インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方

インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方

インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方

インナーブランディングとは、自社が何者で、何を大事にしているのかを、社員に向けて共有する取り組みです。顧客ではなく社内に向けたブランディングを指します。

社外への発信をどれだけ整えても、社員が自社を説明できなければ、その説明はいずれ食い違います。インナーブランディングは、その食い違いをなくすための作業です。

この記事では、意味と進め方、そして何を見れば効いたと分かるのかまでをお伝えします。

インナーブランディングとは何か

インターナルブランディング、社内ブランディングと呼ばれることもありますが、指しているものは同じです。

「インナー」が指す範囲は、正社員だけではありません。役員、契約社員、アルバイト、業務委託の方まで含みます。会社によっては、社員の家族までを範囲に入れることもあります。自社を外に向かって説明する可能性のある人は、全員が対象です。

誤解されやすいのが、社員教育や社内広報との違いです。

社員教育は、業務に必要な知識や技能を身につけてもらう取り組みです。社内広報は、決まったことを社内に伝える機能です。どちらも社内に向いていますが、扱っているものが違います。

インナーブランディングが扱うのは、判断の拠りどころです。何を選び、何を選ばないか。その基準を社内で共有することを指します。

判断の拠りどころが共有されていれば、指示がなくても選択が揃います。共有されていなければ、同じ会社のなかで別々の答えが出ます。研修を増やしても、社内報を増やしても、そこは変わりません。

アウターブランディングとの違い

相手が違います。アウターは顧客と市場、インナーは社員と役員に向いています。ただし、この二つは別々の取り組みではありません。

アウター インナー
相手 顧客・市場 社員・役員
目的 選ばれること 同じ説明ができること
失敗の見え方 売れない 人によって言うことが違う
難しさ 伝わらない 伝わっているのに、自分の言葉になっていない

この二つを分けているのは、表の下の行です。アウターの難しさは、届かないことにあります。インナーの難しさは、届いているのに使われないことにあります。

理念は掲げてあるので、目には入っています。それでも自分の言葉で説明できないのは、知識として持っていることと、判断に使えることが別だからです。研修で読み上げた言葉を、見積もりの場面で思い出す人はいません。

私たちは、この二つを順番として考えています。社員が説明できないものが、顧客に伝わることはありません。広告や採用サイトでどれだけ整った言葉を出しても、面接で担当者が違うことを言えば、そちらが本当のこととして受け取られます。

顧客が会社に触れる場面には、社員が介在します。問い合わせの返信、打ち合わせでの受け答え、納品後の連絡。作り込んだ発信と違って、そうした場面は書き直しがききません。

外に向けた言葉を先に決めても進みますが、社内で使える形になっていなければ、外向きの言葉だけが残ります。逆にすると、外に出す言葉を考える時点で、社内に使われている表現が材料として手元にあります。

なぜ社内に伝わらないのか

伝える回数の問題ではありません。理念が掲げられているだけで、日々の判断と接続していないことが原因です。

私たちが相談を受けるなかで見かけるのは、次のような状態です。

理念はある。壁にも貼ってある。全社会議でも触れられる。それでも、実際に何かを決める場面でその言葉が出てこない。見積もりを出すとき、採用の合否を決めるとき、企画の方向を選ぶとき。判断の材料として使われていません。

使われない言葉は、覚えていても意味を持ちません。掲げられていることと、使われていることは別です。

もうひとつは、言葉の層が分かれている状態です。経営が使う言葉と、現場が使う言葉が違う。経営は「顧客体験の向上」と言い、現場は「あのお客さん、前も同じこと聞いてたよね」と言う。指しているものは近いのに、翻訳されていません。

このとき現場の言葉のほうが具体的で、実際に判断に使われています。それでも会社の言葉として扱われるのは経営側の表現なので、現場は自分たちの言葉を会社のものだと思っていません。

はっきり表に出る兆候は、人によって説明が違うことです。採用面接で、面接官ごとに会社の説明が変わる。営業先で、担当者ごとに強みの説明が変わる。どれも間違っていないのに、揃っていない。この状態が続くと、外から見たときの輪郭がぼやけます。

なお、伝わっていないことを社内の理解不足として扱うと、話が進みません。伝わる形になっていなかったのは、言葉を作った側の問題でもあります。この構造は、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いた失敗の型と重なります。

「浸透させる」と考えると失敗する

浸透という言葉が、上から下へ配る図を前提にしているためです。配れば届くという想定に立つと、打ち手は「配る量を増やす」に向かいます。

社内報を増やす。ポスターを貼る。カードを配る。研修を組む。どれも手段としては成立しますが、量を増やしても届かないものは届きません。

理由ははっきりしています。外から持ってきた言葉は、自分の言葉になりません。

社員が自社を説明できないのは、説明する言葉を知らないからではありません。渡された言葉が、自分が日々やっていることと結びついていないからです。結びついていない言葉は、暗記の対象になります。暗記した言葉は、原文どおりには言えても、少し違う場面では使えません。

