ロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わる

ロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わる

ロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わる

「ロゴを1つ」では頼めない

ロゴ制作を依頼するとき、先に決めておくとよいのは金額ではありません。何が納品されるか、です。ロゴは1点の絵ではなく、置く場所ごとに形が要ります。縦組みと横組み、1色で刷るとき、小さく使うとき。どこまで作ってもらうかが決まっていなければ、見積もりを並べても比べられません。

頼む相手を見つけるだけなら、いまは早く済みます。デザイナーを探せる場も、制作会社の一覧も揃っています。相手を見つける段で困ることは、以前より少なくなりました。

詰まるのは、その次です。見積もりが並んだとき、金額の差が何の差なのか分からない。安いほうは何かが足りない気がするけれど、何が足りないのかを言えない。その状態で選ぶと、あとから足りないものが出てきます。

金額そのものを調べても、この問いは解けません。同じ「ロゴ制作」という名前で、中身の違うものが売られているためです。中身が違うものの値段を並べても、高いか安いかは決まりません。

この記事では金額を書きません。他社の名前も出しません。書くのは、ロゴを頼むときに何が納品の対象になるのかと、それを決めておくと何が変わるかです。読み終えたときに、手元の見積もりを見る目が変わっていれば足ります。

ロゴだけで足りるかどうか

ロゴだけを頼んで済む場合と、その手前に決めることが残っている場合があります。どちらなのかは、依頼する前に自分で見分けられます。

ロゴだけで足りるのは、使い道がはっきりしているときです。社名が変わったので新しい名前の形が要る。展示会に間に合わせたい。名刺と看板を作り直すことが決まっている。こういうときは、作るものが具体的で、判断の基準も社内にあります。迷わず進みます。

足りないことがあるのは、ロゴを変えれば何かが動くと期待しているときです。問い合わせが減った、採用で選ばれない、値段で比べられる。こうした課題の答えがロゴだとは限りません。ロゴを新しくしても、伝える中身が決まっていなければ、見た目が変わっただけで終わります。

もうひとつ、事業の説明が社内で揃っていない場合があります。何をしている会社なのかを、役員と現場で違うふうに説明している。この状態でロゴを作ると、案を見ても判断できません。何を表すべきかが定まっていないからです。

見分け方は簡単で、「なぜいま作るのか」を一文で言えるかどうかです。言えるなら、ロゴだけの依頼で進みます。言えないなら、そこを決める時間を先に取ったほうが、結果として早く終わります。

私たちがこの考え方をどう持っているかは、別の記事に書いています(なぜ私たちは、ブランディングも空間も映像も分けないのか)。そこにも書いたとおり、期限や事情があるときは、その部分だけを引き受けることもあります。そのときも、それが全体のどこに当たるものかだけは共有させてください。あとから辻褄を合わせるほうが、手間が増えるためです。

なお、どちらなのかを見立てて伝えるのは、依頼する側の宿題ではありません。話を聞いた時点で、ロゴだけで足りるかどうかを言うのは、引き受ける側の仕事です。

納品されるものは1点ではない

ロゴを作ってもらうとき、実際に受け取るものは複数あります。ここが見積もりの差になります。

業界に定まった分け方があるわけではありません。私たちは、こう並べて考えています。

何が要るか
組み方 縦に置くとき、横に置くとき、正方形に収めるとき
フルカラー、1色、白地に抜くとき
大きさ 名刺に載る大きさで潰れないか
データ どの形式で受け取り、誰が開けるか
使い方の決まり 余白、小さくできる限界、してはいけない使い方
商標 出願するのか、しないのか

組み方から見ていきます。横長の看板と、縦長ののぼりでは、同じ形は置けません。正方形に収める場面も出てきます。SNSのアイコンがそうです。最初に横組みだけ受け取っていると、縦が必要になったときに、また依頼することになります。そのときに同じ人に頼めるとは限りません。

色は、フルカラーだけでは足りません。伝票や領収書は1色で刷ることがあります。写真の上に重ねるなら、白く抜いた版が要ります。フルカラーの版を機械的に1色へ変換すると、線がつぶれたり、濃さの違いが消えたりします。1色版は、変換ではなく作り直すものだと考えておくほうが安全です。

大きさは、小さいほうが問題になります。名刺の隅や、商品の裏の小さな表示。大きく見ているときはきれいでも、縮めると細い線が消えます。小さいとき用に、線を太くした版を別に作ることがあります。どこまで小さくする予定があるかは、依頼のときに伝えておく項目です。

データは、形式と、開ける人の話です。拡大しても粗くならない形式で受け取れているか。印刷会社に渡せる形になっているか。社内の人が資料に貼れる形も要ります。制作の現場で使う形式と、社内の誰もが使える形式は別で、両方が要ります。

使い方の決まりは、渡されないことがあります。ロゴのまわりにどれだけ余白を取るか。どこまで小さくしてよいか。色を勝手に変えてよいか。文字と並べるときの位置はどうするか。決まりがないと、社内の資料や外注先で少しずつ形が崩れていきます。崩れは一度に起きるのではなく、少しずつ進みます。

商標は、デザインとは別の話です。作ったロゴを登録するかどうか、登録するなら誰が手続きするか。制作の見積もりに含まれることも、含まれないこともあります。含まれていないこと自体は問題ではなく、含まれていないと知らないまま進むことが問題になります。

「ロゴを1つ作ってください」という依頼は、この表のどこまでを含むかを言っていない状態です。含まれるかどうかが決まらないまま金額だけが出てくると、その金額が何に対するものか分かりません。

相場が答えにくい理由

ロゴ制作の相場を調べても幅が広いのは、値付けが不揃いだからではありません。売っているものが違うからです。

前の章の表を思い出してください。組み方を1種類だけ受け取る依頼と、6項目すべてを受け取る依頼では、同じ「ロゴ制作」という名前でも別のものを買っています。金額を並べて比べるというのは、中身が同じものを比べるという意味です。中身が違えば、その比較は成り立ちません。

含まれるかどうかで変わるものは、表の6項目のほかにもあります。

  • 最初に見せてもらう案が何案か
  • 案を絞ったあと、何回まで直せるか
  • 打ち合わせが何回あるか
  • 著作権をこちらへ移すのか、使わせてもらうのか

どれも、あとから追加すると別料金の話になります。先に決めておけば追加になりません。

だから見積もりを受け取ったときに見るのは、金額の数字ではありません。表の6項目と、この4つに、どこまで丸が付いているかです。丸の付き方が同じ見積もりが2枚並んで、はじめて金額を比べられます。

丸の付き方が違うまま安いほうを選ぶと、進めてから足りないものが出てきます。そのときに追加すると、はじめから含めておいた場合と変わらないか、それ以上になることがあります。作る量が同じでも、途中から足すほうが手戻りが生まれるためです。

見積もりを1枚しか取らない場合も、やることは同じです。比べる相手がいなくても、その1枚に何が含まれているかは確かめられます。含まれていない項目が見つかったら、それを含めた場合はどうなるかを聞く。それだけで、金額の意味が分かるようになります。

もっとも、何が含まれるかを一覧にして先に見せるのは、依頼する側が求めて引き出すものではありません。聞かれる前に範囲を書いて出すのが、見積もりを出す側の仕事です。範囲の書かれていない見積もりが並んでいるとき、比べられないのは受け取った側の落ち度ではありません。

権利とデータで、あとから困る

ロゴは作って終わりではなく、そのあと何年も使います。困りごとは、作っている最中ではなく、使っている途中で出てきます。

著作権をどう扱ったかが、ひとつめです。作ったものを譲り受けたのか、使わせてもらっている状態なのか。譲り受けていれば、あとで自分たちの判断で手を入れられます。使わせてもらっているだけだと、変更や別用途への転用に相手の許可が要ることがあります。どちらが良いという話ではなく、どちらなのかを知っておく必要があります。見積もりの段階で決まっていることなので、契約の前に確かめられます。

元のデータを受け取れるかが、ふたつめです。書き出した画像だけを受け取っていると、あとから少し直すこともできません。作った人に頼み直すことになりますが、時間が経つと連絡がつかないこともあります。受け取ったデータを、社内のどこに置いて誰が管理するかまで決めておくと、探す手間がなくなります。

商標が、みっつめです。登録していないと、同じような形を別の会社が先に登録することがあります。登録するかどうかは事業の規模や使い方によりますが、判断するには、そういう選択肢があると知っている必要があります。手続きを誰がやるのかも決めておくところです。制作を引き受けた相手が扱うとは限りません。

誰が作ったかを記録しておくことが、よっつめです。年月が経つと、社内で経緯を知る人がいなくなります。権利の確認をしようにも、相手が分からないと確かめようがありません。これは相手が誰であっても同じで、記録の問題です。契約書と、やりとりの記録を一緒に残しておけば足ります。

