製造業のブランディング。製品に名前が載らない会社は、何を伝えるか

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製造業のブランディング。製品に名前が載らない会社は、何を伝えるか

製造業のブランディングとは、ものを作る会社が、取引先や働く人から選ばれる理由をはっきりさせ、揃えて伝えていく取り組みです。

製造業には、作ったものに自社の名前が載らない仕事があります。部品、素材、受託製造。名前が載らない仕事で伝えるのは、製品の良さより、取引先がなぜ頼み続けているかという理由です。

会社と会社のあいだで取引する事業に共通する伝わり方は、BtoBブランディングとは。会っていない人に、どう伝わるかに書きました。この記事では、製造業に固有の、名前が載るかどうかという点から入ります。そのうえで、誰に伝えるか、頼み続けられている理由の言葉にし方、受託と自社ブランドを両方持つとき、現場を見せるとき、採用までを書きます。

製造業のブランディングとは

製造業のブランディングでは、作るものが話の中心にあります。

店舗や接客で選ばれる仕事と違って、選ばれる理由が、品質、納期、工程の確かさといった、外からは見えにくいところにあります。手に取った人が気づくのは、そのうちの一部です。

製造業と一口に言っても、作るものの幅は広くあります。機械の部品、建物に使う素材、食品、日用品、産業用の装置。売る相手も、別の会社であることもあれば、店に並べて一般の人に売ることもあります。

製造業の会社がブランディングを考え始めるきっかけは、いくつかあります。代替わりで、先代が持っていた取引先との関係を、言葉で引き継ぐ必要が出たとき。新しい取引先を探し始めたとき。働く人が集まらなくなったとき。自社の名前の製品を出そうとしたとき。どのきっかけでも、まず確かめるのは、いま何で選ばれているかです。

ただ、作るものが違っても、共通して伝え方を分けるものがあります。作ったものに、自社の名前が載るかどうかです。次の章で、その違いを並べます。

私たちも、食品の製造をしている会社と仕事をしたことがあります。業種によって作るものは違っても、選ばれる理由が外から見えにくいという点は、ものを作る会社に共通していると考えています。

名前が載る仕事、載らない仕事

製造業の仕事は、作ったものに誰の名前が載るかで、三つの型に分けて見ることができます。

自社ブランドの製品 部品・素材 受託製造
最後に手に取る人に見える名前 自社の名前 取引先の製品の名前 依頼主の名前
選ぶ人 買う人 取引先の設計や購買の担当 依頼主
伝える場所 売り場、パッケージ、サイト 商談、展示会、技術資料 商談、紹介

表の分け方は、私たちの整理です。

自社ブランドの製品は、名前が載ります。自社の名前の付いた道具や食品が、店に並びます。この型では、買う人に向けたブランディングが、ほかの業種と同じように効きます。

部品や素材は、名前が載りません。自動車や家電の中に入る部品、建物に使われる建材、ほかの会社の製品の材料。最後にそれを手に取る人は、取引先の製品の名前で覚えます。

受託製造も、名前が載りません。食品、化粧品、日用品など、依頼主の名前で売られる製品を作る仕事です。作ったのが誰かは、表に出ないことが前提になっています。

一つの会社の中に、型が混ざっていることもあります。部品を作りながら自社の製品も持っている、受託で作りながら自社の名前でも売っている。混ざっているときの考え方は、あとの「受託と自社ブランドを両方持つとき」で書きます。

どの型に当たるかで、最初にやることが変わります。自社ブランドの製品なら、買う人に何を約束するかから始められます。部品や素材、受託製造なら、取引先がなぜ自社を選んでいるかから始めます。名前が載らない仕事で、買う人向けの手順をそのまま使うと、伝える相手を取り違えます。

名前が載らないとき、誰に伝えるか

名前が載らない仕事では、伝える相手が二つになります。

一つは、頼む側です。取引先の設計の担当、購買の担当、品質を確かめる担当。部品や素材の仕入れ先を決める人たちです。

もう一つは、働く人です。いま働いている人と、これから来る人。名前が製品に載らない会社は、働く人にとっても、自分の仕事が世の中のどこに出ているかが見えにくくなります。

