映像制作を依頼する前に。尺より先に、見られる場面を決める
映像制作を依頼するとは、自社で使う映像の企画・撮影・編集の一部、またはまとめてを、外の会社や個人に任せることです。
映像制作を依頼する前に決めるのは、尺や本数より、その映像が見られる場面です。どこで、誰が、どんな状態で、どれだけのあいだ見るのか。場面が決まれば、尺も、音を入れるかどうかも、縦か横かも決まります。どの工程から先を頼めばいいかも見えてきます。
ブランディングを頼む会社を型から選ぶ話は、ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に書きました。この記事では映像に絞ります。見られる場面の決め方、「会社紹介の映像を1本」という頼み方で起きること、場面から決まること、尺と本数の決め方、頼む相手の種類、社内で用意しておくもの、小さく始めること、頼んだあとに判断する場面を書きます。
映像制作を頼むとき、最初に決めること
最初に決めるのは、その映像が見られる場面です。
場面は、四つのことで決まります。どこで見られるか。誰が見るか。見る人がどんな状態にいるか。どれだけのあいだ見ていられるか。
たとえば、次のような場面があります。
- 展示会のブースの前を、歩きながら通りすぎる人が、横目で見る
- 採用の説明会で、席に座った学生が、前の画面を見る
- SNS で、指で画面を流しながら、目に留まったものを見る
- 店の会計の列に並んだ人が、待つあいだにモニターを見る
- 商談の席で、営業が向けた画面を、相手が見る
どれも「会社を知ってもらう映像」と呼べます。ただ、見る人の状態がまるで違います。歩いている人と、座っている人と、指で流している人とでは、同じ映像を同じようには見てくれません。
頼むときに、「動画」と言うか「映像」と言うかで迷うことがあります。頼む中身は変わらないので、頼むときには区別しなくて構いません。この記事では「映像」と書きます。
場面を決めるのは、頼む側です。使うつもりの場所は、社内の人にしか分からないからです。
「会社紹介の映像を1本」では決まらない
映像を頼むときに出てくる言い方の一つに、「会社紹介の映像を1本」があります。
会社紹介は、中身の名前です。どこで見せるかは、まだ入っていません。
場面が決まらないまま作ると、1本をあちこちで使うことになります。展示会のモニターで流すと、通りすぎる人には長すぎて、最初のほうしか目に入らないことがあります。説明会で流すと、今度は説明が足りないと感じられることがあります。SNS に載せると、最初の短いあいだに何の映像か分からず、流されてしまうことがあります。
どの場面でも、映像そのものの出来は悪くありません。合っていないのは、場面のほうです。見られる場面を聞かずに作り始めると、尺と本数だけが決まった映像になります。
映像は、見る人がその場を離れれば終わります。展示会なら、映像を見て足を止めた人に、ブースの誰かが話しかけます。説明会なら、映像のあとに質疑があります。映像は、そのあとに続く場面の手前に置かれるものです。前の場面と次の場面がつながっているかどうかは、ブランド体験とは。接点のあいだで割れないように、順番で考えるで書いた、場面と場面のあいだの話と同じです。
場面が決まると、決まること
場面が決まると、映像の形がいくつも決まります。
| 展示会のブース | 採用説明会の画面 | SNS の投稿 | 店頭のモニター | |
|---|---|---|---|---|
| 見る人の状態 | 歩きながら、立ち止まるかを決める | 座って、終わるまで見る | 指で流しながら見る | 待つあいだ、ときどき目を向ける |
| 音 | 周りの音で聞こえないことがある | 音を聞いてもらえる | 音を消して見られることがある | 音を出せないことがある |
| 長さの考え方 | 通りすぎるまでに伝わる長さ | 説明会の流れの中で決める | 最初の短いあいだで、何の映像か分かる | 繰り返し流す。どこから見ても分かる |
| 縦横 | 会場のモニターに合わせる | 会場の画面に合わせる | 載せる先の形に合わせる(縦のことがある) | 置くモニターに合わせる |
この表は、場面ごとの違いを示す例で、私たちの整理です。同じ展示会でも、会場の広さやモニターを置く位置で変わります。
音は、場面で決まるものの一つです。展示会の会場では、周りの話し声で音が届かないことがあります。SNS では、音を消したまま見る人がいます。音が届かない場面で使うなら、音を消しても分かる作りにして、字幕や画面の文字で伝えます。
長さも、場面から決まります。座って見る説明会なら、説明会の流れのどこに置くかで決められます。通りすぎる人に見せるなら、通りすぎるまでのあいだに伝わる長さにします。店頭のように繰り返し流すなら、どこから見始めても分かることが要ります。
縦か横かは、映す画面で決まります。会場のモニターには会場の事情があり、SNS には載せる先の形があります。
画面に入れる文字の大きさも、見る距離で変わります。離れたモニターで流すなら、遠くからでも読める大きさが要ります。手元のスマートフォンで見るなら、そこまで大きくしなくても読めます。同じ文字でも、場面が違えば、読めるかどうかが変わります。
最初に何を映すかも、場面で変わります。座って見る人には、話の入り口から順に見せられます。流して見る人には、最初の短いあいだに、何の映像かが伝わる必要があります。
使う場所から決める考え方は、ロゴについてロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わるに、「使う場所の一覧が、そのまま納品物の一覧になります」と書きました。色やロゴの置き方の記事でも、使う場所を先に並べてきました。映像でも、場面の一覧が、何を何本作るかの一覧になります。
違うのは、使い回せる幅です。ロゴは、縦組みや横組み、1色の版をそろえておけば、形を変えて置けます。映像は、長さや見せる順番まで場面に合わせて作るので、1本を別の場面に回すと、合わないところが出てきます。
場面が二つ以上あるなら、どれを主にするかを決めておきます。主の場面に合わせて作り、ほかの場面では短く切って使う、という分け方もあります。
尺と本数は、場面のあとに決める
尺と本数から先に決めると、場面に合わない映像になることがあります。
「◯分の映像を1本」と決めてから場面を考えると、その長さが合う場面を探すことになります。場面を先に決めれば、尺は場面から出てきます。場面が二つなら、長さも二つ要るかもしれません。
場面ごとに作れば、本数は増えます。ただ、本数が増えても、撮る日が同じだけ増えるとは限りません。撮影は、出る人と場所と日程をそろえる仕事です。一度にまとめて撮っておき、場面ごとに編集し分ければ、撮る日は増やさずに済むことがあります。
そのためには、撮る前に場面の一覧ができている必要があります。撮ったあとで別の場面を思いつくと、縦の画面に収まらない構図で撮っていた、話し声をきれいに拾っていなかった、と分かることがあります。
撮ることと編集することを分けて考えると、本数の決め方が変わります。撮る日を一つにまとめて、編集で場面ごとの形にする。この分け方は、頼む相手を選ぶときにもつながります。
どの工程から先を頼むかで、相手が決まる
映像を作る工程は、大きく四つに分かれます。企画(場面と伝えることを決めて、構成を作る)、撮影、編集、出す(広告の枠などに載せる)です。
頼む相手は、どの工程から先を頼むかで決まります。社内で決まっているところまでを持っていき、その先を頼む、という考え方です。
| どこから先を頼むか | 社内で決まっていること | 向く相手 |
|---|---|---|
| 編集から | 場面と構成が決まり、撮った素材がある | 編集を受ける個人や会社 |
| 撮影から | 場面と構成が決まっている | 撮影と編集を受ける個人や、映像制作会社 |
| 企画から | 場面だけが決まっている。または、映像が要ることだけが決まっている | 企画から受ける映像制作会社や、企画から一緒に考える会社 |
| 出すところまで | 広告の枠に載せることが決まっている | 広告代理店 |
この表も、私たちの整理です。一つの相手が、いくつもの工程を受けることもあります。
何が決まっているかで頼む相手を選ぶ考え方は、ブランディング会社の選び方の記事に、会社の型として書きました。映像では、同じことが、企画・撮影・編集・出すという工程の単位で起きます。
場面と構成が決まっていて、撮った素材も手元にあるなら、編集から頼めます。編集を受ける個人に頼むのが速いこともあります。頼む先に、クラウドソーシングのサービスを使うこともできます。向いているのは、何を、どの長さで、どの形に仕上げるかがはっきりしている仕事です。範囲がはっきりしているほど、受ける側も迷わずに済みます。
場面だけが決まっていて、構成がまだなら、企画から受ける相手に頼みます。映像が要ることだけが決まっている段階なら、なおさらです。
企画から頼むところで、編集だけを受ける相手を選ぶと、決まっていないところを受けた側が埋めることになります。そこで噛み合わないのは範囲のほうで、相手の腕の問題とは限りません。
広告の枠に載せるところまで頼むなら、広告代理店が向きます。どの枠に、いつ、どれだけ出すかの設計と、一緒に頼めるからです。
私たちは、映像を、ブランドの決めごとやサイト、空間と分けずに引き受けることもあります。なぜ分けないのかは、なぜ私たちは、ブランディングも空間も映像も分けないのかに書きました。ただ、分けずに頼むのが合う場面ばかりではありません。範囲がはっきりしていれば、工程ごとに頼むほうが速く進みます。
どこから頼む場合も、撮った素材の扱いは頼む前に確かめておきます。撮った元のデータをもらえるか、別の場面に使ってよいか、映っている人の扱いをどうするか。あとで別の場面に使おうとしたときに、ここで困ることがあります。法律の細かい扱いには、ここでは踏み込みません。
社内で用意しておくもの
頼む前に、社内で用意しておくと話が早く進むものがあります。
一つめは、場面の一覧です。どこで、誰が、どんな状態で、どれだけのあいだ見るか。使うつもりの場面ごとに書きます。
二つめは、出る人と、その人が話す中身です。社員が話す映像では、何人かが話すことがあります。話す中身がそろっていないと、撮り終えてから食い違いに気づいて、撮り直しになります。採用の映像について同じことを、採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番に書きました。
三つめは、映してはいけないものです。取引先の名前、設備の配置、机の上の書類。映してはいけないものが分かるのは、社内の人です。撮る前に一覧にしておく話は、製造業のブランディング。製品に名前が載らない会社は、何を伝えるかに書きました。
四つめは、判断する人です。打ち合わせに出る人と、最後に決める人が同じかどうか。違うなら、最後に決める人がどの段階で見るかを決めておきます。
揃っていなくても、始められます。場面を一緒に決めるところから始める相手を選べば足ります。
短い映像1本から始める
映像を頼むのは、大きな1本からでなくても構いません。
私たちも、SNS 用の短い映像1本のような仕事から引き受けています。
頼む側は、1本目でその場面に合っているかを確かめてから、次の場面に広げられます。SNS での見られ方が分かれば、同じ撮り方で展示会用を作るか、別に撮るかを決める材料になります。
小さく始めるときも、場面は決めておきます。1本だけだからこそ、どこで誰が見るかがはっきりしていれば、合っていたかどうかを確かめられます。
1本目で撮った素材を、次の場面で使えるかどうかは、頼む前に確かめた素材の扱いで変わります。受け取れるようにしておけば、次の1本で使える部分が出てきます。
頼んだあと、こちらが判断する場面
頼んだあとにも、頼む側が判断する場面があります。
企画の段階では、場面と伝えることが、こちらの意図と合っているかを見ます。構成を見るときは、場面の一覧と並べて見ます。
撮影の前には、構成、出る人、場所、日程を決めます。映してはいけないものの一覧も、ここで渡します。
仮の編集では、見られる場面と同じ条件で見ます。展示会で流すなら、モニターから離れて立って見る。SNS に載せるなら、スマートフォンで、音を消して見る。会議室の大きな画面で、座って見ると、見られる場面とは条件が変わります。
リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないでは、パッケージについて「画面の中と、売り場では距離が違う」と書きました。映像も同じで、作った画面の前で見ているかぎり、見る人のいる場面とは違う見方をしています。
納品の形では、場面ごとに、縦横、字幕のあるなし、長さの違う版がそろっているかを確かめます。
どの段階で何を判断してもらうかは、引き受けた側が最初に示しておくものです。
場面が決まれば、頼み方が決まる
映像を頼む前に決めるのは、尺や本数より、その映像が見られる場面です。
どこで、誰が、どんな状態で、どれだけのあいだ見るのか。そこが決まれば、尺も、音も、縦横も決まります。社内で決まっている範囲が分かれば、どの工程から先を頼めばいいかも決まります。
場面の一覧を1枚持って相談に行けば、最初の打ち合わせで、何を何本、どの形で作るかまで話を進められます。