ブランドブックとは。ガイドラインとの違いと、どちらが要るかの決め方
ブランドブックとは、自社のブランドについて、考え方や大事にしていることをまとめた冊子です。ただ、この言葉が何を指すかは会社によって違います。デザインの決めごとまで含むこともあれば、読み物として作られることもあります。
だから、名前から入っても決まりません。決まるのは目的のほうです。決めごとを守らせたいのか、考え方を読ませたいのか。ここが分かれば、作るものは決まります。分からないまま名前で頼むと、出てくるものが想定と違います。
この記事では、ブランドガイドラインとの違い、自社にどちらが要るのか、そもそも要らない場合までを書きます。
ブランドブックとは何か
この言葉を調べると、説明が揃っていません。
社内向けに配る小冊子だと書かれていることがあります。社内と社外の両方に向けたものだ、と書かれていることもあります。デザインの決めごとまで含めた体系的な文書として説明されることもあれば、商品に同梱して届ける読み物として扱われることもあります。
同じ語で、別のものを指しています。
どれかが間違っている、という話ではありません。その会社でそう呼んでいる、というだけです。業界で決まった定義がないので、それぞれの現場で決まった使い方が残っています。
そのため、この語で話を進めると、途中まで噛み合いません。冊子を作る話をしているつもりの人と、決めごとを整理する話をしているつもりの人が、同じ会議に座っていることがあります。分量も、作る期間も、関わる人も変わるので、あとから食い違いが出ます。
私たちは、読ませるためのものとして扱っています。決めごとを守らせるためのものは、別に呼び分けています。ただ、これも私たちの使い方であって、業界の定義ではありません。
だから、この記事の読み方としては、自社での使い方に置き換えてください。確かめるのは、社内でその語が何を指しているかです。
確かめ方は簡単です。すでにその語を使っている資料があるなら、中身を見ます。決めごとが並んでいるならガイドラインに近いもので、読み物として書かれているならブランドブックに近いもの。無いなら、これから決めることになります。
ガイドラインとの違い

呼び分けている会社では、役割が分かれています。
| ブランドガイドライン | ブランドブック | |
|---|---|---|
| 目的 | 守らせる | 読ませる |
| 読む人 | 作る人(社内担当・制作者) | 働く人・関わる人 |
| 中身 | 決めごと | 考え方と、その背景 |
| 使われ方 | 参照される | 通読される |
| 失敗の形 | 守られない | 読まれない |
表の下の二行が、この二つを分けています。
参照されるものは、必要になったときに開きます。ロゴを配置する場面で、余白の決まりを確かめる。全部を読む必要はありません。索引が要るのは、この種類のものです。
通読されるものは、最初から順に読まれます。途中から開いても意味が取れません。順序が要るのは、この種類のものです。
失敗の形も逆になります。ガイドラインは、守られないことで失敗します。制作物を並べれば分かるので、気づけます。ブランドブックは、読まれないことで失敗します。配った数は記録に残るので、届いたように見えます。
ガイドラインの中身と、それが使われなくなる形については、ブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書きました。この記事では、そちらを繰り返しません。
そして、呼び分けていない会社もあります。その場合、どちらの語も同じものを指します。一冊のなかに決めごとと考え方が両方入っている、という形です。それで回っているなら、分ける必要はありません。
ただ、一冊にまとめると、片方が弱くなります。決めごとを詳しく書けば分量が増えて、読み物としては重くなる。読み物として整えれば、参照するときに探しにくくなる。求めているものが逆を向いているので、両方を高い水準で満たすことはできません。
では、自社に要るのはどちらなのか。次の章がその話です。
どちらが要るのかを決める

どちらが要るかは、名前からは決まりません。決めるのは、その会社がいま困っていることのほうです。
作ったものが揃わない。名刺とサイトと会社案内が、別の会社のものに見える。この場合に要るのは、決めごとのほうです。誰が作っても同じになるように、先に決めて渡します。
社員が自社を説明できない。人によって言うことが違う。この場合に要るのは、読ませるもののほうです。決めごとを渡しても、説明は揃いません。
症状が違うので、作るものも違います。そして、片方を作っても、もう片方は解決しません。だから、頼まれたほうをそのまま作ると外れます。どちらが要るのかを先に判定するのは、引き受ける側の仕事です。
両方が困っている場合もあります。そのときは順番を決めます。同時に作ると、一冊のなかで求めるものが逆を向きます。先に作るのは、いま止まっているほうです。制作物が出続けているなら決めごとが先、人が増えているなら読み物が先になります。渡す相手が分かれている場合も同じで、制作者に渡すものと社員に渡すものが別なら、分けて作ります。
片方から始めても、あとからもう片方に伸ばせます。読み物を先に作った会社が、制作物が増えた段階で決めごとを足す。逆の順もあります。最初に両方をそろえる必要はありません。
そして、どちらも要らない場合があります。
事業が一つで、判断する人が数人で、作るものが月に数点なら、その場で確認するほうが早く済みます。決めごとを文書にする手間より、聞く手間のほうが小さい。この段階で作っても、効きはじめるのは目が届かなくなってからです。作るのが早すぎたというより、まだ使う場面が来ていない、ということになります。
要るようになるのは、目が届かなくなったときです。人が増える、委託先が増える、事業が増える。確かめる相手が増えて、確かめきれなくなったところが境目です。
もう一つ、早すぎる場合があります。何を約束するかが決まっていないと、どちらを作っても中身が入りません。色や書体は決められますが、なぜその色なのかを書けません。読み物のほうも、伝える中身がないまま体裁だけができます。
その場合に先に決めるものは、ブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方に書きました。順序としては、そちらが先になります。自社が何から手をつけるかの全体は、ブランディングとは。何をすることで、どこから手をつけるのかにまとめています。
読ませるものの作り方

読ませるものなので、順序が要ります。
決めごとの一覧とは、設計が違います。一覧は、探しやすさで並べます。項目ごとでも、五十音順でもかまいません。読み物は、読み進められる順で並べます。
順序は、なぜ、何を、どうする、になります。
なぜ、から始めます。この会社が何のためにあるのか。どういう経緯でいまの形になったのか。ここを先に置かないと、続く内容が指示に見えます。
次に、何を。誰に何を約束しているのか。大事にしていること。三つに分けて持っているなら、その言葉を載せます。三つの関係と、ぶつかったときの扱いはMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書きました。
最後に、どうする。日々の判断で、何を選ぶのか。ここは抽象度を下げます。具体的な場面が出てこないと、自分の仕事と接続しません。
そして、載せた言葉には、決めた経緯を添えます。結論だけを並べると、読んだ人には根拠のない指示として届きます。なぜその言葉になったのか、何と何を比べたのか。経緯があると、書いていない場面でも判断できます。
載せないものもあります。規定、禁止事項の一覧、細かい数値。入れると、読み物から参照物に変わります。そして参照物になった時点で、通読されなくなります。
分量の上限は、誰に読ませるかで決まります。次の章で書きます。
書き手についても、決めておくことがあります。社内で書くのか、外に頼むのか。社内で書くと、中の言葉がそのまま出ます。読む人には近い言葉になりますが、内側でしか通じない言い回しが混ざります。外に頼むと整いますが、整えすぎると自分たちの言葉に見えなくなります。
どちらでも成立します。ただ、外に頼む場合でも、材料を出すのは社内です。何を大事にしてきたか、どういう判断をしてきたか。ここを渡さずに書いてもらうと、どこの会社にも当てはまる文が返ってきます。
誰に読ませるのか
相手が決まっていないと、中身が決まりません。
社員に読ませるのか。新しく入る人に渡すのか。取引先に見せるのか。顧客に届けるのか。全員に向けようとすると、誰にも届かない文になります。
新しく入る人に向けると、形が決まりやすくなります。前提を知らない人なので、説明を省けません。省けないぶん、書くべきことがはっきりします。そして、入社のたびに渡す場面があるので、読まれる機会も決まります。
すでにいる社員に向ける場合は、逆になります。前提を知っているので、説明を丁寧に書くと退屈になります。ここで要るのは、知っていることの言語化です。日々やっていることに、名前が付く。そういう読み方になります。
採用の場面で使う場合は、扱いが変わります。読む相手が、まだ社内の人ではありません。何を出して何を出さないかの線引きが要ります。そのあたりは採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番に書きました。
顧客に渡す場合は、社内向けの言葉がそのままでは使えません。社内向けは、判断に使える具体性で書きます。顧客向けは、短く覚えられることが要ります。同じ内容でも、書き方を分けることになります。
相手が決まると、分量も決まります。新しく入る人に渡すなら、入社の説明に収まる長さ。取引先に見せるなら、打ち合わせの合間に目を通せる長さ。読む場面にかけられる時間が、そのまま分量の上限になります。
相手を一つに決めても、他の人が読まないわけではありません。社員向けに作ったものを、取引先が見ることはあります。だから、外に出て困る内容は入れません。ただ、それは書く相手を絞らない理由にはなりません。誰に向けて書いたかがはっきりしているもののほうが、他の人が読んでも伝わります。
作ったのに読まれないとき

ブランドブックを作って配った。それでも社員が読んでいない。この状態は起こります。
配り方を工夫しても、そこだけでは変わりません。読まれるかどうかは、配る前に決まっているからです。
読まれない理由は、いくつかに分かれます。
分量が、読む場面に合っていない。前の章で書いた上限を超えると、途中で止まります。一度止まったものは、そのままになります。
順序が付いていない。決めごとの一覧に近い形になっていると、通読する動機がありません。開いて、閉じられます。
自分の仕事と接続しない。抽象度が高いままだと、読んでも次の行動が変わりません。読んだこと自体は覚えていても、判断のときに出てきません。
渡される場面がない。机に置かれているだけ、共有フォルダにあるだけ。渡す場面を決めていないものは、渡されません。
読ませる場面を作らないと、渡すだけでは読まれません。入社の説明に入れる、案件の開始時に読み合わせる、年に一度の場で使う。使う場面が決まっていれば、読まれます。そして、この場面を決めるところまでが、作る側の仕事です。納品で区切れば、読まれるかどうかは発注側の努力の問題になります。
読まれていない状態は、作った側からは見えにくくなります。配ったあとに苦情は来ません。読まれていないことを、誰も報告しないからです。何も起きないことが、順調に見えます。だから、読まれたかどうかは、こちらから確かめに行くしかありません。
確かめる方法は、配った数ではなく、聞くことです。何が書いてあったかを、自分の言葉で言えるか。要約が返ってくるなら読まれています。良かったです、だけが返るなら、開いただけです。
この確認を最初から予定に入れておくと、読まれない形になっていることに早く気づけます。作り直すより、渡し方を変えるほうが早く済むことがあります。
そして、読まれたあとに何が起きるかは、別の作業になります。読んだ内容が判断に出てくるまでには、間があります。そこをどう進めるかはインナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に書きました。
冊子にするかどうか
紙にするか、画面のままにするか。この判断があります。
製本すると、更新できなくなります。刷った時点で固まるので、事業が変わっても直せません。直せないものは、いずれ現実と合わなくなります。
一方で、製本には読ませる力があります。画面のファイルは開かれません。フォルダのどこかにあると分かっていても、開く理由がなければ開きません。紙で手元にあるものとは、そこが違います。
判断の基準は、中身が固まっているかどうかです。固まっていないうちに製本すると、早く合わなくなります。
分けて持つ方法もあります。変わらない部分を冊子にして、変わる部分を別に置く。何のためにあるのか、何を大事にするのか。ここは頻繁には変わりません。事業の説明や、具体的な進め方は変わります。
この判断は、更新できる形にしておくというガイドライン側の原則と、同じところに行き着きます。製本するかどうかではなく、変わるものと変わらないものを分けているかどうかが要点です。
刷る前に、社内で回して読んでもらう方法もあります。読み切れるか、途中で止まるか。止まる箇所が分かれば、刷る前に直せます。
部数も、決める前に使う場面から考えます。全員に配るのか、新しく入る人に渡すのか、来客に見せるのか。場面が決まっていないと、余った分が倉庫に残ります。
名前で決めない
「ブランドブック」が何を指すかは、会社によって違います。だから、名前から入っても決まりません。
決まるのは、目的のほうからです。守らせたいのか、読ませたいのか。作ったものが揃わないのか、人によって説明が違うのか。困っていることが分かれば、作るものは決まります。
そして、どちらも要らない場合があります。目が届いているうちは、その場で確認するほうが早く済みます。
作ると決めたなら、次に決めるのは相手です。誰に読ませるのかが決まると、書く内容も、分量も、渡す場面も決まります。先に決めるのは、中身ではなく相手のほうです。
名前を先に決めると、その名前に合う中身を探すことになります。順番が逆になると、作ったあとに使いどころを探すことになります。
そして、作ったあとに要るのは、渡す場面です。作る作業より、渡し続ける作業のほうが長く続きます。