最後に製品を手に取る人に、自社の名前を知ってもらう必要は、かならずしもありません。名前を知ってもらうための広告から始めると、頼む側にも働く人にも届かないまま、費用だけが出ていくことがあります。

頼む側の社内で、話がどう伝わっていくかは、BtoBブランディングの記事に書きました。商談に出た人が決める人とは限らず、話は社内で何度か要約されてから決める人に届く、という話です。この記事では、その要約される前の、そもそも何を伝えるかを扱います。

頼む側には、もう一つ事情があります。担当者が替わることです。部品や素材の取引は長く続くことがあり、そのあいだに、取引先の設計や購買の担当者は入れ替わります。前の担当者が知っていた頼む理由は、言葉になっていなければ、次の担当者には引き継がれません。引き継がれないと、新しい担当者は、価格や納期といった、数字で比べられる項目で、取引を見直すことがあります。

頼み続けられている理由を言葉にする

名前が載らない仕事で、取引が続いているなら、そこには頼む理由があります。

その理由は、製品の性能とは限りません。納期を守り続けていること。品質のばらつきが小さいこと。急ぎの相談にも応じること。少ない量でも引き受けること。図面に書いていない部分について、作る側から提案すること。どれも、性能表には載りません。

この理由を、社内で考えるより先に、取引先と現場から拾います。長く続いている取引先に、なぜ続けているかを聞く。現場の人に、取引先からどんなことを頼まれるかを聞く。

続いている取引先からは、選ばれている理由が出てきます。うまくいっていない点は、続いている相手からは出にくいので、そちらを知りたいときは、取引が途切れた相手に聞きます。ブランドイメージとは。動かせる範囲と、ずれに気づく方法には、契約が続いている相手に聞いても、ずれは出てこないと書きました。聞く目的が違うので、聞く相手も変わります。

技術の話は、この理由の根拠として下に置きます。技術ブランディングという言葉もありますが、技術そのものを名前にして前に出すより、その技術で取引先の何が解決しているかを先に言うほうが、頼む側には伝わります。決める人は技術の中身を評価できない、という点は、BtoBブランディングの記事で書いたとおりです。

拾った理由は、そのままの言葉で並べます。取引先が言った言葉には、取引先の側から見た理由が出ています。社内の言葉に置き換えると、作る側の見方に戻ってしまいます。並べたあとで、同じことを言っているものをまとめ、一つか二つに絞ります。絞るときは、ほかの会社でも言えることを外します。

言葉にしておくと、先に書いた担当者の交代のときに効きます。新しい担当者に、なぜ自社に頼んでいるのかを、前の担当者の記憶に頼らずに渡せるからです。

拾った理由は、社内で何人が言えるかを見ます。営業の担当は言えるのに、工場見学で案内をする人や、取引先に呼ばれて説明に行く技術者が言えない、ということがあります。製造業では、営業以外の人が取引先と話す場面があります。工場の見学、品質の確認、試作の打ち合わせ。そこで話す人が同じ理由を言えるかどうかで、取引先に残るものが変わります。

見た目から作り始める進め方もあります。ロゴを新しくする、パンフレットを作り直す、サイトを整える。どれも要る作業です。ただ、頼み続けられている理由が言葉になっていないまま見た目を整えると、整ったけれど何を頼める会社かが分からない、という仕上がりになります。理由を先に言葉にしておくと、見た目を決めるときの基準になります。

受託と自社ブランドを両方持つとき

受託で作りながら、自社の名前の製品も出している会社があります。

このとき、依頼主の製品と、自社の製品が、同じ売り場に並ぶことがあります。依頼主から見ると、頼んでいる相手が、自分の製品の隣で売っていることになります。自社ブランドを前に出すほど、依頼主からは競合に見えてきます。

だから、何を自社ブランドで出し、何を受託に残すかの線を決めておきます。売る場所で分ける、扱う品目で分ける、価格の帯で分ける。どこで線を引くかは、会社によって違います。線が決まっていないと、営業の担当ごとに説明が変わり、依頼主に不安を残します。