配る量を増やす打ち手が続くと、施策そのものが目的になります。ポスターを作ることが今年の取り組みになり、研修を実施したことが成果として報告される。実施したかどうかは測れるので、報告しやすいという事情もあります。

ここで測られているのは、配った量です。使われた量ではありません。

私たちがリブランディングでやっているのも、新しいものを外から持ち込む作業ではなく、すでにあるものを見つける作業です。社内に向けた場合も、同じことが言えます。会社のなかに、すでに使われている言葉があります。それを見つけて形にするほうが、新しく作って配るより早く定着します。

もっとも、「浸透させましょう」という提案を最初に持ち込むのは、私たちのような受注側です。施策から入る形をつくっているのは、発注する側ではありません。

すでに社内にあるものを見つける

新しく作るのではなく、すでにある言葉を探しに行きます。探す先は四つです。

どこを探しに行くか

会社の歴史、理念、大事にしていること、そして社員が何気なく使っている言葉。この四つを見ていきます。

歴史については、見るのではなく調べます。創業の経緯、事業を変えたときの判断、続けてきたこと、やめたこと。当時いた人に聞き、残っている資料を読みます。会社が何を選んできたかは、掲げた言葉より判断の記録に出ます。

理念と大事にしていることは、すでに言葉になっているものです。ただし、そのまま使えるとは限りません。作られた時期の事情が反映されていたり、当時の経営陣の語彙で書かれていたりします。中身を確かめる対象であって、前提ではありません。

この四つは、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程2で書いたものと同じです。社外に向けた言葉を作るときも、探しに行く先は変わりません。

社員の言葉を中心に置く

社内に向ける場合、四つのうち重心が変わります。中心に置くのは、社員が何気なく使っている言葉です。

理由は単純で、社内向けの言葉は社内で使われなければ意味がないからです。すでに使われている表現を土台にすれば、使われるところから始められます。

拾う場面は三つに分かれます。

ひとつは、聞くことです。仕事で何を大事にしているか、どういうときに手を抜かないか、逆にどこは割り切るか。抽象的に聞くと抽象的な答えが返るので、直近の具体的な場面を挙げてもらいます。

ふたつめは、日常の会話です。会議の雑談、引き継ぎの場面、失敗を振り返る場面。仕事の判断がそのまま言葉になっているのは、整った場より、こうした場面です。

みっつめは、社内文書に繰り返し出てくる表現です。議事録、提案書、日報。誰も定義していないのに全員が使っている言葉があれば、それはすでに共有されているものです。

整えすぎない

拾った言葉は、そのまま使います。

整えたくなるのは自然なことです。文法が崩れていたり、業界の外に通じなかったりするので、直したくなります。ただ、整えた時点で、それは誰かが作った言葉に戻ります。自分たちが言っていた言葉ではなくなるので、また覚え直しになります。

読みやすくする程度の調整は必要です。判断の基準は、社員がその言葉を見て「これは自分たちが言っていることだ」と分かるかどうかに置きます。分からなくなったら、直しすぎています。

進め方と、実際にやること

現状を聞くところから始めて、続ける仕組みを決めるところまでが一続きの工程です。五つに分かれます。

進め方の五つの工程

工程 決めること
1 現状を聞く いま社員が何をどう説明しているか
2 言葉を拾う 繰り返し出てくる表現はどれか
3 言葉にする 拾った言葉を、共通で使える形にする
4 使う場所を決める どこで、誰が、いつ使うか
5 続ける仕組み 誰が運用するか

工程1では、社員に自社を説明してもらいます。「うちは何をしている会社ですか」を、部署も年次も違う人に聞きます。役員だけに聞くと、経営の言葉しか集まりません。入って一年の人と十年の人では、見えているものが違います。

ここで揃っていない部分が、そのまま課題になります。揃っている部分は、すでに共有されているものなので、作り直す必要がありません。この工程を飛ばすと、すでに共有されているものまで作り直すことになります。

工程2は前章のとおりです。聞いた内容から、繰り返し出てくる表現を抜き出します。

工程3で、拾った言葉を共通で使える形にします。この段階で決めるのは、言い回しではなく、どの言葉を会社の言葉として扱うかです。集めた表現は互いに矛盾することがあります。「早く出す」と「納得いくまで直す」が両方出てきたときに、どちらを取るのか、どういう場面で使い分けるのか。ここが決めるべきところです。

矛盾をそのまま残すと、判断の拠りどころになりません。逆に、片方を切り捨てて片方だけを掲げると、切られたほうを大事にしてきた人には自分たちの言葉に見えなくなります。両方を残したうえで、どちらを優先する場面かを書き分ける形にします。

工程4が抜けやすい工程です。言葉が決まると完成した感じがしますが、どこで使うかが決まっていなければ、使われる場面が生まれません。採用の募集要項、面接の質問、提案書の冒頭、評価の基準、社内の稟議。具体的な場所を決めます。

決める単位は「場所」であって「回数」ではありません。月に一度発信する、という決め方をすると、発信すること自体が仕事になります。採用面接の最初の五分で使う、という決め方をすると、使われる場面が自動的に発生します。

工程5で、運用する人を決めます。誰の担当でもない状態にすると、時間が経つにつれて元に戻ります。決めるのは担当者の名前だけではありません。いつ見直すか、新しく入った人に誰がどこで渡すか、言葉と実態がずれたときに誰が言い出すか。そこまで決めて、ようやく工程が終わります。

施策は、工程のどこで使うか

施策そのものに良し悪しはありません。工程のどこで使うかが決まっていれば機能しますし、決まっていなければ配って終わります。

施策 対応する工程
社員インタビュー 1・2(聞く/拾う)
ワークショップ 2・3(拾う/言葉にする)
クレド・カード 4(使う場所を決める)
社内報・社内メディア 4(使う場面をつくる)
研修・オンボーディング 4(新しく入った人に渡す)
表彰・評価への反映 5(続ける仕組み)
経営からの発信 4・5

同じ施策でも、工程1で使うか工程4で使うかで、設計が変わります。ワークショップを工程4でやれば、決まったことを説明する場になります。工程2でやれば、言葉を集める場になります。

施策の数を増やすことは目的になりません。工程のどこが弱いかを見て、そこに当てるものを選びます。

なお、どの施策を選ぶかを発注側だけで決める必要はありません。工程のどこが弱いかを見立てて、そこに合う施策を提案するのは、引き受けた側の仕事です。施策の一覧を先に出して選んでもらう形になっているなら、そこは受注側が工程を見立てていないということでもあります。

やってはいけないこと

四つあります。どれも、進め方の順番を崩したときに起きます。

ひとつめは、経営だけで言葉を決めて、あとから配ることです。これが前章までに書いた形です。決める場に社員がいなければ、社員にとっては外から来た言葉になります。参加した人の数だけ、自分の言葉として扱われる範囲が広がります。全員を集める必要はありませんが、部署ごとに一人でも入っていれば、伝える経路がその人の分だけできます。

ふたつめは、他社の理念を参考にしすぎることです。参考にすること自体は問題ありません。ただ、他社の言葉が良く見えるのは、その会社の実態と結びついているからです。言葉だけを持ってくると、実態と結びついていない言葉が増えます。参考にするなら、言葉ではなく、その会社がどうやってその言葉にたどり着いたかのほうです。

みっつめは、施策から入ることです。ポスターを作ることが決まっていて、そこに載せる言葉を後から考える。この順番だと、印刷の締切が言葉の締切になります。決まる前に配る日が決まっている状態です。

先に書いたとおり、この形をつくっているのは発注側だけではありません。

よっつめは、一度で終わらせることです。人は入れ替わります。入ってきた人には、決めた過程が共有されていません。決まった言葉だけを渡されるので、その人にとっては外から来た言葉になります。工程5の運用は、決めたことを維持する作業ではなく、新しく入った人に渡し直す作業です。

効果をどう見るか

数値目標は置きません。見るのは、社内の説明が揃ってきたかどうかです。

インナーブランディングの効果として、離職率や社員の意欲を挙げる記事があります。これらが動くことはあると思いますが、動いた分がどこまでこの取り組みによるものかは、切り分けられません。私たちは、切り分けられない数字を効果として書きません。

代わりに、次の三つを見ます。

ひとつめは、人によって説明が違う状態が減ったかどうかです。3章で書いた兆候の裏返しです。何人かに同じことを聞いて、返ってくる説明の重なりを見ます。一言一句が揃う必要はありません。同じことを指しているかどうかを見ます。

ふたつめは、採用の場面です。面接官によって会社の説明が変わらなくなったか。候補者から見て、誰が出てきても同じ会社に見えるかどうかです。ここは社外の人が見ている場なので、社内の状態が外に出ます。

みっつめは、判断に迷ったときにその言葉が引き合いに出されるかどうかです。会議で意見が割れたとき、決めた言葉が判断の材料として持ち出されるなら、使われています。持ち出されないなら、掲げてあるだけの状態が続いています。

三つとも、聞けば分かるものです。定期的に見るなら、工程5で決めた運用の担当が見る形になります。

もっとも、何を見れば効いたと分かるのかを最初に示すのは、引き受けた側の仕事です。効果の測り方を発注側に考えてもらう形になっているなら、そこは提案の側が決めていないということでもあります。

配るのではなく、拾い上げる

インナーブランディングは、社内に無いものを入れる作業ではありません。すでにあるのに言葉になっていないものを、言葉にする作業です。

社員が自社を説明できないとき、足りないのは説明の材料ではないことがあります。日々の判断のなかに基準はあって、それが言葉になっていないだけ、という状態です。

だとすれば、やることは配ることではなく、拾い上げることになります。聞いて、集めて、共通で使える形にして、使う場所を決めて、続ける人を決める。順番はそれだけです。

そして、拾い上げた言葉が社内で使われるようになったとき、外に向けた言葉も揃います。順番としては、そちらが先にあります。

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