ブランド体験とは。接点のあいだで割れないように、順番で考える
ブランド体験とは、相手がそのブランドに触れる場面を、知るところから使い終わるところまで、順に通っていく経験の全体です。サイトを見る、問い合わせる、返事を受け取る、店に行く、商品が届く。そのどれもが体験の一部です。
体験は、接点の一つひとつより、接点から次の接点に移るところで決まります。接点ごとに良くできていても、移り目で調子が変われば、相手の側では体験が割れます。だから、接点ごとに整えるより、相手が通る順番で考えます。
この記事では、ブランドイメージとの関係を整理したうえで、体験が順番に起きること、移り目で割れる例、相手が通る順の書き出し方、約束で照らすこと、移り目を誰が持つか、確かめ方を書きます。
ブランド体験とは何か
ブランド体験は、相手がブランドと接したときに起きる出来事の連なりです。
広告やサイトのように、会社が用意して見せるものだけではありません。電話の応対、届いた荷物の開け方、納品のあとに来る連絡。相手が通るところは、どこでも体験になります。
ブランドイメージとは、近いけれど別のものです。イメージは、相手の中に残った印象のほうです。体験は、その印象を形づくる出来事のほうにあたります。ブランドイメージとは。動かせる範囲と、ずれに気づく方法に、イメージは相手の中にあるので直接は書き換えられない、と書きました。会社が手を入れられるのは、体験の側です。
体験を考える理由は、相手が会社を、説明より出来事で知っていくことにあります。サイトに書いてあることを読むより先に、問い合わせの返事が届き、打ち合わせの日程が決まり、品物が届きます。相手はそのたびに、この会社はこういう会社だ、という手がかりを積み重ねていきます。説明は一度読めば終わりますが、出来事は取引が続くかぎり起き続けます。
似た言葉に、BX(ブランドエクスペリエンス)、CX(カスタマーエクスペリエンス)、UX(ユーザーエクスペリエンス)があります。どこまでを指すかは、使う人ごとに幅があります。ここでは言葉の比べ方には入らず、ブランドに触れる場面のつながりを、ブランド体験と呼んで書きます。
体験を考えるとき、場面を一つずつ思い浮かべることから始めることがあります。店の内装、サイトの見た目、パッケージ。それぞれを整えていく作業です。その作業自体は要ります。ただ、この記事で扱いたいのは、その場面と場面のあいだです。
体験は、順番に起きる
制作物は、並べて見比べられます。
名刺とサイトと会社案内を机に並べれば、色や書体や言い方が揃っているかが分かります。揃っていないと別の会社のものに見える、という見方は、ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかでも扱いました。
体験は、そうは見えません。一人の相手が、時間の順に通っていくものだからです。サイトを見て、問い合わせて、返事を受け取って、打ち合わせで会って、品物が届く。相手は、前の場面を覚えたまま、次の場面に入ります。
たとえば、業務用の機械を扱う会社に、新しく取引を考える担当者が問い合わせたとします。サイトで製品を調べ、問い合わせのフォームを送り、営業の担当から電話が来て、打ち合わせのあとに見積書が届き、契約して、機械が届き、設置の担当者が来る。担当者は、この順番で会社に触れていきます。サイトで読んだ言葉を覚えたまま電話を受け、電話で聞いた話を覚えたまま見積書を読みます。
この順番の中で、会社の側の担当は何度も替わります。サイトを作った人、フォームを受けた人、営業、見積もりを書いた人、配送、設置。相手は一人のまま通っていきますが、迎える側は場面ごとに別の人です。
私たちは、なぜ私たちは、ブランディングも空間も映像も分けないのかの中で、「体験というのは、要素の合計ではなく、要素のあいだに宿ります」と書きました。食のイベントで、会場からメニュー、スタッフのユニフォームまでを設計した例です。一つずつの出来より、あいだのつながりで体験が決まる、という話でした。
並べて揃っていることと、順に通ってつながっていることは、同じではありません。机の上では揃って見えるのに、順に通ると途中で調子が変わる、ということが起きます。次の章は、その起き方です。
移り目で割れる
割れ方には、型があります。
- サイトでは丁寧で落ち着いた言葉づかいなのに、問い合わせの電話に出た人の話し方が、まったく別の調子になっている
- 店の内装は静かで落ち着いているのに、持ち帰る袋や包装だけが、にぎやかな別の世界観になっている
- 展示会のブースで話した内容と、後日届いた見積書の書き方が噛み合わず、同じ会社と話していた感じがしない
どの接点も、単独で見れば良くできています。サイトも、電話の応対も、店も、袋も、ブースも、それぞれの担当がきちんと作っています。割れているのは、その移り目のほうです。
相手の側に残るのは、どこかで調子が変わった、ということだけです。それが電話のせいなのか、サイトのせいなのかは、相手は切り分けません。
移り目で割れることは、接点ごとに見ていると気づけません。サイトの担当はサイトを見て、電話の担当は電話の応対を見ます。それぞれが自分の場面を確かめると、どちらも問題なく見えます。問題は、二つを続けて通った人にしか見えないところにあります。
場面ごとに違う会社に見える、という結果は、これまでの記事でも扱ってきました。ブランドパーソナリティとは。アーカーの5次元と、形容詞で終わらせない決め方では、人の像が決まっていないことを原因として書き、ブランドプロミスの記事では、例外のときの扱いが人によって違うことを原因として書きました。この章で見ているのは、担当が替わる境目という原因です。接点ごとに担当が違うと、それぞれが自分の場面だけを見て作るので、境目で調子がずれます。
相手が通る順に書き出す
移り目を見つけるには、相手が通る順に、接点を書き出します。
- 相手を一人に決める。新しく取引を始める会社の担当者、初めて店に来る人、などです
- その人が最初にブランドを知る場面から、使い終わったあとまでを、通る順に書く
- 接点ごとに、担当を書き添える。社内の部署なのか、外の会社なのか
- 担当が変わる移り目に、印をつける
相手を一人に決めるのは、相手によって通る順番が違うからです。取引先の担当者と、店に来る人とでは、最初に触れる場面も、通る道筋も違います。全員の順番を一枚に重ねて書くと、どこからどこへ移るのかが見えなくなります。
書き出す形は、〔知る場面〕→〔調べる場面〕→〔問い合わせる場面〕→〔会う場面〕→〔受け取る場面〕→〔使ったあとの場面〕のように、横に並べる形が向いています。〔 〕の中に、自社の場面を入れます。その下に、担当の欄を一行つくります。
接点の一覧とは、見ているものが違います。一覧は、相手がどこで会社に触れるかを並べたものです。順番の書き出しは、どこからどこへ移るかを並べたものです。一覧では、接点の数を数えられます。順番では、移り目の数を数えられます。
印がついた移り目が、割れるおそれのあるところです。担当が替わるので、その前後の両方を見ている人がいません。前の担当は、自分の場面が終わったところで手を離し、次の担当は、自分の場面が始まるところから手をつけます。そのあいだは、誰の場面でもありません。
書き出してみると、移り目の数が思っていたより増えることがあります。外に頼んでいる場面が混ざっていると、とくに担当の欄が細かく分かれます。印の数が、そのまま、体験が割れうる場所の数です。
担当の欄は、社内の分だけでなく、外の会社が受け持っている場面まで埋めます。外の会社の場面だけが空欄だと、そこの前後の移り目が見えなくなります。
先に挙げた業務用の機械の例で書き出すと、担当の欄はこうなります。サイトは外の制作会社、フォームの受付は事務、電話と打ち合わせは営業、見積書は営業の別の担当、配送は外の運送会社、設置は技術の部署。六つの場面に、六つの担当が並びます。担当が変わる移り目は五つあり、そのうち三つは社外との境目です。
印をつけ終えたら、どの移り目から見るかを決めます。社外との境目は、前後を見ている人が社内にいないことがあるので、先に見る候補になります。相手が次の判断をする直前の移り目、たとえば見積書が届くところも、先に見る候補です。
移り目を、約束で照らす
印をつけた移り目は、約束で照らします。
移り目の前と後で、同じ約束が守られているか。サイトで約束していたことが、電話の応対でも守られているか。店で約束していたことが、包装でも守られているか。前の場面で相手が受け取った約束を、次の場面が知らずに作られていると、移り目で約束が途切れます。
約束が具体であれば、途切れていることに気づけます。どの約束をどこまで具体に言うかは、ブランドプロミスとは。コンセプトとの違いと、どこまで具体に約束するかに書きました。抽象的な約束だと、どの場面もそれを守っているように見えて、移り目の途切れが見えません。
移り目で受け渡すものもあります。前の場面で、相手が何を聞き、何を伝えたか。展示会のブースで話した内容が、見積書を書く担当に渡っていなければ、相手は同じ説明をもう一度することになります。相手の側では、それも体験の一部です。
受け渡すものは、細かく決めなくて構いません。相手の名前と、前の場面で約束したことと、相手から聞いた要望。この三つが次の担当に届けば、相手は同じ話を繰り返さずに済みます。どこに書いて、誰が読むかを、移り目ごとに決めておきます。
移り目を誰が持つか
担当が分かれる移り目には、前後の両方を知っている人を置きます。
置けない場合は、受け渡すものを決めておきます。前の場面で相手に何を約束したか、相手から何を聞いたか。それが次の担当に届く形になっていれば、移り目で途切れにくくなります。
移り目を見る人が持つ仕事は、大きくありません。前後の場面を、相手と同じ順に一度通して見ること。両側の担当に、同じ約束を渡すこと。どちらかの場面が変わったときに、もう一方の担当に知らせること。この三つです。前後の場面を自分で作る必要はありません。
見る人は、社内に置くほうが続きます。外の会社が入れ替わっても、移り目は残るからです。社内に、相手と最初に接する部署と、最後に接する部署の両方に話が通る人がいれば、その人が見る役に向いています。
接点ごとに別の会社に頼むと、それぞれの会社は、頼まれた接点の中を良くすることに力を使います。移り目は、頼まれた範囲のどこにも入っていません。接点ごとに頼むなら、移り目を誰が見るかを、頼む側で最初に決めておきます。決めていなければ、見る人がいないまま進みます。
担当ごとに範囲が分かれると揃わない、という話は、ブランドガイドラインの記事で、制作物について書きました。制作物は、並べて突き合わせれば、揃っていないところが見つかります。移り目は、並べても見えません。順に通して見る人がいて、はじめて見つかります。
どこまでを一つの会社やチームに任せるかは、ブランディング会社の選び方。4つの型と、自社に必要な型の見分け方に書きました。一社にまとめた体制が勝るとは限りません。高度な専門が要る工程を外の会社に任せるのも、筋の通った判断です。その場合に確かめたいのは、外に出しても、移り目を見る人が残っているかどうかです。
私たちは、空間も映像もWebも分けずに引き受けることがあります。それは、移り目で割れることを避けるためです。ただ、分けずに頼むことが常に正しいわけではない、ということも、同じ記事に書きました。
同じ順番で、通ってみる
書き出した順番は、自分で通って確かめます。
サイトを開いて、問い合わせて、返事を受け取って、資料を読んで、店や事務所に行く。相手と同じ順に通ると、書き出したときには見えなかった移り目が見つかることがあります。電話をかけるまでの待ち時間や、返事が届くまでの間も、通ってみて初めて体験として感じられます。
社内の人が通ると、慣れているぶん、移り目に気づきにくくなります。どこで何が起きるかを知っているので、調子が変わっても違和感になりません。社外の人に、同じ順番で通ってもらうという選び方もあります。
印象を確かめる方法として、ブランドイメージの記事では、離れた相手に聞くことを書きました。聞いて分かるのは、相手に残った結果です。通ってみて分かるのは、その結果を生んだ移り目です。二つは、確かめているものが違います。
通るときは、書き出した順番を手元に置いておきます。印をつけた移り目に来たら、前の場面で受け取ったものが、次の場面でも続いているかを見ます。言葉づかい、見た目の調子、前の場面で話したことが伝わっているか。続いていなければ、その移り目に印を一つ足します。
通ったあとは、割れていた移り目から直します。接点をはじめから作り直す必要はありません。前後の担当をつなぐか、受け渡すものを決めるか。移り目に手を入れるだけで、体験のつながりは変わります。
割れるのは、あいだ
ブランド体験は、接点の一つひとつより、そのあいだで決まります。接点ごとに良くしても、移り目で調子が変われば、相手の側では体験が割れます。
だから、相手が通る順に書き出して、担当が替わる移り目に印をつけます。その移り目を約束で照らし、誰が持つかを決め、同じ順に通って確かめます。
接点を良くする作業は、それぞれの担当が続けていきます。移り目は、誰かが見ると決めない限り、誰の仕事にもなりません。