ロゴを変更するとき。リニューアルで失うのは、見た目ではなく手がかり

Studio INTERPLAY

ロゴを変更するとき。リニューアルで失うのは、見た目ではなく手がかり

「ロゴが古く見えてきた」「そろそろ変えたい」。ロゴの変更は、そういう感覚から考え始めることがあります。その感覚は、何かを捉えています。ただ、何が古く見えているのかまでは、まだ言葉になっていないことがあります。

ロゴを変えた会社の事例を集めた記事は、変えたあとの姿を見るのに役立ちます。この記事では、その手前の話をします。変えるかどうかを決める前に、いまのロゴが何を担っているかを確かめる話です。

変えて失うのは、見た目ではない

ロゴは、見た目の良し悪しより先に、見分けるための手がかりとして働いています。

看板、名刺、サイト、封筒。何度も目にするうちに、形や色の一部が「あの会社だ」という合図になっていきます。見る人は、ロゴを毎回すみずみまで見ているわけではありません。遠くから見えた色、目の端に入った輪郭。目に残った一部で見分けています。

ロゴを変えると、見た目は新しくなります。失うのは、その手がかりのほうです。見る人は、覚えていた合図を探して、見つからない。新しいロゴを覚え直すまでのあいだ、「あの会社だ」と分かるまでに時間がかかるようになります。

この損は、社内からは見えにくいものです。社内の人は、新しいロゴも古いロゴも知っています。どちらを見ても自分の会社だと分かるので、見分けにくくなったことに気づきません。気づくのは、外で探す側の人です。

パッケージで同じことが起きた話は、パッケージを変えたら売れなくなる。その手前で、何が起きているのかに書きました。棚で見つけてもらえる速さが落ちる、という話です。ロゴの場合は、看板の前を通ったときや、届いた封筒を手に取ったときに、あの会社だと分かる速さが落ちます。

手がかりは、ロゴを作った時点で決まるものではありません。使われ続けるうちに、見る人の側にできていきます。だから、作った人も、社内の人も、何が手がかりになっているかを正確には知りません。変える前にそれを確かめる必要があるのは、そのためです。

「古い」の原因が、ロゴにあるとは限らない

ロゴが古く見えるとき、原因がロゴの外にあることがあります。

名刺の書体、サイトの配色、資料の組み方。ロゴの周りにあるものが古いままだと、ロゴだけを新しくしても、全体の印象は変わりません。逆に、ロゴはそのままで、周りを揃えるだけで印象が変わることもあります。

原因がロゴにあるのか、周りにあるのかの見分け方は、コーポレートアイデンティティとは。MI・BI・VIと、作れるものと作れないものに書いています。

原因が周りにあるなら、変えるべきはロゴではありません。ロゴを変えても手がかりを失うだけで、古さは残ります。

変える理由になるとき、ならないとき

ロゴを変えるかどうかの判断を、私たちは次のように分けて考えています。業界で決まった基準ではなく、私たちの見方です。

変える理由になるのは、ロゴが表すものと、いまの会社がずれたときです。社名が変わった。事業を広げて、ロゴに入っている言葉や形が、一部の事業しか表さなくなった。こうしたときは、ロゴが会社の説明として合わなくなっています。

使えない場所があるときも、変える理由になります。小さくすると潰れる。画面では細い線が消える。1色で刷ると形が崩れる。SNSのアイコンのように、丸く切り抜かれる場所に収まらない。ロゴを作った頃にはなかった使い道が、いまは増えています。ただし、こうした問題は、形を整えるだけで解けることがあります。全部を作り直す必要があるとは限りません。

他の会社の登録商標と紛らわしいと分かったときも、変える理由になります。これは後の章で書きます。

一方で、変える理由にならないときもあります。

社内の人が、見慣れて飽きただけのとき。社内の人は、ロゴを毎日見ます。取引先やお客さんが見るのは、会うときや、何かを受け取るときです。見ている回数が違います。毎日見ている人が飽きたと感じる頃、年に数回見る人は、まだ覚えている途中かもしれません。

担当者が変わり、前の担当者の選択を変えたいとき。新しい担当者にとって納得しにくいロゴでも、外の人の側では、すでに見分ける合図として働いていることがあります。

新しくしたいけれど、何が新しくなるのかが言葉にならないとき。この状態で案を作ると、案が出ても選ぶ基準がありません。新しいかどうかだけで選ぶことになります。

並べてみると、変える理由になるものは、どれも外の人や外の場所との関係で起きています。実態とのずれも、使えない場所も、商標もそうです。ならないものは、外の人からは見えません。外の人にとっては、理由の見えない変更になります。

社内の飽きと、外から求められる変化を分けて考える話は、ロゴに限りません。ブランド全体の見え方については、ブランドイメージとは。動かせる範囲と、ずれに気づく方法に書いています。ここからは、ロゴに絞って続けます。

変える前に、手がかりを見つける

変えるかどうかを決める前に、いまのロゴの何で見分けられているかを見つけます。

手がかりになりうるのは、形、色、文字、配置です。シンボルの輪郭が手がかりになっていることもあれば、色だけで覚えられていることもあります。社名の書体や並び方が手がかりのこともあります。名刺や看板のどこに、どう置かれているかで覚えられていることもあります。

見つけ方は、社内の人が思う「らしさ」と、取引先やお客さんが見分けている手がかりを、並べて比べることです。

社内の人は、ロゴを作った経緯を知っています。だから、意味を込めた部分を手がかりだと思いやすい。外の人は、その意味を知らないまま、目に残った部分で見分けています。社内が大事にしている部分と、外で手がかりになっている部分が、違うことがあります。

外の人が何で見分けているかは、聞けば分かります。「うちのロゴで覚えているところはどこですか」と聞くと、社内では気づいていなかった部分が挙がることがあります。

聞く前に、社内で当たりをつけておくこともできます。遠くから見たとき、小さく見たとき、色がないとき、何が残るか。見る条件を変えても残る部分は、手がかりの候補です。ただ、どれが本当に手がかりになっているかは、社内で見ているだけでは分かりません。外の人に聞いて確かめます。

比べた結果、社内の「らしさ」と外の手がかりが違っていたら、外の手がかりを残す候補にします。社内で込めた意味は、ロゴの形でなくても、言葉で残せます。外の人の側にできた手がかりは、一度消えると、言葉では戻せません。

ここは、決める作業ではありません。すでに外の人の側にできている手がかりを、見つける作業です。会社全体を変えるリブランディングでも、同じことが言えます。その話はリブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないに書いています。

見つかった手がかりは、変えるとしても残す候補になります。

新しい案を作る前に、いまのロゴが何で見分けられているかを確かめるのは、作る側の仕事です。私たちも、取引先やお客さんに、どこで見分けているかを聞くことがあります。

どこまで変えるか

ロゴを変えるかどうかは、変えるか変えないかの二択ではありません。変える幅には段階があります。

幅が小さいのは、整えることです。手がかりはそのまま残し、線の太さ、比率、小さく使うときの形を直します。見る人は、変わったことに気づかないかもしれません。気づかれないまま、使えなかった場所で使えるようになります。

その次が、描き直すことです。見つけた手がかりのうち、どれを持ち越すかを決めて、そのほかを新しくします。色を残して形を変える。形の輪郭を残して、細部を今の使い方に合わせる。持ち越した手がかりがあれば、見る人は新しいロゴの中に、覚えていた合図を見つけられます。

幅が大きいのは、新しく作ることです。手がかりを持ち越しません。社名が変わったときのように、前のロゴとのつながりを切ることに意味がある場合です。そのかわり、積み上げてきた手がかりは、一から作り直すことになります。

どの幅を選ぶかは、変える理由から決まります。使えない場所があるだけなら、整えることで足りるかもしれません。事業が広がって実態とずれたなら、手がかりを持ち越しながら描き直す道があります。旧ロゴとの結びつきを断つ理由があるときに、はじめて新しく作ることになります。理由より大きな幅で変えると、変えなくてよかった手がかりまで失います。

そして、ロゴを変えずに、周りの見え方だけを揃える選択肢もあります。書体や色の使い方を揃えると、ロゴが同じでも印象は変わります。この話も、先に挙げたコーポレートアイデンティティの記事に書いています。

どの幅がありうるかは、作る側が先に並べて見せます。並んでいれば、選ぶ側は二択で考えずに済みます。

商標は、決める前に確かめる

ロゴの商標は、制作が終わってから確かめるのでは遅い、という話をロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わるに書きました。権利をどう扱うかを契約の前に説明しておく側の話も、そちらに書いています。

ロゴを変えるときには、そこにもう2つ加わります。

1つは、新しい案が、他の会社の登録と紛らわしくないかです。案を選んだあとで分かると、選び直しになります。社内で案が決まり、発表の準備まで進んでいると、戻るのはそれだけ難しくなります。

もう1つは、旧ロゴの登録をどうするかです。新しいロゴに移ったあとも登録を残すのか、手放すのか。旧ロゴが取引先の手元や古い印刷物に残る期間を考えると、すぐには決められないこともあります。

手続きのしかたは、この記事では書きません。誰が確かめるかは、案件によって違います。専門家に確かめてもらうこともあります。書いておきたいのは、変えると決める前に確かめる項目がある、ということです。

誰が決めるか

ロゴは、会社全体のものです。変えるかどうかを決めるのは、経営です。

社内の意見を集めること自体は役に立ちます。営業や店頭に立つ人は、お客さんがロゴをどう呼んでいるか、何で覚えているかを聞いていることがあります。ただ、変えるかどうかを多数決で決めると、ロゴを毎日見ている人の感覚で決まります。先に書いたとおり、毎日見ている人と、年に数回見る人とでは、同じロゴの見え方が違います。

決める人が、変える理由と、見つけた手がかりの両方を見て判断する。そのための材料が、ここまでの章で集めたものです。変えたい理由は会社の外にあるのか、内側にあるのか。手がかりはどこにあって、どこまで持ち越すのか。このうち手がかりは、作る側が確かめて、決める人の前に出しておくものです。

決めた理由が言葉で残っていれば、次に誰かが「変えたい」と言い出したとき、前に何を理由に決めたかが分かります。同じ話し合いを、はじめからやり直さずに済みます。変えないと決めたときも、同じように理由を残しておきます。

切り替えは、一度には終わらない

新しいロゴを決めても、翌日から全部が替わるわけではありません。

看板、名刺、封筒、サイト、SNS、資料のひな形、制服、車両。自社の中だけでも、ロゴはあちこちに載っています。取引先のサイトや資料に載っているロゴもあります。これは、こちらから頼まないと替わりません。

そこで、旧ロゴが載っている場所を先に並べます。私たちも、切り替えのときには、旧ロゴが残る場所の一覧を作ります。並べてみると、社内の誰も思い出さなかった場所が挙がることがあります。

並べたら、すぐに替えるものと、手元の在庫を使い終えてから替えるものを分けます。看板や車両のように、替えるのに手間がかかるものは、時期を決めて替えることになります。取引先には、新しいロゴのデータを渡して、差し替えを頼みます。

そのあいだ、新しいロゴと旧ロゴが並びます。並んでいても同じ会社だと分かるかどうかは、見つけた手がかりを残したかどうかで決まります。いつから新しいロゴに替わるのかを外に知らせておくと、見慣れないロゴを見た人が、別の会社と取り違えずに済みます。

切り替えに要るロゴの形(大きさ、色、データの種類)は、作る側が揃えて渡します。揃っていれば、替える作業が途中で止まりません。

変えるかどうかは、見つけてから決める

ロゴを変えて失うのは、見た目ではなく、見る人の側にできていた手がかりです。

変えるかどうかは、いまのロゴの何が手がかりになっているかを見つけてから決めます。見つけてから変えれば、形を大きく変えても、「あの会社だ」という合図は残せます。見つけないまま変えると、新しいロゴは、一から覚えてもらうところから始まります。

Tags: