Blog

ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのか

ブランドガイドラインとは、ブランドをどう見せ、どう伝えるかの決めごとをまとめたものです。ロゴの使い方だけを指すものではありません。 使うのは、社内の担当者と、社外の制作者です。決めごとが共有されていれば、誰が作っても同じ会社のものに見えます。共有されていなければ、作る人の数だけ見え方が増えていきます。 この記事では、何を書き、何を書かないかをお伝えします。そのうえで、作ったあとに何が起きるかを書きます。 ブランドガイドラインとは何か 呼び名はいくつもあります。ブランドブック、デザインマニュアル、レギュレーション、VIマニュアル。会社によって呼び方が違うだけで、指しているものは近いところにあります。 私たちは、これを「決めごとの集合」として捉えています。 この捉え方が、あとの章で効いてきます。ひとつの言葉ではなく、独立した決めごとがいくつも束ねられたもの。だから、束のなかの一部だけが守られたり、逆に一部だけが忘れられたりします。全体が生きているか死んでいるか、という見方では実態に合いません。 コンセプトのような一文とは、そこが違います。一文は、意味が分からなくなれば使えなくなります。そこで止まるので、止まったことに気づけます。決めごとの集合は、意味が分からなくなっても、書いてある通りに実行することができてしまいます。この差が、壊れ方の違いを生みます。 もうひとつ、ガイドラインは判断を減らすための道具です。毎回ゼロから考えなくて済むように、先に決めておく。だから、判断が要らなくなること自体は目的どおりです。目的を果たしている状態と、機能していない状態が、外からは同じに見える。ここが、この道具の扱いにくいところです。 何を書くか 図をタップすると、拡大して見られます 中身は四つに分けられます。上の三つはよく見かけますが、四つめが抜けていることがあります。 区分 中身 見え方ロゴ、色、書体、写真、余白 言い方呼称、文章の調子、使わない言い回し 使う場面適用範囲、優先順位、例外の扱い 判断のしかた迷ったとき誰に聞くか 見え方は、想像しやすい部分です。ロゴを小さく使うときの下限、余白の取り方、使ってよい色の組み合わせ。数字で書けるので、決めやすくもあります。ガイドラインと聞いて思い浮かぶのは、この範囲です。 言い方は、見え方より抜けやすい部分です。会社の呼び方(正式名称か略称か)、文末の調子、業界用語を使うかどうか、社名を英語で書くか日本語で書くか。制作物の印象は、書体より文章で決まることがあります。同じデザインでも、載っている文章の調子が違えば、別の会社のものに見えます。 使う場面は、範囲の話です。すべてに同じ強さで適用するのか、社外向けだけ厳しくするのか。優先順位を決めておかないと、名刺と展示会のブースに同じ厳密さを求めることになります。守れない決めごとが混ざると、守れる決めごとまで軽く扱われます。 四つめの「判断のしかた」が、この記事の中心につながります。書いていないことが起きたとき、誰に聞くのか。ここが決まっていないガイドラインは、書いてある範囲の外で止まります。そして、実務で起きることは、書いてある範囲の外に出ます。想定していた通りの場面だけが来ることは、まずありません。 何を書かないか 図をタップすると、拡大して見られます 厚くすると読まれなくなる。これはよく言われることで、その通りです。ただ、そこから先の「では何を削るのか」は、あまり具体的に書かれていません。 削ってよいものが三つあります。 ひとつめは、一度しか起きない事例への個別対応です。ある年の展示会でこう処理した、という記録は、次に同じことが起きるとは限りません。本体に混ぜると分量が増え続けるので、事例集として別に持つほうが本体を軽く保てます。 ふたつめは、現場が判断すべき粒度のことです。写真に写る小物の色まで決めると、決めた人の想定外の状況で誰も動けなくなります。細かく決めるほど守られる、とはなりません。細かすぎる決めごとは、守れないという理由で無視され、そのとき隣にある重要な決めごとも一緒に無視されます。 みっつめは、決めた人の好みです。根拠を説明できない決めごとは、聞かれたときに答えられません。答えられない決めごとは、次の章で書く壊れ方の材料になります。 逆に、削ってはいけないものがあります。「なぜそう決めたか」の理由です。 項目を減らすとき、説明が先に落とされます。結論だけのほうが短いからです。ただ、理由が落ちた決めごとは、受け取った人には根拠のない指示として届きます。従うことはできますが、応用はできません。項目を削って、理由を残す。この順序が逆になっていることがあります。 なお、何を削るかを発注した側だけで決める必要はありません。どれが本体でどれが事例かを仕分ける材料を出すのは、作った側の仕事です。分量が多いという相談を受けたときに、削る候補とその根拠を示せるかどうかが分かれ目になります。 ガイドラインは、2通りに壊れる 図をタップすると、拡大して見られます 使われなくなる形と、使われているのに中身が失われる形。方向が逆なので、対処も逆になります。 無視される 作ったのに、その通りに作られていない状態です。制作物を並べれば分かるので、気づかれます。気づかれるという点では、扱いやすい壊れ方です。 原因は、人ではなく体制にあります。私たちが見てきた範囲では、二つの形があります。 ひとつは、担当者ごとに委託先が変わる場合です。部署が別々に発注していると、それぞれの制作者がそれぞれの解釈で作ります。このとき、全体を統一する主体が社内にいません。ガイドラインを渡す人はいても、渡した結果を突き合わせる人がいない。出てきたものが揃っていないことに、誰も気づかないまま進みます。 各担当者に悪意はなく、それぞれの範囲では仕事をしています。ただ、範囲が分かれていること自体が原因なので、担当者に注意しても直りません。 もうひとつは、「作業だけやってほしい」という形の発注です。決まったものを形にするところだけを頼むと、ガイドラインを読んで解釈する工程が発注の範囲から外れます。解釈する人がいなければ、書いてあることの意図は伝わりません。書いてある通りに作ることはできても、書いていない場面では判断がつきません。 この二つめは、ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方で書いた「制作会社型は決める工程が抜ける」と同じ構造です。決める工程を買わずに作る工程だけを買うと、決めごとを扱う人が誰もいなくなります。 理由が失われたまま守られる こちらは気づかれません。守られているからです。誰も反対せず、点検にも引っかかりません。 起きているのは、こういう状態です。昔から続いている決めごとがある。誰がいつ決めたのかは分からない。それでも守られている。理由を聞かれても、答えられる人がいない。 守られていることが、機能している証拠だと読まれます。ただ、実際には判断が止まっているだけ、ということがあります。決めごとの意味が分からなくても、書いてある通りに実行はできる。1章で書いた「決めごとの集合」という性質が、ここで効いてきます。一文なら止まるところで、集合は止まらずに動き続けます。 このとき困るのは、変えるべき場面で変えられないことです。事業が変わり、売る相手が変わっても、決めごとだけが残ります。理由が分からないので、変えてよいかどうかを誰も判断できません。結果として、現実に合わなくなった決めごとが守られ続けます。 「これは守ってください」と伝える担当者を、思考停止として扱うのは違うと考えています。その人も、理由を渡されないまま受け取っています。説明できないのは、説明を受けていないからです。原因は人ではなく、理由が引き継がれない仕組みのほうにあります。 そして、理由が引き継がれないのは、引き継げる形で渡さなかった側の問題でもあります。ガイドラインに「なぜそう決めたか」が書いていなければ、渡す人も理由を持っていません。3章で「理由を残す」と書いたのは、ここに効かせるためです。 私たちがブランディングでやっているのは、変わらないものを外から持ち込むことではなく、すでにあるものを見つける作業です。誰も理由を知らない決めごとは、見つけたものではありません。ただ残ったものです。この違いは、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いた構造と重なります。 壊れ方の見分け方 自社がどちらの状態にあるかは、確かめられます。ただし、二つで難しさがまったく違います。 沿っているかを見る 無視されている場合の判定です。手元の制作物を並べて、ガイドラインと突き合わせるだけで済みます。 名刺、封筒、サイト、提案資料、展示会のパネル、採用ページ。決めた通りになっているかを見ます。見れば分かるので、判定に手間はかかりません。用意するのは制作物だけで、誰かに時間を取ってもらう必要もありません。 ここで見ているのは適合であって、良し悪しではありません。「なぜこの形なのか」を問う判定は、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方の6章にあります。あちらは聞かないと分からない判定で、こちらは見れば分かる判定です。 揃っていない箇所が見つかったら、いつ作られたものかを確かめます。時期が固まっているなら、そのときに何かが変わっています。担当が替わったか、委託先が増えたか。散らばっているなら、渡す仕組みのほうに原因があります。 理由を答えられる人がいるか こちらが難しい判定です。外から見るとうまくいっているように見えるので、探しに行かないと見つかりません。 問いはひとつです。 その決めごとについて「なぜそう決めたか」を答えられる人が、いま社内にいるか。 答えられる人がいないまま守られているなら、それは機能ではなく惰性です。 全部の決めごとについて確かめる必要はありません。いちど決めたきり長く変えていないもの、由来を聞いたことがないもの。そのあたりから当てていくと、早く見つかります。 補助的な兆候が三つあります。例外を求められたときに、可否を判断できる人がいない。「昔からこうなっている」が説明として通用している。更新した記録が残っていない。 三つとも、ガイドラインそのものを見ても分かりません。運用している人に聞かないと出てきません。この判定に手間がかかるのは、そのためです。 なお、この判定に自力で答えられないガイドラインがあるとすれば、理由を書き残さずに納品した側にも原因があります。理由を残す形で渡すところまでが、作った側の仕事です。 使われ続けるための条件 図をタップすると、拡大して見られます 決めた人がいなくなっても回るか。これが基準になります。 理由とセットで渡すこと。これが前章までの帰結です。決めごとだけを渡すと、渡された人はそれを前提として扱うしかありません。理由が付いていれば、状況が変わったときに判断できます。判断できる人が増えるほど、決めごとは長く使えます。 更新できる形にすること。完成版として固めると、直せなくなります。事業も商品も変わるので、決めごとも変わります。変えられないものは、いずれ現実と合わなくなり、守れないものになります。製本された冊子だけで渡すと、この形になりやすくなります。 例外の出し方を先に決めておくこと。例外は必ず出ます。出たときの手順が決まっていないと、そのつど個別に判断され、判断した記録も残りません。次に同じ場面が来ても、また同じ議論をします。例外を認める手順があるほうが、結果として守られます。禁じるより、通り道を作るほうが実務では効きます。 判断の窓口を決めること。2章の四つめに書いた「判断のしかた」が、ここに戻ってきます。書いていないことが起きたときに聞ける先があれば、勝手な解釈は減ります。窓口が忙しくて答えが返らない状態が続くと、聞かずに進むようになるので、応答の早さも条件のうちです。 なお、こうした運用の形まで含めて設計するのは、作った側が最初に提案すべきことです。納品物を渡して終わりにすると、更新の仕組みは誰も持たないままになります。 作るタイミング 社長が全部を見られなくなったときが、ひとつの目安です。 人が増えて、作られるものすべてに目が届かなくなる。委託先が複数になる。事業や商品が増えて、見え方が分かれ始める。このあたりで、決めごとを言葉にする必要が出てきます。それまでは、その場で確認するほうが早く済みます。 逆に、早すぎることもあります。何を約束するかが決まっていない段階でガイドラインを作ると、根拠のない決めごとの束になります。色や書体は決められますが、なぜその色なのかが説明できません。作った時点ですでに、前章の二つめの状態に入っています。 その場合は、先に決めるものがあります。誰に何を約束するのかです。順序としてはブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方が先で、ガイドラインはそれを形にする段階のものです。 タイミングを外すと、前章の壊れ方に直行します。早すぎれば、理由が共有されないまま決めごとだけが配られます。遅すぎれば、すでにばらばらになったものを後から縛ることになり、現場は納得しないまま従うことになります。 誰が運用するか 決めるのは、担当者の名前だけではありません。 いつ見直すか。新しく入った人に、誰がどこで渡すか。決めごとと実態がずれたときに、誰が言い出すか。委託先が変わるときに、誰が引き継ぐか。ここまで決めて、ようやく作る作業が終わります。 見直す時期は、期間で決めるより、出来事で決めるほうが動きます。事業が増えたとき、主力商品が変わったとき、委託先が替わったとき。日付だけを決めると、その日が来ても誰も動かないことがあります。 渡す場面を決めておくのも同じです。入社時の説明に入れるのか、案件が始まるときに渡すのか。渡す場面が決まっていなければ、渡し忘れは起こります。 最後の項目が、無視される形への対処にあたります。担当者ごとに委託先が変わっても、渡す人と突き合わせる人が決まっていれば、ばらばらにはなりません。変えるのは発注のしかたではなく、誰が全体を見るかです。部署をまたいで一人が見る形にすれば、発注の分かれ方はそのままでも揃います。 この工程は、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程6(定着)にあたります。使い方が共有されていないものは、いつのまにか元に戻ります。誰が運用するのかまで決めて、完了です。 なお、社内に全体を見る人がいるかどうかは、引き受ける前に確かめられます。いないまま渡せば、渡した先でばらばらになることは分かっています。確かめずに着手したのなら、その結果は引き受けた側も引き受けています。 使われている状態を保つ ガイドラインは、作った時点では何も決まっていません。決まるのは、それが使われたときです。 壊れ方は逆方向に二つあります。無視されるほうは目に見えるので、気づけば直せます。理由が失われたまま守られるほうは、外から見ると問題なく回っています。探しに行かなければ見つかりません。 そして、後者のほうが直すのに時間がかかります。決めごとは残っているのに、なぜそう決めたかを知る人がいないので、書き戻す材料を集めるところから始めることになります。 だから、守られていることは、まだ答えではありません。確かめるべきは、その決めごとの理由を答えられる人が、いま社内にいるかどうかです。 関連する記事 ブランドブックとは。ガイドラインとの違いと、どちらが要るかの決め方 トーンアンドマナーとは。決めるのではなく、約束から翻訳する コーポレートアイデンティティとは。MI・BI・VIと、作れるものと作れないもの 記事一覧を見る

MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方

MVVとは、ミッション・ビジョン・バリューの頭文字です。会社が何を果たすのか(ミッション)、どこへ向かうのか(ビジョン)、迷ったときに何を選ぶのか(バリュー)。この3つを分けて言葉にしたものを指します。 意味の違いまでは、調べればすぐに出てきます。この記事では、そこから先を扱います。どれから決めるのか、3つがぶつかったときに何を優先するのか。決めたあとに必要になることまでをお伝えします。 なぜ3つに分けるのか 3つとも、会社の考えを言葉にしたものです。それなら一つにまとめてもよさそうですが、まとめると使えなくなります。 理由は、3つで時間の扱いが違うからです。 ミッションには終わりがありません。果たし続けるものなので、達成して次に進むという性質を持っていません。ビジョンには期限があります。いつまでにどこへ、という形で書くので、到達したら更新することになります。バリューは今日使います。目の前の案件をどう進めるか、二つの案のどちらを選ぶか。その場で参照するものです。 私たちは、この3つを時間軸で分けて見ています。業界で定まった見方ではありませんが、こう置くと扱いが決まります。 3つをまとめて一つの文にすると、この時間差が消えます。「私たちは◯◯を通じて社会に貢献し、△△な会社を目指し、□□を大切にします」。文としては読めます。ただ、明日の判断には使えません。終わらないものと、期限のあるものと、今日使うものが、同じ重さで並んでいるからです。 分けているのは、体裁のためではありません。使う場面が違うものを、場面ごとに取り出せるようにするためです。 実際、3つのうち社員が日々目にしているのはバリューだけ、という会社があります。ミッションとビジョンは額に入って会議室にあり、バリューだけが仕事の話のなかに出てくる。望ましくない状態に見えますが、時間軸で考えれば筋の通った偏りです。問題になるのは、偏っていること自体ではなく、上の二つを使う場面が来たときに取り出せないことのほうです。 3つの違いはどこにあるか 図をタップすると、拡大して見られます 違いは、意味そのものよりも、扱い方に出ます。 ミッション ビジョン バリュー 問い何を果たすのかどこへ向かうのか何を選ぶのか 時間終わらない期限がある今日 変わるか変えない到達したら更新する増えることも減ることもある 使う場面事業を増やすとき人と予算を配るときその場で決めるとき 表の4行目について 上の3行は、意味を並べれば書ける内容です。4行目の「使う場面」が、決めたあとに効いてきます。 ミッションを使うのは、事業を増やすかどうかを決めるときです。新しい領域に手を出すか、声のかかった案件を受けるか。果たすと決めた役割の内側かどうかで判断します。 ビジョンを使うのは、人と予算を配るときです。到達点が決まっていれば、そこから逆算して今期どこに寄せるかが決まります。逆に、配分でいつも揉めるなら、到達点が共有されていない可能性があります。 バリューを使うのは、その場です。会議で意見が割れたとき、見積もりの出し方を決めるとき、断るかどうかを決めるとき。上の二つと違って、日々のなかで参照するものです。 3つが揃っていなくても進む 3つとも揃えないといけない、というものではありません。会社の段階によって、要るものが違います。 事業が一つで、判断する人が数人なら、バリューだけで回ります。判断の基準さえ共有されていれば、日々は進みます。人が増えて、判断する人が離れた場所にいるようになると、ビジョンが要るようになります。同じ方向を向いているかを、会話以外で確かめる必要が出るからです。 ミッションが要るようになるのは、事業が増えたときです。事業が一つのうちは、何を果たす会社かという答えが、事業の説明と重なります。別に書き起こす必要がありません。二つめ、三つめが増えてくると、事業の説明では会社の説明にならなくなります。「うちは何の会社なのか」という問いが社内から出てきたら、そこが合図です。 採用の場面でも同じことが起きます。事業ごとに募集をかけると、入ってきた人は事業の単位で会社を理解します。会社として何を果たすのかが言葉になっていないと、部署が増えるほど、別々の会社が同居している状態に近づきます。 3つを同時に埋めることが目的になると、埋めるための言葉が出てきます。要るものから順に決めるほうが、使われる形になります。 パーパス・経営理念との関係 図をタップすると、拡大して見られます 同じあたりを指す言葉が、いくつも流通しています。パーパス、経営理念、企業理念、社是、クレド、行動指針。並び順を変えたPMVVやVMVという書き方も見かけます。 私たちは、次のように使い分けています。まずパーパスは、なぜ存在するのかを指します。社会に対する存在理由です。ミッション(何を果たすのか)と近い位置にありますが、同じではありません。ミッションは会社が引き受ける役割で、パーパスはその手前にある理由です。 経営理念・企業理念は、総称です。ここまでに出た言葉のいくつかをまとめて呼んでいるもので、何を含むかは会社によって違います。理念という言葉が出てきたら、その会社が何を指しているのかを先に確かめないと、話が噛み合いません。社是やクレドも同じで、指す範囲は会社ごとに決まっています。 行動指針という呼び方も見かけます。私たちが見てきた範囲では、中身はバリューと重なります。呼び方が違うだけということがあるので、ここも社内で確かめる対象になります。 ここで一つ、断っておきます。この使い分けは、業界で決まっているものではありません。ミッションとパーパスを同じ意味で使う整理もありますし、パーパスを最上位に置いて、その下にミッションを並べる書き方もあります。どれが正しいという話ではありません。 大事なのは、社内で一つに決まっていることのほうです。呼び方をどれにするかで悩むより、その言葉が何を指しているのかを揃えるほうが先になります。言葉が増えているのは、扱う対象が増えたからではありません。同じものを、違う入口から呼んでいることがあります。 どれから決めるのか 図をタップすると、拡大して見られます ミッションを決めて、ビジョンを描いて、バリューに落とす。作り方としては、この順で説明されます。 順序としては筋が通っていますし、その順でも進みます。ただ、途中で止まったときは、手元を見ると早いことがあります。 というのも、バリューは、決める前からすでに社内にあるからです。 これまで断ってきた仕事、続けてきたやり方、価格を下げてでも守ったこと、揉めたときに最後に通した判断。そこに、何を選ぶ会社なのかが出ています。言葉になっていないだけで、基準そのものは動いています。 ミッションから始めて止まるのは、手元に材料がない状態で始めているからです。「何を果たす会社か」を白紙から考えると、出てくるのは、どこの会社でも書けそうな文になります。社会貢献、価値提供、顧客第一。書けますが、判断には使えません。 先に、すでにしてきた判断を集める。集めたものを見ると、果たしてきた役割の輪郭が出てきます。そこからミッションを書くと、書ける言葉が変わります。 ビジョンは、この二つとは出どころが違います。過去を集めても出てきません。どこへ向かうかは、これから決めることだからです。 ただ、白紙から出るわけでもありません。ミッションで引き受けた役割の内側で、どこまで行くかを決める形になります。役割が定まっていない状態で到達点だけを描くと、期限が来たときに、達成したのかどうかを判断できません。何を果たすと決めたかがなければ、到達したことの意味を測れないためです。 この「すでにあるものを見つける」という進め方は、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程2でも扱っています。会社の見え方を作り直すときも、内側の言葉を決めるときも、探しに行く先は変わりません。 順番を変えたほうがいい、という話ではありません。決まった順で進んで、止まらなければそれでいきます。止まったときに、白紙で考え続けるのではなく手元を見る。選択肢が増えるという意味で書いています。 3つが矛盾したときにどうするか 図をタップすると、拡大して見られます 3つに分けた時点で、矛盾は起きます。欠陥ではありません。性質の違うものを別々に言葉にしたのだから、ぶつかる場面が出るのは筋が通っています。 矛盾が起きる場所 ぶつかりやすいのは、ビジョンの期限とバリューの手順です。 ビジョンには期限があります。いつまでにここへ、と決めた以上、期日が近づけば急ぎます。一方でバリューには、こういうときはこうする、という手順が書かれています。丁寧に確かめる、相手の状況を聞いてから決める、納得しない案は出さない。 期限に間に合わせようとすると、この手順のほうが先に折れます。確かめる工程を飛ばす、聞かずに決める、間に合う案を出す。私たちが相談を受けるなかで見かけるのは、この形です。 理由ははっきりしています。バリューは具体的で、今日その場で使うものだからです。抽象度の高いミッションと違って、破ったことがその場で分かる形になっています。破れるものから破られます。 ぶつかり方は、これだけではありません。事業を広げていくと、ビジョンに書いた到達点が、ミッションで引き受けた役割の外側に出ることがあります。逆に、役割のほうが広すぎて、到達点が役割の一部しか埋めていないこともあります。 ミッションとバリューが合わなくなることもあります。果たすと決めた役割のために引き受けるべき仕事が、日々の判断基準では受けない形になっている場合です。このときは、どちらかが実態と合っていません。決め直す対象は、優先順位ではなく言葉のほうになります。 決めるのは順位ではない では、どれを優先すればいいのか。 ここで「ミッションが最上位です」と書くこともできますが、会社によって違います。期限を守ることを引き受けている会社もあれば、期限を延ばしてでも手順を守る会社もあります。どちらも成立します。 問題は、決まっていないことのほうです。 決まっていないと、その場にいる人の立場で決まります。納期を持っている人がいれば期限が通り、現場を見ている人がいれば手順が通る。同じ会社のなかで、日によって違う答えが出ます。これが続くと、社員は3つとも参照しなくなります。参照しても答えが出ないからです。 決めておくのは、順位そのものというより、ぶつかったときにどう決めるかです。誰が判断するのか。どの場に持っていくのか。判断した結果を、次から何に反映するのか。 そして、ここは発注側だけの仕事ではありません。3つを言葉にして納品し、ぶつかったときにどうするかを決めずに終わっているなら、それは引き受けた側が仕上げていないということでもあります。言葉を3つ揃えるところまでが成果物だと考えているなら、そこが抜けます。 誰が決めると自分の言葉になるか 図をタップすると、拡大して見られます 経営が決めるのか、全社で決めるのか。この二択で語られる場面がありますが、どちらを選んでも同じところで詰まります。 分けるのは、決める人と、材料を出す人です。 決めるのは経営です。会社が何を果たし、どこへ向かうかは、責任を持つ人が決めます。ここを全社の合議にすると、角の取れた文になります。誰も反対しない言葉は、誰の判断も変えません。 材料を出すのは現場です。前の章で書いたとおり、判断の基準はすでに動いています。それを持っているのは、日々決めている人たちです。ここを経営だけで埋めると、外から持ってきた言葉になります。 この二つを混ぜると、決まらないか、誰の言葉でもないものが出ます。全員で決めようとすれば決まりませんし、経営だけで決めて配れば、配られた側にとっては他人の言葉です。 材料を出す場に誰を入れるか。人数の問題ではなく、どの判断をしている人かで選びます。断る判断をしている人、価格を決めている人、採用の合否を出している人。基準が出るのは、決めている場所です。役職で選ぶと、決めていない人が入ります。 この人選を設計するのは、引き受けた側の仕事です。参加者を発注側に任せて、出てきた顔ぶれでそのまま進めているなら、進め方を決めていないということになります。誰が入るかで出てくる材料が変わる以上、そこは提案の一部です。 もう一つ、経営がどこまで書くのかという分かれ目があります。文言まで決めるのか、方向だけを決めて、言葉は別の人が磨くのか。 どちらでも進みます。ただ、文言を経営が一人で書き上げると、その人にしか使えない言い回しが残ることがあります。逆に、方向だけ渡して丸ごと任せると、整った文が返ってきて、誰も反対しないかわりに誰も使いません。決めるのは方向と、外してはいけない言葉。磨くのはそのあと。この分け方だと、両方を避けられます。 決めた過程を残しておくかどうかでも、あとから差が出ます。言葉だけを渡された人には、どう決まったのかが分かりません。なぜその言葉になったのか、何と何を天秤にかけたのか。過程が残っていれば、あとから入った人も、その言葉を自分の判断に使えるようになります。 決めたあとに何が起きるか 図をタップすると、拡大して見られます 決めた直後は、何も変わりません。ここで失敗したと感じる場合がありますが、順当な状態です。 言葉ができると、次に手が伸びるのは見た目のほうです。ロゴを整える、サイトを作り直す、会社案内を刷り直す。どれも要る作業ですが、それで判断が変わるわけではありません。リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いたのは、この順番のことです。見えるものを変えても、決め方が変わらなければ、元の状態に戻ります。 3つの言葉が使われるようになるかどうかは、決め方ではなく、決めたあとの扱いで決まります。どの場面で参照するのか。誰が持ち出すのか。新しく入った人にどう渡すのか。 決めた直後にやることを一つだけ挙げるなら、次にこの言葉を持ち出す場面を決めておくことです。次の役員会でも、来期の予算を決める場でもかまいません。使う場面が先に決まっていないと、掲示したところで作業が終わります。 社外に出すのは、そのあとで足ります。採用サイトや会社案内に載せた言葉を、面接で担当者が別の言い方で説明する。そうなると、載せる前より状態が悪くなります。候補者から見れば、書いてあることと目の前の人が食い違っている、という情報が増えただけになるからです。 ここから先は、社内で言葉が使われる状態をつくる作業になります。インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方で、進め方と、何を見れば効いたと分かるのかを書いています。この記事では入口までにします。 一つだけ、こちら側から書いておきます。決めたあとに何をするかまでを含めて提案していないなら、言葉を納品して終わりにしているのは受注側です。3つの言葉を納めた時点で成果物が完成していると考えるなら、使われるかどうかは発注側の努力の問題になります。そういう分け方をしている限り、同じ状態が繰り返されます。 作った時点では、まだ何も変わらない MVVは、3つに分けたところに意味があります。終わらないもの、期限のあるもの、今日使うもの。性質の違うものを別々に置いたのは、場面ごとに取り出して判断に使うためです。 だとすれば、決めたあとに参照されていないなら、分けた意味がまだ出ていないことになります。3つ揃っているかどうかではなく、どこかの場面で持ち出されているかどうかが、できているかの目安になります。 3つがぶつかる場面は、遅かれ早かれ来ます。そのときに何を優先するかを決めてあれば、言葉は判断の材料になります。決めていなければ、その場にいる人の立場で決まり、3つは参照されないまま残ります。 3つ揃えることを目標に置くと、揃った日が終わりになります。使う場面を決めることを目標に置けば、そこから始まります。同じ作業をしていても、どちらを目標に置いたかで、決めたあとの扱いが変わります。 言葉ができた日は、始まりの日です。その日に変わるものはありません。変わるとしたら、その言葉を持ち出して何かを決めた、最初の一回からです。 関連する記事 企業理念とは。経営理念との違いと、作り直すときの判断 パーパス経営とは。「意味がない」と言われる理由と、中小企業での使いどころ 理念浸透とは。「浸透しない」の中身を分けて、打ち手を決める 記事一覧を見る

ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方

ブランドコンセプトとは、その会社や商品が、誰に何を約束するのかを一言で表したものです。キャッチコピーのことではありません。 外に向けた約束であると同時に、社内で何かを決めるときの拠りどころにもなります。決まっていれば判断が速くなり、決まっていなければ、そのつど解釈が分かれます。 この記事では、どこから見つけて、どう決めるかまでをお伝えします。そのうえで、すでに決まっているコンセプトが実際に機能しているかを、どう見分けるかを書きます。 ブランドコンセプトとは何か 誰に何を約束するのかを、一言で表したものです。私たちはそう捉えています。 「一言で」という部分が要です。長く書けば正確になりますが、正確な文章は判断に使えません。会議の途中で思い出せる長さでなければ、決めるときの拠りどころになりません。三行あると、その場では引用されなくなります。 約束には相手が要ります。誰に向けたものかが抜けていると、書かれているのは自社の願望だけになります。「高品質なものづくりで社会に貢献する」という一文からは、誰に何を約束したのかが読み取れません。悪い文ではありませんが、これを持って何かを決めることはできません。 キャッチコピーと混同されやすいのですが、役割が違います。キャッチコピーは、その約束を届けるための表現です。コンセプトは、表現を選ぶ前に決まっている中身のほうです。 同じコンセプトから、キャッチコピーは何通りも作れます。逆はできません。コピーからコンセプトを逆算しようとすると、後付けの説明になります。先にコピーが決まっている場合、そのコピーを正当化する理屈がコンセプトとして書かれることになります。 もうひとつ、コンセプトは社外向けだけのものではありません。約束した以上、社内でもそれを基準に選ぶことになります。外向きの言葉が、そのまま内向きの判断基準になる。この二面性が、あとの章で効いてきます。 似た言葉との違い 図をタップすると、拡大して見られます コンセプトの周りには、似た働きをする言葉がいくつもあります。私たちは次のように使い分けています。 語 何を指すか ミッション何を果たすのか(役割) ビジョンどこへ向かうのか(到達点。期限がある) バリュー何を選ぶのか(日々の判断基準) パーパスなぜ存在するのか(社会に対する存在理由) 経営理念・企業理念上のいくつかをまとめた総称 ブランドコンセプト誰に何を約束するか タグラインその約束を短い言葉にしたもの この使い分けは、業界に定まった定義ではありません。私たちが仕事のなかで使っている整理です。 実際、コンセプトとミッションを同じものとして扱う考え方もあります。どちらも「何をするのか」を言葉にしたものなので、重なる部分は確かにあります。どちらが正しいという話ではありません。 私たちが分けているのは、向きが違うからです。ミッション・ビジョン・バリュー・パーパスは、会社が自分自身について語ったものです。ブランドコンセプトは、相手に対する約束です。主語は同じでも、誰に向かって言っているかが違います。 この違いは、書くときの検算に使えます。ミッションは相手がいなくても書けますが、コンセプトは相手を書かないと成立しません。「誰に」が入っていない文がコンセプトとして置かれているなら、実際にはミッションを書いている可能性があります。 経営理念や企業理念という言い方は、総称として使われます。会社によって、ミッションだけを指すこともあれば、四つ全部を含むこともあります。社外の人と話すときは、その会社が何を指しているかを先に確かめたほうが早く進みます。 言葉の定義そのものは、正直なところ、どれでも構いません。社内で揃っていることのほうが大事です。同じ会議で、ある人はミッションのつもりで話し、別の人はコンセプトのつもりで聞いている。この状態のほうが、定義の選び方より問題になります。 議論が噛み合わないとき、意見が割れているのではなく、語の意味が割れているだけ、ということがあります。先に語を揃えると、そこで終わる議論もあります。 なぜ言葉にする必要があるのか 言葉になっていないものは、判断のたびに解釈が分かれるからです。 社長の頭のなかには、答えがあります。何を大事にしていて、どういう仕事を選びたいのか。創業した人であればなおさら、はっきりしています。 問題は、それが本人のなかにしかないことです。人が二人のうちは、聞けば済みます。十人になると、聞ける機会が減ります。三十人になると、聞いていない人が出てきます。そして、聞いていない人も判断はします。 ここで起きるのは、意見の対立ではありません。それぞれが善意で、それぞれの解釈で判断していく状態です。どれも間違っていないのに、揃わない。 制作物を作る段になると、これがはっきり表に出ます。ロゴの案が三つ並んで、どれを選ぶかの基準がない。色の候補が出て、好みで決めることになる。決め手がないので、決められる立場の人が決めます。 そうなると、その人が見ていないところで作られるものは、基準を持たないまま世に出ます。名刺、伝票、現場の掲示物、採用の資料。目の届かないところほど数が増えるので、時間が経つほど輪郭がぼやけます。 この構造は、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いた失敗の型と同じです。デザインの出来ではなく、決める基準がないことが原因になっています。 なお、基準がないまま制作に入ったことを、発注した側の準備不足として扱うと話が進みません。基準の有無を最初に確かめるのは、引き受けた側の仕事です。 どこから見つけるか 図をタップすると、拡大して見られます 新しく考えるのではなく、すでにあるものを探します。探す先は四つです。 会社の歴史、理念、大事にしていること、そして社員が何気なく使っている言葉。歴史については、見るのではなく調べます。何を選んで、何をやめてきたか。判断の記録に、その会社の基準が出ます。 この四つは、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程2で書いたものと同じです。社内に向けて言葉にする場合の掘り下げは、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方の5章にまとめてあります。どちらも、探す先そのものは変わりません。 コンセプトの場合、ここにもうひとつ足します。顧客が自社について言っていることです。 なぜ選んだのかを聞くと、こちらが強みだと思っていたところとは別の理由が返ってくることがあります。速さで選ばれていると思っていたら、聞く姿勢のほうだった。納期の正確さだと思っていたら、断らないことだった。この差は、社内からは見えません。 約束は相手に対するものなので、相手が何を受け取っているかを確かめずには決められません。四つの探し先が社内にあるのに対して、これだけが社外にあります。手間はかかりますが、ここを飛ばすと、自社の思い込みを言葉にして終わります。 決めるまでの手順 図をタップすると、拡大して見られます 集めるところから、使う場所を決めるところまでが一続きの工程になります。途中で止めると、決まったのに使われないという状態になります。 工程 決めること 1 集める歴史・理念・社員の言葉・顧客が言っていること 2 絞る自社にしか言えないものはどれか 3 言い切る誰に何を約束するかを一文にする 4 検算するやらないことが決まるか 5 使う場所を決めるどこで判断の基準にするか 工程1では、前章の四つに顧客の声を足して集めます。この段階で整理はしません。矛盾したまま並べておきます。整理を先にすると、集める前に結論が決まります。 工程2の「自社にしか言えないか」は、他社の名前を入れ替えても成立する文になっていないかで確かめます。「お客様第一」「品質にこだわる」は、入れ替えても成立します。成立するなら、絞れていません。 集めた量に対して、自社にしか言えないものは限られます。残りが少なくて不安になりますが、少ないほうが判断には使えます。候補が五つ残っているなら、それは絞る作業が途中で止まっているということです。 絞るときの基準は、正しさではありません。他社が言えないかどうかです。正しいことを並べると、正しくて誰にでも当てはまる文になります。 工程3で一文にします。ここで長くなるのは、絞りきれていないことの表れです。二つの約束が入っているなら、どちらが主なのかがまだ決まっていません。両方を残したい気持ちは自然ですが、両方が主だと、迷ったときにどちらも根拠になりません。 工程4が抜けると、あとで効いてきます。約束を決めると、同時に「やらないこと」が決まります。速さを約束したなら、時間のかかる丁寧さは選べません。手厚さを約束したなら、安さでは戦えません。 やらないことが何も出てこないなら、その文は約束ではなく、願望が書かれています。この検算が、次の章につながります。 工程5で、どこで基準として使うかを決めます。制作物の判断、案件を受けるかどうかの判断、採用の判断。使う場所が決まっていないコンセプトは、決めた直後から使われなくなります。決めた場にいた人だけが覚えていて、その人が異動すると消えます。 なお、この工程を発注した側だけで進める必要はありません。方向を決める工程としての位置づけは、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程3に書いています。工程4の検算を持ち出すのは、本来は引き受けた側の役割です。 機能しているかの見分け方 図をタップすると、拡大して見られます ここまでは、これから決める人に向けて書いてきました。この章は、すでに決めた人に向けたものです。 コンセプトはある。決めたときは納得した。ただ、それが効いているのかどうかが分からない。作り方までは、たどり着ける情報があります。その先の、効いているかを確かめる方法をお伝えします。 見るところは四つあります。どれも、新しく調査をする必要はありません。すでに起きたことを見るだけです。 社員が同じことを言えるか 社長が言えるかではありません。社員が同じことを言えるかです。人によって違う説明が出るなら、まだ決まっていません。 これはブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方の4章で書いた判断基準と同じものです。社内で揃っているかどうかの見方は、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方の8章に詳しく書いています。 一言一句が揃う必要はありません。同じことを指しているかどうかを見ます。むしろ、全員が同じ文を暗記している状態は、自分の言葉になっていない兆候でもあります。言い方が違っていて、中身が同じ。これが揃っている状態です。 確かめ方は単純です。部署の違う何人かに、同じ質問をします。「うちは、お客さんに何を約束している会社ですか」。会議の場ではなく、個別に聞きます。 制作物から説明できるか 実際に作っている側から見ると、これが分かりやすい判定です。 手元にあるものを並べます。ロゴ、名刺、サイト、提案資料、商品の写真、店舗の内装。ひとつずつ「なぜこの形なのか」をコンセプトから説明してみます。 説明できないものが混ざっているなら、そこはコンセプトを使わずに決めています。好みで決めたか、前例で決めたか、担当者の判断で決めたか。どれかです。 混ざっていること自体は、珍しくありません。問題になるのは、混ざっているのに気づいていない場合です。気づいていれば、次に作るときに揃えられます。気づいていなければ、揃っていないものが増え続けます。 逆から見ることもできます。制作物を先に見せて、そこからコンセプトを言い当ててもらう。社外の人にやってもらうと、はっきりします。言い当てられないなら、約束が形になっていません。 もっとも、コンセプトから説明できる形で作るのは、作った側の責任です。発注した側に説明を求める前に、引き受けた側が説明できるようにしておくのが先です。 やらないことが決まるか 決めるときの検算(工程4)を、決めたあとにもう一度やります。 直近で断った仕事、見送った企画を並べます。そして、断った理由がコンセプトから説明できるかを見ます。 説明できるなら、機能しています。断るという判断は、基準がなければできません。逆に、断った理由が「忙しかったから」「条件が合わなかったから」ばかりなら、コンセプトは判断に使われていません。 何も断っていない場合も同じです。すべてを受けているなら、選ぶ基準を使っていないことになります。 この判定は、四つのなかで結果が厳しく出ます。断った理由は記録に残らないので、思い出そうとしても出てこないためです。出てこないこと自体が、答えになっています。 迷ったときに使われるか 会議で意見が割れたとき、その言葉が持ち出されるかどうかです。 持ち出されるなら、判断の材料になっています。持ち出されないなら、掲げてあるだけの状態が続いています。 四つのうち、この判定は確かめやすいのに、見過ごされます。普段の会議を思い出せば分かることなので、わざわざ確かめる対象になりません。 直近で意見が割れた場面をひとつ思い出して、そこで何を根拠に決めたかを辿ります。根拠が「声の大きさ」や「役職」だったなら、コンセプトはその場にいませんでした。 よくある失敗 どれも、決めたあとになってから表れます。決めた時点では、どれも起きていません。 ひとつめは、言葉を美しくしすぎることです。整った一文になっているのに、それを使って何かを決められない。読んだときの気持ちよさと、判断に使えることは別です。 これは受注側が持ち込む失敗です。言葉を扱うのが仕事なので、整えたくなります。整えた結果として使えなくなったなら、それは引き受けた側の責任です。判断に使えるかどうかを最後に確かめるところまでが、仕事の範囲です。 ふたつめは、他社と入れ替えても成立することです。工程2で確かめたはずのことが、工程3で言葉にする段階で戻ってしまうことがあります。一文にまとめようとすると、角が取れて一般的な表現に寄るためです。 絞る作業と、言葉にする作業は別なので、それぞれの終わりで確かめる必要があります。絞れていたのに、書いたら戻っていた。これは起こります。 みっつめは、決めた人だけが意味を分かっていることです。決める場にいた人には、その言葉に至るまでの議論が入っています。あとから受け取った人には、結論の一文しか渡りません。同じ言葉でも、持っている情報量が違います。 対策は、決めた理由を一緒に残すことです。何を候補にして、なぜそれを選ばなかったのか。選ばなかったほうの記録が効きます。 よっつめは、一度決めて、そのまま置いてあることです。事業が変われば、約束できる中身も変わります。三年前に決めた約束が、いまの事業と合っているかは、見直さなければ分かりません。 見直す時期を最初に決めておくのが確実ですが、その提案をするのは、決める作業を引き受けた側の仕事です。 作るものではなく、見つけるもの コンセプトは、新しく発明するものではありません。すでにやっていることのなかにある約束を、言葉にしたものです。 だとすれば、決まった時点で終わりにはなりません。言葉にしたあと、それが実際に使われているかどうかで、価値が決まります。 確かめる方法は、この記事の6章にあります。社員が同じことを言えるか。制作物から説明できるか。やらないことが決まるか。迷ったときに使われるか。 四つとも、新しく調べる必要はありません。すでに起きたことを見るだけです。作るより、確かめるほうが早く済みます。そして、確かめないまま作り直すと、同じところに戻ります。 関連する記事 ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのか タグラインとは。キャッチコピーとの違いと、短くならないときの原因 ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのか 記事一覧を見る

パッケージデザイン会社の選び方。依頼できる範囲と、決めておく条件

候補は集まる。選ぶ材料がない パッケージデザイン会社を選ぶとき、先に決まるのは会社ではありません。印刷の方法、容器の形、いつまでに棚へ出すか。こうした条件がどこまで決まっているかで、頼める相手が変わります。会社を比べる前に、自社の条件がどこまで固まっているかを確かめる。それが選び方の実質です。 「パッケージデザイン会社 おすすめ」で調べると、何社も並んだ記事が見つかります。候補を集めるだけなら、あれが手っ取り早い方法です。社名も、得意分野も、所在地もまとまっています。 ただ、そこから1社を選ぶ段になると足りません。並んでいるのは会社の情報であって、自社に何が必要かは書かれていないからです。比べる軸を持たないまま一覧を眺めても、決め手は出てきません。 探しているのは、腕の良い会社というより、自社に合う会社です。一覧に並んでいる会社は、どこもパッケージを作れます。分かれるのは、今回の案件で必要になる工程を、その会社が引き受けているかどうかです。同じ「パッケージデザインの依頼」という言葉が、案件によって指している範囲が違います。 この記事では社名を挙げません。金額にも触れません。範囲が決まらないうちに出てくる金額は、比べても意味がないからです。逆に範囲が決まれば、見積もりは比べられるようになります。ここでは、依頼できる範囲がどう分かれているかと、そのどれが自社に要るのかを決める材料を書きます。 パッケージに限らず、依頼先をどう選ぶかを広く見ておきたい場合は、ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に書いています。この記事は、パッケージの依頼に絞ります。 新商品か、リニューアルか 図をタップすると、拡大して見られます 同じ「パッケージデザインの依頼」でも、新しく出す商品と、すでに売っている商品の作り直しでは、必要な相手が違います。 新商品 リニューアル すでに決まっているもの中身、売価、置きたい棚それに加えて、いまの見た目 難しいところ何もないところから目印を作るすでにある目印を壊さずに変える 依頼先に効く違い形や構造から相談できるかいまの商品を読み解けるか 新商品は、決まっていないことが多いぶん、相談できる範囲が広い相手が向きます。容器の形が未定なら、形から一緒に考えられるかどうかが効いてきます。 中身がまだ固まっていない段階で相談に来られることもあります。その場合は、決まっていないことを前提に動ける相手かどうかが分かれ目になります。固まってからお持ちください、と返す会社もあれば、固まっていない前提で形から一緒に考える会社もあります。どちらが正しいという話ではなく、進め方が違います。 リニューアルは逆です。制約が増えます。すでに買っている人がいて、その人たちは棚の前で、色と形を手がかりに商品を探しています。手を入れると、その手がかりが消えます。 リニューアルのなかでも、中身を変えずに見た目だけを変える場合と、中身も一緒に変わる場合とでは、話が違ってきます。中身が変わるなら、変わったことが伝わらなければ意味がありません。中身が同じなら、伝えるべき新しいことは、そもそもありません。どちらなのかで、変える理由の置きどころが変わります。 次の章は、リニューアルを考えている方に向けたものです。新商品の立ち上げなら、その次の章から読んでください。 リニューアルなら先に決める すでに売っている商品を作り直すなら、会社を探す前に決めておくことがあります。何を変えないか、です。 パッケージのリニューアルで売上が落ちるとき、原因はデザインの出来映えとは限りません。落ちているのは、棚での見つけてもらいやすさです。いつも買っている人は、商品名を読んで選んでいるわけではありません。色と形で、見た瞬間に判断しています。 この話は別の記事で詳しく書いているので、ここでは繰り返しません(パッケージを変えたら売れなくなる。その手前で、何が起きているのか)。会社選びとの関係でいえば、押さえるところは一つです。 何を変えないかを決めずに発注すると、どの会社に頼んでも同じことが起きます。色を動かすのか、形を動かすのか、写真を動かすのか。決めていなければ、提案は自由な方向へ広がります。広がった提案から選ぶとき、判断の基準は「良く見えるかどうか」しか残りません。棚で見つけてもらえるかどうかは、そこに入ってこないのです。 気をつけたいのは、変えないものと、変えられないものは違うということです。表示の決まりや、詰める工程の都合で動かせないものは、あとから出てきます。それは制約であって、守ると決めたものではありません。決めるべきなのは、動かせるのにあえて残すもののほうです。 残すものを増やしすぎると、今度は変える意味がなくなります。ここは全部を決めきる作業ではなく、順位をつける作業だと考えてください。最後まで残すのはどれか。そこが決まっていれば、上がってきた提案を見る目が変わります。良いか悪いかではなく、残すはずのものが残っているかで見られるようになります。 もっとも、これを依頼する側だけの宿題にするのは違います。変えないものを一緒に探すのは、本来は依頼を受ける側の仕事です。現物を見て、いまこの商品が何によって見つけられているのかを言う。最初の打ち合わせは、そこから始まるのが筋です。決めてから来てください、と求める話ではありません。 依頼できる範囲は4つに分かれる 図をタップすると、拡大して見られます パッケージの依頼先は、どこまでを引き受けるかで分かれます。業界に定まった分類があるわけではありません。私たちはこう分けて考えています。 範囲 やること 発注側に残るもの デザインだけ平面のデザインを作る印刷の手配、形の決定 容器の形から形や構造を含めて作る印刷と製造の手配 印刷と製造まで印刷会社や工場の手配を含む検品と納期の管理 出たあとまで発売後の追加や改版を含む社内に残る作業が少ない デザインだけを頼む 容器の形も、印刷の方法も、印刷会社も決まっている場合です。決まっている条件を渡して、その中でデザインを作ってもらいます。 条件が固まっているほど、この形はうまく回ります。速く進み、やりとりも少なく済みます。逆に、固まっていないまま頼むと、デザインができたあとで「この形では刷れない」と分かることがあります。 印刷会社とのやりとりは自社に残ります。色の確認も、納期の追いかけも、こちらで持ちます。デザインを受け取ってから先が長い形だと見ておくと、日程が立てやすくなります。 容器の形から頼む 形そのものを検討の対象にする場合です。新商品でまだ何も決まっていないとき、あるいは棚での見え方を形から変えたいときに要ります。 形が変われば、印刷の方法も、詰める工程も変わります。ここを含めて相談すると決めることは増えますが、あとで戻る手間は減ります。 そのかわり、決まるまでの時間は延びます。形を検討し、試作を見て、詰める工程で成立するかを確かめる。その往復が入るためです。棚に出す時期から逆算して、間に合うかどうかを先に確かめてください。 印刷と製造まで頼む 印刷会社や工場の手配まで任せる場合です。社内に調達や進行の担当がいないとき、窓口が一つになる利点があります。 ただし、間に人が入る分だけ工程は見えにくくなります。どこまでを自社でやり、どこから先を外に出すのかを、最初に聞いておく必要があります。 詰まりやすいのは色の確認です。画面で見た色と、刷り上がった色は違います。誰がどの段階で色を確かめるのかを、範囲の話と一緒に決めておくと、あとで揉めずに済みます。 もっとも、この段取りを先に示すのは、範囲を引き受けた側の仕事です。聞かれるまで言わない進め方になっているなら、引き受けた範囲そのものが、まだあいまいだということです。 出たあとまで頼む 発売してからの追加、味違いの展開、表示の変更まで含める場合です。品目が増えていく商品や、継続して出していくシリーズで効いてきます。 この形は、最初の一品だけを見ていると必要性が分かりにくいところがあります。効いてくるのは、次の品目を出すときです。前に作ったものと揃えるとき、同じ相手が作っていれば、経緯を説明し直さずに済みます。 一つ確かめておきたいのは、下へ行くほど良い、という並びではないことです。条件が決まっているなら、デザインだけを頼む形で足ります。工程が増えないぶん、着地も早くなります。範囲を広げる理由は、社内で持てない工程があるかどうかです。 途中で範囲を広げられるかどうかも、聞いておくと役に立ちます。デザインだけを頼んだあとで、印刷会社が見つからないと分かることがあります。そのとき引き受けてもらえるかどうかで、探し直す手間が変わります。 印刷と製造が先に決めている 図をタップすると、拡大して見られます デザインの自由度は、デザインを始める前に決まります。 印刷の方法、使う素材、容器の形。ここが決まっていれば、その中でできることに上限が引かれます。紙なのかフィルムなのか、何色で刷るのか、加工を入れるのか。デザイナーが選べる範囲は、そこから内側です。 印刷会社がすでに決まっている案件では、この上限が先に立っています。長く付き合っている印刷会社があるなら、その会社で扱える範囲が、そのままデザインの範囲になります。これは制約ですが、悪いことではありません。決まっているほど、話は速く進みます。 作る数と、箱に入れる数も効いてきます。数が少ないときに使える印刷の方法と、多いときに使える方法は違います。ここを決めずにデザインを進めると、見積もりの段階で作り直しになることがあります。 画面と実物の差も、この段階の話です。パッケージは光を返す素材の上に刷るので、モニターで見た色は、そのままは出ません。金や銀を使うなら、なおさらです。実物で確かめるしかない工程が入るので、その時間を日程に組み込んでおく必要があります。 表示しなければならない文言もあります。成分や内容量のように、載せることが決まっているものです。何が必要かは商品によって違うので、ここでは並べません。ただ、この面積は動かせません。デザインに使える面は、その残りです。 だから、会社を探す前に確かめておくと早いのは、この三つです。印刷会社が決まっているか。形が決まっているか。作る数が決まっているか。 三つとも埋まっていなくても、相談は始められます。ただし、どれが埋まっていないのかを整理して返すところまでが、相談を受けた側の仕事です。足りないものを並べて突き返すだけなら、相談に応じたことになりません。 どこまで任せるかを決める 図をタップすると、拡大して見られます どれが要るかを決める材料は、社内にあります。 印刷会社が決まっているかどうかが、まず効きます。決まっているなら、印刷と製造まで頼む必要はありません。決まっていないなら、自分で探すか、任せるかの判断が要ります。 形から作る必要があるかどうかが、次に効きます。いまの容器をそのまま使うなら、平面のデザインだけで足ります。棚での見え方を変えたいなら、形が候補に入ってきます。 社内に進行の担当がいるかどうかも見ます。印刷会社とのやりとり、色の確認、納期の追いかけ。この仕事を持てる人がいなければ、範囲を広げて任せるほうが、結果として滞りが少なくなります。 品目が一つか、シリーズかでも変わります。一つなら、そのつど頼む形で足ります。増えていくなら、続けて見てもらえる相手のほうが、あとで揃えやすくなります。 迷ったときは、その工程が今回きりかどうかで考えてみてください。今回きりなら、外に出したほうが速く終わります。これから続くなら、社内に残したほうが、二度目からが楽になります。範囲の広さは、案件の大きさではなく、続くかどうかで決まる面があります。 複数が当てはまるときは、社内で誰が窓口に立てるかで決めます。立てる人がいるなら範囲を狭く、いないなら広く。この順番でも進みますが、逆にすると、決めきれないまま相見積もりを取ることになります。 狭く頼んで足りなかった場合も、やり直しにはなりません。足りない工程が分かった時点で、そこだけを別に頼む形にできます。ただし窓口は増えます。増えた窓口を誰が持つのかを、先に決めておいてください。 なお、どこまでを自社で引き受けるのかを、聞かれる前に示すのは、見積もりを出す側の仕事です。範囲の書かれていない見積もりが並んでいるとすれば、比べられないのは依頼する側の落ち度ではありません。 最初の打ち合わせに持っていくもの 条件を言葉で説明するより、現物を持っていくほうが早く伝わります。 いまの商品の現物(リニューアルの場合) 棚の写真、または売り場の様子が分かるもの 売価と、箱に入れる数 印刷会社が決まっているかどうか。決まっていれば、その社名 作る数の見込み 載せることが決まっている文言 現物が一つあると、話が具体になります。写真では、大きさも、手に持ったときの質感も伝わりません。棚の写真も同じで、隣に何が並んでいるかは、口で説明しても伝わりにくいところです。 新商品で、まだ現物がないときは、参考にしている商品を持っていきます。自社のものでなくて構いません。棚で隣に並ぶことになる商品でも、雰囲気が近いと思っている商品でも、実物があるほうが、伝わり方が変わります。言葉で伝えようとすると、抽象的な形容詞の交換になりがちです。 そのうえで、聞くことは持ち物に紐づきます。現物を渡して「この商品は、いま何で見つけられていると思いますか」と聞く。印刷会社の名前を渡して「この会社でできる範囲はどこまでですか」と聞く。作る数を伝えて「この数で使える方法はどれですか」と聞く。 質問の一覧を用意していく必要はありません。手元にあるものを出して、それについて答えが返るかを見る。返ってこないなら、その範囲は引き受けていないということです。 逆に、こちらが答えられない質問が出たときは、それが決まっていない条件です。その場で無理に答えないでください。持ち帰って社内で決めるものと、相手と一緒に決めていくものを仕分けるだけで、次の打ち合わせの中身が変わります。 ここでも、順序は逆であるべきです。何を持ってくればよいかを先に伝えるのは、受ける側の仕事です。何も言われないまま打ち合わせに来て、話が進まなかったとすれば、準備が足りなかったのは依頼する側ではありません。 会社より先に、条件が決まる パッケージデザイン会社の選び方は、会社を比べるところから始まりません。自社の条件がどこまで決まっているかを確かめるところから始まります。 印刷会社が決まっているか。形が決まっているか。作る数が決まっているか。すでに売っている商品なら、何を変えないか。ここが埋まっているほど頼める相手は絞られ、迷う場面が減ります。 埋まっていないなら、それも一つの条件です。埋めるところから一緒にやってくれる相手を探す、という選び方になります。決まっていないことは、悪いことではありません。決まっていないまま、決まっているつもりで発注することだけが問題になります。 どの会社に頼んでも同じものができる、という話ではありません。条件が同じでも、上がってくるものは相手によって違います。ただ、その違いを比べられる状態にするために、先に条件を並べておく必要がある、ということです。並べたうえで見比べれば、一覧では分からなかった差が見えてきます。 一覧を見るのは、そのあとで足ります。 関連する記事 パッケージを変えたら売れなくなる。その手前で、何が起きているのか 商品ブランディングとは。共通にするものと、分けるものを決める ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方 記事一覧を見る

インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方

インナーブランディングとは、自社が何者で、何を大事にしているのかを、社員に向けて共有する取り組みです。顧客ではなく社内に向けたブランディングを指します。 社外への発信をどれだけ整えても、社員が自社を説明できなければ、その説明はいずれ食い違います。インナーブランディングは、その食い違いをなくすための作業です。 この記事では、意味と進め方、そして何を見れば効いたと分かるのかまでをお伝えします。 インナーブランディングとは何か インターナルブランディング、社内ブランディングと呼ばれることもありますが、指しているものは同じです。 「インナー」が指す範囲は、正社員だけではありません。役員、契約社員、アルバイト、業務委託の方まで含みます。会社によっては、社員の家族までを範囲に入れることもあります。自社を外に向かって説明する可能性のある人は、全員が対象です。 誤解されやすいのが、社員教育や社内広報との違いです。 社員教育は、業務に必要な知識や技能を身につけてもらう取り組みです。社内広報は、決まったことを社内に伝える機能です。どちらも社内に向いていますが、扱っているものが違います。 インナーブランディングが扱うのは、判断の拠りどころです。何を選び、何を選ばないか。その基準を社内で共有することを指します。 判断の拠りどころが共有されていれば、指示がなくても選択が揃います。共有されていなければ、同じ会社のなかで別々の答えが出ます。研修を増やしても、社内報を増やしても、そこは変わりません。 アウターブランディングとの違い 相手が違います。アウターは顧客と市場、インナーは社員と役員に向いています。ただし、この二つは別々の取り組みではありません。 アウター インナー 相手顧客・市場社員・役員 目的選ばれること同じ説明ができること 失敗の見え方売れない人によって言うことが違う 難しさ伝わらない伝わっているのに、自分の言葉になっていない この二つを分けているのは、表の下の行です。アウターの難しさは、届かないことにあります。インナーの難しさは、届いているのに使われないことにあります。 理念は掲げてあるので、目には入っています。それでも自分の言葉で説明できないのは、知識として持っていることと、判断に使えることが別だからです。研修で読み上げた言葉を、見積もりの場面で思い出す人はいません。 私たちは、この二つを順番として考えています。社員が説明できないものが、顧客に伝わることはありません。広告や採用サイトでどれだけ整った言葉を出しても、面接で担当者が違うことを言えば、そちらが本当のこととして受け取られます。 顧客が会社に触れる場面には、社員が介在します。問い合わせの返信、打ち合わせでの受け答え、納品後の連絡。作り込んだ発信と違って、そうした場面は書き直しがききません。 外に向けた言葉を先に決めても進みますが、社内で使える形になっていなければ、外向きの言葉だけが残ります。逆にすると、外に出す言葉を考える時点で、社内に使われている表現が材料として手元にあります。 なぜ社内に伝わらないのか 図をタップすると、拡大して見られます 伝える回数の問題ではありません。理念が掲げられているだけで、日々の判断と接続していないことが原因です。 私たちが相談を受けるなかで見かけるのは、次のような状態です。 理念はある。壁にも貼ってある。全社会議でも触れられる。それでも、実際に何かを決める場面でその言葉が出てこない。見積もりを出すとき、採用の合否を決めるとき、企画の方向を選ぶとき。判断の材料として使われていません。 使われない言葉は、覚えていても意味を持ちません。掲げられていることと、使われていることは別です。 もうひとつは、言葉の層が分かれている状態です。経営が使う言葉と、現場が使う言葉が違う。経営は「顧客体験の向上」と言い、現場は「あのお客さん、前も同じこと聞いてたよね」と言う。指しているものは近いのに、翻訳されていません。 このとき現場の言葉のほうが具体的で、実際に判断に使われています。それでも会社の言葉として扱われるのは経営側の表現なので、現場は自分たちの言葉を会社のものだと思っていません。 はっきり表に出る兆候は、人によって説明が違うことです。採用面接で、面接官ごとに会社の説明が変わる。営業先で、担当者ごとに強みの説明が変わる。どれも間違っていないのに、揃っていない。この状態が続くと、外から見たときの輪郭がぼやけます。 なお、伝わっていないことを社内の理解不足として扱うと、話が進みません。伝わる形になっていなかったのは、言葉を作った側の問題でもあります。この構造は、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いた失敗の型と重なります。 「浸透させる」と考えると失敗する 浸透という言葉が、上から下へ配る図を前提にしているためです。配れば届くという想定に立つと、打ち手は「配る量を増やす」に向かいます。 社内報を増やす。ポスターを貼る。カードを配る。研修を組む。どれも手段としては成立しますが、量を増やしても届かないものは届きません。 理由ははっきりしています。外から持ってきた言葉は、自分の言葉になりません。 社員が自社を説明できないのは、説明する言葉を知らないからではありません。渡された言葉が、自分が日々やっていることと結びついていないからです。結びついていない言葉は、暗記の対象になります。暗記した言葉は、原文どおりには言えても、少し違う場面では使えません。 配る量を増やす打ち手が続くと、施策そのものが目的になります。ポスターを作ることが今年の取り組みになり、研修を実施したことが成果として報告される。実施したかどうかは測れるので、報告しやすいという事情もあります。 ここで測られているのは、配った量です。使われた量ではありません。 私たちがリブランディングでやっているのも、新しいものを外から持ち込む作業ではなく、すでにあるものを見つける作業です。社内に向けた場合も、同じことが言えます。会社のなかに、すでに使われている言葉があります。それを見つけて形にするほうが、新しく作って配るより早く定着します。 もっとも、「浸透させましょう」という提案を最初に持ち込むのは、私たちのような受注側です。施策から入る形をつくっているのは、発注する側ではありません。 すでに社内にあるものを見つける 図をタップすると、拡大して見られます 新しく作るのではなく、すでにある言葉を探しに行きます。探す先は四つです。 どこを探しに行くか 会社の歴史、理念、大事にしていること、そして社員が何気なく使っている言葉。この四つを見ていきます。 歴史については、見るのではなく調べます。創業の経緯、事業を変えたときの判断、続けてきたこと、やめたこと。当時いた人に聞き、残っている資料を読みます。会社が何を選んできたかは、掲げた言葉より判断の記録に出ます。 理念と大事にしていることは、すでに言葉になっているものです。ただし、そのまま使えるとは限りません。作られた時期の事情が反映されていたり、当時の経営陣の語彙で書かれていたりします。中身を確かめる対象であって、前提ではありません。 この四つは、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの工程2で書いたものと同じです。社外に向けた言葉を作るときも、探しに行く先は変わりません。 社員の言葉を中心に置く 社内に向ける場合、四つのうち重心が変わります。中心に置くのは、社員が何気なく使っている言葉です。 理由は単純で、社内向けの言葉は社内で使われなければ意味がないからです。すでに使われている表現を土台にすれば、使われるところから始められます。 拾う場面は三つに分かれます。 ひとつは、聞くことです。仕事で何を大事にしているか、どういうときに手を抜かないか、逆にどこは割り切るか。抽象的に聞くと抽象的な答えが返るので、直近の具体的な場面を挙げてもらいます。 ふたつめは、日常の会話です。会議の雑談、引き継ぎの場面、失敗を振り返る場面。仕事の判断がそのまま言葉になっているのは、整った場より、こうした場面です。 みっつめは、社内文書に繰り返し出てくる表現です。議事録、提案書、日報。誰も定義していないのに全員が使っている言葉があれば、それはすでに共有されているものです。 整えすぎない 拾った言葉は、そのまま使います。 整えたくなるのは自然なことです。文法が崩れていたり、業界の外に通じなかったりするので、直したくなります。ただ、整えた時点で、それは誰かが作った言葉に戻ります。自分たちが言っていた言葉ではなくなるので、また覚え直しになります。 読みやすくする程度の調整は必要です。判断の基準は、社員がその言葉を見て「これは自分たちが言っていることだ」と分かるかどうかに置きます。分からなくなったら、直しすぎています。 進め方と、実際にやること 図をタップすると、拡大して見られます 現状を聞くところから始めて、続ける仕組みを決めるところまでが一続きの工程です。現状を聞くところから、続ける仕組みを決めるところまでが一続きです。 進め方の五つの工程 工程 決めること 1 現状を聞くいま社員が何をどう説明しているか 2 言葉を拾う繰り返し出てくる表現はどれか 3 言葉にする拾った言葉を、共通で使える形にする 4 使う場所を決めるどこで、誰が、いつ使うか 5 続ける仕組み誰が運用するか 工程1では、社員に自社を説明してもらいます。「うちは何をしている会社ですか」を、部署も年次も違う人に聞きます。役員だけに聞くと、経営の言葉しか集まりません。入って一年の人と十年の人では、見えているものが違います。 ここで揃っていない部分が、そのまま課題になります。揃っている部分は、すでに共有されているものなので、作り直す必要がありません。この工程を飛ばすと、すでに共有されているものまで作り直すことになります。 工程2は前章のとおりです。聞いた内容から、繰り返し出てくる表現を抜き出します。 工程3で、拾った言葉を共通で使える形にします。この段階で決めるのは、言い回しではなく、どの言葉を会社の言葉として扱うかです。集めた表現は互いに矛盾することがあります。「早く出す」と「納得いくまで直す」が両方出てきたときに、どちらを取るのか、どういう場面で使い分けるのか。ここが決めるべきところです。 矛盾をそのまま残すと、判断の拠りどころになりません。逆に、片方を切り捨てて片方だけを掲げると、切られたほうを大事にしてきた人には自分たちの言葉に見えなくなります。両方を残したうえで、どちらを優先する場面かを書き分ける形にします。 工程4が抜けやすい工程です。言葉が決まると完成した感じがしますが、どこで使うかが決まっていなければ、使われる場面が生まれません。採用の募集要項、面接の質問、提案書の冒頭、評価の基準、社内の稟議。具体的な場所を決めます。 決める単位は「場所」であって「回数」ではありません。月に一度発信する、という決め方をすると、発信すること自体が仕事になります。採用面接の最初の五分で使う、という決め方をすると、使われる場面が自動的に発生します。 工程5で、運用する人を決めます。誰の担当でもない状態にすると、時間が経つにつれて元に戻ります。決めるのは担当者の名前だけではありません。いつ見直すか、新しく入った人に誰がどこで渡すか、言葉と実態がずれたときに誰が言い出すか。そこまで決めて、ようやく工程が終わります。 施策は、工程のどこで使うか 施策そのものに良し悪しはありません。工程のどこで使うかが決まっていれば機能しますし、決まっていなければ配って終わります。 施策 対応する工程 社員インタビュー1・2(聞く/拾う) ワークショップ2・3(拾う/言葉にする) クレド・カード4(使う場所を決める) 社内報・社内メディア4(使う場面をつくる) 研修・オンボーディング4(新しく入った人に渡す) 表彰・評価への反映5(続ける仕組み) 経営からの発信4・5 同じ施策でも、工程1で使うか工程4で使うかで、設計が変わります。ワークショップを工程4でやれば、決まったことを説明する場になります。工程2でやれば、言葉を集める場になります。 施策の数を増やすことは目的になりません。工程のどこが弱いかを見て、そこに当てるものを選びます。 なお、どの施策を選ぶかを発注側だけで決める必要はありません。工程のどこが弱いかを見立てて、そこに合う施策を提案するのは、引き受けた側の仕事です。施策の一覧を先に出して選んでもらう形になっているなら、そこは受注側が工程を見立てていないということでもあります。 やってはいけないこと 四つあります。どれも、進め方の順番を崩したときに起きます。 ひとつめは、経営だけで言葉を決めて、あとから配ることです。これが前章までに書いた形です。決める場に社員がいなければ、社員にとっては外から来た言葉になります。参加した人の数だけ、自分の言葉として扱われる範囲が広がります。全員を集める必要はありませんが、部署ごとに一人でも入っていれば、伝える経路がその人の分だけできます。 ふたつめは、他社の理念を参考にしすぎることです。参考にすること自体は問題ありません。ただ、他社の言葉が良く見えるのは、その会社の実態と結びついているからです。言葉だけを持ってくると、実態と結びついていない言葉が増えます。参考にするなら、言葉ではなく、その会社がどうやってその言葉にたどり着いたかのほうです。 みっつめは、施策から入ることです。ポスターを作ることが決まっていて、そこに載せる言葉を後から考える。この順番だと、印刷の締切が言葉の締切になります。決まる前に配る日が決まっている状態です。 先に書いたとおり、この形をつくっているのは発注側だけではありません。 よっつめは、一度で終わらせることです。人は入れ替わります。入ってきた人には、決めた過程が共有されていません。決まった言葉だけを渡されるので、その人にとっては外から来た言葉になります。工程5の運用は、決めたことを維持する作業ではなく、新しく入った人に渡し直す作業です。 効果をどう見るか 図をタップすると、拡大して見られます 数値目標は置きません。見るのは、社内の説明が揃ってきたかどうかです。 インナーブランディングの効果として、離職率や社員の意欲を挙げる記事があります。これらが動くことはあると思いますが、動いた分がどこまでこの取り組みによるものかは、切り分けられません。私たちは、切り分けられない数字を効果として書きません。 代わりに、次の三つを見ます。 ひとつめは、人によって説明が違う状態が減ったかどうかです。3章で書いた兆候の裏返しです。何人かに同じことを聞いて、返ってくる説明の重なりを見ます。一言一句が揃う必要はありません。同じことを指しているかどうかを見ます。 ふたつめは、採用の場面です。面接官によって会社の説明が変わらなくなったか。候補者から見て、誰が出てきても同じ会社に見えるかどうかです。ここは社外の人が見ている場なので、社内の状態が外に出ます。 みっつめは、判断に迷ったときにその言葉が引き合いに出されるかどうかです。会議で意見が割れたとき、決めた言葉が判断の材料として持ち出されるなら、使われています。持ち出されないなら、掲げてあるだけの状態が続いています。 三つとも、聞けば分かるものです。定期的に見るなら、工程5で決めた運用の担当が見る形になります。 もっとも、何を見れば効いたと分かるのかを最初に示すのは、引き受けた側の仕事です。効果の測り方を発注側に考えてもらう形になっているなら、そこは提案の側が決めていないということでもあります。 配るのではなく、拾い上げる インナーブランディングは、社内に無いものを入れる作業ではありません。すでにあるのに言葉になっていないものを、言葉にする作業です。 社員が自社を説明できないとき、足りないのは説明の材料ではないことがあります。日々の判断のなかに基準はあって、それが言葉になっていないだけ、という状態です。 だとすれば、やることは配ることではなく、拾い上げることになります。聞いて、集めて、共通で使える形にして、使う場所を決めて、続ける人を決める。順番はそれだけです。 そして、拾い上げた言葉が社内で使われるようになったとき、外に向けた言葉も揃います。順番としては、そちらが先にあります。 関連する記事 理念浸透とは。「浸透しない」の中身を分けて、打ち手を決める 企業理念とは。経営理念との違いと、作り直すときの判断 採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番 記事一覧を見る

ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方

まとめ記事を読んでも決められない理由 ブランディング会社とは、企業やブランドが「何者で、誰に何を約束するか」を決め、伝わる形にする会社です。ただし、どこまでをやるかは会社によって大きく違います。まとめ記事を読んでも決められないのは、その違いが書かれていないからです。 「ブランディング会社 おすすめ」で検索すると、何十社も並べた記事が出てきます。どれにも実績と得意分野が書かれています。候補を集めるなら、あれが早いです。 ただ、集まった候補から選ぶ段になると、書かれている情報では足りません。 理由ははっきりしています。実績は、その会社が過去に何をしたかであって、自社に同じことが起きるとは限らないからです。得意分野も、粒度がばらばらで比べようがありません。 決め手になるのは、その会社がどの型かです。この記事では、ブランディング会社を4つの型に分け、自社にどれが必要かを見分ける方法をお伝えします。 ブランディング会社とは何をする会社か 図をタップすると、拡大して見られます やっているのは、決めることと、作ることです。この2つのどちらを担当するかで、会社は分かれます。 決めることとは、その会社が何者で、誰に何を約束するのかを定める作業です。事業の中身、顧客、競合、社内の実感。それらを調べて、言葉にします。 作ることとは、決めたものを目に見える形にする作業です。名前、ロゴ、色、写真、サイト、資料、空間、映像。顧客が実際に触れる部分をつくります。 ブランディング会社と呼ばれる会社は、この2つのどこを担当するかが違います。両方やる会社もあれば、片方だけの会社もあります。片方だけの会社が劣っているわけではありません。担当する範囲が違うだけです。 「ロゴを作る会社」と理解されていることも多いのですが、ロゴは作ることの一部にすぎません。決めることが済んでいなければ、何を表すかが定まらないままロゴが作られることになります。 まとめ記事にこの違いが書かれないのは、どの会社も「ブランディング」という同じ言葉を使うからです。看板は同じでも、中身は違います。 ここから先は、この2つの分担のしかたで、会社を4つに分けていきます。 会社には4つの型があります 図をタップすると、拡大して見られます 分け方は単純です。決めることをやるか、作ることをやるか。私たちは、その組み合わせで4つに分けて考えています。 業界に定まった分類があるわけではありません。ただ、相談を受けるときにこの4つで見ると、話が早く進みます。 型 してくれること 向いている状況 起きやすい問題 戦略コンサル型調査・戦略・言語化作る体制が既にある作る段で、もう一社が要る 制作会社型デザイン・制作作るものが決まっている決める工程が抜ける 広告代理店型露出・キャンペーン認知を短期で取りたい中身より露出が先行する 一体型決める工程から実物まで両方が必要規模の大きい案件は不向き 戦略コンサル型 調査と戦略の立案、それを言葉にするところまでを担当します。作ることは含みません。 向いているのは、作る体制が社内か既存のパートナーに既にある場合です。決める工程だけを買えばいいので、すでに持っているものにお金を払わずに済みます。 具体的には、社内にデザイナーがいる。長く付き合っている制作会社がある。撮影や印刷の手配が自社で回っている。こうした状態なら、足りないのは決めることだけです。 M&Aや事業統合のあとで複数の会社の方針を一つにまとめる必要がある、取締役会を通す資料としての強度が要る、といった場面でも選ばれます。社内の人間が言っても通らないことが、第三者の調査と論理でなら通る。そういう場面は実際にあります。 ただし、構造としてこうなります。決める工程だけを買った場合、作る段でもう一社が必要になります。その受け渡しがうまくいくかどうかは、別の問題として残ります。 制作会社型 デザインと制作を担当します。決めることは、基本的に発注側が持っている前提です。 向いているのは、作るものが具体的に決まっている状況です。ガイドラインがすでにあり、それに沿って展開したい。サイトを作り直したい。写真を撮り直したい。目的と要件がはっきりしている場合です。 発注側に決める力があるなら、この型が速く、費用も抑えられます。決める工程を外に出さないぶん、そこにかかる時間と費用が丸ごと不要になるからです。 起きやすい問題は、決める工程が抜けることです。方針が決まらないまま依頼すると、判断の基準がないので、最後は誰かの好みで決まります。 広告代理店型 露出とキャンペーンを担当します。媒体の設計と、そこに載せるものをつくります。 向いているのは、短期間で認知を取りたい状況です。新商品の発売、周年、大型の催事。期限が外から決まっていて、それまでに知られる必要がある場合です。 媒体を持っている、あるいは媒体との関係を持っていることが、この型の本質です。同じ制作物でも、どこに、いつ、どれだけ出すかで結果は変わります。その設計が仕事の中心にあります。 起きやすい問題は、中身より露出が先行することです。知られたけれど、知られたあとの中身が追いついていない。期待だけが上がって、落差が生まれます。 一体型 決めることから作ることまでを、同じ体制で担当します。私たちはこの型です。 向いているのは、決めることと作ることの両方が必要な状況です。方針も定まっていないし、作る体制も社内にない。この場合、あいだに会社を挟むほど、決めたことが実物に届くまでの距離が延びます。 起きやすい問題は、規模の大きい案件に向かないことです。同じ体制で通す以上、抱えられる量に上限があります。全国規模の展開や、同時並行で何十本も動く案件では、分業のほうが速い場面があります。 私たちが他の型をすすめるとき 一体型がいちばん合う、とは限りません。次の3つに当てはまる場合は、他の型のほうが速く進みます。ご相談をいただいたときも、そう判断すればそうお伝えします。 作るものが完全に決まっていて、安く早く作りたい場合。決める工程が要らないなら、そのぶんの時間と費用は不要です。制作会社型のほうが速く済みます。 短期の露出量そのものが目的の場合。中身より到達数が先に来るなら、広告代理店型の領域です。 全国多拠点や、常時大人数の体制が要る案件。私たちは少人数の中核に、案件ごとに専門家を組む形で動いています。人数を張り続ける前提の案件には、体制が合いません。 自社にどの型が必要かの見分け方 図をタップすると、拡大して見られます どの型が要るかは、いま社内に何があるかで決まります。次の4つの問いで絞れます。 1. 自社が何屋かを、一文で言えるか 言えないなら、決めることが必要です。戦略コンサル型か一体型に絞られます。 言えるなら、決めることは済んでいます。制作会社型か広告代理店型を考えてください。ここで言う「言えるか」は、社長が言えるかではありません。社員が同じことを言えるかです。人によって違う説明が出るなら、まだ決まっていません。 2. 作るものが具体的に決まっているか 何を、いくつ作るのかが決まっているなら、制作会社型で足ります。 決まっていないなら、その前の工程が要ります。「サイトを作りたい」は要望であって、決定ではありません。誰に何を伝えるサイトなのかが決まって、初めて要件になります。 目安として、要件を箇条書きにできるかどうかを試してみてください。書けるなら決まっています。書こうとして手が止まるなら、その手前が残っています。 3. 期限が外から決まっているか 周年や上場、大型の催事のように、動かせない期限が外にある場合は、広告代理店型が向きます。その期限に向けて露出を設計する仕事だからです。 期限が自社の都合で決まっているなら、急ぐ理由を確かめたほうがいい場面もあります。もっとも、その期限が動かせるものかどうかを最初に確かめるのは、引き受けた側の仕事です。 4. 作る人が社内にいるか これが最後の分岐です。いるなら戦略コンサル型で足ります。いないなら一体型を検討してください。 複数当てはまるときは、作る体制で決める 私たちが相談を受けるときも、複数の型に当てはまるほうが普通です。割り切れないから探しているのであって、それが普通です。 その場合に効く軸は一つです。作る体制が社内にあるかどうか。 決めることが必要な点は、戦略コンサル型と一体型で共通しています。差がつくのは作る側です。社内か既存のパートナーで作れるなら、決める工程だけを買えば足ります。そこも含めて任せたいなら一体型。この一点で分かれます。 もう一つ、判断を助ける見方があります。いま、どの工程で止まっているかを見ることです。何度も会議をして決まらないなら、決めることが難所です。決まっているのに形にならないなら、作ることが難所です。止まっている場所が、必要な型を教えてくれます。 型を間違えると、何が起きるか 型が合っていないと、仕事の質とは無関係のところで噛み合わなくなります。 戦略コンサル型に、作ることを期待した場合。方針はまとまり、資料も出ます。しかし顧客の目に触れる形にはなりません。決まったことが、いつまでも実物にならないという状態が起こります。 制作会社型に、決めることを期待した場合。きれいなものは出てきます。ただし何を基準に良し悪しを判断するのかが決まっていないので、最後は会議室にいる誰かの好みで決まります。 広告代理店型に、中身を期待した場合。露出は取れます。届いた人が来てみたら中身が変わっていなかった、という結果になりやすい。認知が先に伸びるぶん、落差が目立ちます。 一体型に、大規模な展開を期待した場合。同じ体制で通す設計なので、量が増えると進行が詰まります。速さが必要な局面では、分業に切り替えたほうが早く終わります。 噛み合っていないことは、途中で気づけます。打ち合わせで出てくる話題が、こちらの関心とずれ続けるときです。こちらは決めたいのに制作の話ばかり進む。あるいは逆に、作りたいのに調査の話が続く。その違和感は、型のずれから来ています。 共通しているのは、どの場合も相手の仕事の質が問題になっていないことです。戦略コンサル型が資料しか出さないのは、そういう契約だからです。制作会社型が決めてくれないのも同じです。噛み合っていないのは期待と範囲であって、能力ではありません。 だからこそ、契約の前に型を確かめる意味があります。型を間違えたことが原因で起きた失敗は、外からはデザインの失敗に見えます。そうではないことを、実際の事例で扱った記事があります(リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くない/パッケージを変えたら売れなくなる)。 発注前に必ず聞くべきこと 図をタップすると、拡大して見られます 型の見当がついたら、候補の会社に確かめてください。なお、以下はいずれも、聞かれる前に示すのが本来は受注側の仕事です。そこも含めて、相手の姿勢を見る材料になります。 1. どこまでを自社でやるか 一社で完結するのか、制作や撮影は別の会社に出すのか。悪いことではありませんが、誰が何に責任を持つのかは変わります。 一社で完結する体制が優れているとは限りません。専門性の高い工程を外に出す判断は妥当です。確かめたいのは、外に出したときに窓口が一つに保たれるかどうかです。 これは、聞かれてから答えるのではなく、提案の時点で体制図として出しておくべきものです。 2. 誰が担当し、どれだけ入るか 提案に出てきた人が、実際に手を動かすとは限りません。担当者と、関わる時間の見込みを確かめてください。 進行中に体制が変わることもあります。変わったときに黙って差し替えないのは、受注側の最低限の責任です。 3. 決める工程にどれだけ時間を取るか 作る期間だけが書かれた計画は、決める工程が抜けているか、極端に短く見積もられています。 決める工程の長さは、案件によって大きく変わります。期間の目安を聞くより、何が終われば次に進むのかという条件を聞くほうが、実務では役に立ちます。 もっとも、その条件を説明せずに短い計画を出すのは、出した側の問題です。 4. 制作物の権利はどう扱われるか 作ったものを、後から自社で使えるのか。ロゴやイラスト、写真は、扱いが分かれることがあります。 契約前に書面で示すのは受注側の役割です。聞かれるまで触れないのは不親切です。 5. 納品後の運用はどうなるか 作って終わりなのか、使い方の共有まで含むのか。ガイドラインの有無、更新のしかた、相談窓口。 運用まで含めるかどうかで、体制も費用も変わります。含めない選択も普通にあります。ただし含めないなら、誰が引き取るのかを発注側で決めておく必要があります。 ここを設計に入れて提案するのは、本来は引き受けた側の仕事です。 依頼する側が用意しておくもの 揃っていれば話が速く進むものです。ただし、揃っていないことを理由に進行を止めるのは受注側の怠慢です。ない前提で設計するのが引き受けた側の仕事なので、そこは気にしないでください。 現状の資料。既存のガイドライン、過去の制作物、会社案内。ないなら「ない」で構いません。むしろ、過去に作ったきり使われていないものがあれば、そちらのほうが手がかりになります。使われなかった理由に、その会社の実際が出るからです。 決裁の経路と、最終判断者。途中で判断者が増えると、決まったことが戻ります。ここだけは先に確認しておくと、あとが変わります。 期限と、動かせない予定。展示会、決算、周年。逆算の起点になります。動かせるものと動かせないものを分けておくと、優先順位の相談が具体的になります。 社内にある反対意見。これが役に立ちます。反対の理由には、外から見えない事情が入っていることが多いためです。隠さずに出してもらえると、後で覆るリスクが減ります。 会社を選ぶ前に、型を決める 会社を探し始めてから、どの型が要るかを考える。その順番でも進みますが、逆にすると迷いが減ります。会社を比べる前に、自社がどの型を必要としているかを決めてください。型が決まれば、候補は自然に絞れます。 私たちは一体型ですが、一体型が常に正しいわけではありません。決めることだけが難所で、作る体制がすでにあるなら、戦略コンサル型のほうが速く、無駄がありません。規模が大きければ、分業のほうが確実です。 自社に必要なのがどの型かは、ここまでの4つの問いで見当がつくはずです。そのうえで会社を探してください。 それでも判断がつかないなら、候補の会社に「うちはどの型に見えますか」と聞いてみてください。 即答でなくてかまいません。むしろ「何を聞けば範囲が決まりますか」と返してくる会社のほうが、実際に範囲を決めた経験があります。範囲を決めるには、相手の事情を聞く必要があるからです。詰まるというのは、質問の意味が分かっていない状態を指します。 もっとも、聞かれる前に自分の型を説明するのが本来の筋です。 関連する記事 リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミング なぜ私たちは、ブランディングも空間も映像も分けないのか ロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わる 記事一覧を見る

リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミング

リブランディングとは何か リブランディングとは、すでにあるブランドを、事業の現在地に合わせて作り直すことです。ロゴを変えることではありません。ロゴの変更は結果として起こる場合がありますが、目的ではありません。作り直すのは、その会社が何者で、誰に何を約束しているのか、という中身のほうです。 言い換えると、看板の描き直しではなく、看板に何と書くべきかの見直しです。 私たちが受ける相談は、「ロゴを新しくしたい」「サイトが古くなった」という形で始まります。動機としては自然です。ただ、そこから話を進めていくと、本当に困っているのは見た目ではないことがよくあります。事業の中身が変わったのに、外からの見え方が昔のままになっている。その状態を指して、リブランディングという言葉が使われます。 似た言葉との違いにも触れておきます。ブランドリニューアル、CI刷新といった言い方もありますが、指している範囲は重なります。CIは視覚的な識別体系を指して使われ、リブランディングはその手前の考え方まで含む、という程度の差です。 呼び方より、どこまでを対象にするかを社内で揃えるほうが、実務では重要になります。 この記事では、意味・ブランディングとの違い・必要になる場面・進め方・費用の考え方・判断のタイミングまでを順に説明します。 ブランディングとの違いは何か ブランディングは新しく作る作業、リブランディングは既にあるものを作り直す作業です。違いは「ゼロから作るか」ではなく、「すでに誰かの頭の中にある認識を、扱わなければならないか」にあります。 ブランディング リブランディング 出発点何もない状態すでに認識がある状態 前提決めれば、それが正になる決めても、既存の認識と競合する 制約少ない既存の顧客・社員・取引先の理解 難しさ何を選ぶか何を残し、何を手放すか 新規のブランディングでは、決めたことがそのまま出発点になります。誰も何も知らないので、矛盾が起きません。 リブランディングは違います。すでに顧客がいて、社員がいて、取引先がいます。その人たちが持っている認識は、こちらの都合では書き換わりません。 ここが難所です。新しくしたいという動機だけで進めると、既存の顧客が手がかりを失います。実際にそれが起きた事例は、別の記事でまとめています(パッケージを変えたら売れなくなる)。 リブランディングが必要になるとき 図をタップすると、拡大して見られます 事業の実態と、外からの見え方がずれたときです。ずれ方には、いくつかの型があります。 1. 事業内容と、見え方がずれた 社名や既存のイメージが、いまの主力事業と合っていない状態です。 創業時の看板を掲げたまま、事業の重心が移っているとよく起こります。問い合わせの内容が、実際にやっていることとずれてくる。これがずれの現れ方です。 2. 代替わり・世代交代 経営者が交代し、これからの方向を示す必要が出た状態です。 前の代が作ったものを否定する話ではありません。引き継ぐものと、これから足すものを、外から見て分かる形にする作業です。 3. M&A・事業統合 複数の会社や事業が一つになり、対外的な見え方を整理する必要が出た状態です。 どちらかに寄せるのか、新しく立てるのか。社内の力関係ではなく、市場からどう見えるかで決める必要があります。 4. 採用で伝わらない 応募が集まらない、あるいは入社後の認識がずれる状態です。 原因が給与や待遇ではないこともあります。どんな会社で、何をやっていて、何を大事にしているのかが伝わっていない場合です。 5. 市場そのものが変わった 顧客の買い方や、競合の顔ぶれが変わった状態です。 自社は変わっていなくても、周りが変われば相対的な位置は動きます。「昔は説明しなくても伝わったことが、伝わらなくなった」という形で現れます。 進め方は、6つの工程に分かれます 図をタップすると、拡大して見られます 先に押さえることがあります。各工程で何をするかではなく、何を決めるかです。決めるものが曖昧なまま次へ進むと、後の工程で必ず戻ります。 工程 決めること 1 現状把握いま何によって認識されているか 2 変わらないものを見つけるその会社にとって動かせないものは何か 3 方向の決定誰に、何を、どう伝えるか 4 設計言葉・視覚・体験をどう組むか 5 展開どの順で、どこから出すか 6 定着社内でどう使われ続けるか 1. 現状把握 いま自社が、外からどう認識されているかを確かめます。 見る先は3つです。社内の認識、顧客の認識、そして競合との位置。 社内の自己認識と顧客の認識は一致しません。この差そのものが、リブランディングで扱う対象です。顧客への聞き取り、問い合わせ内容の傾向、競合との並びを見ていきます。 2. 変わらないものを見つける その会社にとって、動かせないものが何かを見つけます。 ここは「変えないものを決める」ではありません。決めるのではなく、すでにそこにあるものを見つける作業です。 はじめに、その会社の歴史を調べます。ここは必ず通ります。何をしてきた会社なのかが分からないまま、変わらないものは見つけられません。 そのうえで、3つを見ていきます。会社の理念。大事にしていること。そして、社員が何気なく使っている言葉や考え方です。 歴史が資料から調べるものだとすれば、あとの3つは人から出てくるものです。この4つを紐解いていくと、変わらないものが少しずつ輪郭を持ってきます。 見つけておくと、後の工程で判断が速くなります。「これは変えてよいか」という問いに、根拠を持って答えられるようになるからです。 実例を一つ挙げます。コカ・コーラは2016年、種類ごとに違っていたパッケージの見た目を、赤い円を共通の要素として統一しました。各バリアントの独自性は手放しています。それでも赤い円は動かしませんでした。この工程で決めていたのは、そこです(パッケージを変えたら売れなくなる)。 3. 方向の決定 誰に、何を、どう伝えるかを決めます。 ここで決めるのは表現ではなく、狙いです。すべての人に良く見せようとすると、誰にも引っかからないものができます。優先順位をつけることが、この工程の実質です。 4. 設計 言葉・視覚・体験を具体的に組みます。 言葉は、名前とタグライン。視覚は、ロゴ、色、写真。体験は、サイト、資料、空間です。 ここで初めて見た目の話になります。3工程めまでが済んでいれば、判断の基準はすでにあります。 5. 展開 どの順で、どこから出すかを決めます。 出す先は、Webサイト、営業資料、採用まわり、パッケージ、店頭や空間といった領域に分かれます。全部を同時に切り替える必要はありません。 先に出す領域を限れば、反応を見てから広げられます。同時に「どうなったら戻すか」も決めておきます。 こちらも実例を一つ。ゼネラル・ミルズは2017年、シリアルのTrixで、旧版に戻すか新しい版を続けるかの選択を迫られました。同社が決めたのは、どちらかを選ばないことでした。新旧の両方を棚に置いています。 6. 定着 社内でどう使われ続けるかを決めます。 作った時点では終わりません。使い方が共有されていないものは、いつのまにか元に戻ります。ガイドライン、テンプレート、判断の窓口。誰が運用するのかまで決めて、ようやく完了です。 なぜ同じ依頼で、見積もりが大きく違うのか 図をタップすると、拡大して見られます 片方が高いわけではありません。見積もっている範囲が違うのです。相見積もりで金額が大きく開くとき、原因はここにあります。 ここでは金額の相場ではなく、金額を読むための物差しを説明します。 見積もりを動かす4つの要因 1つめは、範囲です。調査だけなのか、設計まで含むのか、制作物まで作るのか、運用の支援まで入るのか。同じ「リブランディング」という言葉でも、含まれる工程がまるで違います。 2つめは、タッチポイントの数です。顧客が触れる接点をいくつ作り直すか。ロゴだけと、サイト・会社案内・名刺・パッケージ・店頭・採用資料まででは、作業量がまったく違います。 3つめは、既存の資産をどこまで使えるかです。使える写真や素材があるか、撮り下ろしが必要か。文章が残っているか、取材から始めるか。ここが見積もりの差になりやすい箇所です。 4つめは、期間と体制です。短期で仕上げるには人数が要ります。関わる部署が多ければ、合意形成の時間もかかります。 比べるときに、揃えて聞くこと 金額を並べる前に、次の4点を各社に同じ形で聞いてください。揃っていない見積もりを比べても、判断材料になりません。 どの工程まで含まれているか(調査/設計/制作/展開/定着) 制作物は何を、いくつ作るか 修正は何回まで、どの範囲で対応するか 誰が担当するか(体制と、想定している期間) 安い見積もりが悪いわけではありません。範囲が狭ければ安くなります。問題は、範囲が違うものを金額だけで比べてしまうことです。 金額が出せない段階もあります 範囲が決まっていなければ、そもそも見積もりは出せません。 「リブランディングをしたい」という段階では、何をどこまで作るかが決まっていないことがあります。この状態で総額を求めると、各社がそれぞれ違う前提で数字を組み立てます。並べても比較にならない数字が集まります。 その場合は、範囲を決めるところまでを切り出して依頼する方法があります。調査と方向づけだけを先に発注し、決まってから制作の見積もりを取る。工程を分ければ、比べられる状態を作れます。 もっとも、この分け方を提案するのは、本来は見積もりを出す私たちの側の仕事です。 失敗しやすいのは、どんなときか よくある型は5つあります。いずれも原因はデザインの出来映えではなく、その手前の判断です。 1つめ、見慣れたものが古く見える。長く使われた要素ほど、内側の人間には古びて見えます。しかし外から見れば、それは目印です。 2つめ、検討する場所と、使われる場所が違う。画面の上でじっくり比べたものが、売り場や名刺交換の場で同じように働くとは限りません。 3つめ、新規に寄せて、既存の道しるべを失う。新しい客は増えないのに、いつもの客が見つけられなくなる。私たちが相談を受けるなかで、いちばん多く見かける形です。 4つめ、会議室で評価した人と、実際に選ぶ人が違う。プレゼンで判断するのは決裁者ですが、買うのは別の人です。 5つめ、引き返す条件を決めていない。「どうなったら戻すか」を先に決めていれば、傷は浅く済みます。 それぞれの詳細と、実際に起きた事例は別の記事で扱っています(リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くない)。 なお、いずれの事例も動機は正しく、デザインの完成度も低くありませんでした。そこは押さえておいてください。 やるべきタイミングと、避ける時期 図をタップすると、拡大して見られます 判断の分かれ目は、変えれば解決する問題かどうかです。やるべきサインと、避けたほうがよい時期を順に見ていきます。 やるべきサイン 「必要になるとき」で挙げた5つのうち、2つ以上が同時に起きているときは、着手の時期に来ています。ずれが一箇所なら部分的な対応で済むことが多いのですが、複数が重なると個別対応では追いつきません。 中期計画の節目も適した時期です。方向を決める作業がすでに走っているので、接続できます。 体制を作れることも条件です。決裁の経路がはっきりしていて、担当者が動ける状態かどうか。ここが曖昧なまま始めると、途中で止まります。 避けたほうがよい時期 商品やサービス自体に課題があるときは、先にそちらです。見え方を変えても、中身の問題は解決しません。むしろ期待だけが上がって、落差が大きくなります。 社内の合意が取れていないときも避けてください。決めた後で反対が出ると、決め直しになります。作業のやり直しよりも、決定そのものへの信頼が失われることのほうが痛手です。 繁忙期も向きません。リブランディングは、社内から情報を引き出す作業を含みます。関係者が時間を取れない時期に始めると、材料が集まらないまま形だけが進みます。 迷ったときの目安を一つ挙げます。「変えたら解決するのか」を先に自問してみてください。答えが出ないなら、まだ課題が特定できていない段階です。その状態で着手すると、出来上がったものが正しかったのかどうかも判定できません。 相談する前に整理しておくこと 相談の前に社内で整理しておくと、話が速く進みます。すべて埋まっている必要はありません。埋まらない箇所が、最初に一緒に考える論点になります。 1. なぜ変えたいのかを、一文で書けるか 書けない場合、まだ課題が特定できていない段階です。それ自体は問題ありません。 2. 変えて、何を実現したいのか 問い合わせを増やしたいのか、採用に効かせたいのか、社内をまとめたいのか。目的が違えば、作るものも変わります。 3. 変わらないものを3つ挙げられるか 自社にとって動かせないものを、社内で先に出しておきます。ここは制作会社と一緒に見つける工程でもあるので、候補で構いません。 4. 誰が決めるのか 決裁の経路と、最終判断者を確認しておきます。途中で判断者が増えると、決まったことが戻ります。 5. いつまでに、どこまでやるのか 期限と範囲です。決まっていなければ「決まっていない」と伝えてください。曖昧なまま見積もりを取ると、比べられないものが集まります。 リブランディングは、探す作業から始まる この記事で示した6つの工程は、2番目に「変わらないものを見つける」を置いています。3番目の「方向の決定」より前です。順番は、ここが要になります。 決めるより先に、見つける。逆にすると、決めた方向に合わせて「変わらないはずのもの」を選ぶことになります。それは見つけたことになりません。 見つかっていれば、大きく変えても壊れません。コカ・コーラが赤い円だけを動かさなかったように、変える範囲が広くても、目印が残っていれば客は迷わずに済みます。 最初の一歩は、8章の3番目です。自社にとって変わらないものの候補を、3つ挙げてみてください。社内で人によって違うものが出てくるなら、そこがリブランディングの出発点です。 関連する記事 リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くない ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方 ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方 記事一覧を見る