセプト ブランドイメージ どこにあるか自社の中相手の中 決められるか決められる決められない 変え方書き直せる直接は変えられない 見え方意図したもの受け取られた結果 ブランドコンセプトは、誰に何を約束するかを決めたものです。自社で書けますし、書き直せます。ブランドイメージは、その約束が相手にどう受け取られたかの結果です。 この二つがずれること自体は、失敗ではありません。伝わり方には幅があるので、意図と結果が完全に重なることはありません。ずれているかどうかではなく、ずれの向きと大きさを知っているかどうかが問題になります。 ずれが出る理由は、受け取り方の側にあります。相手は、自社が用意した説明を全部読むわけではありません。サイトの一部、担当者の一言、見積書の書式。断片で判断されます。そろえた材料のうち、どれが目に入るかは選べません。 順番としては、コンセプトが先です。約束が決まっていない状態で印象だけを気にすると、何に近づけるのかが決まりません。良い印象を持たれたい、という目標は、打ち手に落ちないためです。 そして、コンセプトを決めていない会社にも、印象は付きます。決めていないから付かない、ということはありません。決めていない場合は、付いた印象を後から説明することになります。先に決めておけば、少なくとも何と比べてずれているのかが分かります。 コンセプトの作り方と、それが機能しているかの見分け方は、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書きました。 ここから先は、決めた約束が、どこを通って相手に届くかの話になります。 イメージはどこでつくられるか 図をタップすると、拡大して見られます 広告や制作物だけで作られるわけではありません。 相手が会社に触れる場面を並べると、こうなります。問い合わせの返信、見積書の書き方、電話の応対、打ち合わせでの受け答え、納品後の連絡、断るときの伝え方。 広告は、見られる回数が限られています。一方で返信は、やり取りのたびに発生します。印象を作っている量で言えば、後者のほうが大きい場合があります。 そして、こうした場面は設計されていないことがあります。誰かが決めた対応ではなく、担当者がその場で判断したものが積み上がります。返信が遅ければ、遅い会社という印象が付く。誰も「遅い会社に見せよう」と決めていなくても、そう付きます。 意図していないものが入るのは、ここです。 売り場やパッケージは、少し性質が違います。説明のない状態で判断される接点だからです。手に取る前に、棚の前で数秒のうちに決まります。そこで何が起きるかは、パッケージを変えたら売れなくなる。その手前で、何が起きているのかに書きました。 接点には、会社が管理しているものと、していないものがあります。サイトや会社案内は管理できます。社員一人ひとりの受け答えは、管理というより、判断の基準が共有されているかどうかの問題になります。 接点のなかで、断るときの伝え方は見落とされます。受注しなかった相手なので、そのあとの関係が無いように見えるからです。ただ、断られた側は、その経験を人に話します。受けた仕事の話より、断られた話のほうが口に出やすい。発生する回数は少ないのに、外に広がりやすい場所です。 もう一つ、時間の要素があります。印象は、一度の接触では付きません。同じことが何回か起きて、そこから形になります。だから、一度良い体験があっても、次が違えば戻ります。逆に、一度の失敗で決まってしまうわけでもありません。 この性質があるので、接点を直しても、印象が動くまでには間があります。直した週に聞いても、何も出ません。 提案の範囲が広告と制作物に寄るのは、受注側の都合でもあります。日々の接点は納品物にならないので、提案から外れます。ただ、印象を動かしている量で言えば、外した側のほうが大きいことがあります。私たちも、提案書に書けるものから書いてしまうところがあります。 「向上させる」と考えると外れる 向上させることはできます。ただ、手を入れられる場所が決まっています。 動かせるのは、相手が触れる場所のほうです。イメージそのものには、手が入りません。 ここを混ぜると、打ち手が見せ方に寄ります。ロゴを変える、写真を替える、言い回しを整える。どれも接点の一部なので、無駄ではありません。ただ、見せ方を変えても、接点で起きていることが同じなら、印象は動きません。 返信が遅い会社が、サイトを作り直しても、返信は速くなりません。取引した人の中には、作り直す前と同じ印象が残ります。 この言葉には、ねじれがあります。定義としては、相手の中にあるものとされます。ところが打ち手の話になると、自社が作るものとして扱われます。定義と打ち手が、別の場所を指しています。 私たちも同じことをしています。提案書に「ブランドイメージの向上」と書くとき、何をどうしたら向上したことになるのかを、決めずに書いていることがあります。相手の中にあるものを目標に置いているので、達成したかどうかを判定できません。 もう一つ、向上という言い方には方向が入っています。良い方向に動かす、という前提です。ただ、印象が良いかどうかは、誰から見てかで変わります。取引先にとって頼みやすい会社であることと、応募者にとって働きたい会社であることは、同じ打ち手にならないことがあります。どちらも上げようとすると、言うことが増えます。増えた分だけ、受け取る側から見ると輪郭がぼやけます。 「ブランドイメージを作ります」と言って引き受けるなら、作れないものを作ると言っていることになります。作れるのは、コンセプトと接点までです。そこを分けずに受けるのは、引き受けた側の問題です。 数値目標を置く場合にも、同じ問題が出ます。認知度や好意度を調査して、その数字を目標にする。数字は動かせますが、動かしているのは調査に答えた人の回答であって、印象そのものとは限りません。調査のための施策が組まれ、数字は上がり、取引の場面では何も変わっていない、ということが起きます。 見る対象を数字に置き換えた時点で、置き換わったものが本当に同じかどうかを確かめる必要があります。 向上を目標に置くなら、何を見て判定するかを先に決める必要があります。次の章がその話です。 ずれに気づく方法 図をタップすると、拡大して見られます 数値にしません。聞きます。 測る方法はありますし、規模のある会社なら成立します。ただ、聞ける相手が数十人という規模なら、聞いたほうが早く、中身も濃くなります。 問題は、誰に聞くかです。 契約が続いている相手は、いいことを言ってくれます。関係が続いているので、わざわざ言いにくいことを言う理由がありません。ここで聞いても、ずれは出てきません。 出てくるのは、離れた側です。失注した相手、断った相手、辞めた人、取引を始めたばかりの相手。聞きにくい相手でもあります。 聞くことは一つで足ります。うちを人に説明するとき、何と言いますか。 説明を求めると、その人の中にある形が出てきます。良いか悪いかを聞くと、点数が返ってきますが、中身が出ません。 聞き方にも注意が要ります。誘導すると、誘導したとおりに返ってきます。「うちは丁寧だと思いますか」と聞けば、丁寧だと返ってきます。聞いている側が望んでいる答えが見えるからです。 だから、こちらから形容詞を出しません。相手の言葉で説明してもらい、そこに出てきた語を拾う。出てこなかった語のほうが、情報として重いこともあります。丁寧さを大事にしてきた会社で、誰も丁寧という言葉を使わないなら、そこにずれがあります。 聞く時期もあります。取引が終わった直後は、良い記憶も悪い記憶も濃く残っています。しばらく経ってから聞くと、残っているものだけが出てきます。どちらも要ります。直後の記憶は直す材料になり、時間が経ったあとに残っているもののほうが、印象に近いからです。 そして、社内でも同じことを聞きます。社員によって説明が違うなら、接点ごとに違うものが伝わっています。この状態をどう扱うかは、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に書きました。 聞いた結果が発注側に都合の悪いものだったときに、そのまま渡せるかどうかです。都合のいい部分だけを報告するなら、聞かなかったのと同じになります。ここは、引き受けた側の姿勢の問題です。 ずれていたら、どちらを直すか 図をタップすると、拡大して見られます ずれが見つかったとき、直す先は自社の側にあります。相手の中は直せないので、そうなります。 自社の側は、コンセプトと接点に分かれます。どちらを直すかで、作業が変わります。 約束していることが、実態と合っていない。この場合はコンセプトのほうを直します。守れていない約束を掲げ続けると、接点で毎回ずれが出ます。 約束は実態と合っているが、接点で別のものが伝わっている。この場合は接点を直します。言っていることは正しいのに、受け取られ方が違うなら、通り道のどこかで変わっています。 見分け方は、社内に聞くことです。その約束を守れているかを、現場に聞く。守れていないと返ってくるなら、約束のほうが実態から外れています。守れているのに外に伝わっていないなら、接点の側です。 両方を同時に直すこともできますが、順番を決めておかないと、どちらが効いたのか分からなくなります。 接点を直す場合、どこから手をつけるかは、発生する回数で決めます。年に一度しか出さない資料と、毎週発生している返信では、届いている量が違います。見た目に手を入れやすいのは前者ですが、効くのは後者です。 もう一つ、言葉では直らない接点があります。返信が遅いという印象は、書き方を変えても直りません。遅いのは体制の問題なので、体制を変えないかぎり同じことが起きます。 接点を直すという作業には、見せ方を直すものと、実態を直すものが混ざっています。見せ方だけで済む部分と、事業のやり方に手を入れないと動かない部分。ここを分けておかないと、直したのに変わらない、という結果になります。 そして、コンセプトから作り直す判断になる場合があります。事業が変わった、扱うものが変わった、客層が変わった。そのときの進め方はリブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングにまとめました。 直す前に、いま何が伝わっているかを持っておく必要があります。それがないまま作り直すと、直ったのかどうかが分かりません。 内側からは、古く見える イメージが付いているということは、変えると失われるものがあるということです。 長く使ってきた要素ほど、内側の人間には古びて見えます。毎日見ているので、そうなります。外から見れば、それは古さではなく、その会社を見分ける手がかりになっていることがあります。 この錯覚が、作り直しの入口になります。内側の飽きなのか、外からの要請なのかを切り分けないまま、変える判断が進みます。