企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるか

企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるか

企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるか

企業ブランディングとは何か

企業ブランディングとは、自社が何をしている会社で、何を大事にしているかを、社内と社外の両方に揃った形で伝わるようにする取り組みです。ただし、これは1つの作業を指す言葉ではありません。理念を決める、外に約束することを言葉にする、社員に伝える、見え方を作り直す。別々の仕事をまとめて呼んでいる言葉です。

だから、会社によって要るものが違います。同じ「企業ブランディングをやりたい」という相談でも、話を聞いていくと、必要な作業が1本のこともあれば、3本のこともあります。ゼロということもあります。

会社のブランディングを調べると、進め方の記事が並びます。手順が示されていて、どれも筋が通っています。ただ、そこに書かれているのは全部やる前提の順番です。自社にどれが要るのかは、別に決める必要があります。

順番の記事が悪いわけではありません。全部やると決めた会社にとっては、そのとおりに進めれば形になります。ただ、相談に来られる時点では、まだ全部やると決まっていないことがあります。決まっていない状態で手順だけを読むと、読み終えても次にやることが出てきません。

この記事では、金額を書きません。他社の名前も出しません。書くのは、この言葉が何本の仕事に分かれるのかと、自社はそのどれから手をつけるのか、です。

1つの作業ではありません

「企業ブランディングをやる」という言い方は、実際には複数の別の仕事を指しています。

分け方は、業界に定まったものがあるわけではありません。世の中には3つの要素で説明するもの、4つで説明するものもあります。私たちは、作業の単位で分けて考えています。実際に手を動かすときに、別の人が別の時間をかけるものは、別の仕事だからです。

仕事 何を決めるか
理念の整理 自社が何を果たす会社なのか
外への約束を言葉にする 誰に何を約束するのか
決めたことを使える形にする どこで、誰が、どう使うか
社内に伝える 社員が同じ説明をできるか
見え方を作り直す 事業と見た目が合っているか
作るものを発注する ロゴ、サイト、パッケージ

この6つは、必要な人も、かかる時間も、終わりの見え方も違います。理念の整理は経営の仕事で、社内に伝えるのは日々の運用の仕事です。作るものの発注は、決まったあとの仕事です。関わる人が違えば、進め方も変わります。

終わり方も違います。理念の整理は、文書ができた時点では終わりません。社員が説明できるようになって、はじめて機能します。一方で、ロゴの制作は納品物が揃えば終わります。同じ取り組みの中に、終わりが決まるものと決まらないものが混ざっています。

頼む先も分かれます。理念の整理を得意とする相手と、作るものを形にする相手は、同じとは限りません。だから「企業ブランディング一式」で見積もりを取ると、何にいくらかかっているのかが見えなくなります。分けて考えておくと、見積もりも分けて見られます。

一続きの取り組みとして扱うと、どこから手をつけるかが決まりません。「企業ブランディングをやる」とだけ決めて動き出すと、作るものの話から始まることになります。目に見えて、進んだ感じがするためです。ただ、その手前が決まっていなければ、作ったものを判断する基準がありません。

全部の会社に要るわけではない

手をつけなくてよい場合があります。ここを先に書いておきます。

紹介で仕事が回っていて、相手が限られている会社があります。取引先が数えられる範囲で、担当者どうしが顔を知っている。この状態なら、外に向けて何かを整えるより、いまの関係を保つほうが効きます。外向きの整理は、知らない相手に届ける必要が出てきたときに要るものです。

事業そのものを変えている途中の会社もあります。何を主力にするかが動いているなら、言葉にしても、決めたそばから合わなくなります。動いているものを固定しようとすると、決めた側も守れません。この場合は、事業の形が見えてから手をつけるほうが早く終わります。

人手が足りていない会社もあります。日々の仕事で手一杯なら、新しい取り組みを足すと、そちらが止まります。止まったものは、次に始めるときの障害になります。一度やって続かなかった取り組みは、社内で「またあれか」と受け取られるためです。いま始めない、という判断も、判断のうちです。

