ブランドアーキテクチャとは。ブランド体系を、後から並べ直す
ブランドアーキテクチャとは、会社が持っている名前——会社名、事業名、商品名、サービス名——の関係を決めることです。日本語ではブランド体系と呼ばれます。
調べると、設計という言葉が出てきます。全体の形を先に決めて、そこに一つずつ置いていく。整った説明です。
ただ、中小企業で実際に起きるのは、設計ではありません。すでに増えたものを、並べ直す作業です。先に設計する機会は、すでに過ぎています。1つ目を出したときに、2つ目の予定がなかったからです。
この記事では、なぜ名前が増えるのか、どう並べ直すのか、そして変えないという判断をどこで下すのかを書きます。
ブランド体系とは何か
ブランドアーキテクチャとブランド体系は、同じものを指しています。英語をそのまま使うか、訳すかの違いです。記事によってどちらかが使われますが、中身は変わりません。
決めるのは、名前どうしの上下と並びです。会社名を前に出すのか、商品名を前に出すのか。事業ごとに名前を分けるのか、まとめるのか。
型は三つあります。会社名を前に出す形、商品を独立させる形、両方を併記する形です。どれを選ぶかは、その商品を買う人が会社の名前を知っているかどうかで決まります。
この記事で扱うのは、その型を選んだあとの話ではありません。型を選ぶ機会がないまま、名前が増えてしまった会社の話です。
決めることの中身も変わります。これから出すなら、何を共通にして何を分けるかを決めます。すでに増えているなら、どれを残してどれをやめるかを決めます。後者のほうが、材料は多いのに、選べる幅は狭くなります。すでに外に出したものは、こちらの都合では消えないからです。
名前が付く対象は、商品だけではありません。事業、サービス、部門、拠点。会社によっては、拠点ごとに違う屋号を使っていることもあります。外に出ているものは、どれも体系の一部になります。社内だけの呼び分けとは、分けて数えます。
名前が何本あるかを数えたことがない会社は、珍しくありません。数えないまま増えるからです。増やすときは1本ずつなので、そのつど「もう1つくらい」で済みます。合計が見えるのは、並べたときだけです。
設計と、並べ直しは違う
ブランド体系の説明は、設計という言葉で書かれています。全体の形を先に決めて、そこに一つずつ置いていく。手順としては分かりやすく、実際にその順で進められます。
この説明は、先に全体がある会社に向いています。事業が複数あって、新しい商品を出す予定が立っていて、置き場所を決める段階にいる。そういう会社なら、設計から入るほうが早く終わります。
条件が揃わないのは、増えたあとに気づく場合です。1つ目の商品を出したとき、2つ目の予定はありませんでした。2つ目を出したとき、3つ目の予定もありませんでした。設計する機会が無かったのではなく、設計する対象が、そのときは1つしかなかったのです。
だから設計の説明が間違っている、という話ではありません。順番の話です。先に全体がある、という条件が揃っているかどうかで分かれます。
並べ直しは、設計と進み方が逆になります。設計は、決めた形に合わせて中身を置いていきます。並べ直しは、いま外に出ているものを集めてから、形を決めます。先に形を決めると、すでに出ているもののうち、形に合わないものが見えなくなります。
見えなくなったものは、消えるわけではありません。名刺に残り、請求書に残り、看板に残ります。図の上では整理されたのに、外から見た会社の名前は前のままだった、という形になります。
手をつける場所も逆になります。設計から入るなら、どういう会社になりたいかを決めるところから始まります。並べ直しから入るなら、いま何があるかを数えるところから始まります。行き着く先はどちらも決めごとですが、最初に開く引き出しが違います。
名前は、意図せず増える
会社の名前は、増やすと決めなくても増えます。増える場面が、決める場面と別のところにあるからです。
増え方を挙げると、こうなります。商品名、サービス名、屋号、略称、部門名、キャンペーン名、社内での通称。それぞれ、必要になった場面で付けられています。
名刺を作るときに部門名が要ります。請求書を出すときに正式名称が要ります。看板を出すときに短い名前が要ります。SNSを始めるときにアカウント名が要ります。展示会に出るときにブースの表記が要ります。そのつど、その場で決まります。
決めた人は、それぞれ違います。名刺は総務、請求書は経理、SNSは若手、看板は社長。誰も増やすつもりがないのに、合計は増えていきます。
気づくのは、社外の人に説明できなくなったときです。「御社の○○というのは、△△とは違うものですか」と聞かれて、答えに詰まる。あるいは、社員によって説明が違う。ここで初めて、名前が何本あるのかを数えることになります。
増えるのを止める仕組みは、置かれていません。止める理由が、その場では見当たらないからです。名刺に部門名を入れるのは自然で、SNSのアカウント名を短くするのも自然です。一つずつ見れば、どれも正しい判断です。
そして、増えた名前は簡単には消えません。印刷物は在庫として残り、サイトのページは検索に残り、取引先の台帳には登録した時点の名前が残ります。増やすのは自社だけでできますが、減らすには相手側の作業が要ります。
増えること自体は、悪いことではありません。必要があって付いたものだからです。問題になるのは、関係が決まっていない場合です。どれが上でどれが下か、どれとどれが同じものを指しているのか。それが決まっていないと、聞かれるたびに、その場で説明を組み立てることになります。
まず、並べてみる
やることは、いま外に出ている名前を1枚に書き出すことです。判断は、そのあとになります。
拾う場所は、社外の目に触れているもの全部です。名刺、サイト、請求書、見積書、パンフレット、SNSのアカウント名、看板、メールの署名、名簿への掲載名、展示会の表記。出どころで分けないことが大事です。営業が使っているものと、経理が使っているものを分けて数えると、重なりが見えません。
書き出すのは、名前そのものと、どこに出ているかです。表記のゆれも、別の行にします。アルファベットとカタカナ、正式名称と略称、中黒のある無し。同じものだと思っているものが、外では別々に見えていることがあります。
形式は、紙でも表計算でも構いません。決めておくのは、1行に1つ書くことだけです。まとめて書くと、まとめた時点で判断が入ります。判断はあとに回します。
集める人は、一人に決めます。分担すると、拾う基準が分かれるからです。ある人は正式名称だけを拾い、別の人は略称まで拾う。基準が違うと、一覧にしたときに数が合いません。
並べると、出てくるものがあります。同じものが2つの名前で呼ばれている。違うものが似た名前になっている。社内では使っているのに、外にはどこにも出ていない名前がある。逆に、外に出ているのに社内では誰も使っていない名前がある。
一覧にしないと、これは見えません。1つずつ見ているあいだは、どれも正しいからです。名刺の表記は名刺として正しく、請求書の表記は請求書として正しい。並べたときに初めて、揃っていないことが分かります。
この作業に、時間はかかりません。かかるのは、集める手間だけです。判断はまだ入れないので、進め方に迷う場面も出てきません。先に全部を出して、評価はそのあとにします。
どれを残すかの決め方
残す基準は、社内の思い入れではありません。外で使われている名前です。
確かめる場所は三つあります。請求書の宛名、問い合わせの書き出し、そして紹介されたときの言い方です。相手が何と呼んでいるか。そこに出ている名前が、実際に通っている名前になります。
なぜそこを見るのかというと、名前は覚えられて初めて働くからです。覚えられていない名前を残しても、機能は増えません。残す本数を増やすほど、どれも覚えられなくなります。
残す本数は、少ないほうが動きます。増やすときは1本ずつでも、覚える側は合計で受け取るからです。相手の頭のなかで、自社に割り当てられている場所は決まっています。
外で使われていない名前は、消さなくても構いません。社内向けの呼び名として残します。社内で通じているなら、そこでは働いているからです。分けるのは、外に出すかどうかの線です。
判断に迷うのは、社長が付けた名前が外で使われていない場合です。ここは正面から確かめます。思い入れがあるかどうかではなく、その名前で問い合わせが来たことがあるか。来ていないなら、まだ外では働いていません。
残すと決めた名前については、何を指すのかを一文にします。「これは、○○のときに使う名前」。この形まで決めておかないと、次に迷ったときに同じ問いが立ちます。約束の中身そのものを決める作業は範囲が広いので、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に分けて書いてあります。
やめると決めた名前は、いつやめるかまで決めます。決めないと、やめたつもりのものが残ります。在庫のパンフレット、更新していないSNS、印刷済みの封筒。やめる日を決めていないものは、やめていません。
やってはいけないこと
一つめは、全部を会社名に統一することです。並べてみると本数が目に付くので、まとめたくなります。ただ、外で通じている名前を消すと、それまで積み上げた分がなくなります。相手はその名前で覚えているからです。
代わりにやることは、外で通じている名前を先に確かめることです。統一するかどうかは、そのあとに決めます。通じていない名前だけを整理すれば、失うものはありません。
二つめは、名前を増やして解決しようとすることです。関係が分かりにくいときに、まとめるための新しい名前を付ける。上位の概念を1つ作れば整理される、という考え方です。ただ、新しい名前を足せば、本数は1本増えます。外から見る人にとっては、覚えるものが増えただけになります。
代わりにやることは、いま何本あるかを数えることです。数える前に足すと、足した理由が残りません。数えたうえで足すなら、それは判断です。
上位の概念を作ること自体が悪いのではありません。それを足すことで、すでにある名前を1本減らせるなら、足した意味があります。減らさずに足すと、増えるだけです。
三つめは、一度に全部を変えることです。並べ直すと、直したい箇所がまとめて見えます。ただ、印刷物と請求書は取引先の記録に残ります。途中で変えると、相手側で照合ができなくなります。
代わりにやることは、変える順番を決めることです。差し替えやすいものから変えます。サイトとSNSは先に変えられます。名刺と請求書は最後です。取引先の経理が、前の名前で処理を続けている期間があるためです。
三つとも、名前が少ないうちは起きません。1本か2本なら、統一も、追加も、一斉の変更もできます。通らなくなるのは、外に出ている名前が数えられる数を超えたあとです。
変えないという判断
並べ直した結果、変えないほうがよい場合があります。整理できることと、整理すべきことは別だからです。
変えるとかかるものを、先に見ます。印刷物の作り直し。登記の変更。取引先への連絡と、先方の台帳の書き換え。検索で見つけてもらい直すまでの期間。このうち、こちらで完結しないものが混ざっています。取引先の台帳と、検索での再認知は、相手側の都合で進みます。
判断の基準は、混乱が実際に起きているかどうかです。起きていないなら、記録だけ残します。並べた一覧と、どれとどれが同じものかのメモ。それだけで、次に人が入ったときに説明できます。
起きている合図は、外から来ます。問い合わせで、こちらが使っていない名前を言われる。社員の説明が人によって違う。請求書の宛名が定まらず、相手ごとに書き分けている。このどれかが出ているなら、整理する理由があります。
出ていないなら、急ぎません。名前が複数あること自体は、混乱ではないからです。関係が説明できていれば、複数あっても通ります。
社名そのものを変える場合は、範囲が変わります。判断の材料はリブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングにまとめています。名前を変えると、ロゴと、ロゴが乗っているもの全部が付いてきます。どこまでが納品に含まれるかはロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わるに書いたとおりです。
そして、変えなくてよいと伝えるのは、引き受けた側の仕事です。並べ直した一覧を見れば、直せる箇所は必ず出てきます。直せることと、直す必要があることは違う。この線を引かずに全部を作り直すと、費用は増えて、外から見た会社は変わりません。
増やす前に、1つ決めておく
並べ直したあとにやることは、次に増やすときのルールを1つ決めることです。ルールが無ければ、また同じ増え方をします。
決めるのは、新しい名前を出すかどうかを誰が判断するか、その1点です。細かい規則は要りません。判断する人が決まっていれば、その人のところに話が集まります。集まる場所があることが、数を止めます。
判断する人が決まっていれば、増やさないという結論も出せます。誰も決めていない状態では、増やさない判断をする人がいません。反対する人がいないので、そのまま増えます。
新しく1本増やすかどうかの枠組みは、ブランド戦略とは。マーケティング戦略との違いと、事業戦略との関係に書いてあります。会社全体としてどこから手をつけるかは、企業ブランディングとは。何本の仕事に分かれ、どこから手をつけるかに、作業の分け方をまとめています。