そこで何が起きるかは、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないに事例を引いて書きました。 ここでは、イメージの側から書きます。 付いている印象は、資産にも制約にもなります。手がかりとして働いているなら資産で、実態と合わなくなっているなら制約です。同じものが、どちらにもなります。 見分けるには、その要素が相手にとって何の役に立っているかを聞くしかありません。内側から見ても分かりません。古く見えるかどうかは、内側の人しか感じていない可能性があります。 手がかりになるのは、デザインだけではありません。名前、色の使い方、決まった言い回し、いつも出てくる担当者。相手の側では、それらがまとめて一つの目印になっています。どれを変えても影響が出る可能性があるので、変える範囲を決めるときは、外から見た手がかりを先に並べておくほうが安全です。 変えないという判断も選べます。実態と合っていて、手がかりとしても働いているなら、変える理由がありません。作り直す前に、変えないほうがいい部分を先に決めておくと、失うものが減ります。 決められるのは、約束するところまで ブランドイメージは、決めるものではありません。約束したことが、接点を通って相手に届き、その結果として残ったものです。 自社が持てるのは、何を約束するかと、どの接点でそれを見せるかまでです。その先は、受け取る側の仕事になります。だから、思ったとおりに伝わらないことがあります。ずれること自体は避けられません。 できるのは、ずれの向きを知っておくことと、直す先を自社の側で決めることです。相手の中を直そうとすると、打ち手が見つかりません。自社の側に戻すと、動かせるものが見えてきます。 そして、動かした結果が出るまでには間があります。接点を直した週に聞いても、前の印象が返ってきます。何度か触れたあとに、少しずつ入れ替わる。そういう速さのものだと思っておくと、途中でやめずに済みます。

理念浸透とは。「浸透しない」の中身を分けて、打ち手を決める

理念浸透とは何か 理念浸透とは、理念が文書として存在するだけでなく、社員が日々の判断のなかで実際に使える状態になっていることです。掲げてあるかどうかではなく、迷ったときに引き合いに出されるかどうかで見ます。そして「浸透しない」と言われる状態には、いくつか違うものが混ざっています。どれなのかで、打つ手が変わります。 ビジネスの場で「浸透」と言うとき、指しているのは知っている人の数ではありません。知っていて、かつ使われている状態です。全員が暗唱できても、判断の場面で一度も出てこないなら、浸透しているとは言いにくくなります。「理解浸透」という言い方で調べる方もいますが、指しているところは同じです。 すでに何かを試したうえで、この記事にたどり着いた方が多いと思います。社内報に載せた、朝礼で読み上げた、カードを配った、研修を組んだ。どれも間違った打ち手ではありません。効く状態と、効かない状態があるだけです。 うまくいかないとき、次の一手として出てきやすいのは、同じ打ち手を強めることです。回数を増やす、対象を広げる、別の形で配る。それで動く場合もありますが、動かない場合もあります。違いは打ち手の強さではなく、社内で起きていることのほうにあります。 この記事では、金額を書きません。他社の名前も、事例も出しません。書くのは、「浸透しない」と言っているときに社内で何が起きているのかと、それぞれで打ち手がどう変わるかです。 「浸透しない」は1つではない 「理念が浸透しない」という一言のなかに、別々の状態が混ざっています。 分け方は、業界に定まったものがあるわけではありません。私たちは、こう分けて考えています。手を打つときに、やることがまったく変わる単位で切っています。 状態 社内で起きていること 伝える量を増やすと 1言葉が届いていない効きます 2言えるが、自分の仕事と結びつかない一部だけ効きます 3意味は分かるが、使う場面がない効きません 4理念と、実際の指示や評価が食い違う逆に働きます 5理念の中身が、いまの事業と合っていない効きません 理念浸透について書かれているものを読むと、打ち手は似ています。伝える機会を増やす、具体的な行動に落とす、表彰の場を作る、研修で話し合う。どれも状態1と2に効く打ち手です。 問題は、3から先です。同じ打ち手を続けても状態が変わらないとき、原因は打ち手の弱さではなく、当てている場所のほうにあります。そして4は、続けるほど悪くなります。ここだけは、止めるほうが早く直ります。 社内で複数の状態が混ざることもあります。部署によって違う、という形がよくあります。事業所が分かれていれば状態1のところと状態3のところが同時にあり、全社一律の打ち手を打つと片方にしか効きません。混ざっている前提で、どこがどれかを見るほうが早く進みます。 もっとも、どの状態なのかを依頼する側が仕分けるものではありません。「理念が浸透しなくて」と相談を受けたときに、それがどれなのかを聞き分けるのが、相談を受けた側の仕事です。聞かずに施策の話から始めるなら、当たるかどうかは運になります。 どの状態かを見分ける 図をタップすると、拡大して見られます 見分けるのに調査は要りません。社員に聞けば分かります。聞き方だけ決めておきます。 言葉が届いていない 理念そのものを知らない状態です。入社時に一度見たきり、という人がいる。中途で入った人に伝える機会がない。事業所が分かれていて、片方だけ話が届いていない。 見分け方は単純で、言えるかどうかです。一言一句でなくて構いません。何を大事にしている会社かを、自分の言葉で言えるかを聞きます。言えないなら、この状態です。 この状態なら、伝える回数と場を増やすことが効きます。5つのうち、打ち手が素直に効く場所です。ここで止まっている会社は、実は少なくありません。決めたところで力を使い切って、伝えるところに手が回らなかった、という形です。 言えるが、結びつかない 言葉は言えます。ただ、自分の仕事とつながっていません。 ここと次の状態は、当事者にはどちらも「ピンとこない」として体験されます。外から見ても区別がつきにくいので、聞き方を分けます。 こう聞きます。「直近で、この言葉が当てはまると思った場面はありますか」 出てこないなら、この状態です。挙げようとすると一般論になるのも同じ兆候です。「お客様のためにという意味では、全部そうですね」と返ってくるとき、言葉は覚えられていますが、具体的な仕事と接続していません。 接続していない言葉は、暗記の対象になります。原文どおりには言えても、少し違う場面では使えません。ここに要るのは、言葉の側を具体に落とす作業です。どの場面で何をすることなのかを、仕事の単位で書き出す。営業なら見積もりを出すとき、制作なら案を選ぶとき、といった粒度まで下ろします。行動の指針として整理する形になります(ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのか)。 分かるが、使う場面がない 同じ質問をして、場面が出てくるなら、この状態です。「あのとき、これに当てはまると思いました」と具体的に言える。 続けてもう一つ聞きます。「そのとき、それで何か変わりましたか」 ここで答えが止まります。思っただけで、口に出す場がなかった。出したが、話が先に進んだ。決めるときの基準は別にあった。納期、上司の指示、数字。 言葉と仕事は結びついています。結びついた先に、使う回路がないだけです。この状態で伝える量を増やしても、増えるのは知っている量で、使われる量ではありません。 要るのは、決める場に持ち込む形です。判断の場面で誰かが引き合いに出す、会議で選択肢を比べるときの軸に入れる、といった置き方になります。仕組みとしては小さいもので足ります。案を比べる資料に一行入れておく、迷ったときに立ち返る順番を決めておく。大がかりな制度にすると、運用のほうが目的になります。 指示や評価と食い違う 言葉は知られていて、意味も分かっていて、使いたい場面もある。ただ、実際に評価されることが別を向いています。 理念には長く付き合うと書いてあるのに、評価は今期の数字だけで決まる。丁寧にやると書いてあるのに、指示は締め切り優先で来る。この状態では、社員は使わないことを学びます。使うと損をするためです。 見分け方は、理念と評価のどちらを取るか迷った場面があるかを聞くことです。あるなら、この状態が混ざっています。答えにくい質問なので、上司が同席していない場で聞くほうが実際のところが出ます。 ここは5章で扱います。伝える量を増やすと、状態が悪くなる唯一の場所です。 中身が、いまと合っていない 理念が作られた時期と、いまの事業が違っている状態です。扱う商品が変わった、相手が変わった、会社を分けた。言葉はそのまま残っています。 見分け方は、その言葉で、いまの主力事業を説明できるかどうかです。説明が苦しいなら、浸透していないのではなく、合っていません。若い社員ほど早く気づきます。当時の事情を知らないぶん、書いてあることと目の前の仕事を、そのまま見比べるためです。 ここも、伝える量では動きません。6章で扱います。 配って解決するのは、どこまでか 図をタップすると、拡大して見られます 伝える打ち手が効くのは、状態1と2までです。ここに線があります。 状態1は、知られていないだけなので、伝える機会を増やせば埋まります。状態2は、言葉を具体に落とす作業が要りますが、伝え方を変えることで届く範囲にあります。どの場面で何をすることなのかを書き足せば、接続が生まれます。 状態3から先は、伝える量の問題ではありません。受け取る側はすでに受け取っています。使う回路がない、使うと損をする、そもそも中身が合っていない。どれも、送る量を増やして届く場所にありません。 ここを混ぜたまま打ち手を選ぶと、効かない施策を続けることになります。しかも、施策を実施したかどうかは記録に残るので、進んでいるように見えます。社内報を何回出した、研修を何回やった。実施の記録は積み上がりますが、状態は動きません。 そして、記録が積み上がると、止めにくくなります。去年もやったことを今年やめると、後退したように見えるためです。効いていない打ち手ほど、続ける理由が説明しやすくなります。 社内に向けた取り組み全体の進め方は、別の記事に書いています(インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方)。そこで書いたのは、着手する前にどう組み立てるかです。この記事は、すでに何かを打ったあとで、どこが詰まっているかを見る話になります。 なお、どこまでが伝える打ち手で届く範囲なのかは、依頼する側が調べることではありません。始める前に線を引いて示すのが、引き受けた側の仕事です。線を引かずに施策だけを並べると、効かなかったときに、量が足りなかったという話になります。 施策を増やすと悪くなるとき 図をタップすると、拡大して見られます 状態4のときだけ、打ち手を足すと状態が悪くなります。 言っていることと、やっていることが違う。その状態で唱和を増やす、掲示を増やす、研修を増やす。すると何が起きるか。社員は言葉を疑うのではなく、言葉を掲げている側を疑うようになります。 理念そのものは、正しいことが書かれているのが普通です。だから、掲げられたときに反対する人はいません。ただ、そのあとの指示や評価が別を向いていると、言葉が守られていないことのほうが目立ちます。触れる回数が増えるほど、食い違いに気づく回数も増えます。 しかも、この状態は本人たちからは見えにくいものです。理念を決めた側は決めた場面を覚えていて、そのとおりに動いているつもりでいます。指示を出す側は、目の前の期限や数字に対応しているだけです。食い違いが見えるのは、両方を同時に受け取る立場、つまり現場の社員だけになります。 そして、一度そうなった言葉は、次に何かを掲げるときにも効いてきます。新しい取り組みが始まったときに、また同じだろうと受け取られる。打ち手が効かなくなるだけでなく、次の打ち手も効きにくくなります。 これは、誰かが手を抜いているから起きるものではありません。理念を決める場と、評価や指示を決める場が、別々に動いているだけです。別々に動けば、食い違いは自然に出ます。そろえる作業を誰もやっていない、という状態が近いと思います。 だから直す先は、伝え方ではありません。評価の項目と、日々出ている指示のほうです。理念に書いてあることが、評価される項目のどこにも入っていないなら、そこを入れる。指示が別を向いているなら、指示の出し方を見直す。手間はかかりますが、施策を増やすより効きます。 そして、施策では直らないと分かった時点で、そう言うのが引き受けた側の仕事です。伝える打ち手は依頼として分かりやすく、続けるほど請求も立ちます。止めましょうと言えるかどうかが、この状態では分かれ目になります。 理念の中身が合っていないとき 図をタップすると、拡大して見られます 状態5は、浸透の話ではありません。中身の話です。 作られた時期には合っていた言葉が、いまの事業と離れていることがあります。創業のときの商売を前提に書かれている、当時の主力顧客に向いている、扱っていない領域の言葉が入っている。言葉は変わらないのに、会社のほうが動いたという形です。 この状態で伝える量を増やすと、社員は言葉と現実のあいだで説明を作ることになります。無理に接続させた説明は、人によって違うものになります。説明が人によって割れるのは、伝わっていないからではなく、接続の作り方が各自に任されているからです。 見分けたあとの判断は、作り直すか、いまのものを使える形にするかです。どちらが正しいという話ではありません。創業からの言葉に価値があって、解釈を足すだけで足りることもあります。事業が変わりきっていて、書き直すほうが早いこともあります。判断の材料は別の記事に書いています(企業理念とは。経営理念との違いと、作り直すときの判断)。 言葉の階層を整理し直す場合は、そのあとの決め方もあります(MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方)。 なお、これを浸透の相談として受けたまま進めるのは違います。中身の話だと分かった時点で、そう伝えるのが引き受けた側の仕事です。浸透の施策として引き受けるほうが、話は早く進みます。ただ、効かないと分かっているものを引き受けたことになります。 効いたと判断する材料 図をタップすると、拡大して見られます 打ち手が当たっていたかどうかは、実施した回数では分かりません。 見るのは、判断の場面でその言葉が出てくるかどうかです。会議で選択肢を比べるときに引き合いに出される。迷ったときに、誰かがその言葉を持ち出す。新しく入った人に説明するときに使われる。使われた場面が増えているなら、当たっています。 言えるかどうかも見ますが、それだけでは足りません。言える人が増えて、使われる場面が増えていないなら、状態2か3のまま止まっています。そのときは、打ち手を足すのではなく、当てている場所を見直します。 確かめる間隔も決めておきます。打ち手を打った直後は、覚えている人が増えるので、動いたように見えます。時間を置いてから同じ質問をすると、残っているかどうかが分かります。 数値の目標は置きません。何割が言えるようになったかを測っても、状態3や4は動いていないことがあります。測れる数字と、変えたい状態が一致していないためです。 そして、何を見れば効いたと分かるのかは、始めてから考えることではありません。打ち手を決めるときに一緒に示すのが、引き受けた側の仕事です。先に決めていないと、実施した回数が成果として報告されます。 詰まっている場所から始める 「浸透しない」は、状態の名前ではありません。手応えがないことへの、感想に近い言葉です。 同じ言葉で呼ばれている中身は、5つに分かれます。知られていないのか、結びついていないのか、使う場面がないのか、実際の指示と食い違っているのか、そもそも中身が合っていないのか。伝える量を増やして効くのは、最初の2つだけです。 どれなのかは、社員に聞けば分かります。言えるか。当てはまると思った場面があるか。それで何か変わったか。理念と評価のどちらを取るか迷ったことがあるか。その言葉で、いまの事業を説明できるか。 詰まっている場所が分かってから、打ち手を決める。順番はそれだけです。

企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるか

企業ブランディングとは何か 企業ブランディングとは、自社が何をしている会社で、何を大事にしているかを、社内と社外の両方に揃った形で伝わるようにする取り組みです。ただし、これは1つの作業を指す言葉ではありません。理念を決める、外に約束することを言葉にする、社員に伝える、見え方を作り直す。別々の仕事をまとめて呼んでいる言葉です。 だから、会社によって要るものが違います。同じ「企業ブランディングをやりたい」という相談でも、話を聞いていくと、必要な作業が1本のこともあれば、3本のこともあります。ゼロということもあります。 会社のブランディングを調べると、進め方の記事が並びます。手順が示されていて、どれも筋が通っています。ただ、そこに書かれているのは全部やる前提の順番です。自社にどれが要るのかは、別に決める必要があります。 順番の記事が悪いわけではありません。全部やると決めた会社にとっては、そのとおりに進めれば形になります。ただ、相談に来られる時点では、まだ全部やると決まっていないことがあります。決まっていない状態で手順だけを読むと、読み終えても次にやることが出てきません。 この記事では、金額を書きません。他社の名前も出しません。書くのは、この言葉が何本の仕事に分かれるのかと、自社はそのどれから手をつけるのか、です。 1つの作業ではありません 図をタップすると、拡大して見られます 「企業ブランディングをやる」という言い方は、実際には複数の別の仕事を指しています。 分け方は、業界に定まったものがあるわけではありません。世の中には3つの要素で説明するもの、4つで説明するものもあります。私たちは、作業の単位で分けて考えています。実際に手を動かすときに、別の人が別の時間をかけるものは、別の仕事だからです。 仕事 何を決めるか 理念の整理自社が何を果たす会社なのか 外への約束を言葉にする誰に何を約束するのか 決めたことを使える形にするどこで、誰が、どう使うか 社内に伝える社員が同じ説明をできるか 見え方を作り直す事業と見た目が合っているか 作るものを発注するロゴ、サイト、パッケージ この6つは、必要な人も、かかる時間も、終わりの見え方も違います。理念の整理は経営の仕事で、社内に伝えるのは日々の運用の仕事です。作るものの発注は、決まったあとの仕事です。関わる人が違えば、進め方も変わります。 終わり方も違います。理念の整理は、文書ができた時点では終わりません。社員が説明できるようになって、はじめて機能します。一方で、ロゴの制作は納品物が揃えば終わります。同じ取り組みの中に、終わりが決まるものと決まらないものが混ざっています。 頼む先も分かれます。理念の整理を得意とする相手と、作るものを形にする相手は、同じとは限りません。だから「企業ブランディング一式」で見積もりを取ると、何にいくらかかっているのかが見えなくなります。分けて考えておくと、見積もりも分けて見られます。 一続きの取り組みとして扱うと、どこから手をつけるかが決まりません。「企業ブランディングをやる」とだけ決めて動き出すと、作るものの話から始まることになります。目に見えて、進んだ感じがするためです。ただ、その手前が決まっていなければ、作ったものを判断する基準がありません。 全部の会社に要るわけではない 図をタップすると、拡大して見られます 手をつけなくてよい場合があります。ここを先に書いておきます。 紹介で仕事が回っていて、相手が限られている会社があります。取引先が数えられる範囲で、担当者どうしが顔を知っている。この状態なら、外に向けて何かを整えるより、いまの関係を保つほうが効きます。外向きの整理は、知らない相手に届ける必要が出てきたときに要るものです。 事業そのものを変えている途中の会社もあります。何を主力にするかが動いているなら、言葉にしても、決めたそばから合わなくなります。動いているものを固定しようとすると、決めた側も守れません。この場合は、事業の形が見えてから手をつけるほうが早く終わります。 人手が足りていない会社もあります。日々の仕事で手一杯なら、新しい取り組みを足すと、そちらが止まります。止まったものは、次に始めるときの障害になります。一度やって続かなかった取り組みは、社内で「またあれか」と受け取られるためです。いま始めない、という判断も、判断のうちです。 見分け方は、困っていることが具体的に言えるかどうかです。「採用の応募が来ない」「取引先に事業の説明が伝わらない」のように、場面と相手が言えるなら、手をつける先があります。「なんとなく古い感じがする」で止まるなら、まだ場面が特定できていません。その状態で始めると、何が良くなれば成功なのかが決まりません。 いま手をつけないと決めた場合も、決めた記録は残しておきます。何を見て要らないと判断したのかと、いつ見直すのかを書いておくだけで足ります。書いておかないと、同じ議論がまた社内で立ち上がったときに、前回なぜ見送ったのかが分からなくなります。 上位に並ぶ記事は、企業ブランディングを全社に必要なものとして書いています。それが間違っているというより、必要かどうかを決める話が、手順の記事には入らないだけだと考えられます。 そして、いま要らないと見立てたなら、それを言うのは相談を受けた側の仕事です。話を聞いて必要がなさそうなら、そうお伝えします。やる前提で相談に応じるほうが受注につながりますが、それは提案ではなく営業です。 