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パーパス経営とは。「意味がない」と言われる理由と、中小企業での使いどころ

パーパスとは、その会社がなぜ存在するのかを指します。社会に対する存在理由です。パーパス経営とは、その存在理由を軸に経営の判断を行うことを言います。掲げるだけでなく、何を選び何を選ばないかの基準として使うところまでを含みます。 この記事では、「意味がない」と言われる理由から入ります。そのうえで、大企業の型が中小企業に合わない理由と、それでも効く場面を書きます。 パーパス経営とは何か 図をタップすると、拡大して見られます 「経営」がついていることに、意味があります。 パーパスを決めるだけなら、言葉を作る作業です。社会に対して自社がなぜ存在するのかを、一文にする。ここまでは、掲げるところで終わります。 「経営」がつくと、範囲が変わります。投資をどこに置くか、どの事業をやめるか、誰を採るか。その言葉で説明がつく状態までを指します。 つまり、掲げた時点では、まだパーパス経営になっていません。言葉ができた日と、経営が変わる日は別です。 言葉の出来で判定できないところが、この語の扱いにくさだと思います。整った一文でも、誰も参照しなければ経営の話にはなりません。逆に、ぎこちない言い回しでも、断る理由として持ち出されているなら機能しています。 もう一つ、区別しておくと扱いやすくなります。パーパスを策定することと、パーパス経営をすることは別です。 策定は、期間の決まったプロジェクトです。材料を集めて、書いて、決める。終わりがあります。経営のほうは終わりません。決めた言葉を判断に当て続ける作業なので、来期も再来期も続きます。策定の話をしているのか、経営の話をしているのか。ここが混ざると、見積もりも工数も噛み合いません。 私たちは、掲げた言葉が判断に使われている状態を指して、こう呼んでいます。業界で決まった線引きがあるわけではないので、読むときは自社での使い方に置き換えてください。 企業理念・MVVとの関係 パーパスは「なぜ存在するのか」を指します。ミッション(何を果たすのか)と近い位置にありますが、同じではありません。ミッションは会社が引き受ける役割で、パーパスはその手前にある理由です。 企業理念は総称です。何を含むかは会社によって違い、パーパスにあたるものを含んでいることもあれば、含んでいないこともあります。自社の企業理念がどちらなのかは、書かれているものを見ないと分かりません。 見分け方は単純です。掲げてある文のなかに、「何のために存在するのか」に答えている一文があるか。あるなら、それがパーパスにあたります。無いなら、含まれていません。パーパスを新しく掲げるかどうかの判断は、ここから始まります。 この整理は、企業理念とは。経営理念との違いと、作り直すときの判断と、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書きました。経営理念・社是・クレドとの呼び分けや、ミッション・ビジョン・バリューの違いは、そちらを見てください。 この記事で扱うのは、整理そのものではありません。整理されていない会社がパーパスを掲げると何が起きるか、のほうです。次の章がそれにあたります。 「意味がない」と言われる理由 図をタップすると、拡大して見られます パーパス経営については、意味がないという言い方も見かけます。 否定しません。そう見える状態が実際にあるからです。ただ、パーパスという考え方そのものに問題があって起きているというより、掲げ方のほうで起きている場合があります。 私たちが相談を受けるなかで見かけるのは、次のような経路です。 言葉が増えただけになる すでに企業理念がある会社が、パーパスを別に掲げる。この形です。 古いほうは消えません。額は掛かったまま、新しい言葉が増えます。社内には言葉が二つ残ることになります。 そうなると、どちらを参照するかで人が分かれます。前の理念で判断してきた人は前のほうを使い、あとから入った人は新しいほうを使う。判断の基準が二系統になるので、掲げる前より揃わなくなります。 新しく掲げたことで状態が悪くなる経路が、ここにあります。足す前に、すでにある言葉との関係を決めていないと、この形に入ります。 足すこと自体が問題なのではありません。関係を決めていれば、二つあっても働きます。上に置くのか、並べるのか、片方を畳むのか。決めないまま両方が残ることが問題です。 ビジョン・バリューと矛盾したまま並ぶ パーパスは社会に対する存在理由なので、書くと視野が広くなります。一方、ビジョンには期限があり、バリューは日々の判断に使われます。 三つが並ぶと、ぶつかる場面が出ます。社会に対して掲げたことと、今期の到達点が、同じ方向を向いていないことがあります。 ぶつかること自体は問題ではありません。問題は、どれを優先するかを決めていないことのほうです。決めていなければ、その場にいる人の立場で決まります。そして、決まらない状態が続くと、社員はどれも参照しなくなります。参照しても答えが出ないからです。 この状態を外から見ると、掲げてあるだけの言葉が増えた、という形に見えます。 外向きの言葉として作られる これはパーパスに特有です。 社会に対する存在理由なので、社外に向けて書く力が働きます。統合報告書、採用サイト、企業のメッセージ広告。先に外へ出て、社内の判断には降りてこない、ということが起きます。 社員から見ると、自分の仕事と接続しない言葉が増えた状態になります。外向けの発信では見かけるが、目の前の判断には使えない。「意味がない」という言い方は、この位置から出てきます。 外側の見え方を先に整えても、判断の仕方が変わらなければ元に戻ります。リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いた構造が、ここにも当てはまります。 そして、この状態をつくっているのは掲げた側だけではありません。掲げること自体を成果物にした提案が、この形を後押ししている面があります。策定して納品するところまでを仕事の範囲にしているなら、そのあと使われるかどうかは発注側の努力の問題になります。 大企業の型が合わない理由 図をタップすると、拡大して見られます 大企業の事例は、探せば出てきます。何を掲げているかを知るには、あの形が早いと思います。ただ、自社で決める段になると、そのまま当てはまらないことがあります。 書いてあることが間違っているからではありません。前提の条件が違うからです。 大企業でパーパスが要るのは、事業が複数あり、判断する人が離れた場所にいて、株主や投資家に対して説明する必要があるからです。統合報告書やESGの文脈で、外向きに説明する場が先にあります。掲げた言葉は、その場で使われます。 中小企業には、その必要が同じ形では来ません。説明する相手が違いますし、外向きに説明する場が先にあるわけでもありません。 そのため、大企業の型をそのまま持ってくると、外向きの言葉だけができます。使う場が用意されていないので、掲げたところで止まります。前の章の三つめが、この経路で起きます。 条件の違いは、ほかにもあります。大企業は判断する人と経営の距離が遠いので、言葉を介して基準を渡す必要があります。中小企業は距離が近いので、言葉がなくても基準が伝わっている場合があります。言葉が要る理由そのものが違います。 時間の条件も違います。大企業では、掲げてから社内に行き渡るまでに段階が要ります。部門があり、階層があり、伝える経路が長い。だから浸透のための施策が組まれます。中小企業では、その距離が短い代わりに、掲げた言葉が使われていないことがすぐ見えます。ごまかしが効かない、とも言えます。 お金の出どころも違います。大企業は投資家から預かった資金で事業をしているので、何のためにその事業をやるのかを外に説明する義務があります。オーナーが資本を持っている会社では、説明する相手が社内と取引先になります。説明する相手が違えば、言葉の書き方も、置く場所も変わります。 大企業向けの進め方をそのまま中小企業に持ち込んでいるなら、条件の違いを見ていないのは提案する側です。規模が違えば、工数を減らせば済むという話にはなりません。 中小企業でパーパスが効く場面 図をタップすると、拡大して見られます 要る会社と、要らない会社があります。効く場面のほうから挙げます。 一つめは、事業を広げるかどうかを決めるときです。声のかかった案件を受けるか、新しい領域に出るか。ミッション(何を果たすのか)で判断がつくなら、それで足ります。つかない場面が出てきたときに、その手前の理由が要ります。なぜこの会社がそれをやるのか。ここに答えがないと、条件のいい話から順に受けることになります。 断る理由としても使えます。条件は悪くないが、うちがやる理由がない。この言い方ができるかどうかで、事業の輪郭が決まります。 二つめは、採用のときです。規模でも待遇でも大企業と並べません。並べないところで選ばれる理由は、事業内容の外にあります。何のためにやっている会社なのかが、その理由になることがあります。 三つめは、事業承継のときです。引き継ぐ側にとって、なぜこの会社を続けるのかは避けて通れません。前の代から引き継いだ言葉をどう扱うかは企業理念の記事に書きましたが、こちらは続ける理由そのものの話です。 四つめは、取引先を選ぶときです。中小企業は取引が少数に集中しやすく、誰と組むかが会社の性格をつくります。条件だけで選んでいくと、気づいたときには自社の説明が取引先の説明になっていることがあります。何のためにやっている会社なのかがあると、組む相手を選ぶ基準になります。 どの場面にも共通しているのは、判断が分かれるところだということです。分かれないなら、いま要りません。事業が一つで、判断する人が数人で、迷っていない。この状態なら、バリュー(何を選ぶのか)が共有されていれば日々は進みます。 創業から間もない時期も、急いで決める場面ではありません。何のためにやるのかは、やってみた結果から出てくる部分があります。断った案件も引き受けた案件もまだ少ないうちは、集める材料そのものが足りません。 そして、中小企業のほうが有利な点があります。判断する人が近いので、掲げた言葉が判断に降りるまでの距離が短い。大企業で起きる「外向きだけになる」が、起きにくい構造です。掲げた言葉を、次の週の判断で使えます。 掲げる前に決めること 図をタップすると、拡大して見られます すでにある言葉との関係を、先に決めます。 足すのか、置き換えるのか、上のほうに置くのか。ここを決めないまま掲げると、言葉が二つ残る形に入ります。 足すなら、ぶつかったときにどちらを見るかも同時に決めます。決めていなければ、矛盾したまま並ぶ形に入ります。 決める前に、いま社内で使われている言葉を確かめます。企業理念があるか、ビジョンやバリューがあるか、それぞれ判断に使われているか。使われていないものが混ざっているなら、パーパスを足す前にそちらを片付けるほうが先です。言葉の数を増やしても、使われる数は増えません。 社外に出す時期も決めます。社内で使われる前に外へ出すと、外向きの言葉として固まります。先に社内で使ってみて、判断に使える形かを確かめてから出す。順番を変えるだけで避けられます。 そして、どの判断で使うかを、決める時点で一つ挙げておきます。次の投資判断でも、次の採用でもかまいません。使う場面が決まっていないと、掲げたところで作業が終わります。 どこまで大きく書くかも、先に決めます。 パーパスは社会に対する存在理由なので、書き始めると範囲が広がります。地球規模の課題、産業全体の未来。書けますが、自分の仕事と接続しない言葉になります。明日の判断に使えない大きさで書くと、掲げたところで止まります。 等身大の範囲で書くほうが、判断に使えます。自社が実際に触れている相手、実際に動かしている領域。そこから外に出ない範囲で書く。小さく見えても、使われる言葉のほうが経営に入ります。 集めるものもあります。これまで断ってきた案件、条件が良くても受けなかったもの、逆に条件が悪くても引き受けたもの。そこに、なぜこの会社が存在しているのかが出ています。白紙から社会的な意義を考えると、どこの会社でも書ける文になります。 掲げたあとに何を見るか 図をタップすると、拡大して見られます 数値目標は置きません。見るのは、判断のほうです。 一つめは、断った案件の理由です。受けた案件ではなく、断ったほうを見ます。受けた理由は後からでも言えますが、断る場面では基準が要ります。そこにその言葉が出てくるなら、使われています。 二つめは、予算や人の配分を変えたときです。なぜそちらに寄せたのかを、その言葉で説明できるか。説明が別の理由になっているなら、掲げた言葉は判断に入っていません。 三つめは、社内から質問が出るかどうかです。掲げた言葉について「これはこういう意味ですか」と聞かれるようになったら、読まれています。自分の仕事に当てはめようとした人が、当てはまらない箇所に気づいて聞いてくるからです。誰も聞いてこないなら、読まれていないか、読んでも自分には関係ないと判断されています。 質問が出ないことを、行き渡った証拠と取り違えないでください。反応がない状態と、揃っている状態は、外から見た形が似ています。 見る間隔も決めておきます。掲げた直後は変わりません。変わるのは、次に大きな判断が来たときです。判断の頻度が低い会社なら、半期に一度の確認でも足ります。 どれも、聞けば分かります。掲げた言葉が経営に入っているかどうかは、外に出した回数では測れません。 社内で使われる状態をつくる作業は、ここから先になります。インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に、進め方と、何を見れば効いたと分かるのかを書いています。 掲げないという選択もある 掲げないという判断も、選択肢に入ります。 事業が一つで、判断する人が数人で、迷っていないなら、いま決める必要はありません。掲げていないことと、考えていないことは別です。日々の判断に基準があるなら、それが言葉になっていないだけです。 必要になるのは、判断が分かれ始めたときです。同じ話に別々の答えが出るようになったら、そこが合図になります。 合図は、社外から来ることもあります。何の会社ですかと聞かれる場面が増えてきたなら、外から見た輪郭がぼやけています。事業が増えたときや、看板の商品が変わったときに起きます。 いま要らないと判断したなら、そう伝えるのが引き受ける側の仕事です。要るかどうかを判定せずに進めるほうが、作る量は増えます。私たちも、相談を受けてそう見えたときは、そうお伝えしています。 掲げると決めたなら、作業の重心は言葉を考えるところにはありません。すでにある言葉との関係と、使う場所を決めるところにあります。そう思っておくと、進み方が変わります。