ここで挙げた4つに、法律の細かい話は含めていません。何が必要かは事業や使い方で変わるので、この記事では踏み込みません。書いておきたいのは、確かめる項目があるということと、それを制作が終わったあとに確かめるのでは遅いということです。

そして、これも依頼する側が調べて聞き出すものではありません。権利とデータをどう扱うかを、契約を交わす前に説明しておくのが、引き受ける側の仕事です。

依頼する前に決めておくこと

ここまでを、依頼の前にやることへ落とします。持っていくものではなく、決めておくことです。

何のために作るか。社名が変わった、事業が増えた、採用で使う、商品を出す。理由を一文で書けるようにしておきます。これが決まっていないと、案が出たときに選べません。前の章までの話も、ここが決まっていることが前提になっています。

どこで使うか。使う場所を書き出します。名刺、看板、伝票、Webサイト、SNSのアイコン、商品、封筒、作業着。書き出すと、3章の表がひとりでに埋まります。看板があるなら横組みが要る。伝票があるなら1色版が要る。アイコンがあるなら正方形が要る。使う場所の一覧が、そのまま納品物の一覧になります。いま思いつく場所だけで構いません。抜けは打ち合わせで埋まります。

いつまでに要るか。外から決まっている期限があるなら、先に伝えます。展示会や、登記の日付や、商品の発売日。期限があること自体は問題ではなく、伝わっていないことが問題になります。伝えてあれば、範囲を先に絞るという相談ができます。

社内で誰が決めるか。案を見て決める人を、依頼の前に決めておきます。決める人が打ち合わせに出ていないと、持ち帰って伝言することになり、そのあいだに意図が薄まります。決める人が複数いるなら、意見が割れたときにどうするかも決めておきます。

この4つを1枚の紙にまとめておくと、最初の打ち合わせで納品物の範囲まで話が進みます。決まっていなければ、そこを決めるところから始まります。決まっていないこと自体は、遅れでも準備不足でもありません。

依頼先をどう選ぶかは、この記事の範囲を超えます。会社の型から選ぶ話はブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に、どこまでを任せるかで選ぶ話はパッケージデザイン会社の選び方。依頼できる範囲と、決めておく条件に書いています。ロゴでも考え方は同じです。

なお、決まっていないものを「決めてから来てください」と返さずに、その場から一緒に決めていくのが、引き受ける側の仕事です。4つが埋まっていない状態で相談に行って問題ありません。

案が並んだとき、何で選ぶか

依頼したあとに必ず来る場面があります。案が並んで、どれにするかを決める場面です。

このとき選ぶ基準がないと、決め方は好みになります。好みで決めても進みますが、あとで社内から「なぜこれにしたのか」と聞かれたときに答えられません。結果として、決められる立場の人の意見で決まることになります。決まったこと自体は悪くないのですが、その決め方だと、次に何かを決めるときにも同じことが起きます。

基準は、案が出てから作るものではありません。前の章で決めた「何のために作るか」と「どこで使うか」が、そのまま基準になります。採用で使うと決めていたなら、採用の場面で効くのはどれかを見ます。小さく使う場面が多いなら、縮めたときに残るのはどれかを見ます。基準があると、案の優劣ではなく、目的への近さで話ができます。

社内の何人に見せるかも、先に決めておく項目です。見せる人を増やすほど意見は割れます。基準を共有しないまま人数だけ増やすと、多数決に近い決め方になります。

私たちのロゴも、その順番で決めました。多様性・協同性・創造性という言葉を先に置いて、そこから形と色を決めています(LOGO DESIGN|INTERPLAYのロゴの背景にある哲学)。先に言葉があると、案を見比べるときに、好き嫌いではない話ができます。

その言葉自体をどう決めるかは、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書いています。

そして、案を出すときに選ぶ基準も一緒に出すのが、案を出す側の仕事です。「どれがお好みですか」とだけ聞かれたなら、それは基準の共有が飛ばされています。

使われ方まで含めて頼む

ロゴを頼むというのは、絵を1点買うことではありません。どこで、どう使われるかまで含めて決めることです。

相場が調べても分からないのは、値段が隠されているからではなく、比べる前に中身が揃っていないからです。何が納品されるかが決まれば、見積もりは比べられるようになります。金額の話は、そのあとで足ります。

決まっていないなら、そこから一緒に決められる相手を選ぶ。それも、ひとつの選び方です。

Tags: