ブランドストーリーとは。材料の探し方と、どれを選ぶかの基準
ブランドストーリーとは、その会社や商品が、なぜいまの形になったのかを伝える文章です。創業の経緯、扱うものを決めた理由、続けてきたこと。読む人が、その会社を選ぶかどうかを判断する材料になります。
そして、これは作る話ではありません。すでに起きたことのなかから、どれを話すかを選ぶ話です。創業の経緯も、断ってきた仕事も、もう起きています。書けないのは材料がないからではなく、どれを選ぶかが決まっていないからです。
この記事では、材料をどこから探すか、どれを選ぶか、どこから始めてどこで終わるかを書きます。
ブランドストーリーとは何か

会社の説明なら、会社概要で足ります。事業内容、設立年、所在地、従業員数。事実としては正確です。
事実の並びは、比べるときには使えます。従業員数、設立年、拠点の数。他社と並べて数えられるからです。ただ、数えて分かるのは規模で、何を選ぶ会社かは分かりません。同じ規模の会社が二社あったときに、どちらを選ぶかの材料になりません。
それでも別に物語の形を用意するのは、事実を並べただけでは、読む人が判断に使えないからです。
判断に使うというのは、こういうことです。取引先を選ぶとき、応募先を決めるとき、読む人は「この会社は信用できるか」を見ています。事業内容を読んでも、そこは分かりません。なぜその事業をやっているのかが分かると、次に何を選ぶ会社かが見当つきます。
物語の形にすると、順番と理由が付きます。これがあって、こう考えて、こうした。順番と理由が付いた情報は、書いていない場面にも当てはめられます。この会社なら次はこうするだろう、と読んだ人が推測できるようになります。
私たちは、判断の材料として扱っています。読んで感心してもらうためのものではなく、選ぶかどうかを決めてもらうためのものです。業界で決まった線引きがあるわけではありませんが、こう置くと、載せる話の選び方が決まります。
ブランディング全体のなかでどこに位置するかは、ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのかに書きました。
ストーリーテリングとの違い
ブランドストーリーは、話の中身です。ストーリーテリングは、それを伝える手法を指します。こう使い分けられることがあります。
中身と手法なので、順番があります。何を話すかが決まっていないと、どう伝えるかは決められません。
ただ、実際には手法から入ることがあります。動画にしよう、記事にしよう、社史にまとめよう。どれも形としては成立しますし、作れば納品物になります。中身が決まらないまま手法だけが増えると、同じ話を別の形で何度も出すことになります。
手法から入るのには理由があります。手法のほうが決めやすいからです。動画にするか記事にするかは、予算と期間で決められます。どの出来事を話すかは、決める材料が社内にしかありません。だから、そこを飛ばして先に進めたくなります。
そうなると、見た人には会社が何を言いたいのかが伝わりません。形が変わっても、選ぶ理由は増えないからです。
先に決めるのは、どの出来事を話すかです。それが決まれば、動画に向く話か、文章に向く話かも見えてきます。長さも決まります。
もう一つ、混ざりやすいものがあります。創業者の個人的な経歴です。経歴そのものは事実ですが、それが会社を選ぶ理由につながっていなければ、読む人にとっては別の話になります。誰の話をしているのかと、何を判断してほしいのかは、分けて考えます。
言葉そのものにも幅があります。ストーリーテリングという語は、企業以外の場面でも使われます。指しているものが会社によって違うので、社内で話すときは何を指しているかを先に確かめると早く進みます。
材料はすでにある

材料は、探しに行く場所が決まっています。新しく考えるものではありません。
探す先を挙げます。
一つめは、創業の経緯です。なぜこの事業を始めたのか。前に何をしていて、そこから何を変えたのか。
二つめは、扱うものを決めた理由です。この商品を作ると決めた場面、この領域をやると決めた場面。選ばなかった選択肢のほうに、理由が残っています。
三つめは、断ってきた仕事です。受けた仕事より、断った仕事のほうが基準が出ます。受ける理由は後から作れますが、断るには基準が要るからです。
四つめは、値下げを断った場面です。条件が良くても受けなかった、逆に条件が悪くても引き受けた。そこに、何を優先しているかが出ます。
五つめは、揉めて決めた案件です。社内で意見が割れて、最後に何かを通した。通したもののほうが、大事にしているものになります。
どれも記録に残っていません。議事録には結論だけが書かれていて、なぜそう決めたかは残らないからです。残っているのは、その場にいた人の記憶のなかです。
だから、集め方は聞くことになります。一人で思い出そうとしないほうが早く済みます。当事者より、隣で見ていた人のほうが覚えていることがあります。決めた本人にとっては当たり前の判断でも、見ていた人には引っかかった出来事だからです。
聞くときは、良い話を探さないほうが集まります。良い話を、と頼むと、話す側が選別してから話します。選別の基準がその人のものになるので、載せたい話が落ちます。
聞くのは、判断した場面です。あのとき何を迷ったか、なぜそちらにしたか。判断の話を集めておいて、選ぶのはあとにします。集める作業と選ぶ作業を同時にやると、集まる量が減ります。
集めた話は、その場で書き留めます。聞いたときには覚えているつもりでも、選ぶ段になると細部が抜けます。抜けた細部のほうに、判断の理由が入っていることがあります。
集める範囲は、社内だけではありません。長く取引している相手に、なぜ続けているかを聞くと、自分たちが気づいていない理由が出てきます。内側からは当たり前に見えている部分が、外からは選ぶ理由になっていることがあります。
材料が無いのではありません。言葉になっていないだけです。
どれを選ぶか

集めた話を、全部は載せられません。読む人の時間が限られているので、選ぶ基準が要ります。
基準は、いま何を約束しているかです。約束と関係のない出来事は、面白くても外します。
外す理由は、読む人の側にあります。読む人が知りたいのは、この会社がこれから何をするかです。過去の出来事は、そこを推測する材料として読まれます。約束につながらない話は、その材料になりません。
何を約束しているかが決まっていない場合は、そちらが先です。作り方と、それが機能しているかの見分け方は、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書きました。
もう一つ、面白い話と、選ばれる理由になる話は別です。
苦労話は、読み物としては強くなります。ただ、苦労したことと、いまの仕事が信用できることは、別の話です。読む人が苦労話から受け取るのは、この会社は大変だったんだな、というところまでです。そこから先の判断につながるかどうかを見ます。
つながる形にするなら、苦労のなかで何を選んだかまで書きます。何を諦めず、何を手放したか。そこが判断の材料になります。
選ぶ数も決めます。載せる数を増やしても、伝わる量は増えません。読む人が覚えていられるのは、限られた数の出来事だからです。三つ選んで書き切るほうが、十並べるより残ります。
そして、選ぶのは経営です。書く人ではありません。どの出来事を会社の説明に使うかは、何を大事にするかを決めることと同じだからです。書く人が選ぶと、書きやすい話が選ばれます。材料を集めるのは何人でもできますが、選ぶところは戻してください。
最後に、選んだ話が、いまやっていることと矛盾していないかを確かめます。昔の話として正しくても、いまの動き方と食い違っていれば、読んだ人はそちらに気づきます。
確かめ方は、社内の人に読んでもらうことです。読んだ人が、いまの仕事と違うと感じるなら、外から読んでも同じところで引っかかります。社内で違和感が出ない話が、外でも通ります。
基準を示さずに「いい話を教えてください」と聞くと、話しやすい話が出てきます。何を基準に選ぶかを先に置くのは、引き受けた側の仕事です。話を集める前に、いまの約束を確かめておきます。
どこから始めて、どこで終わるか