見分け方は、困っていることが具体的に言えるかどうかです。「採用の応募が来ない」「取引先に事業の説明が伝わらない」のように、場面と相手が言えるなら、手をつける先があります。「なんとなく古い感じがする」で止まるなら、まだ場面が特定できていません。その状態で始めると、何が良くなれば成功なのかが決まりません。

いま手をつけないと決めた場合も、決めた記録は残しておきます。何を見て要らないと判断したのかと、いつ見直すのかを書いておくだけで足ります。書いておかないと、同じ議論がまた社内で立ち上がったときに、前回なぜ見送ったのかが分からなくなります。

上位に並ぶ記事は、企業ブランディングを全社に必要なものとして書いています。それが間違っているというより、必要かどうかを決める話が、手順の記事には入らないだけだと考えられます。

そして、いま要らないと見立てたなら、それを言うのは相談を受けた側の仕事です。話を聞いて必要がなさそうなら、そうお伝えします。やる前提で相談に応じるほうが受注につながりますが、それは提案ではなく営業です。

何が起きているかで、要るものが変わる

要るかどうかが分かったら、次はどれが要るかです。ここは、いま何が起きているかから逆算できます。

社内で説明が揃っていない

役員と現場で、何をしている会社かの説明が違う。採用の面接で、面接官によって話す内容が変わる。この状態なら、理念の整理から入ります。

自社が何を果たす会社なのかを、社内で1つに決める作業です(MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方)。

すでに理念があるのに使われていない場合は、少し違います。作り直すのか、いまのものを使える形にするのかの判断が先に要ります(企業理念とは。経営理念との違いと、作り直すときの判断)。

外への約束が決まっていない

自社の説明が、事業の紹介で終わっている。何を作っているかは言えるが、なぜ自社を選ぶのかを聞かれると言葉に詰まる。この状態なら、外への約束を言葉にするところからです。

誰に何を約束するのかが決まると、載せる情報を選ぶ基準ができます(ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方)。

決まっているが、使われていない

言葉はあるが、資料や現場で守られていない。人によって色も言い回しも変わる。この状態で足りていないのは、決めることではなく、使える形にすることです。

どこで、誰が、どう使うかまで書いてはじめて、決めたことが日々の判断に届きます(ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのか)。

社員に伝わっていない

言葉は決まっていて、掲げられてもいる。ただ、社員が自分の言葉で説明できない。配った回数の問題ではなく、自分のものになっていない状態です。

ここは社内向けの取り組みが要ります(インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方)。

見え方が事業と合っていない

事業の中身が変わったのに、外からの見え方が昔のまま。ロゴもサイトも、前の事業に合わせて作られている。この状態は、作り直しの検討に入ります。

ただし、作り直せば解決するとは限りません。何が変わったのかを先に特定する必要があります(リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミング)。

作るものが決まっている

何を伝えるかは決まっていて、あとは形にするだけ。この状態なら、発注の準備に進みます。ここまでの5つが済んでいるなら、迷わず進みます。

自社がどれかを見分ける

社内で聞けば分かります。同じ質問を何人かにして、答えが揃うかどうかを見ます。「うちは何をしている会社ですか」「なぜお客さんはうちを選んでいますか」。揃わない部分が、手をつける場所です。

複数に当てはまることもあります。その場合は上から順に見ていくと、手前が決まっていないものが見つかります。手前が決まらないまま先を進めても、あとで戻ることになります。

もっとも、これを依頼する側が自力で見立てるものではありません。話を聞いて、どれが要るかを言うのが、相談を受けた側の仕事です。「一式でやりましょう」と返ってくるなら、見立てが飛ばされています。

大企業のやり方を、そのまま縮めない

参考にする事例を選ぶときに、気をつけたいことがあります。

企業ブランディングの事例として紹介されるものは、規模の大きい会社のものが中心です。全社アンケート、部門をまたぐプロジェクト、専任のチーム、社外の調査。どれも、人と時間が確保できることを前提にした形です。

中小企業で同じ形を取ると、工程だけが残ります。アンケートは配るが集まらない。プロジェクトは立ち上がるが、参加者が本業で手一杯になる。会議は開かれるが、決める人がその場にいない。進んでいる形はできますが、中身が薄くなります。