何が起きているかで、要るものが変わる 図をタップすると、拡大して見られます 要るかどうかが分かったら、次はどれが要るかです。ここは、いま何が起きているかから逆算できます。 社内で説明が揃っていない 役員と現場で、何をしている会社かの説明が違う。採用の面接で、面接官によって話す内容が変わる。この状態なら、理念の整理から入ります。 自社が何を果たす会社なのかを、社内で1つに決める作業です(MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方)。 すでに理念があるのに使われていない場合は、少し違います。作り直すのか、いまのものを使える形にするのかの判断が先に要ります(企業理念とは。経営理念との違いと、作り直すときの判断)。 外への約束が決まっていない 自社の説明が、事業の紹介で終わっている。何を作っているかは言えるが、なぜ自社を選ぶのかを聞かれると言葉に詰まる。この状態なら、外への約束を言葉にするところからです。 誰に何を約束するのかが決まると、載せる情報を選ぶ基準ができます(ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方)。 決まっているが、使われていない 言葉はあるが、資料や現場で守られていない。人によって色も言い回しも変わる。この状態で足りていないのは、決めることではなく、使える形にすることです。 どこで、誰が、どう使うかまで書いてはじめて、決めたことが日々の判断に届きます(ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのか)。 社員に伝わっていない 言葉は決まっていて、掲げられてもいる。ただ、社員が自分の言葉で説明できない。配った回数の問題ではなく、自分のものになっていない状態です。 ここは社内向けの取り組みが要ります(インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方)。 見え方が事業と合っていない 事業の中身が変わったのに、外からの見え方が昔のまま。ロゴもサイトも、前の事業に合わせて作られている。この状態は、作り直しの検討に入ります。 ただし、作り直せば解決するとは限りません。何が変わったのかを先に特定する必要があります(リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミング)。 作るものが決まっている 何を伝えるかは決まっていて、あとは形にするだけ。この状態なら、発注の準備に進みます。ここまでの5つが済んでいるなら、迷わず進みます。 自社がどれかを見分ける 社内で聞けば分かります。同じ質問を何人かにして、答えが揃うかどうかを見ます。「うちは何をしている会社ですか」「なぜお客さんはうちを選んでいますか」。揃わない部分が、手をつける場所です。 複数に当てはまることもあります。その場合は上から順に見ていくと、手前が決まっていないものが見つかります。手前が決まらないまま先を進めても、あとで戻ることになります。 もっとも、これを依頼する側が自力で見立てるものではありません。話を聞いて、どれが要るかを言うのが、相談を受けた側の仕事です。「一式でやりましょう」と返ってくるなら、見立てが飛ばされています。 大企業のやり方を、そのまま縮めない 参考にする事例を選ぶときに、気をつけたいことがあります。 企業ブランディングの事例として紹介されるものは、規模の大きい会社のものが中心です。全社アンケート、部門をまたぐプロジェクト、専任のチーム、社外の調査。どれも、人と時間が確保できることを前提にした形です。 中小企業で同じ形を取ると、工程だけが残ります。アンケートは配るが集まらない。プロジェクトは立ち上がるが、参加者が本業で手一杯になる。会議は開かれるが、決める人がその場にいない。進んでいる形はできますが、中身が薄くなります。 そして、形をなぞった取り組みは、途中で止まったときに理由が見えません。何のためにやっていたかが、工程の説明に置き換わっているためです。 規模が小さいことは、この取り組みでは不利ではありません。社員に聞くのに調査は要らず、話せば済みます。決める人と現場の距離が近いので、決めたことが伝わるまでが短い。大きい会社が仕組みで解いている部分を、直接やれます。 だから、事例を見るときは形をまねるのではなく、何を決めたかだけを見ます。どんな会議体で決めたかは、その会社の規模に合わせた手順です。決めた内容のほうが、自社に置き換えられます。 そして、大企業の型をそのまま持ち込まないのは、提案する側の責任です。その会社の人数と時間で回る形を出すところまでが、引き受けた仕事です。立派な進め方を提案して、動かないまま終わるなら、提案していないのと変わりません。 中小企業で先に効きやすい順 どれも要る、という結果になることもあります。そのときは順番を決めます。 人手が限られているなら、社内から先に手をつけるほうが効きやすい形です。社員が自社を同じように説明できる状態になると、採用の場面でも、営業の場面でも、そのまま効きます。外向けの制作物を作る前に、話す内容が揃っている状態を作るということです。 社内が先だと、確かめるのも早く済みます。外向けの取り組みは、届いたかどうかを測るのに時間がかかりますが、社内なら聞けば分かります。手応えが早く返ってくるほうが、続きます。 外への約束を言葉にするのは、社内で言葉が揃ってからのほうが早く終わります。社内で説明が割れている状態で外向けの言葉を決めると、決めたあとに「うちはそうではない」という声が出ます。順番を逆にすると、決め直しが入ります。 採用で急いでいる場合は、少し事情が変わります。募集の時期が外から決まっているなら、そこに間に合う範囲で先に手をつけることになります(採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番)。 作るものは、決めることが済んでからです。ロゴもサイトもパッケージも、何を伝えるかが決まっていなければ、判断の基準がないまま案を選ぶことになります。 ただし、この順番が常に正しいわけではありません。展示会や登記の日付のように、期限が外から決まっているものがあれば、そちらに合わせます。順番は原則で、事情が優先します。 なお、その会社にとっての順番を示すのは、依頼する側が考えることではありません。何を先にやるかを、理由と一緒に出すのが、引き受けた側の仕事です。「どこからやりますか」と聞かれて、こちらが決めるなら、見立てを預けたことになります。 手をつける前に決めておくこと 図をタップすると、拡大して見られます 始める前に、社内で決めておくことがあります。 誰が決めるか。言葉を決める場面では、意見が割れます。割れたときに決める人が決まっていないと、そこで止まります。決める人は打ち合わせに出ていたほうが早く、伝言で進めると意図が薄まります。 どこまでを今回やるか。前の章の6つのうち、今回はどれをやるのかを決めます。全部を同時に進めると、どれも中途半端なところで止まります。区切り方は、予算ではなく作業の単位です。予算で区切ると、途中まで進んだ状態で止まり、そこから再開するときに前提を思い出すところからになります。 終わったと言える状態はどれか。理念を決める仕事なら、文書ができたら終わりなのか、社員が説明できたら終わりなのか。ここを決めていないと、終わりが来ません。 もっとも、終わりの定義を依頼する側が用意するものではありません。何をもって完了とするかを、始める前に文書で示すのが、提案する側の仕事です。示されないまま始まった仕事は、いつまでも続くか、曖昧なまま止まります。 なお、依頼先をどう選ぶかは、この記事の範囲を超えます。会社の型から選ぶ話はブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に書いています。 要る本数は、会社ごとに違う 企業ブランディングは、やるかやらないかで決めるものではありません。どれをやるかで決めるものです。 呼び名は1つですが、中身は別々の仕事です。理念の整理、外への約束、使える形にすること、社内に伝えること、見え方の作り直し、作るものの発注。会社によって、要る本数が違います。ゼロということもあります。 自社がどれに当たるかは、社内で同じ質問をしてみると見えてきます。答えが揃わないところが、手をつける場所です。全部を一度にやる必要はありません。1本ずつでも、終わったと言える状態まで進めば、次に始めるときの土台になります。 決まらないなら、そこから一緒に決められる相手を選ぶ。それも、ひとつの選び方です。

ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのか

ブランディングとは、自社が何者で、何を大事にしているのかを決めて、外に出るものすべてを、それに揃えていく取り組みです。ロゴやデザインを新しく作ることを指す言葉ではありません。作る前に決めるところから、決めたあとに揃え続けるところまでを含みます。 この記事では、意味だけでなく、自社が何から手をつけるのかまでを書きます。この言葉が指す範囲は広いので、どこが詰まっているかによって、次にやることが変わります。 ブランディングとは何か 日本語の訳語が定着していません。ブランド化、商標化、銘柄づくり。辞書にはありますが、実務で使っている場面を見かけません。 定着しない理由は、日本語にすると「作る」側に寄るからだと考えています。ブランド化と言うと、何かをブランドにする作業に聞こえます。実際にやっているのは、決めること、作ること、揃えること。この三つのうち、訳語が拾えているのは真ん中だけです。 私たちは、訳さずに使っています。日本語にすると、範囲が狭くなるためです。 もう一つ、言葉の使われ方に幅があります。ロゴを作ることをブランディングと呼ぶ場面もあれば、会社の方向を決めることを指す場面もあります。同じ語で別の作業を指したまま話が進むと、見積もりの段階で食い違います。安くなったわけでも高くなったわけでもなく、最初から違う話をしていた、ということが起きます。 幅があること自体は、悪いことではありません。広い言葉なので、入口としては使いやすい面があります。ただ、作業の話に入る時点では、狭めておく必要があります。 だから、この記事では最初に範囲を書きました。決めるところから、揃え続けるところまでです。範囲の違う相手と話すときは、そこを先に合わせておくと早く進みます。 「3要素」と言われているもの 図をタップすると、拡大して見られます ブランディングの3要素、という整理を見かけます。検索でも出てくる問いです。 ただ、調べてみると、指しているものが同じではありません。 品質・デザイン・売り方を挙げる説明があります。事業を構成する要素として並べたものです。論理・信頼・情熱を挙げる説明もあります。