コーポレートサイトのリニューアル。作り直す前に、何が変わったかを見る

作り直す前に、何が変わったか サイトを作り直すかどうかは、見た目が古くなったかどうかでは決まりません。会社の側で何が変わったかで決まります。事業や伝えたい相手が変わったなら作り直す。変わっていないなら、載っている情報を新しくするだけで足ります。この見分けがついていないまま制作会社を探すと、何を作るかが決まりません。 ご相談は「そろそろ古くなってきた」「ホームページを新しくしたい」という形で始まります。動機としては自然なものです。他社のサイトを見て、自分たちのものが見劣りすると感じる。更新が止まっていて、載っている情報が実態と合っていない。どれも、作り直しを考える理由になります。 きっかけになる場面も、だいたい似ています。採用を強めたい。営業で見せるものとしてサイトを使いたい。取引先や金融機関に見られる機会が増えた。社名やロゴを変えたので、そこに合わせたい。いずれも、外からの見られ方が変わる場面です。 ただ、そこから「作り直して何を実現したいのか」までは、その場で答えが出ないこともあります。起点が「見え方を良くしたい」という要望であることが多いためだと考えられます。 この記事では金額を書きません。制作会社の名前も出しません。書くのは、作り直すかどうかをどう見分けるかと、作り直すと決めたときに社内から出さなければならないものです。後者が、日程を左右します。 更新で足りるか、作り直すか 図をタップすると、拡大して見られます 更新と作り直しの違いは、手を入れる範囲ではありません。中身が変わったかどうかです。 更新 作り直し 変えるもの載っている情報構造と、何を載せるかの決め方 向いている状況中身は同じで、情報が古い事業や、伝えたい相手が変わった 社内で要るもの差し替える文章と写真中身を決め直す時間 事業が変わっていないのに作り直すと、同じ内容が新しい見た目で並びます。会社の説明も、事業の紹介も、書かれていることは前と同じ。変わったのは配置と色だけ、という状態です。それでも見た目は新しくなるので、しばらくは満足します。ただ、問い合わせの数や、採用の応募が動く理由にはなりません。 「作り直したのに、前と変わらなかった」という話は、この見分けを飛ばしたときに起きます。手を入れる範囲を先に決めて、載せる中身は今あるものをそのまま移す。すると、出来上がるのは同じ内容の新しい版です。作業としては終わっていますが、変えたかったものは変わっていません。 一方で、中身が変わっているなら、更新では追いつきません。事業が増えた、扱う相手が変わった、会社を分けた。こうした変化は、ページを1枚足して済む話ではなく、何をどの順で見せるかから決め直すことになります。既存のページに書き足していくと、会社の説明がどこにあるのか分からない状態になります。 道具としての不具合は、これとは別に扱います。スマートフォンで見づらい、社内で更新できない、表示が崩れる。これらは中身の話ではなく、作られた時期の話です。中身が変わっていなくても、道具として使えないなら作り直す理由になります。この場合、載せるものは今のまま移してよく、決め直す時間は要りません。 どちらなのかを言うのは、依頼する側の宿題ではありません。話を聞いた時点で、更新で足りるならそう言うのが、相談を受けた側の仕事です。作り直しを前提に話が進むなら、なぜ作り直しなのかを説明してもらってください。 作り直しても変わらないもの 図をタップすると、拡大して見られます 作り直すと解決する問題と、作り直しても残る問題があります。この2つを分けておくと、どこまでを作り直しに期待してよいかが決まります。 作り直すと変わるのは、見つけやすさと、伝わる順番です。探している情報にたどり着けない、事業の説明が分かりにくい、問い合わせのボタンが見当たらない。こうしたものは、構造を作り直せば改善します。 残るのは、何をしている会社なのかが定まっていない、という状態です。社内で説明が揃っていないと、サイトに書く文章も揃いません。書く人によって違うことが書かれ、読む側は結局よく分からない。これは配置の問題ではないので、作り直しても同じことが起きます。 価格で比べられる、採用で選ばれない、といった課題も同じ性質を持ちます。サイトが原因の一部であることはありますが、原因の全部ではありません。作り直して効く部分と、効かない部分があります。 もう一段、手前まで戻ります。サイトを見て問い合わせるかどうかを決める人は、そこに書いてあることを読んで判断します。書いてあることが変わらなければ、読んだあとの判断も変わりません。作り直しで変えられるのは、読んでもらえるところまでです。 同じ構造は、リブランディングでも起きます(リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くない)。手を入れる対象がロゴでもサイトでも、見た目の手前で決まっていないことは、見た目を変えても決まりません。 だからといって、決まるまで待つ必要はありません。作り直す過程で決めることもできます。ただし、それには時間がかかります。日程を引くときに、その時間が入っているかどうかで、進み方が変わります。 中身は社内にしかない 図をタップすると、拡大して見られます サイトを作り直すとき、制作会社が作れないものがあります。載せる中身です。 業界に定まった分け方があるわけではありません。私たちは、こう分けて考えています。 どちらが用意するか 構造と設計制作会社 デザイン制作会社 実装と公開制作会社 会社と事業の説明社内 実績・事例と、その掲載の許可社内 社員と職場の写真社内で手配 会社の数字(設立、拠点、規模)社内 採用の情報社内 問い合わせが来たあとの対応社内 制作会社が作れるのは、入れ物と見せ方です。文章を整えたり、写真を撮ったりする部分は引き受けられますが、元になる事実と、何を載せると決める判断は、社内から出ます。 とくに時間がかかるのは、許可が要るものです。実績を載せるなら、取引先に確認します。社員の顔を出すなら、本人の了解が要ります。断られることもあり、そのときは別の見せ方を考え直すことになります。この往復は、制作の進み具合とは関係なく発生します。 数字も、思ったより手間がかかります。設立年や拠点は分かりますが、社員数をどの時点のものにするか、関連会社を含めるか、といった判断が入ります。決める人を確かめているうちに時間が過ぎます。 「文章は制作会社に書いてもらう」という進め方もあります。取材を受けて、それをもとに書いてもらう形です。手間は減りますが、なくなるわけではありません。取材の時間を取ること、上がってきた原稿を読んで直すこと、事実の間違いを見つけること。書く作業は外に出せますが、正しいかどうかを判断する作業は社内に残ります。 誰が答えるかも決まっていないと、取材が進みません。事業の説明は社長が話せても、現場の仕事の中身は担当者しか知らない、ということが起きます。誰に何を聞くかを整理してから始めると、往復が減ります。 そして、何を載せるかを決めるには、その手前が決まっている必要があります。誰に何を約束する会社なのかです。ここが言葉になっていないと、載せるものを選ぶ基準がありません(ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方)。 なお、社内にしかないものを引き出すのは、依頼する側が自力でやることではありません。何を聞けば出てくるかを設計して、聞きにいくのが引き受けた側の仕事です。「材料をください」と待つだけなら、材料は出てきません。 止まるのは原稿と写真 制作が止まる場面は、デザインを決めたあとに来ます。 構造が決まり、見た目が決まると、次は中身を流し込む工程になります。ここで、入れる文章が出てきません。誰が書くかが決まっていない。書いた人と、決める人が違う。決める人が忙しくて確認が返ってこない。作業そのものは短くても、往復が入ると日程が延びます。 写真は、撮る日を決めるところから始まります。社員を集める日程、場所の準備、着るものの相談。撮ったあとに選ぶ工程もあります。制作の日程表には「写真」と1行で書かれますが、中身は複数の段取りです。 文章の作り方は、社内で書く、取材を受けて書いてもらう、いま載っているものを直して使う、のどれかになります。どれを選ぶかで、社内にかかる手間が変わります。いま載っているものを使う場合が軽く見えますが、書かれている内容が古ければ、直す作業は新しく書くのと変わりません。 過去の実績や事例も、集めるのに時間がかかります。どの案件を載せるか、写真は残っているか、先方の許可は取れるか。社内の別の部署に頼むことになれば、そちらの都合も入ります。 防ぎ方は、誰がいつまでに何を出すかを、制作の日程と一緒に決めておくことです。構造が決まってから考え始めると、その時点から往復が始まります。 もっとも、この段取りを依頼する側が組み立てるものではありません。何がいつ必要かを、着手の時点で一覧にして渡すのが、引き受けた側の仕事です。必要になった順に頼まれる進め方だと、社内で予定を立てられません。 進め方は、中身の準備から 図をタップすると、拡大して見られます 工程そのものは、探せば出てきます。ここで書くのは、中身の準備を工程のどこに置くかです。 制作会社を探す前にできることがあります。何が変わったかの整理と、いま載っているものの棚卸しです。前者は2章の見分けで、後者は今のサイトのページを一覧にして、残すもの、直すもの、消すものに分ける作業です。この2つは、相手が決まっていなくても社内だけで進みます。そして、これがあると見積もりの前提が揃います。 棚卸しのやり方は単純です。いまのサイトのページを一覧にして、それぞれに「残す」「直す」「消す」を付けます。付けられないページが出てきたら、そこは判断する材料が足りないところです。誰かに聞けば決まるのか、方針から決め直すのかを分けておきます。 探し始めてからでも間に合うものもあります。写真、細かい文章、採用ページの内容。これらは構造が決まってから作るほうが無駄になりません。先に全部そろえようとすると、使わないものまで作ることになります。 工程の中身そのものは、リブランディングの記事に詳しく書いています(リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミング)。サイトの作り直しでも、決める順番は同じです。 依頼先をどう選ぶかは、この記事の範囲を超えます。会社の型から選ぶ話はブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に書いています。 社内の体制も、この段階で決めます。窓口を誰にするか、決める人が誰か、確認にどれだけ時間を見るか。窓口が複数いると、制作側に届く指示が食い違います。決める人が打ち合わせに出ていないと、持ち帰って伝えることになり、そのあいだに意図が薄まります。 そして、中身の準備を工程に組み込んで日程を引くのは、依頼する側の役目ではありません。進行を預かる側が、社内の作業も含めた日程を出すところまでが仕事です。制作側の工程だけが書かれた日程表は、実際には守れません。 いまのサイトの蓄積をどう扱うか 図をタップすると、拡大して見られます いま動いているサイトには、これまでの蓄積があります。作り直すときに、そこをどう扱うかを決めておきます。 ドメインは引き継げます。変える理由がなければ、そのまま使うのが素直です。社名が変わった、別の名前で事業を始める、といった事情があるときだけ、変更を検討します。 気をつけるのは、ページの住所です。作り直すと、各ページのURLが変わることがあります。変わると、これまでそのページに来ていた入口が切れることがあります。検索から来ていたページ、他社のサイトから紹介されていたページ、社内の資料に書いてあるページ。どれも、住所が変わると届かなくなります。 だから、作り直す前に把握しておく項目があります。いまどのページが見られているか。どこから来ているか。外部から紹介されているページはあるか。これが分かっていれば、住所を変えないという判断も、変えたうえで転送するという判断もできます。分からないまま作り直すと、切れたことにも気づきません。 記録が残っていない場合もあります。計測の仕組みを入れていない、担当者が変わって見方が分からない、といった状態です。そのときは、いまから記録を取り始めるという選択もあります。作り直しの検討には時間がかかるので、そのあいだの分だけでも材料になります。 過去のお知らせや実績も、消すか残すかを決めます。古い情報が残っているのは良くないと考えて、まとめて消すことがあります。ただ、そのページが読まれていたなら、消した分だけ入口が減ります。古いかどうかと、読まれているかどうかは別です。 具体的な設定の方法は、この記事では扱いません。制作会社が引き受ける作業です。書いておきたいのは、確かめておく項目があるということと、それを作り直したあとに確かめるのでは遅いということです。 そして、いまのサイトのどこが見られているかを調べて示すのは、依頼する側が用意するものではありません。作り直す前にそれを出すのが、引き受けた側の仕事です。調べずに作り直せば、何が失われたかを誰も測れません。 何が変わったかから始める サイトを作り直すかどうかは、見た目ではなく、会社の側で何が変わったかで決まります。 中身が変わっていないなら、載っている情報を新しくするだけで足ります。道具として使えなくなっているなら、中身はそのままで作り直します。事業や伝えたい相手が変わったなら、何を載せるかから決め直します。 そして、決め直すことになったとき、その中身を出せるのは社内だけです。制作会社が作れるのは入れ物と見せ方で、そこに入るものは会社の中にしかありません。日程が延びるとすれば、そこが理由になります。 作り直すと決めたあとに社内でやることは、この記事に書いたとおり先に見えています。見えていれば、日程に入れられます。 決まっていないなら、決めるところから一緒にやってくれる相手を選ぶ。それも、ひとつの選び方です。

ロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わる

「ロゴを1つ」では頼めない ロゴ制作を依頼するとき、先に決めておくとよいのは金額ではありません。何が納品されるか、です。ロゴは1点の絵ではなく、置く場所ごとに形が要ります。縦組みと横組み、1色で刷るとき、小さく使うとき。どこまで作ってもらうかが決まっていなければ、見積もりを並べても比べられません。 頼む相手を見つけるだけなら、いまは早く済みます。デザイナーを探せる場も、制作会社の一覧も揃っています。相手を見つける段で困ることは、以前より少なくなりました。 詰まるのは、その次です。見積もりが並んだとき、金額の差が何の差なのか分からない。安いほうは何かが足りない気がするけれど、何が足りないのかを言えない。その状態で選ぶと、あとから足りないものが出てきます。 金額そのものを調べても、この問いは解けません。同じ「ロゴ制作」という名前で、中身の違うものが売られているためです。中身が違うものの値段を並べても、高いか安いかは決まりません。 この記事では金額を書きません。他社の名前も出しません。書くのは、ロゴを頼むときに何が納品の対象になるのかと、それを決めておくと何が変わるかです。読み終えたときに、手元の見積もりを見る目が変わっていれば足ります。 ロゴだけで足りるかどうか 図をタップすると、拡大して見られます ロゴだけを頼んで済む場合と、その手前に決めることが残っている場合があります。どちらなのかは、依頼する前に自分で見分けられます。 ロゴだけで足りるのは、使い道がはっきりしているときです。社名が変わったので新しい名前の形が要る。展示会に間に合わせたい。名刺と看板を作り直すことが決まっている。こういうときは、作るものが具体的で、判断の基準も社内にあります。迷わず進みます。 足りないことがあるのは、ロゴを変えれば何かが動くと期待しているときです。問い合わせが減った、採用で選ばれない、値段で比べられる。こうした課題の答えがロゴだとは限りません。ロゴを新しくしても、伝える中身が決まっていなければ、見た目が変わっただけで終わります。 もうひとつ、事業の説明が社内で揃っていない場合があります。何をしている会社なのかを、役員と現場で違うふうに説明している。この状態でロゴを作ると、案を見ても判断できません。何を表すべきかが定まっていないからです。 見分け方は簡単で、「なぜいま作るのか」を一文で言えるかどうかです。言えるなら、ロゴだけの依頼で進みます。言えないなら、そこを決める時間を先に取ったほうが、結果として早く終わります。 私たちがこの考え方をどう持っているかは、別の記事に書いています(なぜ私たちは、ブランディングも空間も映像も分けないのか)。そこにも書いたとおり、期限や事情があるときは、その部分だけを引き受けることもあります。そのときも、それが全体のどこに当たるものかだけは共有させてください。あとから辻褄を合わせるほうが、手間が増えるためです。 なお、どちらなのかを見立てて伝えるのは、依頼する側の宿題ではありません。話を聞いた時点で、ロゴだけで足りるかどうかを言うのは、引き受ける側の仕事です。 納品されるものは1点ではない 図をタップすると、拡大して見られます ロゴを作ってもらうとき、実際に受け取るものは複数あります。ここが見積もりの差になります。 業界に定まった分け方があるわけではありません。私たちは、こう並べて考えています。 何が要るか 組み方縦に置くとき、横に置くとき、正方形に収めるとき 色フルカラー、1色、白地に抜くとき 大きさ名刺に載る大きさで潰れないか データどの形式で受け取り、誰が開けるか 使い方の決まり余白、小さくできる限界、してはいけない使い方 商標出願するのか、しないのか 組み方から見ていきます。横長の看板と、縦長ののぼりでは、同じ形は置けません。正方形に収める場面も出てきます。SNSのアイコンがそうです。最初に横組みだけ受け取っていると、縦が必要になったときに、また依頼することになります。そのときに同じ人に頼めるとは限りません。 色は、フルカラーだけでは足りません。伝票や領収書は1色で刷ることがあります。写真の上に重ねるなら、白く抜いた版が要ります。フルカラーの版を機械的に1色へ変換すると、線がつぶれたり、濃さの違いが消えたりします。1色版は、変換ではなく作り直すものだと考えておくほうが安全です。 大きさは、小さいほうが問題になります。名刺の隅や、商品の裏の小さな表示。大きく見ているときはきれいでも、縮めると細い線が消えます。小さいとき用に、線を太くした版を別に作ることがあります。どこまで小さくする予定があるかは、依頼のときに伝えておく項目です。 データは、形式と、開ける人の話です。拡大しても粗くならない形式で受け取れているか。印刷会社に渡せる形になっているか。社内の人が資料に貼れる形も要ります。制作の現場で使う形式と、社内の誰もが使える形式は別で、両方が要ります。 使い方の決まりは、渡されないことがあります。ロゴのまわりにどれだけ余白を取るか。どこまで小さくしてよいか。色を勝手に変えてよいか。文字と並べるときの位置はどうするか。決まりがないと、社内の資料や外注先で少しずつ形が崩れていきます。崩れは一度に起きるのではなく、少しずつ進みます。 商標は、デザインとは別の話です。作ったロゴを登録するかどうか、登録するなら誰が手続きするか。制作の見積もりに含まれることも、含まれないこともあります。含まれていないこと自体は問題ではなく、含まれていないと知らないまま進むことが問題になります。 「ロゴを1つ作ってください」という依頼は、この表のどこまでを含むかを言っていない状態です。含まれるかどうかが決まらないまま金額だけが出てくると、その金額が何に対するものか分かりません。 相場が答えにくい理由 図をタップすると、拡大して見られます ロゴ制作の相場を調べても幅が広いのは、値付けが不揃いだからではありません。売っているものが違うからです。 前の章の表を思い出してください。組み方を1種類だけ受け取る依頼と、6項目すべてを受け取る依頼では、同じ「ロゴ制作」という名前でも別のものを買っています。金額を並べて比べるというのは、中身が同じものを比べるという意味です。中身が違えば、その比較は成り立ちません。 含まれるかどうかで変わるものは、表の6項目のほかにもあります。 最初に見せてもらう案が何案か 案を絞ったあと、何回まで直せるか 打ち合わせが何回あるか 著作権をこちらへ移すのか、使わせてもらうのか どれも、あとから追加すると別料金の話になります。先に決めておけば追加になりません。 だから見積もりを受け取ったときに見るのは、金額の数字ではありません。表の6項目と、この4つに、どこまで丸が付いているかです。丸の付き方が同じ見積もりが2枚並んで、はじめて金額を比べられます。 丸の付き方が違うまま安いほうを選ぶと、進めてから足りないものが出てきます。そのときに追加すると、はじめから含めておいた場合と変わらないか、それ以上になることがあります。作る量が同じでも、途中から足すほうが手戻りが生まれるためです。 見積もりを1枚しか取らない場合も、やることは同じです。比べる相手がいなくても、その1枚に何が含まれているかは確かめられます。含まれていない項目が見つかったら、それを含めた場合はどうなるかを聞く。それだけで、金額の意味が分かるようになります。 もっとも、何が含まれるかを一覧にして先に見せるのは、依頼する側が求めて引き出すものではありません。聞かれる前に範囲を書いて出すのが、見積もりを出す側の仕事です。範囲の書かれていない見積もりが並んでいるとき、比べられないのは受け取った側の落ち度ではありません。 権利とデータで、あとから困る ロゴは作って終わりではなく、そのあと何年も使います。困りごとは、作っている最中ではなく、使っている途中で出てきます。 著作権をどう扱ったかが、ひとつめです。作ったものを譲り受けたのか、使わせてもらっている状態なのか。譲り受けていれば、あとで自分たちの判断で手を入れられます。使わせてもらっているだけだと、変更や別用途への転用に相手の許可が要ることがあります。どちらが良いという話ではなく、どちらなのかを知っておく必要があります。見積もりの段階で決まっていることなので、契約の前に確かめられます。 元のデータを受け取れるかが、ふたつめです。書き出した画像だけを受け取っていると、あとから少し直すこともできません。作った人に頼み直すことになりますが、時間が経つと連絡がつかないこともあります。受け取ったデータを、社内のどこに置いて誰が管理するかまで決めておくと、探す手間がなくなります。 商標が、みっつめです。登録していないと、同じような形を別の会社が先に登録することがあります。登録するかどうかは事業の規模や使い方によりますが、判断するには、そういう選択肢があると知っている必要があります。手続きを誰がやるのかも決めておくところです。制作を引き受けた相手が扱うとは限りません。 誰が作ったかを記録しておくことが、よっつめです。年月が経つと、社内で経緯を知る人がいなくなります。権利の確認をしようにも、相手が分からないと確かめようがありません。これは相手が誰であっても同じで、記録の問題です。契約書と、やりとりの記録を一緒に残しておけば足ります。 ここで挙げた4つに、法律の細かい話は含めていません。何が必要かは事業や使い方で変わるので、この記事では踏み込みません。書いておきたいのは、確かめる項目があるということと、それを制作が終わったあとに確かめるのでは遅いということです。 そして、これも依頼する側が調べて聞き出すものではありません。権利とデータをどう扱うかを、契約を交わす前に説明しておくのが、引き受ける側の仕事です。 依頼する前に決めておくこと 図をタップすると、拡大して見られます ここまでを、依頼の前にやることへ落とします。持っていくものではなく、決めておくことです。 何のために作るか。社名が変わった、事業が増えた、採用で使う、商品を出す。理由を一文で書けるようにしておきます。これが決まっていないと、案が出たときに選べません。前の章までの話も、ここが決まっていることが前提になっています。 どこで使うか。使う場所を書き出します。名刺、看板、伝票、Webサイト、SNSのアイコン、商品、封筒、作業着。書き出すと、3章の表がひとりでに埋まります。看板があるなら横組みが要る。伝票があるなら1色版が要る。アイコンがあるなら正方形が要る。使う場所の一覧が、そのまま納品物の一覧になります。いま思いつく場所だけで構いません。抜けは打ち合わせで埋まります。 いつまでに要るか。外から決まっている期限があるなら、先に伝えます。展示会や、登記の日付や、商品の発売日。期限があること自体は問題ではなく、伝わっていないことが問題になります。伝えてあれば、範囲を先に絞るという相談ができます。 社内で誰が決めるか。案を見て決める人を、依頼の前に決めておきます。決める人が打ち合わせに出ていないと、持ち帰って伝言することになり、そのあいだに意図が薄まります。決める人が複数いるなら、意見が割れたときにどうするかも決めておきます。 この4つを1枚の紙にまとめておくと、最初の打ち合わせで納品物の範囲まで話が進みます。決まっていなければ、そこを決めるところから始まります。決まっていないこと自体は、遅れでも準備不足でもありません。 依頼先をどう選ぶかは、この記事の範囲を超えます。会社の型から選ぶ話はブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に、どこまでを任せるかで選ぶ話はパッケージデザイン会社の選び方。依頼できる範囲と、決めておく条件に書いています。ロゴでも考え方は同じです。 なお、決まっていないものを「決めてから来てください」と返さずに、その場から一緒に決めていくのが、引き受ける側の仕事です。4つが埋まっていない状態で相談に行って問題ありません。 案が並んだとき、何で選ぶか 依頼したあとに必ず来る場面があります。案が並んで、どれにするかを決める場面です。 このとき選ぶ基準がないと、決め方は好みになります。好みで決めても進みますが、あとで社内から「なぜこれにしたのか」と聞かれたときに答えられません。結果として、決められる立場の人の意見で決まることになります。決まったこと自体は悪くないのですが、その決め方だと、次に何かを決めるときにも同じことが起きます。 基準は、案が出てから作るものではありません。前の章で決めた「何のために作るか」と「どこで使うか」が、そのまま基準になります。採用で使うと決めていたなら、採用の場面で効くのはどれかを見ます。小さく使う場面が多いなら、縮めたときに残るのはどれかを見ます。基準があると、案の優劣ではなく、目的への近さで話ができます。 社内の何人に見せるかも、先に決めておく項目です。見せる人を増やすほど意見は割れます。基準を共有しないまま人数だけ増やすと、多数決に近い決め方になります。 私たちのロゴも、その順番で決めました。多様性・協同性・創造性という言葉を先に置いて、そこから形と色を決めています(LOGO DESIGN|INTERPLAYのロゴの背景にある哲学)。先に言葉があると、案を見比べるときに、好き嫌いではない話ができます。 その言葉自体をどう決めるかは、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書いています。 そして、案を出すときに選ぶ基準も一緒に出すのが、案を出す側の仕事です。「どれがお好みですか」とだけ聞かれたなら、それは基準の共有が飛ばされています。 使われ方まで含めて頼む ロゴを頼むというのは、絵を1点買うことではありません。どこで、どう使われるかまで含めて決めることです。 相場が調べても分からないのは、値段が隠されているからではなく、比べる前に中身が揃っていないからです。何が納品されるかが決まれば、見積もりは比べられるようになります。金額の話は、そのあとで足ります。 決まっていないなら、そこから一緒に決められる相手を選ぶ。それも、ひとつの選び方です。

