ブランド戦略とは。マーケティング戦略との違いと、事業戦略との関係
ブランド戦略とは、どこで戦い、誰に何を約束し、どう届けるかを決めたものです。決まっている状態を指す言葉で、文書の名前ではありません。
戦略と呼ぶと、独立した資料を作る作業に見えます。ただ、会社の規模や事業の数によって、そもそも分けて作るべきかどうかが変わります。
この記事では、マーケティング戦略との違いをお伝えします。そのうえで、事業戦略と分けられる会社と、分けられない会社があることを書きます。
ブランド戦略とは何か
決めるのは三つです。どこで戦うか、何を約束するか、どう届けるか。
どこで戦うかは、相手と場面を決めることです。誰の、どの場面に入るのか。全員を相手にすると決めたことになりません。市場のなかで自社が立つ場所を選ぶ作業です。
何を約束するかは、その相手に対して何を保証するかです。速さなのか、手厚さなのか、値段なのか。ここが決まると、選ばれる理由が決まります。
どう届けるかは、その約束をどこで伝えるかです。営業の場、サイト、店頭、資料、採用の場面。触れる場所ごとに約束が食い違わないようにする作業です。
私たちは、この三つが決まっている状態をブランド戦略と呼んでいます。業界に定まった定義があるわけではありません。ただ、相談を受けるときにこの範囲で見ると、話が早く進みます。
戦略という言葉が、資料の名前として使われることがあります。分厚い資料があっても、上の三つが決まっていなければ、決まっていません。逆に資料がなくても、社内で三つが揃っているなら、決まっています。見るのは、文書があるかどうかではありません。
言い換えると、ブランド戦略は成果物ではなく状態です。作ったかどうかではなく、決まっているかどうかで見ます。この見方が、あとの章で効いてきます。
マーケティング戦略との違い
三つとも近い場所にありますが、決めているものが違います。
| 決めること | 時間の幅 | |
|---|---|---|
| ブランド戦略 | 何者として選ばれるか | 変えない前提で置く |
| マーケティング戦略 | どう売るか | 期ごとに見直す |
| ブランディング | 決めたものを形にする作業 | 続ける |
この分け方も、私たちの整理です。三つをまとめてブランド戦略と呼ぶ会社もありますし、マーケティング戦略の一部として扱う考え方もあります。どれが正しいという話ではありません。
私たちが分けているのは、変える頻度が違うからです。
マーケティング戦略は、期ごとに見直します。売れ行き、競合の動き、広告の効き方。数字を見て、打ち手を変えます。変えることが前提の計画なので、変えないほうが問題になります。うまくいっていない打ち手を続けるのは、この領域では判断の遅れです。
ブランド戦略は、変えない前提で置きます。何者として選ばれるかが期ごとに変わると、選んだ側から見て別の会社になります。去年と今年で約束が違えば、去年選んだ客は、いま選ぶ理由を失います。変えないと決めたものだから、判断の基準として使えます。
ブランディングは、決めたものを形にする作業です。ロゴ、サイト、資料、店頭、言葉づかい。決まっていないものは形にできないので、この作業は前の二つのあとに来ます。
同じ言葉として「ブランド化戦略」が使われることもあります。指しているものは、たいがいブランド戦略と同じです。商品や事業を、値段以外で選ばれる状態にしていく、という意味で使われます。
混ぜると、判断が止まります。
売上が落ちたとします。このとき考えられることは二つあります。打ち手が効かなくなったのか、それとも約束そのものが古くなったのか。前者ならマーケティング戦略の見直しで、後者ならブランド戦略の見直しです。
分けていないと、この問いが立ちません。売上が落ちたという事実だけがあり、打ち手を変える話に流れます。媒体を変え、価格を試し、キャンペーンを打つ。どれも期の単位で結果が出るので、動いている実感はあります。
そして、何者として選ばれるかは触られないまま残ります。あとから振り返ると、打ち手は変わり続けたのに、会社の輪郭だけがぼやけている。この状態は、分けていなかったことの結果です。
逆に、分けすぎるのも実務では起きます。ブランド戦略を触ってはいけないものとして扱い、事業が変わっても見直さない。次の章で扱うのは、この側の話です。
「4つのブランド戦略」が答える問い
検索すると、四つに分ける整理が出てきます。ライン拡張、ブランド拡張、マルチブランド、新ブランドの四つです。
中身はこうなります。ライン拡張は、いまのブランド名のまま、同じ種類の商品を増やすこと。ブランド拡張は、いまのブランド名で、別の種類の商品に出ること。マルチブランドは、同じ種類の商品に、別のブランド名を付けること。新ブランドは、別の種類の商品に、別のブランド名を付けること。
整理すると、製品とブランドを、それぞれ既存と新規で組み合わせたものです。
| いまのブランド名 | 新しいブランド名 | |
|---|---|---|
| 同じ種類の商品 | ライン拡張 | マルチブランド |
| 別の種類の商品 | ブランド拡張 | 新ブランド |
この整理が答えているのは、「持っているブランドを、新しい商品にどこまで広げるか」という問いです。
使うためには、広げる先の商品と、いま持っているブランドの両方が要ります。複数の商品や複数のブランドを持っている会社が、次の一手を決めるときの枠組みです。
一つの事業に一つのブランドしかない会社では、この四つは選択肢になりません。比べる対象がないからです。ライン拡張も新ブランドも、選ぶ前提が揃っていません。四つを読んでも、自社がどれに当たるかが決まらないのは、当てはまる状況にないためです。
間違った整理ではありません。答えている問いが違うだけです。
この整理が答える問い 持っているブランドを、新しい商品にどこまで広げるか
この記事が扱う問い うちのブランド戦略を、どう決めればいいか
会社が育って商品が増えれば、この整理が要る場面は来ます。そのときには使えます。ただ、いま一つの事業をやっている会社が最初に決めることは、この四つのどれでもありません。
ではその会社は何を決めるのか。それが次の章です。
事業戦略と分けられるか
分けられる会社と、分けられない会社があります。事業の数と、ブランドの数で決まります。
複数の事業を持ち、それぞれに別のブランドを立てている会社では、分けられます。事業ごとに相手が違い、約束が違うからです。このとき、全体をどう配置するかを決める仕事が発生します。どのブランドをどこに置くか、どれを伸ばし、どれを畳むか。前章の四つの整理が効くのも、この規模です。
一つの事業に一つのブランドの会社では、事情が変わります。誰に何を約束するかは、その事業が誰に何を売るかと同じです。別の答えにはなりません。
このとき、ブランド戦略を別文書として作ると、二重になります。事業計画に「誰に売るか」が書いてあり、ブランド戦略にも「誰に約束するか」が書いてある。同じことを、違う言葉で二か所に書いた状態です。
二重になった時点では、問題は起きません。作った直後は中身が一致しているので、どちらを見ても同じ答えが出ます。困ることがないので、二重であること自体に気づきません。
問題が出るのは、片方だけが更新されたときです。事業のほうが変わり、計画は書き換えられた。ブランド戦略の資料は前のまま残っている。このとき、どちらが正かを決める人がいません。
決められない理由は単純で、どちらも会社が正式に作ったものだからです。片方を古いと判断するには、両方を並べて見比べる人が要ります。日々の業務のなかで、その作業をする役割は置かれていません。
そして、資料は残ります。作った労力があるので、捨てにくい。現実と合わなくなった資料が、判断の場に出てくるようになります。新しく入った人ほど、書いてあるものを前提として扱います。
分けられない会社にとって、ブランド戦略を決めるとは、事業戦略のなかの「誰に何を約束するか」を、言葉として取り出す作業です。新しく作るのではなく、すでに決まっていることを言語化する。別文書にするのではなく、同じ文書のなかで言い切る。
こう置くと、更新の問題も消えます。事業が変われば、同じ場所で一緒に書き換わるからです。
なお、分けるべきかどうかを最初に判断するのは、引き受けた側の仕事です。「ブランド戦略を作りたい」という相談をそのまま受けて別文書を作れば、二重を作ったのは私たちの側になります。
何を決めることになるか
分けない会社が、実際に決めることを並べます。
| 決めること | 中身 |
|---|---|
| どこで戦うか | 誰の、どの場面に入るか |
| 何を約束するか | 選ばれる理由を一言にする |
| 何を約束しないか | 断る基準 |
| どう届けるか | 触れる場所と、その順番 |
どこで戦うかは、相手を絞る作業です。全員に向けると、誰にも向いていない言葉になります。年齢や業種で切るより、どういう場面で困っている人かで切るほうが、実務では使えます。属性は変わりませんが、場面は自社の仕事と直接つながるからです。
何を約束するかは、一言にします。長く書けば正確になりますが、判断の場で思い出せません。この決め方はブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書き切っているので、そちらを見てください。手順も、機能しているかの確かめ方も、あちらにあります。
何を約束しないかが、この記事で厚く書く部分です。
約束を決めると、同時に約束しないことが決まります。速さを約束したなら、時間のかかる丁寧さは選べません。手厚さを約束したなら、安さでは戦えません。どちらも取ろうとすると、どちらも約束にならなくなります。
ここを飛ばしても、決めた気にはなれます。約束することだけを並べた文書は、読むと前向きに見えるからです。ただ、判断の場で使えません。何かを選ぶとき、基準が要るのは「やる」側ではなく「やらない」側です。
ここが決まっているかは、断った仕事で分かります。直近で断った案件があり、その理由が約束から説明できるなら、決まっています。断った記録がないなら、まだ基準になっていません。すべてを受けているのは、選ぶ基準を使っていないということです。
どう届けるかは、触れる場所を並べて、順番を決める作業です。サイト、営業資料、店頭、採用の場。全部を同時には整えられないので、どこから直すかを決めます。決め方は、相手が実際に触れる回数が多い順です。作り直したい順ではありません。
理念やMVVがある会社では、それとの関係も整理が要ります。MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書いたとおり、MVVは会社が自分について語ったもので、ブランド戦略は相手に対する約束です。向きが違うので、そのままでは繋がりません。並べて置くのではなく、MVVから出てくる約束はどれかを選ぶ形になります。
なお、約束することだけを決めて終わらせないのは、引き受けた側の役割です。約束しないことを一緒に決めるところまでが、決める作業です。
決めた戦略が動かなくなるとき
決めても、判断が変わらないことがあります。
分かりやすいのは、決めた場にいた人だけが覚えている場合です。決める過程には議論があり、なぜそこに落ち着いたかの理由があります。あとから受け取る人には、結論しか渡りません。理由がなければ、応用ができません。書いてある通りの場面しか判断できず、少し違う状況では止まります。
もうひとつは、現場に降りていない場合です。経営の会議では使われているのに、日々の判断では出てこない。見積もりを出すとき、案件を受けるかを決めるとき、採用の合否を決めるとき。そこで使われていないなら、決まっているのは会議室のなかだけです。
降りない理由は、意識の問題ではないことがあります。現場が判断する場面と、決めた言葉の粒度が合っていない。「誰に何を約束するか」は方針の粒度で、目の前の見積もりは案件の粒度です。あいだを埋める言い換えがないと、使いようがありません。
三つめは、事業のほうが先に変わった場合です。売る相手が変わり、主力の商品が変わった。それでも戦略の文書は前のまま残っています。前章で書いた二重の状態が、ここで表に出ます。
いずれも、デザインや資料の出来とは関係のないところで起きます。この構造はリブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いたものと同じです。出てきたものが悪いのではなく、決める工程で何かが足りていません。
動かなくなっていることは、外からは見えません。決めた文書はあり、掲げられてもいます。見るのは、直近の判断でそれが使われたかどうかです。会議で意見が割れたときに持ち出されたか。断る理由として使われたか。使われていないなら、止まっています。
なお、止まっていることに気づいて言うのは、引き受けた側の役割でもあります。納品して離れると、動いているかどうかは分かりません。
どこから手をつけるか
最初に決めるのは、分けるかどうかです。
事業が一つなら、分けません。事業戦略のなかで「誰に何を約束するか」を言い切る形にします。別文書を作らないと決めることが、最初の判断になります。
事業が複数あり、それぞれに別のブランドがあるなら、分けます。全体の配置を決める仕事が要るからです。判断に迷う規模もあります。事業は複数だがブランドは一つ、という状態です。この場合は、ブランドの数に合わせて一つにしておくほうが、運用が続きます。
分けないと決めたら、進め方はリブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程1から3までと同じです。いま外からどう見られているかを確かめ、動かせないものを見つけ、誰に何をどう伝えるかを決める。新しく決めるというより、すでにあるものを取り出す作業になります。
どこから聞くかは、社内から始めます。事業がどう変わってきたか、いま何で選ばれているか、断ってきた仕事は何か。この三つを聞くと、決まっていることと決まっていないことが分かれます。
三つめが効きます。断った理由には、その会社が使っている基準が出るからです。言葉になっていなくても、判断としては存在しています。それを拾えば、ゼロから決める作業にはなりません。
顧客に聞く工程も入ります。選んだ理由を聞くと、社内の想定と違う答えが返ることがあります。速さで選ばれていると思っていたら、断らないことだった。約束は相手に対するものなので、相手が何を受け取っているかを確かめずには決められません。
なお、相談を受けたときに事業のほうを先に聞くのは、引き受けた側の仕事です。ブランド戦略の相談として受けても、事業が変わっている最中なら、先に変わり終えるのを待つほうが早く済みます。
決めるとは、やめることを決めること
ブランド戦略は、新しく作る資料ではありません。誰に何を約束するかが決まっている状態を指します。
事業が一つの会社では、それは事業戦略のなかにあります。取り出して言葉にすれば足りるので、別に立てる必要はありません。別に立てると二重になり、片方だけが古くなります。
決めるときに効くのは、約束することよりも、約束しないことのほうです。全員に向けた戦略は、判断の場で何も決めてくれません。断る理由が出てくるところまで絞って、はじめて基準になります。
そして、決まっているかどうかは、資料の厚さでは分かりません。直近の判断で、その約束が使われたかどうかで分かります。