こちらは人を説得するときの要素で、古典の弁論術から来ています。ブランドのアイデンティティ・パーソナリティ・体験を挙げる説明もあります。ブランドそのものを分解した形です。 三つとも「3要素」と呼ばれていますが、階層が違います。事業の話、人の動かし方の話、ブランドの構造の話。同じ棚に並べられるものではありません。 どれかが間違っている、という話ではありません。それぞれの文脈では成立しています。問題は、どれを持ってきても自社の作業には接続しないことです。「うちの品質・デザイン・売り方はどうか」と考えても、明日何をするかは決まりません。 なぜ整理が一致しないのかにも、触れておきます。ブランディングという語自体が、指す範囲の広い言葉だからです。事業の話をしている人と、デザインの話をしている人と、社内の話をしている人が、同じ語を使っています。それぞれの立場から要素を三つ挙げれば、三つとも別のものになります。 要素の分け方が揃わないのは、この言葉の性質から出ています。統一されるのを待っても、おそらく揃いません。 私たちは、決めることと作ることに分けて見ています。要素で分けるのではなく、作業で分けます。決めるほうと作るほうでは、必要な材料も、決める人も、かかる時間も違うからです。次の章がその中身です。 決めることと、作ること 図をタップすると、拡大して見られます やっていることを分けると、決めること、作ること、揃えることになります。 決めることは、自社が何者で、何を大事にし、誰に何を約束するかを言葉にする作業です。作ることは、ロゴ、サイト、パッケージ、会社案内、店の内装、採用資料。目に見えるものを形にする作業です。揃えることは、作ったものを決めたものに合わせ続ける作業で、これには終わりがありません。 この三つのうち、成果物が見えるのは真ん中だけです。 決めることには納品物がありません。会議をして、言葉が決まって、資料が1枚できる。かけた時間に対して、見えるものが少ない。揃えることも同じで、続けている間は成果が形になりません。 だから、相談は作るほうから始まります。ロゴを新しくしたい、サイトを作り直したい、パッケージを変えたい。作るところから始まるのが普通ですし、それで進む場合もあります。 ただ、決めるほうを飛ばして作ると、あとで揃わなくなります。ロゴを決めた人と、サイトを作った人と、パッケージを作った人が、それぞれ自分の判断で良いものを作る。個々は良くても、並べると別の会社に見える。 そのときに直すのは、作ったものではありません。決めていなかったところに戻ることになります。そして戻ると、作り直しが発生します。 順番の話であって、作ることが軽いという話ではありません。決めた言葉は、形にならなければ誰にも届きません。 揃えることについても、書いておきます。決めて、作って、終わりではありません。会社は動き続けるので、新しく作るものが出てきます。採用のページ、展示会のブース、来期の資料。そのたびに、決めたものに合わせるかどうかの判断が発生します。 この判断を毎回ゼロからやり直していると、担当者が変わったところでずれます。決めたことを、他の人が判断できる形にして渡しておく必要があります。 似た言葉との違い 近い場所で使われる言葉があります。混ざると、頼む先も変わります。 マーケティングは、売れる仕組みをつくる作業です。誰に、どの経路で、いくらで届けるか。ブランディングは、選ばれる理由をつくる作業です。どちらが上ということではなく、扱っているものが違います。仕組みがあっても選ぶ理由がなければ価格で比べられますし、選ぶ理由があっても届く経路がなければ知られません。 デザイン制作は、作ることの一部です。前の章で挙げた三つのうち、真ん中にあたります。ブランディングは、その手前の決めることを含みます。 広報は、決めたことを伝える機能です。何を伝えるかが決まっていないと、伝え方の話だけが進みます。 そして、この分け方をしない考え方もあります。ブランディングも空間も映像も、同じ判断から出てくるものだから領域で分けない、という立場です。私たちがなぜそう考えているかは、なぜ私たちは、ブランディングも空間も映像も分けないのかに書きました。 もう一つ。すでにあるものを作り直す場合は、リブランディングと呼びます。新しく作るのか、あるものを見直すのかで、最初にやることが変わります。意味と進め方は、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングにまとめました。 言葉が混ざると、相談する先が変わります。売れる仕組みの話をマーケティングの会社に持っていくのは筋が通っていますが、選ばれる理由が決まっていない状態で行けば、仕組みだけが増えます。逆に、届く経路がない状態で選ばれる理由だけを整えても、知られません。どちらが足りないのかは、症状を見れば見当がつきます。次の章がその話です。 いま何が起きているかを見分ける 図をタップすると、拡大して見られます 相談は、目の前の困りごとから始まります。応募が来ない、見積もりがばらつく、社員の説明が揃わない。ブランディングが必要かどうか、という形では来ません。 そして、症状と原因は一致しません。見えている症状の手前に、詰まっている場所があります。 見えている症状 詰まっている場所 作ったものが、並べると揃わない決めていない 社員によって会社の説明が違う決めたが、社内で使われていない 採用で応募が集まらない外に出している言葉が、中と合っていない 見積もりが会社ごとに大きく違う何を頼むかが決まっていない 同じ症状でも、詰まっている場所が違うことがあります。応募が来ないのは、募集要項の書き方かもしれませんし、そもそも会社として何を言うかが決まっていないのかもしれません。ロゴが古いから応募が来ない、という筋道は、あるとしても後のほうです。 見分ける問いは、決まっていないのか、決めたが使われていないのか、作るものが決まっていないのか。このどれかに入ります。 どれに当たるかは、聞けば見当がつきます。 決まっていないかどうかは、社内の何人かに同じ問いを出すと見えます。うちは何をする会社ですか、と聞いて、返ってくる説明が重なるかどうか。一言一句が揃う必要はありません。同じことを指しているかどうかを見ます。 決めたが使われていないかどうかは、あとから入った人に聞くと早く分かります。入る前に見ていた会社の説明と、入ってから聞いた説明が同じだったか。ずれていたなら、外に出している言葉と、中で使っている言葉が別になっています。 作るものが決まっていないかどうかは、見積もりに出ます。同じ依頼で会社ごとに金額が大きく動くなら、頼む範囲が決まっていません。差は、相手の価格設定より先に、依頼の書き方から出ます。 決めたのに社内で使われていない状態は、それだけで一本の作業になります。進め方と、何を見れば効いたと分かるのかは、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に書きました。 採用の場面で出ている場合は、扱いが少し違います。採用広報との切り分けと、手をつける順番は、採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番にまとめています。 相談の入口で言われた言葉を、そのまま作業の範囲にしているなら、見立てていないということです。ロゴを作りたいと言われてロゴを作るのは、注文を受けたのであって、詰まっている場所を見たことにはなりません。 状態別に、次に読むもの 見分けがついたら、次にやることが決まります。詰まっている場所ごとに書きます。 順番としては、言葉が決まっていない場合が手前にあります。決まっていなければ、作るものも、頼む相手も決められないからです。逆に、言葉が決まっているなら、そこは飛ばして構いません。すでに決まっているものを決め直すのは、時間の使い方として重くなります。 言葉が決まっていない場合 決めるところから始めます。ただ、決めるものにも種類があります。 誰に何を約束するかを決めたいなら、ブランドコンセプトです。外に向けた約束を一つの形にする作業で、作り方と、それが機能しているかの見分け方はブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方にあります。 会社の内側を三つに分けて持ちたいなら、MVVです。何を果たすのか、どこへ向かうのか、何を選ぶのか。三つの違いと、ぶつかったときにどうするかはMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書きました。 すでに理念があって、作り直すかどうかで迷っているなら企業理念とは。経営理念との違いと、作り直すときの判断です。ゼロから作る場合と、あるものを見直す場合では、やることが別になります。 なぜこの会社が存在するのか、というところから考えたいなら、パーパスです。掲げたのに使われない状態がなぜ起きるかも含めて、パーパス経営とは。「意味がない」と言われる理由と、中小企業での使いどころにまとめました。 全部を一度に決める必要はありません。要るものから決めるほうが、使われる形になります。 作ったものが揃わない場合 決めてはいるが、出てくるものが揃わない。この場合、決めたことが作る人に渡っていない可能性があります。 渡す形にしたものが、ブランドガイドラインです。何を書き、なぜ使われなくなるのかはブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書きました。 ただ、揃わない原因は分かれます。決めていないから揃わないのか、決めたが渡っていないから揃わないのか。前者なら、一つ前の節に戻ります。 誰に何を頼むか決まらない場合 作ることは決まっているが、どこに頼むか決まらない。この場合は、頼む相手の型から見ます。 会社によって、得意な範囲が違います。型の分け方と、自社に必要な型の見分け方はブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方にあります。 頼むものが決まっているなら、それぞれに書いたものがあります。サイトを作り直すならコーポレートサイトのリニューアル。作り直す前に、何が変わったかを見る、パッケージならパッケージデザイン会社の選び方。依頼できる範囲と、決めておく条件、ロゴならロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わるです。 一式で提案するほうが、引き受ける側は楽です。ただ、一式にすると順番が消えます。どれを先にやるかを決めて示すところまでが、提案だと考えています。 順番を間違えるとどうなるか 図をタップすると、拡大して見られます 作ってから決めると、決めた内容に、作ったものが合いません。 言葉が後から決まると、すでに作ったものを見ながら決めることになります。作ったものに合う言葉を選ぶ形です。順序が逆なので、決めた言葉が判断の役に立ちません。すでにあるものを説明するだけの文になります。 外側を先に変えても、決め方が変わらなければ元に戻ります。ロゴを変え、サイトを作り直し、それでも相談が来る内容は変わらない。そこで何が起きているかは、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないに書きました。 売り場で同じことが起きた場合は、戻る先がもう少し手前にあります。パッケージを変えたら売れなくなる。その手前で、何が起きているのかがその話です。 順番を守れない理由は、はっきりしています。作るほうには納期があり、決めるほうにはありません。期限のあるものが先に進むので、決めるほうが後回しになります。 戻ったときの負担は、作り直しの費用だけではありません。一度やったことを、もう一度やることになります。社内では「この前決めたはずでは」という空気が出ますし、二度目は集まる人の熱が下がります。同じ議論を、前より低い温度でやり直すことになります。 作ることから入る提案が通りやすいのも、成果物が見えるからです。見えにくいほうを先に売るのは、引き受ける側の仕事だと考えています。先にやる理由が当時なかったのも事実で、形にならないものに時間を割く判断は、発注側だけで下せるものではありません。 決めることが先で、作ることは後 ブランディングは、何かを新しく作ることではありません。すでにあるものを決めて、外に出るものを揃えていく作業です。 決めるところには成果物がないので、飛ばされます。飛ばしても作れますし、作ったものは形になります。ただ、飛ばした分は、あとから作り直しとして出てきます。 自社がどこで詰まっているかは、症状から辿れます。作ったものが揃わないのか、決めたことが使われていないのか、頼む相手が決まらないのか。入口が分かれば、次に読むものが決まります。 そして、決めることには終わりがありますが、揃えることには終わりがありません。会社が動き続けるかぎり、新しく作るものが出てきます。そのたびに、決めたものに合わせるかどうかを判断する。ブランディングという言葉が指しているのは、この続きのほうです。

ブランド戦略とは。マーケティング戦略との違いと、事業戦略との関係

ブランド戦略とは、どこで戦い、誰に何を約束し、どう届けるかを決めたものです。決まっている状態を指す言葉で、文書の名前ではありません。 戦略と呼ぶと、独立した資料を作る作業に見えます。ただ、会社の規模や事業の数によって、そもそも分けて作るべきかどうかが変わります。 この記事では、マーケティング戦略との違いをお伝えします。そのうえで、事業戦略と分けられる会社と、分けられない会社があることを書きます。 ブランド戦略とは何か 決めるのは三つです。どこで戦うか、何を約束するか、どう届けるか。 どこで戦うかは、相手と場面を決めることです。誰の、どの場面に入るのか。全員を相手にすると決めたことになりません。市場のなかで自社が立つ場所を選ぶ作業です。 何を約束するかは、その相手に対して何を保証するかです。速さなのか、手厚さなのか、値段なのか。ここが決まると、選ばれる理由が決まります。 どう届けるかは、その約束をどこで伝えるかです。営業の場、サイト、店頭、資料、採用の場面。触れる場所ごとに約束が食い違わないようにする作業です。 私たちは、この三つが決まっている状態をブランド戦略と呼んでいます。業界に定まった定義があるわけではありません。ただ、相談を受けるときにこの範囲で見ると、話が早く進みます。 戦略という言葉が、資料の名前として使われることがあります。分厚い資料があっても、上の三つが決まっていなければ、決まっていません。逆に資料がなくても、社内で三つが揃っているなら、決まっています。見るのは、文書があるかどうかではありません。 言い換えると、ブランド戦略は成果物ではなく状態です。作ったかどうかではなく、決まっているかどうかで見ます。この見方が、あとの章で効いてきます。 マーケティング戦略との違い 図をタップすると、拡大して見られます 三つとも近い場所にありますが、決めているものが違います。 決めること 時間の幅 ブランド戦略何者として選ばれるか変えない前提で置く マーケティング戦略どう売るか期ごとに見直す ブランディング決めたものを形にする作業続ける この分け方も、私たちの整理です。三つをまとめてブランド戦略と呼ぶ会社もありますし、マーケティング戦略の一部として扱う考え方もあります。どれが正しいという話ではありません。 私たちが分けているのは、変える頻度が違うからです。 マーケティング戦略は、期ごとに見直します。売れ行き、競合の動き、広告の効き方。数字を見て、打ち手を変えます。変えることが前提の計画なので、変えないほうが問題になります。うまくいっていない打ち手を続けるのは、この領域では判断の遅れです。 ブランド戦略は、変えない前提で置きます。何者として選ばれるかが期ごとに変わると、選んだ側から見て別の会社になります。去年と今年で約束が違えば、去年選んだ客は、いま選ぶ理由を失います。変えないと決めたものだから、判断の基準として使えます。 ブランディングは、決めたものを形にする作業です。ロゴ、サイト、資料、店頭、言葉づかい。決まっていないものは形にできないので、この作業は前の二つのあとに来ます。 同じ言葉として「ブランド化戦略」が使われることもあります。指しているものは、たいがいブランド戦略と同じです。商品や事業を、値段以外で選ばれる状態にしていく、という意味で使われます。 混ぜると、判断が止まります。 売上が落ちたとします。このとき考えられることは二つあります。打ち手が効かなくなったのか、それとも約束そのものが古くなったのか。前者ならマーケティング戦略の見直しで、後者ならブランド戦略の見直しです。 分けていないと、この問いが立ちません。売上が落ちたという事実だけがあり、打ち手を変える話に流れます。媒体を変え、価格を試し、キャンペーンを打つ。どれも期の単位で結果が出るので、動いている実感はあります。 そして、何者として選ばれるかは触られないまま残ります。あとから振り返ると、打ち手は変わり続けたのに、会社の輪郭だけがぼやけている。この状態は、分けていなかったことの結果です。 逆に、分けすぎるのも実務では起きます。ブランド戦略を触ってはいけないものとして扱い、事業が変わっても見直さない。次の章で扱うのは、この側の話です。 「4つのブランド戦略」が答える問い 図をタップすると、拡大して見られます 検索すると、四つに分ける整理が出てきます。ライン拡張、ブランド拡張、マルチブランド、新ブランドの四つです。 中身はこうなります。ライン拡張は、いまのブランド名のまま、同じ種類の商品を増やすこと。ブランド拡張は、いまのブランド名で、別の種類の商品に出ること。マルチブランドは、同じ種類の商品に、別のブランド名を付けること。新ブランドは、別の種類の商品に、別のブランド名を付けること。 整理すると、製品とブランドを、それぞれ既存と新規で組み合わせたものです。 いまのブランド名 新しいブランド名 同じ種類の商品ライン拡張マルチブランド 別の種類の商品ブランド拡張新ブランド この整理が答えているのは、「持っているブランドを、新しい商品にどこまで広げるか」という問いです。 使うためには、広げる先の商品と、いま持っているブランドの両方が要ります。複数の商品や複数のブランドを持っている会社が、次の一手を決めるときの枠組みです。 一つの事業に一つのブランドしかない会社では、この四つは選択肢になりません。比べる対象がないからです。ライン拡張も新ブランドも、選ぶ前提が揃っていません。四つを読んでも、自社がどれに当たるかが決まらないのは、当てはまる状況にないためです。 間違った整理ではありません。答えている問いが違うだけです。 この整理が答える問い 持っているブランドを、新しい商品にどこまで広げるか この記事が扱う問い うちのブランド戦略を、どう決めればいいか 会社が育って商品が増えれば、この整理が要る場面は来ます。そのときには使えます。ただ、いま一つの事業をやっている会社が最初に決めることは、この四つのどれでもありません。 ではその会社は何を決めるのか。それが次の章です。 事業戦略と分けられるか 図をタップすると、拡大して見られます 分けられる会社と、分けられない会社があります。事業の数と、ブランドの数で決まります。 複数の事業を持ち、それぞれに別のブランドを立てている会社では、分けられます。事業ごとに相手が違い、約束が違うからです。このとき、全体をどう配置するかを決める仕事が発生します。どのブランドをどこに置くか、どれを伸ばし、どれを畳むか。前章の四つの整理が効くのも、この規模です。 一つの事業に一つのブランドの会社では、事情が変わります。誰に何を約束するかは、その事業が誰に何を売るかと同じです。別の答えにはなりません。 このとき、ブランド戦略を別文書として作ると、二重になります。事業計画に「誰に売るか」が書いてあり、ブランド戦略にも「誰に約束するか」が書いてある。同じことを、違う言葉で二か所に書いた状態です。 二重になった時点では、問題は起きません。作った直後は中身が一致しているので、どちらを見ても同じ答えが出ます。困ることがないので、二重であること自体に気づきません。 問題が出るのは、片方だけが更新されたときです。事業のほうが変わり、計画は書き換えられた。ブランド戦略の資料は前のまま残っている。このとき、どちらが正かを決める人がいません。 決められない理由は単純で、どちらも会社が正式に作ったものだからです。片方を古いと判断するには、両方を並べて見比べる人が要ります。日々の業務のなかで、その作業をする役割は置かれていません。 そして、資料は残ります。作った労力があるので、捨てにくい。現実と合わなくなった資料が、判断の場に出てくるようになります。新しく入った人ほど、書いてあるものを前提として扱います。 分けられない会社にとって、ブランド戦略を決めるとは、事業戦略のなかの「誰に何を約束するか」を、言葉として取り出す作業です。新しく作るのではなく、すでに決まっていることを言語化する。別文書にするのではなく、同じ文書のなかで言い切る。 こう置くと、更新の問題も消えます。事業が変われば、同じ場所で一緒に書き換わるからです。 なお、分けるべきかどうかを最初に判断するのは、引き受けた側の仕事です。「ブランド戦略を作りたい」という相談をそのまま受けて別文書を作れば、二重を作ったのは私たちの側になります。 何を決めることになるか 図をタップすると、拡大して見られます 分けない会社が、実際に決めることを並べます。 決めること 中身 どこで戦うか誰の、どの場面に入るか 何を約束するか選ばれる理由を一言にする 何を約束しないか断る基準 どう届けるか触れる場所と、その順番 どこで戦うかは、相手を絞る作業です。全員に向けると、誰にも向いていない言葉になります。年齢や業種で切るより、どういう場面で困っている人かで切るほうが、実務では使えます。属性は変わりませんが、場面は自社の仕事と直接つながるからです。 何を約束するかは、一言にします。長く書けば正確になりますが、判断の場で思い出せません。この決め方はブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書き切っているので、そちらを見てください。手順も、機能しているかの確かめ方も、あちらにあります。 何を約束しないかが、この記事で厚く書く部分です。 約束を決めると、同時に約束しないことが決まります。速さを約束したなら、時間のかかる丁寧さは選べません。手厚さを約束したなら、安さでは戦えません。どちらも取ろうとすると、どちらも約束にならなくなります。 ここを飛ばしても、決めた気にはなれます。約束することだけを並べた文書は、読むと前向きに見えるからです。ただ、判断の場で使えません。何かを選ぶとき、基準が要るのは「やる」側ではなく「やらない」側です。 ここが決まっているかは、断った仕事で分かります。直近で断った案件があり、その理由が約束から説明できるなら、決まっています。断った記録がないなら、まだ基準になっていません。すべてを受けているのは、選ぶ基準を使っていないということです。 どう届けるかは、触れる場所を並べて、順番を決める作業です。サイト、営業資料、店頭、採用の場。全部を同時には整えられないので、どこから直すかを決めます。決め方は、相手が実際に触れる回数が多い順です。作り直したい順ではありません。 理念やMVVがある会社では、それとの関係も整理が要ります。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書いたとおり、MVVは会社が自分について語ったもので、ブランド戦略は相手に対する約束です。向きが違うので、そのままでは繋がりません。並べて置くのではなく、MVVから出てくる約束はどれかを選ぶ形になります。 なお、約束することだけを決めて終わらせないのは、引き受けた側の役割です。約束しないことを一緒に決めるところまでが、決める作業です。 決めた戦略が動かなくなるとき 決めても、判断が変わらないことがあります。 分かりやすいのは、決めた場にいた人だけが覚えている場合です。決める過程には議論があり、なぜそこに落ち着いたかの理由があります。あとから受け取る人には、結論しか渡りません。理由がなければ、応用ができません。書いてある通りの場面しか判断できず、少し違う状況では止まります。 もうひとつは、現場に降りていない場合です。経営の会議では使われているのに、日々の判断では出てこない。見積もりを出すとき、案件を受けるかを決めるとき、採用の合否を決めるとき。そこで使われていないなら、決まっているのは会議室のなかだけです。 降りない理由は、意識の問題ではないことがあります。現場が判断する場面と、決めた言葉の粒度が合っていない。「誰に何を約束するか」は方針の粒度で、目の前の見積もりは案件の粒度です。あいだを埋める言い換えがないと、使いようがありません。 三つめは、事業のほうが先に変わった場合です。売る相手が変わり、主力の商品が変わった。それでも戦略の文書は前のまま残っています。前章で書いた二重の状態が、ここで表に出ます。 いずれも、デザインや資料の出来とは関係のないところで起きます。この構造はリブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いたものと同じです。出てきたものが悪いのではなく、決める工程で何かが足りていません。 動かなくなっていることは、外からは見えません。決めた文書はあり、掲げられてもいます。見るのは、直近の判断でそれが使われたかどうかです。会議で意見が割れたときに持ち出されたか。断る理由として使われたか。使われていないなら、止まっています。 なお、止まっていることに気づいて言うのは、引き受けた側の役割でもあります。納品して離れると、動いているかどうかは分かりません。 どこから手をつけるか 最初に決めるのは、分けるかどうかです。 事業が一つなら、分けません。事業戦略のなかで「誰に何を約束するか」を言い切る形にします。別文書を作らないと決めることが、最初の判断になります。 事業が複数あり、それぞれに別のブランドがあるなら、分けます。全体の配置を決める仕事が要るからです。判断に迷う規模もあります。事業は複数だがブランドは一つ、という状態です。この場合は、ブランドの数に合わせて一つにしておくほうが、運用が続きます。 分けないと決めたら、進め方はリブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程1から3までと同じです。いま外からどう見られているかを確かめ、動かせないものを見つけ、誰に何をどう伝えるかを決める。新しく決めるというより、すでにあるものを取り出す作業になります。 どこから聞くかは、社内から始めます。事業がどう変わってきたか、いま何で選ばれているか、断ってきた仕事は何か。この三つを聞くと、決まっていることと決まっていないことが分かれます。 三つめが効きます。断った理由には、その会社が使っている基準が出るからです。言葉になっていなくても、判断としては存在しています。それを拾えば、ゼロから決める作業にはなりません。 顧客に聞く工程も入ります。選んだ理由を聞くと、社内の想定と違う答えが返ることがあります。速さで選ばれていると思っていたら、断らないことだった。約束は相手に対するものなので、相手が何を受け取っているかを確かめずには決められません。 なお、相談を受けたときに事業のほうを先に聞くのは、引き受けた側の仕事です。ブランド戦略の相談として受けても、事業が変わっている最中なら、先に変わり終えるのを待つほうが早く済みます。 決めるとは、やめることを決めること ブランド戦略は、新しく作る資料ではありません。誰に何を約束するかが決まっている状態を指します。 事業が一つの会社では、それは事業戦略のなかにあります。取り出して言葉にすれば足りるので、別に立てる必要はありません。別に立てると二重になり、片方だけが古くなります。 決めるときに効くのは、約束することよりも、約束しないことのほうです。全員に向けた戦略は、判断の場で何も決めてくれません。断る理由が出てくるところまで絞って、はじめて基準になります。 そして、決まっているかどうかは、資料の厚さでは分かりません。直近の判断で、その約束が使われたかどうかで分かります。

採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番

採用ブランディングとは、働く場所としての自社が何者かを、候補者に伝わる形にする取り組みです。求人広告の出し方や、採用サイトの作り方のことではありません。 伝える前に、伝える中身が要ります。中身が定まっていないまま発信を増やすと、届く量は増えても、届く内容が人によって変わります。 この記事では、採用広報や採用マーケティングとの違いをお伝えします。そのうえで、何から手をつけるかを書きます。 採用ブランディングとは何か 対象になるのは、候補者だけではありません。その人の周りにいる人も含みます。 転職を考える人は、応募する前に周りに話します。前の職場の同僚、友人、家族。そこで返ってくる「あの会社って、どういうところ?」への答えが、応募するかどうかに効きます。求人ページを見ている人だけを相手にしていると、この経路が抜けます。 もうひとつ、社員も対象に入ります。自社を説明するのは、採用担当だけではないからです。面接に出る現場の社員、知人に声をかける社員、退職して外から話す元社員。会社について語る人の数は、採用担当の人数では収まりません。 そして、社員が話す言葉は用意されたものではありません。求人ページの文章は推敲できますが、飲み会で聞かれたときの答えは推敲できません。推敲できない場面で出てくる言葉のほうが、聞いた側には残ります。 私たちは、採用ブランディングを「働く場所としての自社を定める作業」として捉えています。発信する作業ではありません。定めたものを発信するのは、次の章で分ける別の仕事です。 業界に定まった分け方があるわけではありません。ただ、相談を受けるときにこの位置に置くと、話が早く進みます。 採用広報・採用マーケティングとの違い 図をタップすると、拡大して見られます 三つとも採用のためのものですが、やっていることが違います。 何をするか 相手 効いているかの見え方 採用ブランディング働く場所としての自社を定める候補者と、その周りの人説明が揃う 採用広報定めたものを届ける候補者見られる、読まれる 採用マーケティング母集団を集めて動かす候補者応募が増える この分け方も、私たちの整理です。言葉の使い方は人によって違いますし、三つをまとめて採用ブランディングと呼ぶ会社もあります。どれが正しいという話ではありません。 私たちが分けているのは、三つが並列ではなく順番だからです。 定めていないものは、届けられません。届ける段になって「うちは何を伝えるのか」を考え始めると、そこで初めて定まっていないことに気づきます。そして期日が迫っているので、その場で書ける言葉が採用されます。採用サイトの公開日が決まっていると、この形になります。 届いていないものには、人は動きません。母集団を集める施策は、集めた人に見せる中身があって効きます。中身が薄いまま母集団だけを増やすと、応募は増えても選考の途中で減ります。集めるところまでは数字が伸びるので、うまくいっているように見える期間があります。 逆から見ると、分かりやすくなります。 応募が増えないとき、疑うのは採用マーケティングです。届く範囲の問題なので、媒体や出し方を見ます。 応募はあるのに知られていないと感じるとき、疑うのは採用広報です。中身はあるのに、伝える量や場所が足りていない状態です。 説明する人によって会社の姿が変わるとき、疑うのは採用ブランディングです。この場合、量を増やすと、揃っていない説明が増えます。 三つを混ぜて「採用ブランディングをやろう」と始めると、施策の話から入ります。採用サイトを作る、社員インタビューを載せる、SNSを始める。どれも届ける側の仕事なので、定める工程を飛ばしたまま進みます。 分けておくと、依頼するときにも効きます。同じ「採用ブランディング」という言葉で相談しても、受ける側がどれを想定しているかで、出てくる提案が変わります。媒体の運用を提案する会社もあれば、サイトの制作を提案する会社もある。どれも間違いではなく、扱っている工程が違うだけです。 自社がどの工程で止まっているかを先に決めておくと、提案を比べられます。決めずに相談すると、提案の内容ではなく、提案の見栄えで選ぶことになります。 順番で並べると、どこから手をつけるかも決まります。定める、届ける、集める。この順で見ていくと、自社がどこで止まっているかが分かります。 応募が来ないとき、何を疑うか 先に疑われるのは、たいがい三つです。媒体が合っていないのではないか。給与や条件が見劣りするのではないか。募集要項の書き方が悪いのではないか。 この三つは、実際に原因であることがあります。媒体を変えて応募が増えることはありますし、条件を見直せば届く層が変わります。募集要項の書き方で応募数が動くのも確かです。まず疑う対象として、順当です。 ただ、直しても変わらないことがあります。そのときに次を疑う先が要ります。 分かりやすいのは、応募は来るのに、選考の途中で減る場合です。母集団の問題ではないので、媒体を変えても同じことが起きます。面接を重ねるほど辞退が出るなら、選考の場で何かが伝わっているということになります。 伝わっていないのではなく、伝わっている、というのが要です。候補者は会社について何も分からないまま辞退しているのではありません。会って、話を聞いて、そのうえで判断しています。 もうひとつは、入社後に「思っていたのと違う」と言われる場合です。この場合、選考の場では伝わらなかったものが、入ってから分かったことになります。募集要項に嘘が書いてあったわけではありません。書いてあることと、実際に働く場所の間に、説明されていない幅があります。 三つめは、内定を出しても他社に決まる場合です。条件で負けているなら条件の問題ですが、条件が近いのに選ばれないなら、判断の材料が足りていません。候補者は、条件が並んだときに、条件以外で決めます。 どれも、募集要項の書き方では動きません。書き方の問題ではなく、書く前の中身の問題だからです。 なお、募集要項を直す前に「そこではないかもしれません」と言うのは、相談を受けた側の役割です。直してから変わらなかったと分かるまで、時間がかかります。その時間は、依頼した側が払っています。 社内で言葉が揃っていないと起きること 図をタップすると、拡大して見られます 選考の場で、候補者は複数の社員に会います。人事、現場の責任者、役員。そこで聞く話が食い違うと、候補者は判断できません。 食い違いは、対立として現れません。それぞれが自分の言葉で、自分の見ている範囲を話しているだけです。人事は制度と働き方を、現場は仕事の中身を、役員は会社の方向を話す。どれも本当のことです。 ただ、候補者から見ると、同じ会社の話に聞こえません。「この会社は何を大事にしているのか」への答えが、面接ごとに変わります。そして候補者は、変わったことに気づきます。面接を重ねるほど分かるので、後半で辞退が出ます。 気づいた候補者は、その場では指摘しません。話が違うと感じても、選考の場で確かめる立場にはないからです。理由を告げずに辞退するので、会社側には届きません。辞退の理由として返ってくるのは、たいがい別の会社に決まったという事実だけです。 この判定は、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方の8章に書いたものと同じです。 ふたつめは、採用の場面です。面接官によって会社の説明が変わらなくなったか。候補者から見て、誰が出てきても同じ会社に見えるかどうかです。 採用の場は、社内で言葉が揃っているかが外に出る場所です。社内の会議なら、説明が違っても業務は進みます。日々の仕事では、それぞれが自分の範囲を分かっていれば足りるからです。候補者は、比べる立場で聞いています。同じ質問を複数の人にして、答えを並べる。社内では起きない聞き方をします。 もうひとつ効くのが、入社後のずれです。選考の場で語られた会社と、入ってから見る会社が違う。この差は、入社後にできたものではありません。選考の時点ですでにあって、それが説明されなかっただけです。 理念やMVVを掲げていても、それが選考の場で使われているかは別です。面接で会社を説明するときに、掲げた言葉が出てくるか。出てこないなら、その言葉は判断にも説明にも使われていません。この見方はMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方にも書いています。 手をつける順番 図をタップすると、拡大して見られます 採用ブランディングを始める前に、確かめることがあります。 順 やること 確かめ方 一社内で言葉が揃っているか見る面接に出る社員に、個別に同じ質問をする 二揃っていなければ、先に揃える社内に向けた作業になる 三候補者に何を約束するかを決める誰に何を約束するかを一文にする 四伝える場をつくる採用サイト、資料、面接の設計 最初の工程は、その日にできます。面接に出る社員を何人か選んで、別々に同じことを聞きます。「うちは、どういう人にとって良い会社ですか」。会議で聞かず、個別に聞くのが要です。同じ場で聞くと、先に話した人に寄ります。 聞く相手は、役員だけにしないほうが分かります。役員の答えは揃っていることが多いのですが、候補者が会うのは役員だけではありません。現場の面接官まで含めて聞いて、初めて実態が出ます。 返ってきた答えが揃っていれば、二つめの工程は要りません。すでにある言葉を使えばよいので、そのまま次へ進めます。揃っていなければ、そこが出発点になります。 二つめは、社内に向けた作業です。候補者に見せる前に、社内で使われる言葉にします。この工程の進め方はインナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方にまとめてあります。採用のためだけにやる作業ではないので、採用の予算と切り離して考えたほうが進みます。期の途中で始めにくいなら、そこが理由です。 三つめで、候補者に何を約束するかを決めます。全員にとって良い会社にはなりません。誰にとって良い会社かを決めると、同時に、合わない人が決まります。そこを曖昧にすると、選考の途中で判断する材料が誰にもなくなります。決め方はブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方と同じ手順です。 四つめが、採用サイトや資料を作る段です。次の章で扱います。 順番を飛ばすと、どこで止まるかも決まっています。最初の工程を飛ばせば、揃っていないまま発信することになります。三つめを飛ばせば、作る段で「誰に向けるか」が決まらず、制作が止まります。写真を選ぶ場面や、載せる社員を決める場面で、判断の基準がないことに気づきます。 なお、この順番を最初に示すのは、引き受けた側の役割です。採用サイトの相談として受けたときに、その手前を確かめずに制作へ入るなら、順番を飛ばしたのは私たちの側です。 採用サイトや動画は、いつ作るのか 揃ったあとです。作ること自体は必要ですが、時期があります。 揃う前に作ると、作った時点の言葉が固定されます。サイトは公開すると直しにくく、パンフレットは刷ると直せません。まだ定まっていない言葉が、直しにくい形で外に出ます。 そして、いちど公開したものは基準として扱われます。次に何かを作るとき、前に作ったものに合わせることになります。定まる前に作ったものが、あとから基準になる。この順序が、あとで効いてきます。 社員が登場する媒体は、揃っていないことが表に出やすくなります。インタビュー記事も、動画も、複数の社員が話します。それぞれが自分の言葉で話すので、揃っていなければそのまま並びます。読む側は並べて読むので、違いが分かります。 撮ってから気づくと、撮り直しになります。私たちも撮影をしているので、この手戻りは実際に起きます。話す内容を先に揃えておけば、当日は話し方だけを見ればよくなります。撮影は日程を押さえる仕事なので、撮り直しの費用は撮影費だけでは済みません。 作ったあとの運用も、先に決めておく必要があります。誰が更新するのか、社員が入れ替わったときにどうするのか。この考え方はブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書いたものと同じです。作って終わりにすると、古い情報が残り続けます。載っている社員が辞めたあとも、その人が語る会社が残ります。 もっとも、いつ作るのが良いかを判断するのは、作る側の仕事です。「まだ早いです」と言えるかどうかで、受け取る側の信用は変わります。相談を受けた時点で作る前提になっていても、手前の工程が済んでいなければ、そこから話すのが筋です。 効果の見方 図をタップすると、拡大して見られます 応募数は、ここに置きません。応募数は2章で分けた採用マーケティングの指標です。混ぜると、2章の分け方が意味を失います。 見るのは四つです。 面接官の説明が揃っているか。最初の工程で聞いたことを、もう一度聞きます。前と比べて、返ってくる答えの重なりが増えているかを見ます。一言一句が同じである必要はありません。同じことを指しているかどうかです。むしろ全員が同じ文を言う状態は、渡された言葉を読んでいるだけかもしれません。 候補者からの質問が変わったか。会社の説明が揃ってくると、質問の中身が動きます。条件や制度の確認から、仕事の進め方や判断のしかたへ。候補者が、比べる段階から確かめる段階に移ったということです。質問が具体的になるのは、応募先として真剣に見ている証拠でもあります。 辞退の理由が変わったか。選考の途中で辞退が出るのは、避けられません。ただ、理由が「話が食い違っていて分からなかった」から「合わないと分かった」に変わっているなら、伝わった結果として辞退しています。それは失敗ではありません。合わない人が早く抜けるほど、選考にかける時間は短くなります。 入社した人が「聞いていた通り」と言うか。入社後に確かめられます。ここが揃っていれば、選考の場で伝わっていたことになります。逆に、入社後の早い時期に辞める人が続くなら、選考の場で伝わっていなかったものがあります。 四つとも、数字では出ません。聞けば分かることばかりです。定期的に見るなら、面接に出る社員に聞く形が続けやすくなります。 なお、何を見れば効いたと分かるのかを、最初に決めて渡すのは引き受けた側の仕事です。測り方を決めずに始めると、終わったかどうかも分からないまま続きます。 揃えてから、伝える 採用で伝わらないとき、原因は伝え方にあることも、伝える中身にあることもあります。媒体や書き方を直しても変わらないなら、後者です。 社内で言葉が揃っていない状態は、外からは見えません。見えるのは、応募が来ないことや、辞退が出ることだけです。そこから遡って、選考の場で何が起きているかを見に行く必要があります。 見に行く方法は、この記事の5章に書いたとおりです。面接に出る社員に、個別に同じことを聞く。それだけで、どちらの問題かは分かります。 順番としては、揃えるほうが先にあります。揃っていれば、伝える手段は選べます。揃っていなければ、どの手段を選んでも、揃っていないことが伝わります。