ブランディングのワークショップ。開く前に、何の場かを決める
ブランディングのワークショップとは、ブランドの言葉や約束を決めていくために、関係する人が集まって、書く、並べる、選ぶといった作業をしながら進める場です。
ひとくちにワークショップと言っても、目的は一つではありません。意見を出し尽くす場と、方向を合わせる場と、決める場では、呼ぶ人も、持ち込むものも、最後に出す一文も変わります。だから開く前に、何の場かを一つに決めます。
この記事では、会議や研修との違いを整理したうえで、どんな目的の場があるか、目的によって作り方がどう変わるか、出し尽くす場の準備、決める場に誰がいるか、目的を混ぜないこと、終わったあとに続くことを書きます。
ワークショップとは何か
ワークショップは、参加する人が手を動かしながら進める場です。
話し合うだけでなく、紙に書く、壁に貼る、並べ替える、選ぶ。そうした作業が入ることで、頭の中にあるものが、全員に見える形で場に出ます。
会議や研修とは、違いで説明されることがあります。会議は決める場、研修は伝える場、という分け方です。その分け方で言えば、ワークショップは、参加する人が持っているものを出し合って、形にしていく場にあたります。
ただ、この分け方にはきれいに収まりません。ワークショップの中にも、決めるところまで進むものがありますし、決めずに材料を出すだけのものもあります。何を目的にするかで、同じワークショップが会議に近くもなり、まったく別のものにもなります。次の章で、その違いを分けます。
ブランディングで開くのは、理念や約束、ステートメントといった言葉を決めていく途中です。どこから手をつけ、誰が何を決めるかという流れの中に置かれます。
ワークショップの形にしなくてよい場面もあります。決める人と、その人に材料を出せる人が、直接話して済む人数なら、打ち合わせで足ります。集まって手を動かす形が効くのは、関わる人が増えて、一人ひとりの考えが、ほかの人から見えなくなってきたときです。
私たちも、クライアントと行うもの、社内で行うもの、制作に関わるクリエイターと行うものがあります。AIの使い方を扱うワークショップもありますが、この記事で扱うのは、ブランドの言葉や約束に関わるものです。
何の場かは、一つではない
ブランディングのワークショップで目的として置くものには、たとえば次のようなものがあります。
一つめは、意見を出し尽くす場です。関わる人がそれぞれ何を考えているかを、場に出し切ります。答えを揃えることは目指しません。どこで割れているかが見えれば、目的を果たしています。
二つめは、方向を合わせる場です。どの方向に進むかを揃えます。たとえば、今回はどこまでを扱うか、何から先に考えるか。結論の手前で、結論に向かう向きを揃えます。
三つめは、決める場です。出た材料をもとに、言葉や約束を一つに決めます。
決まったことを社内に伝える場として開くこともあります。この記事ではそれは扱わず、決めるまでの三つを軸に書きます。
同じワークショップでも、置く位置によって別の場になることは、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方でも書きました。工程のはじめに開けば言葉を集める場になり、決めたあとに開けば説明する場になります。ここでは、それを目的の側から分けて、目的ごとに作り方がどう変わるかまで書きます。
検索して出てくる説明では、ワークショップの目的を合意形成にまとめているものがあります。合意を目指すのは、三つのうち合わせる場と決める場です。出し尽くす場では、合意を目指しません。ここを混ぜると、出すはずだった意見が、出る前にまとまります。
会社の規模によっても、要る場が変わります。社長が一人で決められる会社では、決める場を大きく開かなくても決まります。決めるまでの工程を小さくしてよい理由は、中小企業のブランディング。決めたあとに時間を使う進め方に書きました。それでも、部署や人数があって答えが割れる会社では、出し尽くす場が役に立ちます。一人ずつ聞いただけでは、答えが割れていることが、答えた本人たちには見えないからです。
何の場かで、作り方が変わる
目的が決まると、作り方が決まっていきます。場によって変わるところを、例として並べます。
| 出し尽くす場 | 方向を合わせる場 | 決める場 | |
|---|---|---|---|
| 呼ぶ人 | 日々判断している人。部署や年次を散らす | これから進め方に関わる人 | 決める人と、材料を説明できる人 |
| 持ち込むもの | 事前に一人ずつ聞いた答え | 出し尽くした材料の一覧 | 割れていた点と、それぞれの理由 |
| 最後に出す一文の例 | 今日出たことのまとめ | 合わせた方向 | 結論 |
この表は、場によってどう変わるかの例で、私たちの整理です。会社や内容によって、組み合わせは変わります。
呼ぶ人から見ると、違いがはっきりします。出し尽くす場は、答えの割れ方を見る場なので、同じ立場の人ばかりだと、割れ方が見えません。日々の仕事で判断をしている人が、部署や年次を散らして入っているほうが、割れ方が見えます。決める場は、決める人がいなければ始まりません。合わせる場は、そのあいだにあり、これから進め方に関わる人が入ります。
持ち込むものは、前の場の続きになります。たとえば、出し尽くす場には事前に一人ずつ聞いた答え、合わせる場には出し尽くした材料の一覧、決める場には割れていた点とそれぞれの理由、という形です。前の場で出たものが、次の場の材料になる関係です。
最後に出す一文も、場で変わります。私たちは、場の最後に、結論やまとめの一文を出します。その一文に何を書くかは、場の目的に合わせます。たとえば、出し尽くす場なら今日出たことのまとめ、決める場なら結論、という分け方です。
目的とずれた一文を出すと、場の意味が変わります。出し尽くす場で結論の一文を出すと、割れていた材料が、その一文にまとまってしまいます。割れていたこと自体が、場の外に持ち出されません。持ち出されなければ、次の場で、何と何のあいだで選ぶのかが分からなくなります。
決める人がどこにいるかも、場によって変わります。出し尽くす場で決める人が答えを出すと、その答えが、ほかの答えより重く受け取られることがあります。それを避けたいときは、決める人が答えずに見ている形や、その場にはいない形もあります。決める場では、逆に、決める人がいることが前提になります。
同じ人を呼び、同じ部屋を使っても、目的が違えば、別の場になります。準備のほうも、どの場かが決まった時点で向きが決まります。
出し尽くす場は、先に一人ずつ聞く
出し尽くす場の準備は、場の前に始まります。
集まって聞くと、答えは先に話した人のほうへ寄っていきます。私たちがほかの記事でも書いてきたことで、言葉を集めるときは、一人ずつ聞くのが基本です。私たちも、場の前に参加者一人ずつから話を聞くことがあります。
聞く相手に、社長や決める立場の人を入れる形もあります。入れておくと、社長の答えが一本にまとまっているのか、場面によって変わるのかが、場の前に分かります。
問いが人によって違うと、答えが割れているのか、問いが割れているのかが分からなくなります。全員に同じ問いを使えば、割れているのは答えのほうだと言えます。
場では、集めた答えを並べます。並べるときに、誰の答えかを伏せる形もあります。役職や声の大きさで読まれるのを避けたいときに使います。全員が同じことを言っている点は、すでに揃っています。場の時間を使うなら、答えが割れている点に使うほうが、出し尽くす場の目的に合います。
並べるときに、先に枠を用意しないことも大事です。軸や分類を先に作って持ち込むと、答えを並べる前に、答えの形が決まります。ブランドポジショニングとは。マップは、決めたあとに描くには、会議でホワイトボードに軸を引くと、図の上で考えることになる、と書きました。枠が要るなら、答えを並べたあとに、答えから作れます。
割れて見える答えの中には、同じ言葉を違う意味で使っていて、割れているように見えるだけのものもあります。ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方で、語の意味が割れているだけということがある、と書いた状態です。語の意味の割れなら、その場で揃えて構いません。言葉の行き違いを直しているだけで、意見を一つにしているわけではないからです。
場の前に聞く手間を省いて、当日だけで済ませる組み方もあります。その場合、場で最初に出た答えに寄って、割れ方が見えないまま揃って見えます。場の前に一人ずつ聞くのは、そのためです。
決める場に、誰がいるか
決める場には、決める人がいる必要があります。
決める人がいないまま進めると、出た結論を伝言で届けることになります。企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるかには、伝言で進めると意図が薄まる、と書きました。決める場は、決める人がその場で決められる形にしておきます。
誰が決めるかは、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書いたとおり、経営です。全員で決める形にすると、反対の出ない言葉に寄っていきます。
一方で、決める場に社員がいないと、決まった言葉が、社員にとっては外から来たものになります。インナーブランディングの記事には、そう書きました。
この二つは、場を分けると両立させやすくなります。社員は、出し尽くす場で材料を出します。そのうえで、決める場に、材料を出した人の何人かが同席する形もあります。その場合も決めるのは経営で、同席した人は、出た材料の背景を説明する役を持ちます。
決める人が複数いる会社もあります。役員が何人かいて、それぞれに担当の事業がある場合です。そのときは、場の前に、意見が割れたら最後に誰が決めるかを決めておきます。決めていないと、決める場が、決める人どうしの出し尽くす場に変わります。
決める場で出す一文は、結論です。選ばなかったほうと、その理由も一緒に残っていれば、あとから加わった人が、なぜその言葉なのかを辿れます。結論の一文だけでは、何と比べて選んだのかが分かりません。
決め方には、どちらか一方に絞らない形もあります。割れていた二つを両方残して、どちらを優先する場面かを書き分ける。インナーブランディングの記事で書いた決め方です。割れていた理由がどちらも筋の通ったものなら、この形のほうが、片方を大事にしてきた人の言葉を切らずに済みます。
一つの場で、目的を混ぜない
ワークショップがうまくいかないとき、目的が混ざっていることがあります。
混ざり方には型があります。
- 出し尽くすつもりで開いたのに、最後に決めてしまう
- 決める場で、材料を出し直し始める
- 合わせる場のつもりが、決める人がいないまま結論が出る
一つめでは、割れていた理由が残りにくくなります。まとまった一文だけが持ち帰られ、なぜ割れていたかは、その場にいた人の頭の中にしか残りません。二つめでは、決まらずに終わりやすくなります。材料を出し直すと、決める場が、出し尽くす場に戻るからです。三つめでは、出た結論が、持ち帰った先で覆ることがあります。決める人が見ていない結論だからです。
混ざり始めたことは、場の途中で分かります。出し尽くす場で「では、どれにしますか」という問いが出たら、決める場の問いが入ってきています。決める場で新しい意見が続けて出始めたら、出し尽くす場に戻りかけています。
戻し方の一つは、出た問いや意見を書き留めて、その場では扱わず、次の場に回すことです。消さずに次へ回すので、言った人の意見も無駄になりません。
目的を開く前に決めて、参加する人に伝えておくと、混ざりにくくなります。「今日は出し尽くす場で、決めるのは次の場です」。そう伝えてあれば、途中で決めたくなっても、決めるのは次だと戻れます。
私たちは、目的に合わせて場を設計します。日程だけを先に押さえて、何の場かを決めないまま当日を迎えると、場の空気で目的が決まります。何の場かを決めて伝えておくところまでを、場の準備に入れています。
終わったあとに続くこと
場の最後に出した一文は、次の場への持ち込みになります。
その一文を、参加しなかった人に渡すこともあります。一文だけを受け取った人には、どこで割れて、なぜその一文になったのかが分かりません。割れていた点の一覧を添えると、その分かれ目も一緒に届きます。
出し尽くす場のまとめは、合わせる場の材料に。合わせた方向は、決める場の前提に。決める場の結論は、言葉にする作業の出発点になります。一つの場で済ませようとしなくても、一文ずつ受け渡していけば、前の場で出たものが次の場に残ります。
割れていた理由が、伝わっていないことにあるのか、社長のなかでまだ決まっていないことにあるのか。その見分けは、中小企業のブランディングの記事に書いた手順と同じです。
決めたあとは、その言葉を社内で使える形にしていきます。決めた言葉が社内のどこまで届いているかの見分け方は、理念浸透とは。「浸透しない」の中身を分けて、打ち手を決めるに書きました。
ワークショップは、この流れの中の一つの工程です。開いたこと自体は、成果になりません。開いたあとに、何が決まり、どこで使われているかを見ます。
何の場かを、先に決める
ブランディングのワークショップは、一つの型ではありません。意見を出し尽くす場、方向を合わせる場、決める場で、呼ぶ人も、持ち込むものも、最後に出す一文も変わります。
だから、開く前に、何の場かを一つに決めます。目的が決まれば、誰を呼ぶか、何を持ち込むか、最後に何を出すかが、そこから決まっていきます。
日程より先に、何の場かを決めます。そこから先の準備は、その目的に沿って組み立てられます。