自社の名前の製品を出すときは、社名と製品名をどう並べるかも決めます。社名を前に出すのか、製品名だけで立てるのか。その決め方は、ブランドアーキテクチャとは。ブランド体系を、後から並べ直すに書きました。製品が増えていくときに、何を共通にして何を分けるかは、商品ブランディングとは。共通にするものと、分けるものを決めるにあります。

受託の仕事から、自社の名前の製品を新しく始める会社もあります。このとき、受託で選ばれている理由と、自社の製品で約束することが、同じ方向を向いているかを確かめます。受託で品質の安定を理由に選ばれている会社が、自社の製品では目新しさだけを打ち出すと、取引先から見た会社の姿と、売り場で見える姿が離れます。受託で積み上げてきた理由を、自社の製品の約束に生かせるかどうかが、始めるときの分かれ目になります。

依頼主とのあいだで、どこまで自社の製品を出してよいかは、契約で決まっていることもあります。その確認は、ブランディングの前に済ませておきます。

現場を見せるとき、見せないもの

製造業のブランディングでは、工場や工程、働く人の様子を見せたくなる場面があります。

言葉で説明しにくい確かさは、現場を見せると伝わることがあります。機械が並ぶ様子、検品の手つき、整えられた作業場。頼む側にとっても、働く人を探すときにも、現場は手がかりになります。

ただ、製造業の現場には、見せられないものがあります。取引先の名前や、取引先から預かった図面。配合や工程の細かい手順。設備の配置。受託の仕事なら、依頼主の製品そのものが写せないこともあります。

何を写してはいけないかを知っているのは、社内の人です。外から来た人には、どの棚の何が取引先のものか、どの機械の設定が見せられないものかは分かりません。撮影や取材を頼む前に、見せないものを社内で一覧にしておきます。

一覧があると、撮る側も、見せられる範囲の中で何を撮るかを考えられます。一覧がないまま撮ると、撮ったあとで使えない写真が出て、撮り直しになることがあります。

撮ったあとに、外に出す前の確認をする人も、社内で決めておきます。写真の隅に取引先の箱が写っていた、ホワイトボードの書き込みが読めた、ということは、撮ったあとに見て気づくことがあります。見せないものの一覧を作った人が確かめると、見落としが減ります。

何を見せたいかも、社内で決めておけるものです。頼み続けられている理由が言葉になっていれば、その理由が伝わる場面を、見せられる範囲の中から選べます。

見せられないものを抱えている会社ほど、取引先と現場から拾った理由を、言葉で伝える比重が上がります。見せられる現場が少なくても、なぜ頼み続けられているかは言えます。

名前が知られていない会社の採用

名前が製品に載らない会社は、働く候補者にも、名前が知られていないことがあります。

働く人を探すときに伝えるのも、頼み続けられている理由です。何を、誰のために作っているか。自分の仕事が、どの製品の中に入り、誰の役に立っているか。それが言えると、名前を知られていない会社でも、候補者が仕事を思い浮かべられるようになります。

最終製品の名前を出してよいかは、取引先との約束によります。出せないなら、製品の種類や使われる場面で伝えます。〔 〕の中に入っている部品、〔 〕に使われている素材、という言い方です。

この言葉は、いま働いている人にも効きます。名前が載らない仕事では、自分が作っているものが、世の中のどこで使われているかが、働く人自身にも見えにくくなります。頼み続けられている理由が社内で言葉になっていると、自分の仕事が誰の何を支えているかを、働く人が説明できるようになります。

採用で伝える言葉を、社内で揃える進め方は、採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番に書きました。面接に出る人が、同じ理由を言えるかどうかを、先に確かめます。

名前が載らないから、理由を言う

製造業のブランディングは、作ったものに自社の名前が載るかどうかで、何を伝えるかが変わります。

名前が載る製品は、買う人に向けて伝えます。名前が載らない仕事では、頼む側と働く人に向けて、取引先がなぜ頼み続けているかを伝えます。その理由は、取引先と現場から拾い、技術はその根拠として下に置きます。

名前は製品の上に出なくても、頼み続けられている理由は、言葉にして社内で揃えられます。

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