企業理念とは。経営理念との違いと、作り直すときの判断

企業理念とは、会社が何を大事にし、何のために事業を続けるのかを言葉にしたものです。ミッションやビジョン、バリューといった要素のいくつかをまとめて、こう呼びます。何を含むかは、会社によって違います。 この記事では、経営理念や社是との呼び分けと、もう一つ手前にある分岐を扱います。すでにある言葉を作り直すのか、何もないところから作るのか。この二つは、やることが別になります。 企業理念とは何か 図をタップすると、拡大して見られます 定義そのものより、「総称である」という性質のほうが実務に効いてきます。 会社ごとに、この語が指す範囲が違います。額に入っている一文だけを指している会社があります。その一文と行動指針とスローガンをまとめて指している会社もあります。経営計画の冒頭に書かれた方針まで含めている場合もあります。 そのため、社内で「理念」と言ったときに、全員が同じものを思い浮かべているとは限りません。創業から居る人は創業者の言葉を思い浮かべ、あとから入った人は入社時に配られた冊子を思い浮かべる。会話は成立しているのに、指しているものがずれたまま進みます。 社外と話すときも同じです。「理念を見直したい」と伝えても、相手が何を指していると受け取ったかは分かりません。範囲を確かめないまま見積もりが出れば、想定している作業量が食い違います。あとから増えたように見えるものが、最初から同じ話ではなかった、ということが起きます。 私たちは、いくつかの要素をまとめた総称として使っています。この記事でも、その意味で書いています。業界で決まった定義があるわけではないので、読むときは自社での使い方に置き換えてください。 経営理念・社是との違い 図をタップすると、拡大して見られます 呼び分けている会社があります。企業理念、経営理念、社是、社訓、クレド、綱領、信条。どれも近い場所にある言葉です。 どう分けられているか 説明として置かれることがあるのは、次のような分け方です。 語 説明されることのある内容 企業理念会社の存在に関わる、根本の考え 経営理念その考えにもとづいて、どう経営するかの方針 社是・社訓会社が是とすること。創業期に定められたもの クレド社員一人ひとりが持つ、行動の信条 この分け方は筋が通っています。上から下へ、抽象から具体へ並んでいます。候補を整理するには、この形が分かりやすいと思います。 ただし、呼び分け方が会社ごとに違います そのとおりに使っている会社ばかりではありません。 「経営理念」が最上位に置かれていて、その上に企業理念にあたるものがない会社があります。企業理念と経営理念が同じものを指していて、書類によって呼び方が変わっているだけ、という場合もあります。社是だけがあって、他の語を使っていない会社もあります。 つまり、語の定義から入っても、自社の話には接続しません。分類の表を見て「うちの言葉はどれに当たるのか」と考えても、当てはめる前提のほうが成立していないことがあります。 先に確かめるのは、その会社で、その語が何を指しているかです。書類に出てくる語を並べて、それぞれが何を指しているかを埋めていく。重複していたら、どちらかを畳む。空いていたら、要るかどうかをそこで考える。定義を調べるより、この作業のほうが早く進みます。 並べる先は決まっています。定款、会社案内、採用サイト、社内規程、朝礼で読んでいるもの、事務所に掲示してあるもの。書かれた場所ごとに違う語が使われていることがあります。採用サイトでは「ビジョン」、社内規程では「社是」、会社案内では「企業理念」。同じ会社なのに、揃っていない状態です。 指しているものが同じなら、どれか一つに寄せます。違うものを指しているなら、それぞれが要るかどうかを考えます。この棚卸しは、外部に頼まなくてもできます。むしろ社内の人がやったほうが早く終わります。どこに何が書いてあるかを知っているからです。 向きが違うものが混ざります もう一つ、混ざりやすいものがあります。ブランドコンセプトです。 ここまでに挙げた語は、どれも内側を向いています。会社が何を大事にするか、どう経営するか、社員がどう振る舞うか。対してブランドコンセプトは外を向いています。誰に何を約束するか、という言葉です。 向きが違うので、決める場も、材料も、決める人も変わります。混ざったまま進めると、社外への約束を、社内の合意を取る場で決めることになります。詳しくはブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書いています。 MVVとの関係 企業理念という総称の中に、ミッション・ビジョン・バリューが入っていることがあります。三つに分けて持っている会社もあれば、一つの文にまとめている会社もあります。 どちらでも成立します。ただ、分けて持つと、使う場面ごとに取り出せます。事業を増やすかどうかを決めるとき、人と予算を配るとき、その場で選ぶとき。判断の種類が違うので、参照する言葉も分かれるという考え方です。 一つの文にまとめている場合は、その文が判断に使われているかを見ます。使われているなら、分ける必要はありません。使われていないなら、分けていないことが原因とは限らないので、そこを先に確かめます。 分けたほうがいいかどうかの目安はあります。その一文が、事業を増やすかどうかの判断にも、その場で二案から選ぶ判断にも使えているか。片方にしか使えていないなら、分けたほうが取り出しやすくなります。両方に使えているなら、一文のままで足ります。 三つの違いや、三つがぶつかったときにどうするかは、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書きました。パーパスや行動指針との関係も、そちらで整理しています。 理念がある場合と、ない場合 ここから先が、この記事の本題です。 何もないところから作る場合と、すでに何かがある場合とでは、やることが別になります。作り方の手順は、後者にはそのまま当てはまりません。 すでにある言葉は、目立つ形をしているとは限りません。創業者が言っていたこと、朝礼で読むもの、額に入っているもの、採用サイトに載っているだけの一文、会社案内の最初のページ。どれも「ある」に入ります。 「ある」と「使われている」は別です 掲げてあるが、誰も参照していない。この状態も「ある」です。ないことにして新しく作ると、社内には二つの言葉が残ります。古いほうは消えません。額は外さないまま、新しい言葉が増えるだけになります。 二つ残ると、どちらを参照するかで人が分かれます。古い言葉で判断してきた人は古いほうを使い、あとから入った人は新しいほうを使う。判断の基準が二系統になるので、決める前より揃わなくなります。新しく作ったことで状態が悪くなるのは、この経路です。 判定は、一つの問いで足ります。その言葉が、いま何かの判断に使われているか。 使われているなら、作業は作り直しではありません。すでに動いているものを、言葉にし直すだけで足ります。ここで中身を変えると、機能しているものを止めることになります。 使われていないなら、次を見分けます。中身が事業に合っていないのか、言い方が古いだけなのか。ここを混ぜると、直さなくていいものまで直します。 本当に何もない場合は、ゼロから作ることになります。ただ、書かれていないだけで、判断の基準は動いています。それを集めるところから始めます。 見分けるために聞くこと 使われているかどうかは、聞けば分かります。 何人かに、直近で迷った判断を挙げてもらう。そのときに何を基準にしたかを聞く。そこで理念の言葉が出てくるなら、使われています。出てこないまま「理念は大事だと思います」という答えが返るなら、掲げてある状態です。 理念を覚えているかどうかを聞いても、この判定はできません。覚えていることと、使っていることは別だからです。聞くのは、判断のほうです。 すでにある言葉を見ないまま、新しく作る提案から入るなら、そこは引き受けた側の問題です。何があるかを確かめるのは、提案の前段にあたります。ここを飛ばした提案は、作る量が多いほど見栄えがしますが、社内に使われない言葉を増やします。 引き継いだ言葉を変えていいか 図をタップすると、拡大して見られます 代替わり、事業承継、経営陣の交代。そのタイミングで出てくる問いです。 創業者の言葉が残っている。事業は当時と変わってきている。書き換えるべきなのか、残すべきなのか。 抵抗の中身を分ける 変えることに社内から抵抗が出たとき、それが内容への反対とは限りません。創業者への敬意と、言葉が現在の事業に合っているかどうかが、混ざったまま出てきます。 混ざったままだと、議論が進みません。敬意の話は否定できませんし、否定する必要もありません。分けるのは、敬意を軽く扱うためではなく、言葉の是非を別に置いて見るためです。 分け方は単純です。「この言葉を大事にしたい」と「この言葉はいまの事業を説明できている」を、別の問いとして立てる。前者に全員が頷いても、後者で意見が割れるなら、そこが論点です。 事業が変わったのか、言い方が古いだけか 見分ける問いは、これです。 事業が変わったのなら、中身を変える必要があります。扱う商材が変わった、客層が変わった、提供する範囲が変わった。当時の言葉が指していた対象が、いまは存在しないという状態です。 事業は同じで、言い回しが古いだけなら、言葉を直せば足ります。ここで中身まで変えると、続いてきたものが切れます。表現が古いことと、考えが古いことは別です。当時の言い方で書かれているだけで、指している中身はいまも動いている、ということがあります。 そして、全部残すか全部変えるかの二択にしません。残す部分と、書き直す部分を分けます。創業者の言葉のうち、いま判断に使われている部分は残す。使われなくなった部分は、なぜ使われなくなったかを見てから決める。事業が変わったから使われないのか、言い方が届かなくなったから使われないのかで、扱いが変わります。 変えると決めたあと 変えると決めたら、言葉より先に、なぜ変えるのかを社内に言います。 新しい言葉だけが先に出ると、変わったことしか伝わりません。前の言葉を否定されたと受け取る人が出ます。とくに、その言葉を使って判断してきた人ほど、そう受け取ります。 理由を先に置くと、変える範囲も同時に伝わります。何を残したのかが分かる形になっていれば、切れたのではなく、続いていると受け取られます。 外側だけを作り直しても、変わらないものを見つけていなければ元に戻ります。リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いた構造が、そのまま当てはまります。 残すのか変えるのかを決めるための材料を並べるのは、引き受けた側の仕事です。創業者の言葉をどう扱うかを、発注側の心情の問題として置いたままにするなら、判断できる形にしていないということになります。 ゼロから作るときに決めること 図をタップすると、拡大して見られます 書き始める前に決めることがあります。 一つめは、誰に向けた言葉かです。社内に向けるのか、社外に向けるのか。両方を一つの文で兼ねようとすると、どちらでも使えないものになります。社内向けには判断に使える具体性が要り、社外向けには短く覚えられることが要ります。求めるものが逆を向いています。 二つめは、どこで使うかです。会議で参照するのか、採用の場で示すのか、契約前の説明で出すのか。使う場所が決まると、長さと語彙が決まります。決めずに書くと、どこにでも置ける代わりに、どこでも浮く文になります。 三つめは、いくつの要素で持つかです。一文で持つのか、複数に分けるのか。分ければ使い分けができますが、その分だけ決める作業が増えます。会社の段階に対して、要る数だけにします。 決める前に集めるものもあります。これまで続けてきたこと、断ってきた仕事、価格を下げてでも守ったこと、揉めたときに最後に通した判断。書かれていないだけで、判断の基準はすでに動いています。 白紙から考えると、どこの会社でも書ける文が出てきます。社会貢献、価値提供、顧客第一。書けますが、判断には使えません。集めたものを見てから書くと、書ける言葉が変わります。 書いたあとに、一つ試します。その言葉を使って、仕事を断る理由が書けるか。断る場面は、基準がないと決められない場面です。書けるなら、判断に使える形になっています。書けないなら、まだ足りていません。読んで気持ちのいい文と、判断に使える文は、同じとは限りません。 社外向けの短さと社内向けの具体性を両方ほしい場合は、一つの文で兼ねずに二段で持ちます。外に出す一文と、その一文が何を意味するかを社内向けに書いた補足。分けて持てば、どちらの要求も満たせますし、外に出すのは片方だけで済みます。 誰が決めるのか 創業者が健在かどうかで、やることが変わります。 健在なら、その人が持っている言葉が材料になります。ただし決めるのは現経営陣です。材料を出す人と決める人が同じだと、引き継いだことになりません。創業者に「決めてください」と渡した時点で、代替わりの意味が消えます。 いない場合、残っているのは書かれたものだけです。ただ、書かれていないものは社員の記憶のなかにあります。何を言われたか、どういうときに止められたか、どの案件を断ったか。記録には出てきませんが、聞けば出てきます。 聞く相手は、長く居る人だけではありません。あとから入った人は、その会社の言い方を外から見た経験を持っています。何が分かりにくかったか、入る前と入ったあとで印象がどう違ったか。作り直すときには、この視点のほうが役に立つことがあります。 聞く順番も決めておきます。先に経営から聞くと、あとから聞いた社員は経営の言葉に寄せて答えます。先に社員から聞くと、経営が自分の考えを言いにくくなる場面が出ます。どちらを先にするかで、集まる材料が変わります。引き継ぎが目的なら、書かれていないものを先に集めるほうが向いています。 言葉を引き出す場を設計するのは、引き受けた側の仕事です。「思いを聞かせてください」とだけ言って出てきたものを材料にしているなら、聞き方を決めていないということになります。当たり前になっていることほど、開いた問いでは出てきません。個別に当てて、返ってきた言葉をそのまま使います。言い換えると、その人の言葉ではなくなります。 まず、何があるかを見る 図をタップすると、拡大して見られます 企業理念という語は総称なので、定義を調べても自社の答えは出ません。出るのは、その語で何を指しているかを社内で確かめたときです。 そして、作るのか作り直すのかで、やることが分かれます。この分岐を先に決めると、そのあとの作業が決まります。決めるには、いま社内に何があって、そのうちどれが使われているかを見るしかありません。 見て、何もなければ作ります。あって使われていれば、言葉にし直します。あって使われていなければ、中身が合っていないのか、言い方が古いだけなのかを見分けます。順番としては、それだけです。 確かめるのが先、決めるのが次、使う場所を決めるのがそのあと。飛ばしても言葉はできますが、できた言葉が社内のどこにも接続しません。掲げるところまでは進んで、そこで止まります。 決めた言葉が社内で使われる状態をつくる作業は、ここから先になります。インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に、進め方と、何を見れば効いたと分かるのかを書いています。

ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのか

ブランドガイドラインとは、ブランドをどう見せ、どう伝えるかの決めごとをまとめたものです。ロゴの使い方だけを指すものではありません。 使うのは、社内の担当者と、社外の制作者です。決めごとが共有されていれば、誰が作っても同じ会社のものに見えます。共有されていなければ、作る人の数だけ見え方が増えていきます。 この記事では、何を書き、何を書かないかをお伝えします。そのうえで、作ったあとに何が起きるかを書きます。 ブランドガイドラインとは何か 呼び名はいくつもあります。ブランドブック、デザインマニュアル、レギュレーション、VIマニュアル。会社によって呼び方が違うだけで、指しているものは近いところにあります。 私たちは、これを「決めごとの集合」として捉えています。 この捉え方が、あとの章で効いてきます。ひとつの言葉ではなく、独立した決めごとがいくつも束ねられたもの。だから、束のなかの一部だけが守られたり、逆に一部だけが忘れられたりします。全体が生きているか死んでいるか、という見方では実態に合いません。 コンセプトのような一文とは、そこが違います。一文は、意味が分からなくなれば使えなくなります。そこで止まるので、止まったことに気づけます。決めごとの集合は、意味が分からなくなっても、書いてある通りに実行することができてしまいます。この差が、壊れ方の違いを生みます。 もうひとつ、ガイドラインは判断を減らすための道具です。毎回ゼロから考えなくて済むように、先に決めておく。だから、判断が要らなくなること自体は目的どおりです。目的を果たしている状態と、機能していない状態が、外からは同じに見える。ここが、この道具の扱いにくいところです。 何を書くか 図をタップすると、拡大して見られます 中身は四つに分けられます。上の三つはよく見かけますが、四つめが抜けていることがあります。 区分 中身 見え方ロゴ、色、書体、写真、余白 言い方呼称、文章の調子、使わない言い回し 使う場面適用範囲、優先順位、例外の扱い 判断のしかた迷ったとき誰に聞くか 見え方は、想像しやすい部分です。ロゴを小さく使うときの下限、余白の取り方、使ってよい色の組み合わせ。数字で書けるので、決めやすくもあります。ガイドラインと聞いて思い浮かぶのは、この範囲です。 言い方は、見え方より抜けやすい部分です。会社の呼び方(正式名称か略称か)、文末の調子、業界用語を使うかどうか、社名を英語で書くか日本語で書くか。制作物の印象は、書体より文章で決まることがあります。同じデザインでも、載っている文章の調子が違えば、別の会社のものに見えます。 使う場面は、範囲の話です。すべてに同じ強さで適用するのか、社外向けだけ厳しくするのか。優先順位を決めておかないと、名刺と展示会のブースに同じ厳密さを求めることになります。守れない決めごとが混ざると、守れる決めごとまで軽く扱われます。 四つめの「判断のしかた」が、この記事の中心につながります。書いていないことが起きたとき、誰に聞くのか。ここが決まっていないガイドラインは、書いてある範囲の外で止まります。そして、実務で起きることは、書いてある範囲の外に出ます。想定していた通りの場面だけが来ることは、まずありません。 何を書かないか 図をタップすると、拡大して見られます 厚くすると読まれなくなる。これはよく言われることで、その通りです。ただ、そこから先の「では何を削るのか」は、あまり具体的に書かれていません。 削ってよいものが三つあります。 ひとつめは、一度しか起きない事例への個別対応です。ある年の展示会でこう処理した、という記録は、次に同じことが起きるとは限りません。本体に混ぜると分量が増え続けるので、事例集として別に持つほうが本体を軽く保てます。 ふたつめは、現場が判断すべき粒度のことです。写真に写る小物の色まで決めると、決めた人の想定外の状況で誰も動けなくなります。細かく決めるほど守られる、とはなりません。細かすぎる決めごとは、守れないという理由で無視され、そのとき隣にある重要な決めごとも一緒に無視されます。 みっつめは、決めた人の好みです。根拠を説明できない決めごとは、聞かれたときに答えられません。答えられない決めごとは、次の章で書く壊れ方の材料になります。 逆に、削ってはいけないものがあります。「なぜそう決めたか」の理由です。 項目を減らすとき、説明が先に落とされます。結論だけのほうが短いからです。ただ、理由が落ちた決めごとは、受け取った人には根拠のない指示として届きます。従うことはできますが、応用はできません。項目を削って、理由を残す。この順序が逆になっていることがあります。 なお、何を削るかを発注した側だけで決める必要はありません。どれが本体でどれが事例かを仕分ける材料を出すのは、作った側の仕事です。分量が多いという相談を受けたときに、削る候補とその根拠を示せるかどうかが分かれ目になります。 ガイドラインは、2通りに壊れる 図をタップすると、拡大して見られます 使われなくなる形と、使われているのに中身が失われる形。方向が逆なので、対処も逆になります。 無視される 作ったのに、その通りに作られていない状態です。制作物を並べれば分かるので、気づかれます。気づかれるという点では、扱いやすい壊れ方です。 原因は、人ではなく体制にあります。私たちが見てきた範囲では、二つの形があります。 ひとつは、担当者ごとに委託先が変わる場合です。部署が別々に発注していると、それぞれの制作者がそれぞれの解釈で作ります。このとき、全体を統一する主体が社内にいません。ガイドラインを渡す人はいても、渡した結果を突き合わせる人がいない。出てきたものが揃っていないことに、誰も気づかないまま進みます。 各担当者に悪意はなく、それぞれの範囲では仕事をしています。ただ、範囲が分かれていること自体が原因なので、担当者に注意しても直りません。 もうひとつは、「作業だけやってほしい」という形の発注です。決まったものを形にするところだけを頼むと、ガイドラインを読んで解釈する工程が発注の範囲から外れます。解釈する人がいなければ、書いてあることの意図は伝わりません。書いてある通りに作ることはできても、書いていない場面では判断がつきません。 この二つめは、ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方で書いた「制作会社型は決める工程が抜ける」と同じ構造です。決める工程を買わずに作る工程だけを買うと、決めごとを扱う人が誰もいなくなります。 理由が失われたまま守られる こちらは気づかれません。守られているからです。誰も反対せず、点検にも引っかかりません。 起きているのは、こういう状態です。昔から続いている決めごとがある。誰がいつ決めたのかは分からない。それでも守られている。理由を聞かれても、答えられる人がいない。 守られていることが、機能している証拠だと読まれます。ただ、実際には判断が止まっているだけ、ということがあります。決めごとの意味が分からなくても、書いてある通りに実行はできる。1章で書いた「決めごとの集合」という性質が、ここで効いてきます。一文なら止まるところで、集合は止まらずに動き続けます。 このとき困るのは、変えるべき場面で変えられないことです。事業が変わり、売る相手が変わっても、決めごとだけが残ります。理由が分からないので、変えてよいかどうかを誰も判断できません。結果として、現実に合わなくなった決めごとが守られ続けます。 「これは守ってください」と伝える担当者を、思考停止として扱うのは違うと考えています。その人も、理由を渡されないまま受け取っています。説明できないのは、説明を受けていないからです。原因は人ではなく、理由が引き継がれない仕組みのほうにあります。 そして、理由が引き継がれないのは、引き継げる形で渡さなかった側の問題でもあります。ガイドラインに「なぜそう決めたか」が書いていなければ、渡す人も理由を持っていません。3章で「理由を残す」と書いたのは、ここに効かせるためです。 私たちがブランディングでやっているのは、変わらないものを外から持ち込むことではなく、すでにあるものを見つける作業です。誰も理由を知らない決めごとは、見つけたものではありません。ただ残ったものです。この違いは、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いた構造と重なります。 壊れ方の見分け方 自社がどちらの状態にあるかは、確かめられます。ただし、二つで難しさがまったく違います。 沿っているかを見る 無視されている場合の判定です。手元の制作物を並べて、ガイドラインと突き合わせるだけで済みます。 名刺、封筒、サイト、提案資料、展示会のパネル、採用ページ。決めた通りになっているかを見ます。見れば分かるので、判定に手間はかかりません。用意するのは制作物だけで、誰かに時間を取ってもらう必要もありません。 ここで見ているのは適合であって、良し悪しではありません。「なぜこの形なのか」を問う判定は、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方の6章にあります。あちらは聞かないと分からない判定で、こちらは見れば分かる判定です。 揃っていない箇所が見つかったら、いつ作られたものかを確かめます。時期が固まっているなら、そのときに何かが変わっています。担当が替わったか、委託先が増えたか。散らばっているなら、渡す仕組みのほうに原因があります。 理由を答えられる人がいるか こちらが難しい判定です。外から見るとうまくいっているように見えるので、探しに行かないと見つかりません。 問いはひとつです。 その決めごとについて「なぜそう決めたか」を答えられる人が、いま社内にいるか。 答えられる人がいないまま守られているなら、それは機能ではなく惰性です。 全部の決めごとについて確かめる必要はありません。いちど決めたきり長く変えていないもの、由来を聞いたことがないもの。そのあたりから当てていくと、早く見つかります。 補助的な兆候が三つあります。例外を求められたときに、可否を判断できる人がいない。「昔からこうなっている」が説明として通用している。更新した記録が残っていない。 三つとも、ガイドラインそのものを見ても分かりません。運用している人に聞かないと出てきません。この判定に手間がかかるのは、そのためです。 なお、この判定に自力で答えられないガイドラインがあるとすれば、理由を書き残さずに納品した側にも原因があります。理由を残す形で渡すところまでが、作った側の仕事です。 使われ続けるための条件 図をタップすると、拡大して見られます 決めた人がいなくなっても回るか。これが基準になります。 理由とセットで渡すこと。これが前章までの帰結です。決めごとだけを渡すと、渡された人はそれを前提として扱うしかありません。理由が付いていれば、状況が変わったときに判断できます。判断できる人が増えるほど、決めごとは長く使えます。 更新できる形にすること。完成版として固めると、直せなくなります。事業も商品も変わるので、決めごとも変わります。変えられないものは、いずれ現実と合わなくなり、守れないものになります。製本された冊子だけで渡すと、この形になりやすくなります。 例外の出し方を先に決めておくこと。例外は必ず出ます。出たときの手順が決まっていないと、そのつど個別に判断され、判断した記録も残りません。次に同じ場面が来ても、また同じ議論をします。例外を認める手順があるほうが、結果として守られます。禁じるより、通り道を作るほうが実務では効きます。 判断の窓口を決めること。2章の四つめに書いた「判断のしかた」が、ここに戻ってきます。書いていないことが起きたときに聞ける先があれば、勝手な解釈は減ります。窓口が忙しくて答えが返らない状態が続くと、聞かずに進むようになるので、応答の早さも条件のうちです。 なお、こうした運用の形まで含めて設計するのは、作った側が最初に提案すべきことです。納品物を渡して終わりにすると、更新の仕組みは誰も持たないままになります。 作るタイミング 社長が全部を見られなくなったときが、ひとつの目安です。 人が増えて、作られるものすべてに目が届かなくなる。委託先が複数になる。事業や商品が増えて、見え方が分かれ始める。このあたりで、決めごとを言葉にする必要が出てきます。それまでは、その場で確認するほうが早く済みます。 逆に、早すぎることもあります。何を約束するかが決まっていない段階でガイドラインを作ると、根拠のない決めごとの束になります。色や書体は決められますが、なぜその色なのかが説明できません。作った時点ですでに、前章の二つめの状態に入っています。 その場合は、先に決めるものがあります。誰に何を約束するのかです。順序としてはブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方が先で、ガイドラインはそれを形にする段階のものです。 タイミングを外すと、前章の壊れ方に直行します。早すぎれば、理由が共有されないまま決めごとだけが配られます。遅すぎれば、すでにばらばらになったものを後から縛ることになり、現場は納得しないまま従うことになります。 誰が運用するか 決めるのは、担当者の名前だけではありません。 いつ見直すか。新しく入った人に、誰がどこで渡すか。決めごとと実態がずれたときに、誰が言い出すか。委託先が変わるときに、誰が引き継ぐか。ここまで決めて、ようやく作る作業が終わります。 見直す時期は、期間で決めるより、出来事で決めるほうが動きます。事業が増えたとき、主力商品が変わったとき、委託先が替わったとき。日付だけを決めると、その日が来ても誰も動かないことがあります。 渡す場面を決めておくのも同じです。入社時の説明に入れるのか、案件が始まるときに渡すのか。渡す場面が決まっていなければ、渡し忘れは起こります。 最後の項目が、無視される形への対処にあたります。担当者ごとに委託先が変わっても、渡す人と突き合わせる人が決まっていれば、ばらばらにはなりません。変えるのは発注のしかたではなく、誰が全体を見るかです。部署をまたいで一人が見る形にすれば、発注の分かれ方はそのままでも揃います。 この工程は、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程6(定着)にあたります。使い方が共有されていないものは、いつのまにか元に戻ります。誰が運用するのかまで決めて、完了です。 なお、社内に全体を見る人がいるかどうかは、引き受ける前に確かめられます。いないまま渡せば、渡した先でばらばらになることは分かっています。確かめずに着手したのなら、その結果は引き受けた側も引き受けています。 使われている状態を保つ ガイドラインは、作った時点では何も決まっていません。決まるのは、それが使われたときです。 壊れ方は逆方向に二つあります。無視されるほうは目に見えるので、気づけば直せます。理由が失われたまま守られるほうは、外から見ると問題なく回っています。探しに行かなければ見つかりません。 そして、後者のほうが直すのに時間がかかります。決めごとは残っているのに、なぜそう決めたかを知る人がいないので、書き戻す材料を集めるところから始めることになります。 だから、守られていることは、まだ答えではありません。確かめるべきは、その決めごとの理由を答えられる人が、いま社内にいるかどうかです。

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方

MVVとは、ミッション・ビジョン・バリューの頭文字です。会社が何を果たすのか(ミッション)、どこへ向かうのか(ビジョン)、迷ったときに何を選ぶのか(バリュー)。この3つを分けて言葉にしたものを指します。 意味の違いまでは、調べればすぐに出てきます。この記事では、そこから先を扱います。どれから決めるのか、3つがぶつかったときに何を優先するのか。決めたあとに必要になることまでをお伝えします。 なぜ3つに分けるのか 3つとも、会社の考えを言葉にしたものです。それなら一つにまとめてもよさそうですが、まとめると使えなくなります。 理由は、3つで時間の扱いが違うからです。 ミッションには終わりがありません。果たし続けるものなので、達成して次に進むという性質を持っていません。ビジョンには期限があります。いつまでにどこへ、という形で書くので、到達したら更新することになります。バリューは今日使います。目の前の案件をどう進めるか、二つの案のどちらを選ぶか。その場で参照するものです。 私たちは、この3つを時間軸で分けて見ています。業界で定まった見方ではありませんが、こう置くと扱いが決まります。 3つをまとめて一つの文にすると、この時間差が消えます。「私たちは◯◯を通じて社会に貢献し、△△な会社を目指し、□□を大切にします」。文としては読めます。ただ、明日の判断には使えません。終わらないものと、期限のあるものと、今日使うものが、同じ重さで並んでいるからです。 分けているのは、体裁のためではありません。使う場面が違うものを、場面ごとに取り出せるようにするためです。 実際、3つのうち社員が日々目にしているのはバリューだけ、という会社があります。ミッションとビジョンは額に入って会議室にあり、バリューだけが仕事の話のなかに出てくる。望ましくない状態に見えますが、時間軸で考えれば筋の通った偏りです。問題になるのは、偏っていること自体ではなく、上の二つを使う場面が来たときに取り出せないことのほうです。 3つの違いはどこにあるか 図をタップすると、拡大して見られます 違いは、意味そのものよりも、扱い方に出ます。 ミッション ビジョン バリュー 問い何を果たすのかどこへ向かうのか何を選ぶのか 時間終わらない期限がある今日 変わるか変えない到達したら更新する増えることも減ることもある 使う場面事業を増やすとき人と予算を配るときその場で決めるとき 表の4行目について 上の3行は、意味を並べれば書ける内容です。4行目の「使う場面」が、決めたあとに効いてきます。 ミッションを使うのは、事業を増やすかどうかを決めるときです。新しい領域に手を出すか、声のかかった案件を受けるか。果たすと決めた役割の内側かどうかで判断します。 ビジョンを使うのは、人と予算を配るときです。到達点が決まっていれば、そこから逆算して今期どこに寄せるかが決まります。逆に、配分でいつも揉めるなら、到達点が共有されていない可能性があります。 バリューを使うのは、その場です。会議で意見が割れたとき、見積もりの出し方を決めるとき、断るかどうかを決めるとき。上の二つと違って、日々のなかで参照するものです。 3つが揃っていなくても進む 3つとも揃えないといけない、というものではありません。会社の段階によって、要るものが違います。 事業が一つで、判断する人が数人なら、バリューだけで回ります。判断の基準さえ共有されていれば、日々は進みます。人が増えて、判断する人が離れた場所にいるようになると、ビジョンが要るようになります。同じ方向を向いているかを、会話以外で確かめる必要が出るからです。 ミッションが要るようになるのは、事業が増えたときです。事業が一つのうちは、何を果たす会社かという答えが、事業の説明と重なります。別に書き起こす必要がありません。二つめ、三つめが増えてくると、事業の説明では会社の説明にならなくなります。「うちは何の会社なのか」という問いが社内から出てきたら、そこが合図です。 採用の場面でも同じことが起きます。事業ごとに募集をかけると、入ってきた人は事業の単位で会社を理解します。会社として何を果たすのかが言葉になっていないと、部署が増えるほど、別々の会社が同居している状態に近づきます。 3つを同時に埋めることが目的になると、埋めるための言葉が出てきます。要るものから順に決めるほうが、使われる形になります。 パーパス・経営理念との関係 図をタップすると、拡大して見られます 同じあたりを指す言葉が、いくつも流通しています。パーパス、経営理念、企業理念、社是、クレド、行動指針。並び順を変えたPMVVやVMVという書き方も見かけます。 私たちは、次のように使い分けています。まずパーパスは、なぜ存在するのかを指します。社会に対する存在理由です。ミッション(何を果たすのか)と近い位置にありますが、同じではありません。ミッションは会社が引き受ける役割で、パーパスはその手前にある理由です。 経営理念・企業理念は、総称です。ここまでに出た言葉のいくつかをまとめて呼んでいるもので、何を含むかは会社によって違います。理念という言葉が出てきたら、その会社が何を指しているのかを先に確かめないと、話が噛み合いません。社是やクレドも同じで、指す範囲は会社ごとに決まっています。 行動指針という呼び方も見かけます。私たちが見てきた範囲では、中身はバリューと重なります。呼び方が違うだけということがあるので、ここも社内で確かめる対象になります。 ここで一つ、断っておきます。この使い分けは、業界で決まっているものではありません。ミッションとパーパスを同じ意味で使う整理もありますし、パーパスを最上位に置いて、その下にミッションを並べる書き方もあります。どれが正しいという話ではありません。 大事なのは、社内で一つに決まっていることのほうです。呼び方をどれにするかで悩むより、その言葉が何を指しているのかを揃えるほうが先になります。言葉が増えているのは、扱う対象が増えたからではありません。同じものを、違う入口から呼んでいることがあります。 どれから決めるのか 図をタップすると、拡大して見られます ミッションを決めて、ビジョンを描いて、バリューに落とす。作り方としては、この順で説明されます。 順序としては筋が通っていますし、その順でも進みます。ただ、途中で止まったときは、手元を見ると早いことがあります。 というのも、バリューは、決める前からすでに社内にあるからです。 これまで断ってきた仕事、続けてきたやり方、価格を下げてでも守ったこと、揉めたときに最後に通した判断。そこに、何を選ぶ会社なのかが出ています。言葉になっていないだけで、基準そのものは動いています。 ミッションから始めて止まるのは、手元に材料がない状態で始めているからです。「何を果たす会社か」を白紙から考えると、出てくるのは、どこの会社でも書けそうな文になります。社会貢献、価値提供、顧客第一。書けますが、判断には使えません。 先に、すでにしてきた判断を集める。集めたものを見ると、果たしてきた役割の輪郭が出てきます。そこからミッションを書くと、書ける言葉が変わります。 ビジョンは、この二つとは出どころが違います。過去を集めても出てきません。どこへ向かうかは、これから決めることだからです。 ただ、白紙から出るわけでもありません。ミッションで引き受けた役割の内側で、どこまで行くかを決める形になります。役割が定まっていない状態で到達点だけを描くと、期限が来たときに、達成したのかどうかを判断できません。何を果たすと決めたかがなければ、到達したことの意味を測れないためです。 この「すでにあるものを見つける」という進め方は、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程2でも扱っています。会社の見え方を作り直すときも、内側の言葉を決めるときも、探しに行く先は変わりません。 順番を変えたほうがいい、という話ではありません。決まった順で進んで、止まらなければそれでいきます。止まったときに、白紙で考え続けるのではなく手元を見る。選択肢が増えるという意味で書いています。 3つが矛盾したときにどうするか 図をタップすると、拡大して見られます 3つに分けた時点で、矛盾は起きます。欠陥ではありません。性質の違うものを別々に言葉にしたのだから、ぶつかる場面が出るのは筋が通っています。 矛盾が起きる場所 ぶつかりやすいのは、ビジョンの期限とバリューの手順です。 ビジョンには期限があります。いつまでにここへ、と決めた以上、期日が近づけば急ぎます。一方でバリューには、こういうときはこうする、という手順が書かれています。丁寧に確かめる、相手の状況を聞いてから決める、納得しない案は出さない。 期限に間に合わせようとすると、この手順のほうが先に折れます。確かめる工程を飛ばす、聞かずに決める、間に合う案を出す。私たちが相談を受けるなかで見かけるのは、この形です。 理由ははっきりしています。バリューは具体的で、今日その場で使うものだからです。抽象度の高いミッションと違って、破ったことがその場で分かる形になっています。破れるものから破られます。 ぶつかり方は、これだけではありません。事業を広げていくと、ビジョンに書いた到達点が、ミッションで引き受けた役割の外側に出ることがあります。逆に、役割のほうが広すぎて、到達点が役割の一部しか埋めていないこともあります。 ミッションとバリューが合わなくなることもあります。果たすと決めた役割のために引き受けるべき仕事が、日々の判断基準では受けない形になっている場合です。このときは、どちらかが実態と合っていません。決め直す対象は、優先順位ではなく言葉のほうになります。 決めるのは順位ではない では、どれを優先すればいいのか。 ここで「ミッションが最上位です」と書くこともできますが、会社によって違います。期限を守ることを引き受けている会社もあれば、期限を延ばしてでも手順を守る会社もあります。どちらも成立します。 問題は、決まっていないことのほうです。 決まっていないと、その場にいる人の立場で決まります。納期を持っている人がいれば期限が通り、現場を見ている人がいれば手順が通る。同じ会社のなかで、日によって違う答えが出ます。これが続くと、社員は3つとも参照しなくなります。参照しても答えが出ないからです。 決めておくのは、順位そのものというより、ぶつかったときにどう決めるかです。誰が判断するのか。どの場に持っていくのか。判断した結果を、次から何に反映するのか。 そして、ここは発注側だけの仕事ではありません。3つを言葉にして納品し、ぶつかったときにどうするかを決めずに終わっているなら、それは引き受けた側が仕上げていないということでもあります。言葉を3つ揃えるところまでが成果物だと考えているなら、そこが抜けます。 誰が決めると自分の言葉になるか 図をタップすると、拡大して見られます 経営が決めるのか、全社で決めるのか。この二択で語られる場面がありますが、どちらを選んでも同じところで詰まります。 分けるのは、決める人と、材料を出す人です。 決めるのは経営です。会社が何を果たし、どこへ向かうかは、責任を持つ人が決めます。ここを全社の合議にすると、角の取れた文になります。誰も反対しない言葉は、誰の判断も変えません。 材料を出すのは現場です。前の章で書いたとおり、判断の基準はすでに動いています。それを持っているのは、日々決めている人たちです。ここを経営だけで埋めると、外から持ってきた言葉になります。 この二つを混ぜると、決まらないか、誰の言葉でもないものが出ます。全員で決めようとすれば決まりませんし、経営だけで決めて配れば、配られた側にとっては他人の言葉です。 材料を出す場に誰を入れるか。人数の問題ではなく、どの判断をしている人かで選びます。断る判断をしている人、価格を決めている人、採用の合否を出している人。基準が出るのは、決めている場所です。役職で選ぶと、決めていない人が入ります。 この人選を設計するのは、引き受けた側の仕事です。参加者を発注側に任せて、出てきた顔ぶれでそのまま進めているなら、進め方を決めていないということになります。誰が入るかで出てくる材料が変わる以上、そこは提案の一部です。 もう一つ、経営がどこまで書くのかという分かれ目があります。文言まで決めるのか、方向だけを決めて、言葉は別の人が磨くのか。 どちらでも進みます。ただ、文言を経営が一人で書き上げると、その人にしか使えない言い回しが残ることがあります。逆に、方向だけ渡して丸ごと任せると、整った文が返ってきて、誰も反対しないかわりに誰も使いません。決めるのは方向と、外してはいけない言葉。磨くのはそのあと。この分け方だと、両方を避けられます。 決めた過程を残しておくかどうかでも、あとから差が出ます。言葉だけを渡された人には、どう決まったのかが分かりません。なぜその言葉になったのか、何と何を天秤にかけたのか。過程が残っていれば、あとから入った人も、その言葉を自分の判断に使えるようになります。 決めたあとに何が起きるか 図をタップすると、拡大して見られます 決めた直後は、何も変わりません。ここで失敗したと感じる場合がありますが、順当な状態です。 言葉ができると、次に手が伸びるのは見た目のほうです。ロゴを整える、サイトを作り直す、会社案内を刷り直す。どれも要る作業ですが、それで判断が変わるわけではありません。リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いたのは、この順番のことです。見えるものを変えても、決め方が変わらなければ、元の状態に戻ります。 3つの言葉が使われるようになるかどうかは、決め方ではなく、決めたあとの扱いで決まります。どの場面で参照するのか。誰が持ち出すのか。新しく入った人にどう渡すのか。 決めた直後にやることを一つだけ挙げるなら、次にこの言葉を持ち出す場面を決めておくことです。次の役員会でも、来期の予算を決める場でもかまいません。使う場面が先に決まっていないと、掲示したところで作業が終わります。 社外に出すのは、そのあとで足ります。採用サイトや会社案内に載せた言葉を、面接で担当者が別の言い方で説明する。そうなると、載せる前より状態が悪くなります。候補者から見れば、書いてあることと目の前の人が食い違っている、という情報が増えただけになるからです。 ここから先は、社内で言葉が使われる状態をつくる作業になります。インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方で、進め方と、何を見れば効いたと分かるのかを書いています。この記事では入口までにします。 一つだけ、こちら側から書いておきます。決めたあとに何をするかまでを含めて提案していないなら、言葉を納品して終わりにしているのは受注側です。3つの言葉を納めた時点で成果物が完成していると考えるなら、使われるかどうかは発注側の努力の問題になります。そういう分け方をしている限り、同じ状態が繰り返されます。 作った時点では、まだ何も変わらない MVVは、3つに分けたところに意味があります。終わらないもの、期限のあるもの、今日使うもの。性質の違うものを別々に置いたのは、場面ごとに取り出して判断に使うためです。 だとすれば、決めたあとに参照されていないなら、分けた意味がまだ出ていないことになります。3つ揃っているかどうかではなく、どこかの場面で持ち出されているかどうかが、できているかの目安になります。 3つがぶつかる場面は、遅かれ早かれ来ます。そのときに何を優先するかを決めてあれば、言葉は判断の材料になります。決めていなければ、その場にいる人の立場で決まり、3つは参照されないまま残ります。 3つ揃えることを目標に置くと、揃った日が終わりになります。使う場面を決めることを目標に置けば、そこから始まります。同じ作業をしていても、どちらを目標に置いたかで、決めたあとの扱いが変わります。 言葉ができた日は、始まりの日です。その日に変わるものはありません。変わるとしたら、その言葉を持ち出して何かを決めた、最初の一回からです。

ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方

ブランドコンセプトとは、その会社や商品が、誰に何を約束するのかを一言で表したものです。キャッチコピーのことではありません。 外に向けた約束であると同時に、社内で何かを決めるときの拠りどころにもなります。決まっていれば判断が速くなり、決まっていなければ、そのつど解釈が分かれます。 この記事では、どこから見つけて、どう決めるかまでをお伝えします。そのうえで、すでに決まっているコンセプトが実際に機能しているかを、どう見分けるかを書きます。 ブランドコンセプトとは何か 誰に何を約束するのかを、一言で表したものです。私たちはそう捉えています。 「一言で」という部分が要です。長く書けば正確になりますが、正確な文章は判断に使えません。会議の途中で思い出せる長さでなければ、決めるときの拠りどころになりません。三行あると、その場では引用されなくなります。 約束には相手が要ります。誰に向けたものかが抜けていると、書かれているのは自社の願望だけになります。「高品質なものづくりで社会に貢献する」という一文からは、誰に何を約束したのかが読み取れません。悪い文ではありませんが、これを持って何かを決めることはできません。 キャッチコピーと混同されやすいのですが、役割が違います。キャッチコピーは、その約束を届けるための表現です。コンセプトは、表現を選ぶ前に決まっている中身のほうです。 同じコンセプトから、キャッチコピーは何通りも作れます。逆はできません。コピーからコンセプトを逆算しようとすると、後付けの説明になります。先にコピーが決まっている場合、そのコピーを正当化する理屈がコンセプトとして書かれることになります。 もうひとつ、コンセプトは社外向けだけのものではありません。約束した以上、社内でもそれを基準に選ぶことになります。外向きの言葉が、そのまま内向きの判断基準になる。この二面性が、あとの章で効いてきます。 似た言葉との違い 図をタップすると、拡大して見られます コンセプトの周りには、似た働きをする言葉がいくつもあります。私たちは次のように使い分けています。 語 何を指すか ミッション何を果たすのか(役割) ビジョンどこへ向かうのか(到達点。期限がある) バリュー何を選ぶのか(日々の判断基準) パーパスなぜ存在するのか(社会に対する存在理由) 経営理念・企業理念上のいくつかをまとめた総称 ブランドコンセプト誰に何を約束するか タグラインその約束を短い言葉にしたもの この使い分けは、業界に定まった定義ではありません。私たちが仕事のなかで使っている整理です。 実際、コンセプトとミッションを同じものとして扱う考え方もあります。どちらも「何をするのか」を言葉にしたものなので、重なる部分は確かにあります。どちらが正しいという話ではありません。 私たちが分けているのは、向きが違うからです。ミッション・ビジョン・バリュー・パーパスは、会社が自分自身について語ったものです。ブランドコンセプトは、相手に対する約束です。主語は同じでも、誰に向かって言っているかが違います。 この違いは、書くときの検算に使えます。ミッションは相手がいなくても書けますが、コンセプトは相手を書かないと成立しません。「誰に」が入っていない文がコンセプトとして置かれているなら、実際にはミッションを書いている可能性があります。 経営理念や企業理念という言い方は、総称として使われます。会社によって、ミッションだけを指すこともあれば、四つ全部を含むこともあります。社外の人と話すときは、その会社が何を指しているかを先に確かめたほうが早く進みます。 言葉の定義そのものは、正直なところ、どれでも構いません。社内で揃っていることのほうが大事です。同じ会議で、ある人はミッションのつもりで話し、別の人はコンセプトのつもりで聞いている。この状態のほうが、定義の選び方より問題になります。 議論が噛み合わないとき、意見が割れているのではなく、語の意味が割れているだけ、ということがあります。先に語を揃えると、そこで終わる議論もあります。 なぜ言葉にする必要があるのか 言葉になっていないものは、判断のたびに解釈が分かれるからです。 社長の頭のなかには、答えがあります。何を大事にしていて、どういう仕事を選びたいのか。創業した人であればなおさら、はっきりしています。 問題は、それが本人のなかにしかないことです。人が二人のうちは、聞けば済みます。十人になると、聞ける機会が減ります。三十人になると、聞いていない人が出てきます。そして、聞いていない人も判断はします。 ここで起きるのは、意見の対立ではありません。それぞれが善意で、それぞれの解釈で判断していく状態です。どれも間違っていないのに、揃わない。 制作物を作る段になると、これがはっきり表に出ます。ロゴの案が三つ並んで、どれを選ぶかの基準がない。色の候補が出て、好みで決めることになる。決め手がないので、決められる立場の人が決めます。 そうなると、その人が見ていないところで作られるものは、基準を持たないまま世に出ます。名刺、伝票、現場の掲示物、採用の資料。目の届かないところほど数が増えるので、時間が経つほど輪郭がぼやけます。 この構造は、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いた失敗の型と同じです。デザインの出来ではなく、決める基準がないことが原因になっています。 なお、基準がないまま制作に入ったことを、発注した側の準備不足として扱うと話が進みません。基準の有無を最初に確かめるのは、引き受けた側の仕事です。 どこから見つけるか 図をタップすると、拡大して見られます 新しく考えるのではなく、すでにあるものを探します。探す先は四つです。 会社の歴史、理念、大事にしていること、そして社員が何気なく使っている言葉。歴史については、見るのではなく調べます。何を選んで、何をやめてきたか。判断の記録に、その会社の基準が出ます。 この四つは、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程2で書いたものと同じです。社内に向けて言葉にする場合の掘り下げは、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方の5章にまとめてあります。どちらも、探す先そのものは変わりません。 コンセプトの場合、ここにもうひとつ足します。顧客が自社について言っていることです。 なぜ選んだのかを聞くと、こちらが強みだと思っていたところとは別の理由が返ってくることがあります。速さで選ばれていると思っていたら、聞く姿勢のほうだった。納期の正確さだと思っていたら、断らないことだった。この差は、社内からは見えません。 約束は相手に対するものなので、相手が何を受け取っているかを確かめずには決められません。四つの探し先が社内にあるのに対して、これだけが社外にあります。手間はかかりますが、ここを飛ばすと、自社の思い込みを言葉にして終わります。 決めるまでの手順 図をタップすると、拡大して見られます 集めるところから、使う場所を決めるところまでが一続きの工程になります。途中で止めると、決まったのに使われないという状態になります。 工程 決めること 1 集める歴史・理念・社員の言葉・顧客が言っていること 2 絞る自社にしか言えないものはどれか 3 言い切る誰に何を約束するかを一文にする 4 検算するやらないことが決まるか 5 使う場所を決めるどこで判断の基準にするか 工程1では、前章の四つに顧客の声を足して集めます。この段階で整理はしません。矛盾したまま並べておきます。整理を先にすると、集める前に結論が決まります。 工程2の「自社にしか言えないか」は、他社の名前を入れ替えても成立する文になっていないかで確かめます。「お客様第一」「品質にこだわる」は、入れ替えても成立します。成立するなら、絞れていません。 集めた量に対して、自社にしか言えないものは限られます。残りが少なくて不安になりますが、少ないほうが判断には使えます。候補が五つ残っているなら、それは絞る作業が途中で止まっているということです。 絞るときの基準は、正しさではありません。他社が言えないかどうかです。正しいことを並べると、正しくて誰にでも当てはまる文になります。 工程3で一文にします。ここで長くなるのは、絞りきれていないことの表れです。二つの約束が入っているなら、どちらが主なのかがまだ決まっていません。両方を残したい気持ちは自然ですが、両方が主だと、迷ったときにどちらも根拠になりません。 工程4が抜けると、あとで効いてきます。約束を決めると、同時に「やらないこと」が決まります。速さを約束したなら、時間のかかる丁寧さは選べません。手厚さを約束したなら、安さでは戦えません。 やらないことが何も出てこないなら、その文は約束ではなく、願望が書かれています。この検算が、次の章につながります。 工程5で、どこで基準として使うかを決めます。制作物の判断、案件を受けるかどうかの判断、採用の判断。使う場所が決まっていないコンセプトは、決めた直後から使われなくなります。決めた場にいた人だけが覚えていて、その人が異動すると消えます。 なお、この工程を発注した側だけで進める必要はありません。方向を決める工程としての位置づけは、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程3に書いています。工程4の検算を持ち出すのは、本来は引き受けた側の役割です。 機能しているかの見分け方 図をタップすると、拡大して見られます ここまでは、これから決める人に向けて書いてきました。この章は、すでに決めた人に向けたものです。 コンセプトはある。決めたときは納得した。ただ、それが効いているのかどうかが分からない。作り方までは、たどり着ける情報があります。その先の、効いているかを確かめる方法をお伝えします。 見るところは四つあります。どれも、新しく調査をする必要はありません。すでに起きたことを見るだけです。 社員が同じことを言えるか 社長が言えるかではありません。社員が同じことを言えるかです。人によって違う説明が出るなら、まだ決まっていません。 これはブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方の4章で書いた判断基準と同じものです。社内で揃っているかどうかの見方は、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方の8章に詳しく書いています。 一言一句が揃う必要はありません。同じことを指しているかどうかを見ます。むしろ、全員が同じ文を暗記している状態は、自分の言葉になっていない兆候でもあります。言い方が違っていて、中身が同じ。これが揃っている状態です。 確かめ方は単純です。部署の違う何人かに、同じ質問をします。「うちは、お客さんに何を約束している会社ですか」。会議の場ではなく、個別に聞きます。 制作物から説明できるか 実際に作っている側から見ると、これが分かりやすい判定です。 手元にあるものを並べます。ロゴ、名刺、サイト、提案資料、商品の写真、店舗の内装。ひとつずつ「なぜこの形なのか」をコンセプトから説明してみます。 説明できないものが混ざっているなら、そこはコンセプトを使わずに決めています。好みで決めたか、前例で決めたか、担当者の判断で決めたか。どれかです。 混ざっていること自体は、珍しくありません。問題になるのは、混ざっているのに気づいていない場合です。気づいていれば、次に作るときに揃えられます。気づいていなければ、揃っていないものが増え続けます。 逆から見ることもできます。制作物を先に見せて、そこからコンセプトを言い当ててもらう。社外の人にやってもらうと、はっきりします。言い当てられないなら、約束が形になっていません。 もっとも、コンセプトから説明できる形で作るのは、作った側の責任です。発注した側に説明を求める前に、引き受けた側が説明できるようにしておくのが先です。 やらないことが決まるか 決めるときの検算(工程4)を、決めたあとにもう一度やります。 直近で断った仕事、見送った企画を並べます。そして、断った理由がコンセプトから説明できるかを見ます。 説明できるなら、機能しています。断るという判断は、基準がなければできません。逆に、断った理由が「忙しかったから」「条件が合わなかったから」ばかりなら、コンセプトは判断に使われていません。 何も断っていない場合も同じです。すべてを受けているなら、選ぶ基準を使っていないことになります。 この判定は、四つのなかで結果が厳しく出ます。断った理由は記録に残らないので、思い出そうとしても出てこないためです。出てこないこと自体が、答えになっています。 迷ったときに使われるか 会議で意見が割れたとき、その言葉が持ち出されるかどうかです。 持ち出されるなら、判断の材料になっています。持ち出されないなら、掲げてあるだけの状態が続いています。 四つのうち、この判定は確かめやすいのに、見過ごされます。普段の会議を思い出せば分かることなので、わざわざ確かめる対象になりません。 直近で意見が割れた場面をひとつ思い出して、そこで何を根拠に決めたかを辿ります。根拠が「声の大きさ」や「役職」だったなら、コンセプトはその場にいませんでした。 よくある失敗 どれも、決めたあとになってから表れます。決めた時点では、どれも起きていません。 ひとつめは、言葉を美しくしすぎることです。整った一文になっているのに、それを使って何かを決められない。読んだときの気持ちよさと、判断に使えることは別です。 これは受注側が持ち込む失敗です。言葉を扱うのが仕事なので、整えたくなります。整えた結果として使えなくなったなら、それは引き受けた側の責任です。判断に使えるかどうかを最後に確かめるところまでが、仕事の範囲です。 ふたつめは、他社と入れ替えても成立することです。工程2で確かめたはずのことが、工程3で言葉にする段階で戻ってしまうことがあります。一文にまとめようとすると、角が取れて一般的な表現に寄るためです。 絞る作業と、言葉にする作業は別なので、それぞれの終わりで確かめる必要があります。絞れていたのに、書いたら戻っていた。これは起こります。 みっつめは、決めた人だけが意味を分かっていることです。決める場にいた人には、その言葉に至るまでの議論が入っています。あとから受け取った人には、結論の一文しか渡りません。同じ言葉でも、持っている情報量が違います。 対策は、決めた理由を一緒に残すことです。何を候補にして、なぜそれを選ばなかったのか。選ばなかったほうの記録が効きます。 よっつめは、一度決めて、そのまま置いてあることです。事業が変われば、約束できる中身も変わります。三年前に決めた約束が、いまの事業と合っているかは、見直さなければ分かりません。 見直す時期を最初に決めておくのが確実ですが、その提案をするのは、決める作業を引き受けた側の仕事です。 作るものではなく、見つけるもの コンセプトは、新しく発明するものではありません。すでにやっていることのなかにある約束を、言葉にしたものです。 だとすれば、決まった時点で終わりにはなりません。言葉にしたあと、それが実際に使われているかどうかで、価値が決まります。 確かめる方法は、この記事の6章にあります。社員が同じことを言えるか。制作物から説明できるか。やらないことが決まるか。迷ったときに使われるか。 四つとも、新しく調べる必要はありません。すでに起きたことを見るだけです。作るより、確かめるほうが早く済みます。そして、確かめないまま作り直すと、同じところに戻ります。

パッケージデザイン会社の選び方。依頼できる範囲と、決めておく条件

候補は集まる。選ぶ材料がない パッケージデザイン会社を選ぶとき、先に決まるのは会社ではありません。印刷の方法、容器の形、いつまでに棚へ出すか。こうした条件がどこまで決まっているかで、頼める相手が変わります。会社を比べる前に、自社の条件がどこまで固まっているかを確かめる。それが選び方の実質です。 「パッケージデザイン会社 おすすめ」で調べると、何社も並んだ記事が見つかります。候補を集めるだけなら、あれが手っ取り早い方法です。社名も、得意分野も、所在地もまとまっています。 ただ、そこから1社を選ぶ段になると足りません。並んでいるのは会社の情報であって、自社に何が必要かは書かれていないからです。比べる軸を持たないまま一覧を眺めても、決め手は出てきません。 探しているのは、腕の良い会社というより、自社に合う会社です。一覧に並んでいる会社は、どこもパッケージを作れます。分かれるのは、今回の案件で必要になる工程を、その会社が引き受けているかどうかです。同じ「パッケージデザインの依頼」という言葉が、案件によって指している範囲が違います。 この記事では社名を挙げません。金額にも触れません。範囲が決まらないうちに出てくる金額は、比べても意味がないからです。逆に範囲が決まれば、見積もりは比べられるようになります。ここでは、依頼できる範囲がどう分かれているかと、そのどれが自社に要るのかを決める材料を書きます。 パッケージに限らず、依頼先をどう選ぶかを広く見ておきたい場合は、ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に書いています。この記事は、パッケージの依頼に絞ります。 新商品か、リニューアルか 図をタップすると、拡大して見られます 同じ「パッケージデザインの依頼」でも、新しく出す商品と、すでに売っている商品の作り直しでは、必要な相手が違います。 新商品 リニューアル すでに決まっているもの中身、売価、置きたい棚それに加えて、いまの見た目 難しいところ何もないところから目印を作るすでにある目印を壊さずに変える 依頼先に効く違い形や構造から相談できるかいまの商品を読み解けるか 新商品は、決まっていないことが多いぶん、相談できる範囲が広い相手が向きます。容器の形が未定なら、形から一緒に考えられるかどうかが効いてきます。 中身がまだ固まっていない段階で相談に来られることもあります。その場合は、決まっていないことを前提に動ける相手かどうかが分かれ目になります。固まってからお持ちください、と返す会社もあれば、固まっていない前提で形から一緒に考える会社もあります。どちらが正しいという話ではなく、進め方が違います。 リニューアルは逆です。制約が増えます。すでに買っている人がいて、その人たちは棚の前で、色と形を手がかりに商品を探しています。手を入れると、その手がかりが消えます。 リニューアルのなかでも、中身を変えずに見た目だけを変える場合と、中身も一緒に変わる場合とでは、話が違ってきます。中身が変わるなら、変わったことが伝わらなければ意味がありません。中身が同じなら、伝えるべき新しいことは、そもそもありません。どちらなのかで、変える理由の置きどころが変わります。 次の章は、リニューアルを考えている方に向けたものです。新商品の立ち上げなら、その次の章から読んでください。 リニューアルなら先に決める すでに売っている商品を作り直すなら、会社を探す前に決めておくことがあります。何を変えないか、です。 パッケージのリニューアルで売上が落ちるとき、原因はデザインの出来映えとは限りません。落ちているのは、棚での見つけてもらいやすさです。いつも買っている人は、商品名を読んで選んでいるわけではありません。色と形で、見た瞬間に判断しています。 この話は別の記事で詳しく書いているので、ここでは繰り返しません(パッケージを変えたら売れなくなる。その手前で、何が起きているのか)。会社選びとの関係でいえば、押さえるところは一つです。 何を変えないかを決めずに発注すると、どの会社に頼んでも同じことが起きます。色を動かすのか、形を動かすのか、写真を動かすのか。決めていなければ、提案は自由な方向へ広がります。広がった提案から選ぶとき、判断の基準は「良く見えるかどうか」しか残りません。棚で見つけてもらえるかどうかは、そこに入ってこないのです。 気をつけたいのは、変えないものと、変えられないものは違うということです。表示の決まりや、詰める工程の都合で動かせないものは、あとから出てきます。それは制約であって、守ると決めたものではありません。決めるべきなのは、動かせるのにあえて残すもののほうです。 残すものを増やしすぎると、今度は変える意味がなくなります。ここは全部を決めきる作業ではなく、順位をつける作業だと考えてください。最後まで残すのはどれか。そこが決まっていれば、上がってきた提案を見る目が変わります。良いか悪いかではなく、残すはずのものが残っているかで見られるようになります。 もっとも、これを依頼する側だけの宿題にするのは違います。変えないものを一緒に探すのは、本来は依頼を受ける側の仕事です。現物を見て、いまこの商品が何によって見つけられているのかを言う。最初の打ち合わせは、そこから始まるのが筋です。決めてから来てください、と求める話ではありません。 依頼できる範囲は4つに分かれる 図をタップすると、拡大して見られます パッケージの依頼先は、どこまでを引き受けるかで分かれます。業界に定まった分類があるわけではありません。私たちはこう分けて考えています。 範囲 やること 発注側に残るもの デザインだけ平面のデザインを作る印刷の手配、形の決定 容器の形から形や構造を含めて作る印刷と製造の手配 印刷と製造まで印刷会社や工場の手配を含む検品と納期の管理 出たあとまで発売後の追加や改版を含む社内に残る作業が少ない デザインだけを頼む 容器の形も、印刷の方法も、印刷会社も決まっている場合です。決まっている条件を渡して、その中でデザインを作ってもらいます。 条件が固まっているほど、この形はうまく回ります。速く進み、やりとりも少なく済みます。逆に、固まっていないまま頼むと、デザインができたあとで「この形では刷れない」と分かることがあります。 印刷会社とのやりとりは自社に残ります。色の確認も、納期の追いかけも、こちらで持ちます。デザインを受け取ってから先が長い形だと見ておくと、日程が立てやすくなります。 容器の形から頼む 形そのものを検討の対象にする場合です。新商品でまだ何も決まっていないとき、あるいは棚での見え方を形から変えたいときに要ります。 形が変われば、印刷の方法も、詰める工程も変わります。ここを含めて相談すると決めることは増えますが、あとで戻る手間は減ります。 そのかわり、決まるまでの時間は延びます。形を検討し、試作を見て、詰める工程で成立するかを確かめる。その往復が入るためです。棚に出す時期から逆算して、間に合うかどうかを先に確かめてください。 印刷と製造まで頼む 印刷会社や工場の手配まで任せる場合です。社内に調達や進行の担当がいないとき、窓口が一つになる利点があります。 ただし、間に人が入る分だけ工程は見えにくくなります。どこまでを自社でやり、どこから先を外に出すのかを、最初に聞いておく必要があります。 詰まりやすいのは色の確認です。画面で見た色と、刷り上がった色は違います。誰がどの段階で色を確かめるのかを、範囲の話と一緒に決めておくと、あとで揉めずに済みます。 もっとも、この段取りを先に示すのは、範囲を引き受けた側の仕事です。聞かれるまで言わない進め方になっているなら、引き受けた範囲そのものが、まだあいまいだということです。 出たあとまで頼む 発売してからの追加、味違いの展開、表示の変更まで含める場合です。品目が増えていく商品や、継続して出していくシリーズで効いてきます。 この形は、最初の一品だけを見ていると必要性が分かりにくいところがあります。効いてくるのは、次の品目を出すときです。前に作ったものと揃えるとき、同じ相手が作っていれば、経緯を説明し直さずに済みます。 一つ確かめておきたいのは、下へ行くほど良い、という並びではないことです。条件が決まっているなら、デザインだけを頼む形で足ります。工程が増えないぶん、着地も早くなります。範囲を広げる理由は、社内で持てない工程があるかどうかです。 途中で範囲を広げられるかどうかも、聞いておくと役に立ちます。デザインだけを頼んだあとで、印刷会社が見つからないと分かることがあります。そのとき引き受けてもらえるかどうかで、探し直す手間が変わります。 印刷と製造が先に決めている 図をタップすると、拡大して見られます デザインの自由度は、デザインを始める前に決まります。 印刷の方法、使う素材、容器の形。ここが決まっていれば、その中でできることに上限が引かれます。紙なのかフィルムなのか、何色で刷るのか、加工を入れるのか。デザイナーが選べる範囲は、そこから内側です。 印刷会社がすでに決まっている案件では、この上限が先に立っています。長く付き合っている印刷会社があるなら、その会社で扱える範囲が、そのままデザインの範囲になります。これは制約ですが、悪いことではありません。決まっているほど、話は速く進みます。 作る数と、箱に入れる数も効いてきます。数が少ないときに使える印刷の方法と、多いときに使える方法は違います。ここを決めずにデザインを進めると、見積もりの段階で作り直しになることがあります。 画面と実物の差も、この段階の話です。パッケージは光を返す素材の上に刷るので、モニターで見た色は、そのままは出ません。金や銀を使うなら、なおさらです。実物で確かめるしかない工程が入るので、その時間を日程に組み込んでおく必要があります。 表示しなければならない文言もあります。成分や内容量のように、載せることが決まっているものです。何が必要かは商品によって違うので、ここでは並べません。ただ、この面積は動かせません。デザインに使える面は、その残りです。 だから、会社を探す前に確かめておくと早いのは、この三つです。印刷会社が決まっているか。形が決まっているか。作る数が決まっているか。 三つとも埋まっていなくても、相談は始められます。ただし、どれが埋まっていないのかを整理して返すところまでが、相談を受けた側の仕事です。足りないものを並べて突き返すだけなら、相談に応じたことになりません。 どこまで任せるかを決める 図をタップすると、拡大して見られます どれが要るかを決める材料は、社内にあります。 印刷会社が決まっているかどうかが、まず効きます。決まっているなら、印刷と製造まで頼む必要はありません。決まっていないなら、自分で探すか、任せるかの判断が要ります。 形から作る必要があるかどうかが、次に効きます。いまの容器をそのまま使うなら、平面のデザインだけで足ります。棚での見え方を変えたいなら、形が候補に入ってきます。 社内に進行の担当がいるかどうかも見ます。印刷会社とのやりとり、色の確認、納期の追いかけ。この仕事を持てる人がいなければ、範囲を広げて任せるほうが、結果として滞りが少なくなります。 品目が一つか、シリーズかでも変わります。一つなら、そのつど頼む形で足ります。増えていくなら、続けて見てもらえる相手のほうが、あとで揃えやすくなります。 迷ったときは、その工程が今回きりかどうかで考えてみてください。今回きりなら、外に出したほうが速く終わります。これから続くなら、社内に残したほうが、二度目からが楽になります。範囲の広さは、案件の大きさではなく、続くかどうかで決まる面があります。 複数が当てはまるときは、社内で誰が窓口に立てるかで決めます。立てる人がいるなら範囲を狭く、いないなら広く。この順番でも進みますが、逆にすると、決めきれないまま相見積もりを取ることになります。 狭く頼んで足りなかった場合も、やり直しにはなりません。足りない工程が分かった時点で、そこだけを別に頼む形にできます。ただし窓口は増えます。増えた窓口を誰が持つのかを、先に決めておいてください。 なお、どこまでを自社で引き受けるのかを、聞かれる前に示すのは、見積もりを出す側の仕事です。範囲の書かれていない見積もりが並んでいるとすれば、比べられないのは依頼する側の落ち度ではありません。 最初の打ち合わせに持っていくもの 条件を言葉で説明するより、現物を持っていくほうが早く伝わります。 いまの商品の現物(リニューアルの場合) 棚の写真、または売り場の様子が分かるもの 売価と、箱に入れる数 印刷会社が決まっているかどうか。決まっていれば、その社名 作る数の見込み 載せることが決まっている文言 現物が一つあると、話が具体になります。写真では、大きさも、手に持ったときの質感も伝わりません。棚の写真も同じで、隣に何が並んでいるかは、口で説明しても伝わりにくいところです。 新商品で、まだ現物がないときは、参考にしている商品を持っていきます。自社のものでなくて構いません。棚で隣に並ぶことになる商品でも、雰囲気が近いと思っている商品でも、実物があるほうが、伝わり方が変わります。言葉で伝えようとすると、抽象的な形容詞の交換になりがちです。 そのうえで、聞くことは持ち物に紐づきます。現物を渡して「この商品は、いま何で見つけられていると思いますか」と聞く。印刷会社の名前を渡して「この会社でできる範囲はどこまでですか」と聞く。作る数を伝えて「この数で使える方法はどれですか」と聞く。 質問の一覧を用意していく必要はありません。手元にあるものを出して、それについて答えが返るかを見る。返ってこないなら、その範囲は引き受けていないということです。 逆に、こちらが答えられない質問が出たときは、それが決まっていない条件です。その場で無理に答えないでください。持ち帰って社内で決めるものと、相手と一緒に決めていくものを仕分けるだけで、次の打ち合わせの中身が変わります。 ここでも、順序は逆であるべきです。何を持ってくればよいかを先に伝えるのは、受ける側の仕事です。何も言われないまま打ち合わせに来て、話が進まなかったとすれば、準備が足りなかったのは依頼する側ではありません。 会社より先に、条件が決まる パッケージデザイン会社の選び方は、会社を比べるところから始まりません。自社の条件がどこまで決まっているかを確かめるところから始まります。 印刷会社が決まっているか。形が決まっているか。作る数が決まっているか。すでに売っている商品なら、何を変えないか。ここが埋まっているほど頼める相手は絞られ、迷う場面が減ります。 埋まっていないなら、それも一つの条件です。埋めるところから一緒にやってくれる相手を探す、という選び方になります。決まっていないことは、悪いことではありません。決まっていないまま、決まっているつもりで発注することだけが問題になります。 どの会社に頼んでも同じものができる、という話ではありません。条件が同じでも、上がってくるものは相手によって違います。ただ、その違いを比べられる状態にするために、先に条件を並べておく必要がある、ということです。並べたうえで見比べれば、一覧では分からなかった差が見えてきます。 一覧を見るのは、そのあとで足ります。

インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方

インナーブランディングとは、自社が何者で、何を大事にしているのかを、社員に向けて共有する取り組みです。顧客ではなく社内に向けたブランディングを指します。 社外への発信をどれだけ整えても、社員が自社を説明できなければ、その説明はいずれ食い違います。インナーブランディングは、その食い違いをなくすための作業です。 この記事では、意味と進め方、そして何を見れば効いたと分かるのかまでをお伝えします。 インナーブランディングとは何か インターナルブランディング、社内ブランディングと呼ばれることもありますが、指しているものは同じです。 「インナー」が指す範囲は、正社員だけではありません。役員、契約社員、アルバイト、業務委託の方まで含みます。会社によっては、社員の家族までを範囲に入れることもあります。自社を外に向かって説明する可能性のある人は、全員が対象です。 誤解されやすいのが、社員教育や社内広報との違いです。 社員教育は、業務に必要な知識や技能を身につけてもらう取り組みです。社内広報は、決まったことを社内に伝える機能です。どちらも社内に向いていますが、扱っているものが違います。 インナーブランディングが扱うのは、判断の拠りどころです。何を選び、何を選ばないか。その基準を社内で共有することを指します。 判断の拠りどころが共有されていれば、指示がなくても選択が揃います。共有されていなければ、同じ会社のなかで別々の答えが出ます。研修を増やしても、社内報を増やしても、そこは変わりません。 アウターブランディングとの違い 相手が違います。アウターは顧客と市場、インナーは社員と役員に向いています。ただし、この二つは別々の取り組みではありません。 アウター インナー 相手顧客・市場社員・役員 目的選ばれること同じ説明ができること 失敗の見え方売れない人によって言うことが違う 難しさ伝わらない伝わっているのに、自分の言葉になっていない この二つを分けているのは、表の下の行です。アウターの難しさは、届かないことにあります。インナーの難しさは、届いているのに使われないことにあります。 理念は掲げてあるので、目には入っています。それでも自分の言葉で説明できないのは、知識として持っていることと、判断に使えることが別だからです。研修で読み上げた言葉を、見積もりの場面で思い出す人はいません。 私たちは、この二つを順番として考えています。社員が説明できないものが、顧客に伝わることはありません。広告や採用サイトでどれだけ整った言葉を出しても、面接で担当者が違うことを言えば、そちらが本当のこととして受け取られます。 顧客が会社に触れる場面には、社員が介在します。問い合わせの返信、打ち合わせでの受け答え、納品後の連絡。作り込んだ発信と違って、そうした場面は書き直しがききません。 外に向けた言葉を先に決めても進みますが、社内で使える形になっていなければ、外向きの言葉だけが残ります。逆にすると、外に出す言葉を考える時点で、社内に使われている表現が材料として手元にあります。 なぜ社内に伝わらないのか 図をタップすると、拡大して見られます 伝える回数の問題ではありません。理念が掲げられているだけで、日々の判断と接続していないことが原因です。 私たちが相談を受けるなかで見かけるのは、次のような状態です。 理念はある。壁にも貼ってある。全社会議でも触れられる。それでも、実際に何かを決める場面でその言葉が出てこない。見積もりを出すとき、採用の合否を決めるとき、企画の方向を選ぶとき。判断の材料として使われていません。 使われない言葉は、覚えていても意味を持ちません。掲げられていることと、使われていることは別です。 もうひとつは、言葉の層が分かれている状態です。経営が使う言葉と、現場が使う言葉が違う。経営は「顧客体験の向上」と言い、現場は「あのお客さん、前も同じこと聞いてたよね」と言う。指しているものは近いのに、翻訳されていません。 このとき現場の言葉のほうが具体的で、実際に判断に使われています。それでも会社の言葉として扱われるのは経営側の表現なので、現場は自分たちの言葉を会社のものだと思っていません。 はっきり表に出る兆候は、人によって説明が違うことです。採用面接で、面接官ごとに会社の説明が変わる。営業先で、担当者ごとに強みの説明が変わる。どれも間違っていないのに、揃っていない。この状態が続くと、外から見たときの輪郭がぼやけます。 なお、伝わっていないことを社内の理解不足として扱うと、話が進みません。伝わる形になっていなかったのは、言葉を作った側の問題でもあります。この構造は、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いた失敗の型と重なります。 「浸透させる」と考えると失敗する 浸透という言葉が、上から下へ配る図を前提にしているためです。配れば届くという想定に立つと、打ち手は「配る量を増やす」に向かいます。 社内報を増やす。ポスターを貼る。カードを配る。研修を組む。どれも手段としては成立しますが、量を増やしても届かないものは届きません。 理由ははっきりしています。外から持ってきた言葉は、自分の言葉になりません。 社員が自社を説明できないのは、説明する言葉を知らないからではありません。渡された言葉が、自分が日々やっていることと結びついていないからです。結びついていない言葉は、暗記の対象になります。暗記した言葉は、原文どおりには言えても、少し違う場面では使えません。 配る量を増やす打ち手が続くと、施策そのものが目的になります。ポスターを作ることが今年の取り組みになり、研修を実施したことが成果として報告される。実施したかどうかは測れるので、報告しやすいという事情もあります。 ここで測られているのは、配った量です。使われた量ではありません。 私たちがリブランディングでやっているのも、新しいものを外から持ち込む作業ではなく、すでにあるものを見つける作業です。社内に向けた場合も、同じことが言えます。会社のなかに、すでに使われている言葉があります。それを見つけて形にするほうが、新しく作って配るより早く定着します。 もっとも、「浸透させましょう」という提案を最初に持ち込むのは、私たちのような受注側です。施策から入る形をつくっているのは、発注する側ではありません。 すでに社内にあるものを見つける 図をタップすると、拡大して見られます 新しく作るのではなく、すでにある言葉を探しに行きます。探す先は四つです。 どこを探しに行くか 会社の歴史、理念、大事にしていること、そして社員が何気なく使っている言葉。この四つを見ていきます。 歴史については、見るのではなく調べます。創業の経緯、事業を変えたときの判断、続けてきたこと、やめたこと。当時いた人に聞き、残っている資料を読みます。会社が何を選んできたかは、掲げた言葉より判断の記録に出ます。 理念と大事にしていることは、すでに言葉になっているものです。ただし、そのまま使えるとは限りません。作られた時期の事情が反映されていたり、当時の経営陣の語彙で書かれていたりします。中身を確かめる対象であって、前提ではありません。 この四つは、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程2で書いたものと同じです。社外に向けた言葉を作るときも、探しに行く先は変わりません。 社員の言葉を中心に置く 社内に向ける場合、四つのうち重心が変わります。中心に置くのは、社員が何気なく使っている言葉です。 理由は単純で、社内向けの言葉は社内で使われなければ意味がないからです。すでに使われている表現を土台にすれば、使われるところから始められます。 拾う場面は三つに分かれます。 ひとつは、聞くことです。仕事で何を大事にしているか、どういうときに手を抜かないか、逆にどこは割り切るか。抽象的に聞くと抽象的な答えが返るので、直近の具体的な場面を挙げてもらいます。 ふたつめは、日常の会話です。会議の雑談、引き継ぎの場面、失敗を振り返る場面。仕事の判断がそのまま言葉になっているのは、整った場より、こうした場面です。 みっつめは、社内文書に繰り返し出てくる表現です。議事録、提案書、日報。誰も定義していないのに全員が使っている言葉があれば、それはすでに共有されているものです。 整えすぎない 拾った言葉は、そのまま使います。 整えたくなるのは自然なことです。文法が崩れていたり、業界の外に通じなかったりするので、直したくなります。ただ、整えた時点で、それは誰かが作った言葉に戻ります。自分たちが言っていた言葉ではなくなるので、また覚え直しになります。 読みやすくする程度の調整は必要です。判断の基準は、社員がその言葉を見て「これは自分たちが言っていることだ」と分かるかどうかに置きます。分からなくなったら、直しすぎています。 進め方と、実際にやること 図をタップすると、拡大して見られます 現状を聞くところから始めて、続ける仕組みを決めるところまでが一続きの工程です。現状を聞くところから、続ける仕組みを決めるところまでが一続きです。 進め方の五つの工程 工程 決めること 1 現状を聞くいま社員が何をどう説明しているか 2 言葉を拾う繰り返し出てくる表現はどれか 3 言葉にする拾った言葉を、共通で使える形にする 4 使う場所を決めるどこで、誰が、いつ使うか 5 続ける仕組み誰が運用するか 工程1では、社員に自社を説明してもらいます。「うちは何をしている会社ですか」を、部署も年次も違う人に聞きます。役員だけに聞くと、経営の言葉しか集まりません。入って一年の人と十年の人では、見えているものが違います。 ここで揃っていない部分が、そのまま課題になります。揃っている部分は、すでに共有されているものなので、作り直す必要がありません。この工程を飛ばすと、すでに共有されているものまで作り直すことになります。 工程2は前章のとおりです。聞いた内容から、繰り返し出てくる表現を抜き出します。 工程3で、拾った言葉を共通で使える形にします。この段階で決めるのは、言い回しではなく、どの言葉を会社の言葉として扱うかです。集めた表現は互いに矛盾することがあります。「早く出す」と「納得いくまで直す」が両方出てきたときに、どちらを取るのか、どういう場面で使い分けるのか。ここが決めるべきところです。 矛盾をそのまま残すと、判断の拠りどころになりません。逆に、片方を切り捨てて片方だけを掲げると、切られたほうを大事にしてきた人には自分たちの言葉に見えなくなります。両方を残したうえで、どちらを優先する場面かを書き分ける形にします。 工程4が抜けやすい工程です。言葉が決まると完成した感じがしますが、どこで使うかが決まっていなければ、使われる場面が生まれません。採用の募集要項、面接の質問、提案書の冒頭、評価の基準、社内の稟議。具体的な場所を決めます。 決める単位は「場所」であって「回数」ではありません。月に一度発信する、という決め方をすると、発信すること自体が仕事になります。採用面接の最初の五分で使う、という決め方をすると、使われる場面が自動的に発生します。 工程5で、運用する人を決めます。誰の担当でもない状態にすると、時間が経つにつれて元に戻ります。決めるのは担当者の名前だけではありません。いつ見直すか、新しく入った人に誰がどこで渡すか、言葉と実態がずれたときに誰が言い出すか。そこまで決めて、ようやく工程が終わります。 施策は、工程のどこで使うか 施策そのものに良し悪しはありません。工程のどこで使うかが決まっていれば機能しますし、決まっていなければ配って終わります。 施策 対応する工程 社員インタビュー1・2(聞く/拾う) ワークショップ2・3(拾う/言葉にする) クレド・カード4(使う場所を決める) 社内報・社内メディア4(使う場面をつくる) 研修・オンボーディング4(新しく入った人に渡す) 表彰・評価への反映5(続ける仕組み) 経営からの発信4・5 同じ施策でも、工程1で使うか工程4で使うかで、設計が変わります。ワークショップを工程4でやれば、決まったことを説明する場になります。工程2でやれば、言葉を集める場になります。 施策の数を増やすことは目的になりません。工程のどこが弱いかを見て、そこに当てるものを選びます。 なお、どの施策を選ぶかを発注側だけで決める必要はありません。工程のどこが弱いかを見立てて、そこに合う施策を提案するのは、引き受けた側の仕事です。施策の一覧を先に出して選んでもらう形になっているなら、そこは受注側が工程を見立てていないということでもあります。 やってはいけないこと 四つあります。どれも、進め方の順番を崩したときに起きます。 ひとつめは、経営だけで言葉を決めて、あとから配ることです。これが前章までに書いた形です。決める場に社員がいなければ、社員にとっては外から来た言葉になります。参加した人の数だけ、自分の言葉として扱われる範囲が広がります。全員を集める必要はありませんが、部署ごとに一人でも入っていれば、伝える経路がその人の分だけできます。 ふたつめは、他社の理念を参考にしすぎることです。参考にすること自体は問題ありません。ただ、他社の言葉が良く見えるのは、その会社の実態と結びついているからです。言葉だけを持ってくると、実態と結びついていない言葉が増えます。参考にするなら、言葉ではなく、その会社がどうやってその言葉にたどり着いたかのほうです。 みっつめは、施策から入ることです。ポスターを作ることが決まっていて、そこに載せる言葉を後から考える。この順番だと、印刷の締切が言葉の締切になります。決まる前に配る日が決まっている状態です。 先に書いたとおり、この形をつくっているのは発注側だけではありません。 よっつめは、一度で終わらせることです。人は入れ替わります。入ってきた人には、決めた過程が共有されていません。決まった言葉だけを渡されるので、その人にとっては外から来た言葉になります。工程5の運用は、決めたことを維持する作業ではなく、新しく入った人に渡し直す作業です。 効果をどう見るか 図をタップすると、拡大して見られます 数値目標は置きません。見るのは、社内の説明が揃ってきたかどうかです。 インナーブランディングの効果として、離職率や社員の意欲を挙げる記事があります。これらが動くことはあると思いますが、動いた分がどこまでこの取り組みによるものかは、切り分けられません。私たちは、切り分けられない数字を効果として書きません。 代わりに、次の三つを見ます。 ひとつめは、人によって説明が違う状態が減ったかどうかです。3章で書いた兆候の裏返しです。何人かに同じことを聞いて、返ってくる説明の重なりを見ます。一言一句が揃う必要はありません。同じことを指しているかどうかを見ます。 ふたつめは、採用の場面です。面接官によって会社の説明が変わらなくなったか。候補者から見て、誰が出てきても同じ会社に見えるかどうかです。ここは社外の人が見ている場なので、社内の状態が外に出ます。 みっつめは、判断に迷ったときにその言葉が引き合いに出されるかどうかです。会議で意見が割れたとき、決めた言葉が判断の材料として持ち出されるなら、使われています。持ち出されないなら、掲げてあるだけの状態が続いています。 三つとも、聞けば分かるものです。定期的に見るなら、工程5で決めた運用の担当が見る形になります。 もっとも、何を見れば効いたと分かるのかを最初に示すのは、引き受けた側の仕事です。効果の測り方を発注側に考えてもらう形になっているなら、そこは提案の側が決めていないということでもあります。 配るのではなく、拾い上げる インナーブランディングは、社内に無いものを入れる作業ではありません。すでにあるのに言葉になっていないものを、言葉にする作業です。 社員が自社を説明できないとき、足りないのは説明の材料ではないことがあります。日々の判断のなかに基準はあって、それが言葉になっていないだけ、という状態です。 だとすれば、やることは配ることではなく、拾い上げることになります。聞いて、集めて、共通で使える形にして、使う場所を決めて、続ける人を決める。順番はそれだけです。 そして、拾い上げた言葉が社内で使われるようになったとき、外に向けた言葉も揃います。順番としては、そちらが先にあります。

ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方

まとめ記事を読んでも決められない理由 ブランディング会社とは、企業やブランドが「何者で、誰に何を約束するか」を決め、伝わる形にする会社です。ただし、どこまでをやるかは会社によって大きく違います。まとめ記事を読んでも決められないのは、その違いが書かれていないからです。 「ブランディング会社 おすすめ」で検索すると、何十社も並べた記事が出てきます。どれにも実績と得意分野が書かれています。候補を集めるなら、あれが早いです。 ただ、集まった候補から選ぶ段になると、書かれている情報では足りません。 理由ははっきりしています。実績は、その会社が過去に何をしたかであって、自社に同じことが起きるとは限らないからです。得意分野も、粒度がばらばらで比べようがありません。 決め手になるのは、その会社がどの型かです。この記事では、ブランディング会社を4つの型に分け、自社にどれが必要かを見分ける方法をお伝えします。 ブランディング会社とは何をする会社か 図をタップすると、拡大して見られます やっているのは、決めることと、作ることです。この2つのどちらを担当するかで、会社は分かれます。 決めることとは、その会社が何者で、誰に何を約束するのかを定める作業です。事業の中身、顧客、競合、社内の実感。それらを調べて、言葉にします。 作ることとは、決めたものを目に見える形にする作業です。名前、ロゴ、色、写真、サイト、資料、空間、映像。顧客が実際に触れる部分をつくります。 ブランディング会社と呼ばれる会社は、この2つのどこを担当するかが違います。両方やる会社もあれば、片方だけの会社もあります。片方だけの会社が劣っているわけではありません。担当する範囲が違うだけです。 「ロゴを作る会社」と理解されていることも多いのですが、ロゴは作ることの一部にすぎません。決めることが済んでいなければ、何を表すかが定まらないままロゴが作られることになります。 まとめ記事にこの違いが書かれないのは、どの会社も「ブランディング」という同じ言葉を使うからです。看板は同じでも、中身は違います。 ここから先は、この2つの分担のしかたで、会社を4つに分けていきます。 会社には4つの型があります 図をタップすると、拡大して見られます 分け方は単純です。決めることをやるか、作ることをやるか。私たちは、その組み合わせで4つに分けて考えています。 業界に定まった分類があるわけではありません。ただ、相談を受けるときにこの4つで見ると、話が早く進みます。 型 してくれること 向いている状況 起きやすい問題 戦略コンサル型調査・戦略・言語化作る体制が既にある作る段で、もう一社が要る 制作会社型デザイン・制作作るものが決まっている決める工程が抜ける 広告代理店型露出・キャンペーン認知を短期で取りたい中身より露出が先行する 一体型決める工程から実物まで両方が必要規模の大きい案件は不向き 戦略コンサル型 調査と戦略の立案、それを言葉にするところまでを担当します。作ることは含みません。 向いているのは、作る体制が社内か既存のパートナーに既にある場合です。決める工程だけを買えばいいので、すでに持っているものにお金を払わずに済みます。 具体的には、社内にデザイナーがいる。長く付き合っている制作会社がある。撮影や印刷の手配が自社で回っている。こうした状態なら、足りないのは決めることだけです。 M&Aや事業統合のあとで複数の会社の方針を一つにまとめる必要がある、取締役会を通す資料としての強度が要る、といった場面でも選ばれます。社内の人間が言っても通らないことが、第三者の調査と論理でなら通る。そういう場面は実際にあります。 ただし、構造としてこうなります。決める工程だけを買った場合、作る段でもう一社が必要になります。その受け渡しがうまくいくかどうかは、別の問題として残ります。 制作会社型 デザインと制作を担当します。決めることは、基本的に発注側が持っている前提です。 向いているのは、作るものが具体的に決まっている状況です。ガイドラインがすでにあり、それに沿って展開したい。サイトを作り直したい。写真を撮り直したい。目的と要件がはっきりしている場合です。 発注側に決める力があるなら、この型が速く、費用も抑えられます。決める工程を外に出さないぶん、そこにかかる時間と費用が丸ごと不要になるからです。 起きやすい問題は、決める工程が抜けることです。方針が決まらないまま依頼すると、判断の基準がないので、最後は誰かの好みで決まります。 広告代理店型 露出とキャンペーンを担当します。媒体の設計と、そこに載せるものをつくります。 向いているのは、短期間で認知を取りたい状況です。新商品の発売、周年、大型の催事。期限が外から決まっていて、それまでに知られる必要がある場合です。 媒体を持っている、あるいは媒体との関係を持っていることが、この型の本質です。同じ制作物でも、どこに、いつ、どれだけ出すかで結果は変わります。その設計が仕事の中心にあります。 起きやすい問題は、中身より露出が先行することです。知られたけれど、知られたあとの中身が追いついていない。期待だけが上がって、落差が生まれます。 一体型 決めることから作ることまでを、同じ体制で担当します。私たちはこの型です。 向いているのは、決めることと作ることの両方が必要な状況です。方針も定まっていないし、作る体制も社内にない。この場合、あいだに会社を挟むほど、決めたことが実物に届くまでの距離が延びます。 起きやすい問題は、規模の大きい案件に向かないことです。同じ体制で通す以上、抱えられる量に上限があります。全国規模の展開や、同時並行で何十本も動く案件では、分業のほうが速い場面があります。 私たちが他の型をすすめるとき 一体型がいちばん合う、とは限りません。次の3つに当てはまる場合は、他の型のほうが速く進みます。ご相談をいただいたときも、そう判断すればそうお伝えします。 作るものが完全に決まっていて、安く早く作りたい場合。決める工程が要らないなら、そのぶんの時間と費用は不要です。制作会社型のほうが速く済みます。 短期の露出量そのものが目的の場合。中身より到達数が先に来るなら、広告代理店型の領域です。 全国多拠点や、常時大人数の体制が要る案件。私たちは少人数の中核に、案件ごとに専門家を組む形で動いています。人数を張り続ける前提の案件には、体制が合いません。 自社にどの型が必要かの見分け方 図をタップすると、拡大して見られます どの型が要るかは、いま社内に何があるかで決まります。次の4つの問いで絞れます。 1. 自社が何屋かを、一文で言えるか 言えないなら、決めることが必要です。戦略コンサル型か一体型に絞られます。 言えるなら、決めることは済んでいます。制作会社型か広告代理店型を考えてください。ここで言う「言えるか」は、社長が言えるかではありません。社員が同じことを言えるかです。人によって違う説明が出るなら、まだ決まっていません。 2. 作るものが具体的に決まっているか 何を、いくつ作るのかが決まっているなら、制作会社型で足ります。 決まっていないなら、その前の工程が要ります。「サイトを作りたい」は要望であって、決定ではありません。誰に何を伝えるサイトなのかが決まって、初めて要件になります。 目安として、要件を箇条書きにできるかどうかを試してみてください。書けるなら決まっています。書こうとして手が止まるなら、その手前が残っています。 3. 期限が外から決まっているか 周年や上場、大型の催事のように、動かせない期限が外にある場合は、広告代理店型が向きます。その期限に向けて露出を設計する仕事だからです。 期限が自社の都合で決まっているなら、急ぐ理由を確かめたほうがいい場面もあります。もっとも、その期限が動かせるものかどうかを最初に確かめるのは、引き受けた側の仕事です。 4. 作る人が社内にいるか これが最後の分岐です。いるなら戦略コンサル型で足ります。いないなら一体型を検討してください。 複数当てはまるときは、作る体制で決める 私たちが相談を受けるときも、複数の型に当てはまるほうが普通です。割り切れないから探しているのであって、それが普通です。 その場合に効く軸は一つです。作る体制が社内にあるかどうか。 決めることが必要な点は、戦略コンサル型と一体型で共通しています。差がつくのは作る側です。社内か既存のパートナーで作れるなら、決める工程だけを買えば足ります。そこも含めて任せたいなら一体型。この一点で分かれます。 もう一つ、判断を助ける見方があります。いま、どの工程で止まっているかを見ることです。何度も会議をして決まらないなら、決めることが難所です。決まっているのに形にならないなら、作ることが難所です。止まっている場所が、必要な型を教えてくれます。 型を間違えると、何が起きるか 型が合っていないと、仕事の質とは無関係のところで噛み合わなくなります。 戦略コンサル型に、作ることを期待した場合。方針はまとまり、資料も出ます。しかし顧客の目に触れる形にはなりません。決まったことが、いつまでも実物にならないという状態が起こります。 制作会社型に、決めることを期待した場合。きれいなものは出てきます。ただし何を基準に良し悪しを判断するのかが決まっていないので、最後は会議室にいる誰かの好みで決まります。 広告代理店型に、中身を期待した場合。露出は取れます。届いた人が来てみたら中身が変わっていなかった、という結果になりやすい。認知が先に伸びるぶん、落差が目立ちます。 一体型に、大規模な展開を期待した場合。同じ体制で通す設計なので、量が増えると進行が詰まります。速さが必要な局面では、分業に切り替えたほうが早く終わります。 噛み合っていないことは、途中で気づけます。打ち合わせで出てくる話題が、こちらの関心とずれ続けるときです。こちらは決めたいのに制作の話ばかり進む。あるいは逆に、作りたいのに調査の話が続く。その違和感は、型のずれから来ています。 共通しているのは、どの場合も相手の仕事の質が問題になっていないことです。戦略コンサル型が資料しか出さないのは、そういう契約だからです。制作会社型が決めてくれないのも同じです。噛み合っていないのは期待と範囲であって、能力ではありません。 だからこそ、契約の前に型を確かめる意味があります。型を間違えたことが原因で起きた失敗は、外からはデザインの失敗に見えます。そうではないことを、実際の事例で扱った記事があります(リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くない/パッケージを変えたら売れなくなる)。 発注前に必ず聞くべきこと 図をタップすると、拡大して見られます 型の見当がついたら、候補の会社に確かめてください。なお、以下はいずれも、聞かれる前に示すのが本来は受注側の仕事です。そこも含めて、相手の姿勢を見る材料になります。 1. どこまでを自社でやるか 一社で完結するのか、制作や撮影は別の会社に出すのか。悪いことではありませんが、誰が何に責任を持つのかは変わります。 一社で完結する体制が優れているとは限りません。専門性の高い工程を外に出す判断は妥当です。確かめたいのは、外に出したときに窓口が一つに保たれるかどうかです。 これは、聞かれてから答えるのではなく、提案の時点で体制図として出しておくべきものです。 2. 誰が担当し、どれだけ入るか 提案に出てきた人が、実際に手を動かすとは限りません。担当者と、関わる時間の見込みを確かめてください。 進行中に体制が変わることもあります。変わったときに黙って差し替えないのは、受注側の最低限の責任です。 3. 決める工程にどれだけ時間を取るか 作る期間だけが書かれた計画は、決める工程が抜けているか、極端に短く見積もられています。 決める工程の長さは、案件によって大きく変わります。期間の目安を聞くより、何が終われば次に進むのかという条件を聞くほうが、実務では役に立ちます。 もっとも、その条件を説明せずに短い計画を出すのは、出した側の問題です。 4. 制作物の権利はどう扱われるか 作ったものを、後から自社で使えるのか。ロゴやイラスト、写真は、扱いが分かれることがあります。 契約前に書面で示すのは受注側の役割です。聞かれるまで触れないのは不親切です。 5. 納品後の運用はどうなるか 作って終わりなのか、使い方の共有まで含むのか。ガイドラインの有無、更新のしかた、相談窓口。 運用まで含めるかどうかで、体制も費用も変わります。含めない選択も普通にあります。ただし含めないなら、誰が引き取るのかを発注側で決めておく必要があります。 ここを設計に入れて提案するのは、本来は引き受けた側の仕事です。 依頼する側が用意しておくもの 揃っていれば話が速く進むものです。ただし、揃っていないことを理由に進行を止めるのは受注側の怠慢です。ない前提で設計するのが引き受けた側の仕事なので、そこは気にしないでください。 現状の資料。既存のガイドライン、過去の制作物、会社案内。ないなら「ない」で構いません。むしろ、過去に作ったきり使われていないものがあれば、そちらのほうが手がかりになります。使われなかった理由に、その会社の実際が出るからです。 決裁の経路と、最終判断者。途中で判断者が増えると、決まったことが戻ります。ここだけは先に確認しておくと、あとが変わります。 期限と、動かせない予定。展示会、決算、周年。逆算の起点になります。動かせるものと動かせないものを分けておくと、優先順位の相談が具体的になります。 社内にある反対意見。これが役に立ちます。反対の理由には、外から見えない事情が入っていることが多いためです。隠さずに出してもらえると、後で覆るリスクが減ります。 会社を選ぶ前に、型を決める 会社を探し始めてから、どの型が要るかを考える。その順番でも進みますが、逆にすると迷いが減ります。会社を比べる前に、自社がどの型を必要としているかを決めてください。型が決まれば、候補は自然に絞れます。 私たちは一体型ですが、一体型が常に正しいわけではありません。決めることだけが難所で、作る体制がすでにあるなら、戦略コンサル型のほうが速く、無駄がありません。規模が大きければ、分業のほうが確実です。 自社に必要なのがどの型かは、ここまでの4つの問いで見当がつくはずです。そのうえで会社を探してください。 それでも判断がつかないなら、候補の会社に「うちはどの型に見えますか」と聞いてみてください。 即答でなくてかまいません。むしろ「何を聞けば範囲が決まりますか」と返してくる会社のほうが、実際に範囲を決めた経験があります。範囲を決めるには、相手の事情を聞く必要があるからです。詰まるというのは、質問の意味が分かっていない状態を指します。 もっとも、聞かれる前に自分の型を説明するのが本来の筋です。