そして、形をなぞった取り組みは、途中で止まったときに理由が見えません。何のためにやっていたかが、工程の説明に置き換わっているためです。

規模が小さいことは、この取り組みでは不利ではありません。社員に聞くのに調査は要らず、話せば済みます。決める人と現場の距離が近いので、決めたことが伝わるまでが短い。大きい会社が仕組みで解いている部分を、直接やれます。

だから、事例を見るときは形をまねるのではなく、何を決めたかだけを見ます。どんな会議体で決めたかは、その会社の規模に合わせた手順です。決めた内容のほうが、自社に置き換えられます。

そして、大企業の型をそのまま持ち込まないのは、提案する側の責任です。その会社の人数と時間で回る形を出すところまでが、引き受けた仕事です。立派な進め方を提案して、動かないまま終わるなら、提案していないのと変わりません。

中小企業で先に効きやすい順

どれも要る、という結果になることもあります。そのときは順番を決めます。

人手が限られているなら、社内から先に手をつけるほうが効きやすい形です。社員が自社を同じように説明できる状態になると、採用の場面でも、営業の場面でも、そのまま効きます。外向けの制作物を作る前に、話す内容が揃っている状態を作るということです。

社内が先だと、確かめるのも早く済みます。外向けの取り組みは、届いたかどうかを測るのに時間がかかりますが、社内なら聞けば分かります。手応えが早く返ってくるほうが、続きます。

外への約束を言葉にするのは、社内で言葉が揃ってからのほうが早く終わります。社内で説明が割れている状態で外向けの言葉を決めると、決めたあとに「うちはそうではない」という声が出ます。順番を逆にすると、決め直しが入ります。

採用で急いでいる場合は、少し事情が変わります。募集の時期が外から決まっているなら、そこに間に合う範囲で先に手をつけることになります(採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番)。

作るものは、決めることが済んでからです。ロゴもサイトもパッケージも、何を伝えるかが決まっていなければ、判断の基準がないまま案を選ぶことになります。

ただし、この順番が常に正しいわけではありません。展示会や登記の日付のように、期限が外から決まっているものがあれば、そちらに合わせます。順番は原則で、事情が優先します。

なお、その会社にとっての順番を示すのは、依頼する側が考えることではありません。何を先にやるかを、理由と一緒に出すのが、引き受けた側の仕事です。「どこからやりますか」と聞かれて、こちらが決めるなら、見立てを預けたことになります。

手をつける前に決めておくこと

始める前に、社内で決めておくことがあります。

誰が決めるか。言葉を決める場面では、意見が割れます。割れたときに決める人が決まっていないと、そこで止まります。決める人は打ち合わせに出ていたほうが早く、伝言で進めると意図が薄まります。

どこまでを今回やるか。前の章の6つのうち、今回はどれをやるのかを決めます。全部を同時に進めると、どれも中途半端なところで止まります。区切り方は、予算ではなく作業の単位です。予算で区切ると、途中まで進んだ状態で止まり、そこから再開するときに前提を思い出すところからになります。

終わったと言える状態はどれか。理念を決める仕事なら、文書ができたら終わりなのか、社員が説明できたら終わりなのか。ここを決めていないと、終わりが来ません。

もっとも、終わりの定義を依頼する側が用意するものではありません。何をもって完了とするかを、始める前に文書で示すのが、提案する側の仕事です。示されないまま始まった仕事は、いつまでも続くか、曖昧なまま止まります。

なお、依頼先をどう選ぶかは、この記事の範囲を超えます。会社の型から選ぶ話はブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に書いています。

要る本数は、会社ごとに違う

企業ブランディングは、やるかやらないかで決めるものではありません。どれをやるかで決めるものです。

呼び名は1つですが、中身は別々の仕事です。理念の整理、外への約束、使える形にすること、社内に伝えること、見え方の作り直し、作るものの発注。会社によって、要る本数が違います。ゼロということもあります。

自社がどれに当たるかは、社内で同じ質問をしてみると見えてきます。答えが揃わないところが、手をつける場所です。全部を一度にやる必要はありません。1本ずつでも、終わったと言える状態まで進めば、次に始めるときの土台になります。

決まらないなら、そこから一緒に決められる相手を選ぶ。それも、ひとつの選び方です。

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