話の始点は、創業とは限りません。
創業から書く形は見かけます。順番としては分かりやすく、その形でも伝わります。ただ、事業が途中で変わっている会社では、創業の話といまの約束がつながりません。
始点は、いまの約束につながる出来事です。事業を変えた時点、扱うものを変えた時点。そこから始めると、話の全部が約束の説明になります。
創業が関係ない会社もあります。引き継いだ事業を別のものに変えたなら、変えた判断のほうが起点です。創業者への敬意と、話の始点をどこに置くかは、別に考えます。
終わりのほうが、外れやすくなります。
過去の出来事で終えると、いまの会社の話になりません。読んだ人には、昔はそうだったんだな、というところまでしか伝わらない。判断の材料として読まれるので、現在に着地させます。
着地のさせ方は、いまも同じ基準で動いていると分かる形です。過去に決めたことが、いまの仕事のどこに出ているか。ここが一行あるだけで、読み方が変わります。
これからの話を足すかどうかは、分かれます。目指す先を書くと前を向いた文になりますが、書いていないことを約束したように読まれることがあります。期限のある目標を持っているなら、そちらの言葉と揃えます。三つに分けて持っている場合の扱いは、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書きました。
始点と終点のあいだも、全部は書きません。拾うのは、約束につながる判断が起きた場面だけです。年表のように順に埋めると、関係のない出来事が混ざります。混ざると、読む人はどこを読めばいいのかが分からなくなります。
飛ばしても構いません。読む人は、社史を読んでいるわけではないからです。
長さの目安も、始点と終点が決まると出ます。始点から現在までのあいだで、約束につながる出来事だけを拾うので、拾える数がそのまま分量になります。先に文字数を決めてから埋めると、関係のない出来事が入ります。
書けないと感じるとき
うちには語れる話がない。この言い方を聞くことがあります。
そう感じるのは自然です。自分の会社の出来事は、内側から見ると当たり前に見えます。毎日やっていることなので、話す価値があるとは思えません。
見えなくなるのは、繰り返しているからです。同じ判断を何度もしていると、判断していること自体を忘れます。外の人が聞けば、そこが選択だったと分かります。
ただ、材料がないわけではないことがあります。前の章までに挙げた探し先を、実際に見ていない場合があるからです。断った仕事も、揉めて決めた案件も、思い出そうとしなければ出てきません。
探していないのと、無いのは違います。
もう一つ、特別な出来事を探していることがあります。特別である必要はありません。読む人が見ているのは、この会社が何を基準に選ぶかです。基準が分かる出来事なら、地味でも材料になります。
他社の事例と比べている場合もあります。規模も業種も違うので、比べる相手が違います。事例として出てくるのは、話として整った会社です。整っているのは、選んだあとだからです。選ぶ前の状態と、選んだあとの結果を比べています。
見分け方は、探し先を一つずつ当てることです。断った仕事はありますか、と個別に聞く。無いと言われたら次に移る。開いた問いで「何かありませんか」と聞くと、当たり前になっているものほど出てきません。
一つずつ当てて、それでも出てこないなら、そのときは材料が足りない段階だということになります。創業から間もない場合は、実際にそうなります。
外側だけを整えても、選ぶところが決まらなければ元に戻ります。何が起きるかは、リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないに書きました。
書けないと言われたときに、材料がないと受け取るのか、選べていないと見るのか。ここを見分けるのは、引き受けた側の仕事です。材料がないと受け取れば、外から話を作ることになります。
どこに置くか

置く場所は、いくつかあります。サイトの会社紹介、会社案内、採用ページ、営業の資料。
場所によって、長さと書き方が変わります。サイトなら通して読まれる前提で書けますが、営業の資料に同じ長さを入れると、その場では読まれません。
一度書いて全部に使い回すと、どこでも浮きます。元になる話は同じでも、置く場所ごとに切り出す長さを変えます。
置く前に、どの版が元なのかを決めます。元が決まっていないと、直すときにどれを直せばいいのかが分かりません。サイトを直したのに会社案内が古いまま、という状態は、元が決まっていないところから起きます。
元は、長い版にします。短い版は、そこから切り出します。逆にすると、足すときに書き足す形になり、元の話とずれていきます。
採用の場面では、読む相手がまだ社内の人ではありません。何を出して何を出さないかの線引きが要ります。
そして、社内にも置きます。社員がこの話を説明できないと、外に出した話だけが独り歩きします。取引先が読んだ話と、担当者が話す内容が違えば、読んだ側は担当者のほうを信じます。社内で使われる状態をどうつくるかは、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に書きました。
更新の扱いも決めておきます。事業が変われば、約束が変わります。約束が変われば、選ぶ話も変わります。書いた時点で固めると、変わったあとに古い話だけが残ります。どこに置いたかを記録しておくと、直すときに探す手間が減ります。サイトだけ直して、会社案内が古いまま、ということが起きます。
選んだ時点で、決めている

ブランドストーリーの材料は、すでに社内にあります。新しく作るものではありません。
選ぶ基準は、いま何を約束しているかです。約束につながる出来事を拾い、現在に着地させる。順番としては、それだけです。
そして、どれを話すかを選んだ時点で、何を大事にしているかを決めています。過去の出来事は変えられませんが、どれを会社の説明に使うかは選べます。選び方のほうに、いまの判断が出ます。
書き上がった話を読み返して、いまの仕事の説明になっているかを見ます。なっていなければ、選んだ出来事が合っていないか、約束のほうが実態から離れています。どちらにしても、直す先は文章ではありません。
選び直すこともできます。事業が変われば、拾う出来事も変わります。変えられないのは起きたことのほうで、どれを話すかは、いつでも決め直せます。