パッケージを変えたら売れなくなる。その手前で、何が起きているのか
パッケージは、棚での目印です
パッケージのリニューアルで売上が落ちるとき、原因はデザインの出来映えではないことがほとんどです。落ちているのは、棚で見つけてもらいやすさです。
パッケージは商品の顔である前に、目印です。いつも買っている人は、商品名を読んで選んでいるわけではありません。色と形で、見た瞬間に判断しています。その目印が変わると、探すという手間が生まれます。
私たちがデザインを検討するのは、モニターの前です。案を並べて、じっくり見比べられます。けれど、それが使われるのは棚の前です。買う人に、そんな時間はありません。
この記事では、棚で商品を見分ける手がかりが変わった事例を3つ見ていきます。容器の絵柄、商品の形、中身の色。変わった場所はそれぞれ違いますが、起きたことは同じでした。1件目は前の記事で詳しく扱っているので手短に触れ、残る2件を詳しく追います。
先に結論を書いておきます。3件とも、変える動機は正しく、デザインの完成度も低くありませんでした。それでも売上が落ちたのは、変えてよいものと変えてはいけないものの区別がつかないまま進んだからです。
トロピカーナの失敗を、1段落で
いちばん有名な事例から確認します。2009年1月、トロピカーナは米国でパッケージを刷新し、オレンジにストローが刺さったイラストを、グラスに注がれたジュースの写真へ変えました。2ヶ月で売上は約20%減少し、約3,000万ドルの損失が出たと報じられています(The Branding Journal)。同社は2009年2月23日、旧パッケージへの復帰を発表しました。
この件は別の記事で詳しく扱っているので、ここでは繰り返しません(リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くない)。押さえておきたいのは一点だけです。失われたのはデザインの質ではなく、棚での目印でした。
トブラローネが変えたのは、隙間でした
2016年11月、トブラローネの英国向け商品で、三角の山と山のあいだの隙間が広がっていることが報じられました。山の数が減り、谷が増えた形です。
対象は限定的でした。170グラムの商品が150グラムになり、100グラムの標準バーは対象外。販売先も、Poundlandなど英国の割引小売に限られていました(Fox News)。
製造元のモンデリーズは、割引小売の価格帯に合わせるための変更だと説明しています。当時取り沙汰された英国のEU離脱投票との関連は、明確に否定しました。
企業側から見れば、一部の商品の、一部の販路での、容量調整です。値上げを避けるための現実的な判断でもありました。
しかし反応は、その規模に見合いませんでした。SNSに苦情が集まり、この話題は各国で報じられます。そして2018年、モンデリーズは元の形状に戻しました(Fortune)。
なぜ容量調整が、ここまでの騒ぎになったのか。トブラローネにとって山と谷の並びは、容量ではなく、その商品であることを示す形そのものだったからだと考えられます。
量が減ったことに怒った人もいたはずです。ただ、それだけなら他の減量と同じ扱いで済みました。手が入った場所が識別の中心だったために、反応が大きくなった。私たちはそう読んでいます。
Trixは、体に良くして不評を買った
もう1件は、色の話です。
米ゼネラル・ミルズは2015年に人工着色料と人工香料をやめると公約し、2016年にTrixを含む7種類のシリアルを作り変えました。着色は果物と野菜のジュースに置き換えられています(Food Dive)。
動機は健康志向への対応で、方向としては正しいものです。問題は、果物と野菜では、それまでの鮮やかな赤や、蛍光色に近い青と緑を再現できなかったことでした。
結果として、色がくすみました。消費者からは「気が滅入る」という声が上がり、風味が変わったという指摘も出ます。
そして2017年9月、同社は人工着色料を使った「Classic Trix」を秋に復活させると発表しました。
ここで注目したいのは、戻し方です。同社は旧版に戻したのではなく、新旧の両方を売る道を選びました。どちらかを選ばせるのではなく、両方を棚に置いたわけです。
シリアルの色は、栄養でも味でもなく、その商品を選ぶ理由の一部でした。それを改善で置き換えたとき、選んでいた人は自分の商品を見失った。そう整理できます。
共通するのは、見つけやすさの低下
3件を並べると、共通点がいくつか見えてきます。
まず、どれも変更そのものは合理的でした。トロピカーナは洗練を、トブラローネは値上げの回避を、Trixは健康志向への対応を目指しています。動機の段階で間違っている案件は、一つもありません。
次に、変えた対象です。オレンジとストローの絵、山と谷の並び、鮮やかな色。いずれも装飾に見えて、実際にはその商品を棚で識別するための手がかりでした。
三つ目に、失われたものの性質です。売上が落ちたのは、商品が嫌われたからではありません。見つけられなかったからです。トロピカーナの顧客は、味が変わったと判断して離れたわけではないのです。
そして四つ目。反応したのは、新しい客ではなく、いつもの客でした。新規顧客はその商品をもともと知らないので、変更に気づきようがありません。気づくのは、探し方を体で覚えている人だけです。
ここに、リニューアルの構造的な難しさがあります。新規に届けたくて変えるのに、変更に反応するのは既存客だけ。得たい相手には届かず、失いたくない相手だけが動きます。

だとすれば、検証すべき問いも変わります。「新しいデザインは良いか」ではありません。「これまでの客が、これまでと同じ速さで見つけられるか」です。
うまくいった変更は、何が違うのか
では、変えてはいけないのか。そうではありません。
2016年4月、コカ・コーラは「One Brand」という考え方でパッケージを刷新しました。それまで種類ごとに異なっていた見た目を、赤い円(Red Disc)を共通の要素として統一する設計です(The Coca-Cola Company)。
同社のCMOは、パッケージを「最も目立つ、価値のある資産」と表現し、Red Discによって消費者がカロリーやカフェインの有無を選びやすくなると説明しています。
変更の規模は、決して小さくありません。バリアントごとの個性を手放し、黒はZero、銀はLight、緑はLifeと、色で区別する体系に作り替えています。展開もメキシコを皮切りに、市場ごとに進められました。
それでも識別が壊れなかったのは、最も認知されている要素を、置き換えるのではなく中心に据えたからだと考えられます。捨てたのは各バリアントの独自性であって、ブランドの目印ではありませんでした。
Trixの決着にも、同じ性質があります。片方を選ばず、両方を棚に置いた。既存客の道しるべを残したまま、新しい選択肢を足しています。
変えないことが正解なのではありません。何が目印なのかを先に見つけておけば、大きく変えても壊れないということです。

変える前に確認したい、5つのこと
ここまでを、明日から使える形にします。
1. ロゴを隠して探す
棚の写真から自社商品のロゴだけを隠し、それでも見つけられるか試します。見つけられるなら、ロゴ以外に目印があるということです。見つけられないなら、目印はロゴしかありません。後者なら、ロゴまわりは動かせません。
2. 変える要素を数える
色、形、文字、写真。同時に2つ以上変えると、反応が出たときに何が原因だったのか分からなくなります。原因が分からなければ、戻し方も決められません。
3. 常連に見せる
意見を聞く相手を、新規客ではなく、いつも買っている人にします。変更に反応するのはこの層だからです。新規客に見せて好評でも、それは離反の予測にはなりません。
4. 一部から出す
全品目・全店舗を同時に切り替えないでください。地域や品目を限れば、間違えたときに戻せます。Trixが両方を棚に置いたのも、この考え方の一種です。
5. 戻す条件を先に決める
「どうなったら戻すか」を、数字と期限で決めておきます。決めていないと、引き返す判断そのものが、誰かの評価の話にすり替わってしまいます。これを事前に提案するのは、本来は私たち作り手の仕事です。

変えるのではなく、見つけやすくする
パッケージのリニューアルは、見た目を新しくする作業ではありません。見つけやすさを保ったまま、伝えたいことを更新する作業です。
今回の3件は、いずれも動機が正しく、デザインの完成度も低くありませんでした。それでも数字が落ちたのは、手を入れた場所が目印だったからです。
変える前に、まず探してみてください。この商品は、いま何によって見つけられているのか。
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