ロゴガイドラインの作り方。データを渡す前に、相手の判断を済ませておく
「ロゴのデータをいただけますか」。取引先から、印刷会社から、イベントの主催者から、そう頼まれる場面があります。手元のデータを送れば、その場は済みます。
ただ、送ったデータがどう使われるかは、送った時点では決まっていません。決めるのは、受け取った人です。
この記事で書くのは、データを手にした人が次に何をしそうかを見るところから、ロゴの使い方の決まりを書き、データと一緒に渡すところまでです。
ロゴガイドラインとは
ロゴガイドラインは、ロゴの使い方の決まりをまとめたものです。どのデータを使うか、ロゴの周囲にどれだけ空きを取るか、どこまで小さくしてよいか、してはいけない使い方は何か。ロゴマニュアル、ロゴの使用規定、レギュレーションと呼ばれることもあります。
会社の見え方や言い方の決まり全体は、ブランドガイドラインと呼ばれます。ロゴガイドラインは、その中のロゴの部分です。全体の作り方と、使われなくなる理由はブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書いています。
この記事は、ロゴの部分だけに絞ります。色の値の決め方や書体の話は扱いません。そのかわり、ロゴならではの事情を書きます。ロゴは、会社の外に出ていき、ほかの人の手で置かれる部材です。
受け取った人は、置く場所で手を加える
ロゴのデータを受け取る人は、いろいろです。社内で資料を作る人。チラシや看板を作る制作会社や印刷会社。サイトに取引先の一覧を載せる会社。記事に社名を出すメディア。協賛先として名前を並べる主催者。
このうち、ロゴを作った人と話せるのは、社内のごく一部です。外の人ほど、作った人に聞き返せません。聞き返せないまま、手元のデータと、置く場所の事情で判断します。
置く場所には、それぞれ事情があります。
背景が暗い色なら、ロゴが沈んで見えます。受け取った人は、色を反転させたり、白い四角を敷いたりします。
枠が正方形なら、横長のロゴは収まりません。縮めて小さく置くか、端を切るか、縦横の比率を変えて押し込むことになります。
小さな欄に置くなら、細い線が潰れます。拡大に耐える形式のデータでなければ、ぼやけたまま使われます。
写真の上に置くなら、ロゴが読みにくくなります。影を足したり、ふちを付けたりして、浮かせようとします。
隣に別の会社のロゴが並ぶなら、大きさを揃えようとします。揃え方は人によって違います。
どれも、受け取った人が、その場所でロゴを見やすくしようとした結果です。悪気はありません。ただ、出来上がったロゴは、作った人が考えていた形とは違うものになります。
誰に渡すかで書く中身や長さを変える考え方は、ブランドブックとは。ガイドラインとの違いと、どちらが要るかの決め方で書いています。ロゴの場合は、それに加えて、受け取った人がどこに置きそうかまで見ておく必要があります。
決まりなしでデータが回ると
ここで扱う範囲を、先に分けておきます。決まりを理由と一緒に渡す話は、ブランドガイドラインの記事で書きました。ロゴを頼むときに、使い方の決まりを納品物に含めておく話は、ロゴ制作の依頼。何が納品されるかで、見積もりは変わるに書いています。この章で書くのは、決まりが付かないまま、データだけが回ったあとに起きることです。
受け取った人が手を加えたロゴは、そこで止まりません。
取引先が自社のサイトに載せたロゴを、別の担当者が資料に貼ります。そのときに使うのは、元のデータではなく、サイトから保存した画像です。印刷会社が作ったチラシのロゴが、次のチラシの元になります。手を加えたロゴが、次の人にとっての元のデータになります。
こうして回るうちに、ロゴは少しずつ変わっていきます。比率が少し縦に伸びたもの、色が少し違うもの、ふちが付いたもの。一つずつ見れば小さな違いでも、並べると別のロゴに見えます。
このとき、手を加えた人に注意をしても、元には戻りません。一人ひとりは、手元にあった材料で判断しただけだからです。相手が間違えているのではなく、判断の材料を持っていません。
材料というのは、決まりと、決まりに合ったデータの両方です。決まりだけを渡しても、合うデータが手元になければ、手元の画像が使われます。データだけを渡しても、どこにどれを使うかが分からなければ、受け取った人が選びます。
どのデータを、どの場面に
ロゴのデータには、組み方、色の版、画面用と印刷用の形式といった種類があります。何を受け取っておくべきかは、前の章で挙げたロゴ制作の依頼の記事に書きました。そこでは、依頼する側の目で、場面と版を結びつけています。
ガイドラインでは、同じ対応を、受け取った人がファイルを選ぶ目で書き直します。どの場面で、どのファイルを開けばよいかです。
たとえば、暗い背景に置く場面には、白く抜いた版のファイルを指す。前の章で挙げた置く場所の事情に、開くファイルを一つずつ当てていきます。
対応が書いてあれば、受け取った人は加工をせずに済みます。暗い背景だから色を反転させる、という判断を、受け取った人がしなくてよくなります。
ファイルの名前も、この対応に合わせます。横組み、フルカラー、印刷用と、種類だけを並べた名前では、受け取った人はどれが自分の場面に合うのかを考えることになります。暗い背景用、正方形の枠用と、使う場面が名前から引けるようにしておく。種類の情報も要るので、場面と種類の両方を名前に入れておくと、制作会社の人も社外の人も、同じファイルにたどり着けます。ガイドラインを読まずにデータのフォルダだけを開いた人でも、正しいものを選びやすくなります。
場面ごとに使えるデータを揃えて渡しておけば、受け取った人は選ぶだけで済みます。揃えておくのは、ロゴを作る側です。
禁止は、相手がやりそうなことから書く
してはいけない使い方の一覧は、ロゴガイドラインの定番の項目です。比率を変えない、色を変えない、影を付けない。
この一覧は、思いつく限り並べるより、受け取った人がやりそうなことから選ぶほうが効きます。前の章で見た加工が、そのまま候補になります。縦横の比率を変えて枠に押し込む。背景に合わせて色を変える。写真の上で影やふちを足す。SNSのアイコンに合わせて丸く切り抜き、端が欠ける。
どれも、善意でやる加工です。善意の加工ほど、禁止されていると知らなければ起きます。逆に、誰もやりそうにない加工を並べても、読む人の目は止まりません。
書き方は、文章より図のほうが伝わります。正しい例と、やってはいけない例を並べて見せる。「比率を変えない」と書くより、横に伸びたロゴの図を一つ置くほうが、何が駄目なのかがすぐに分かります。
余白と、小さくできる限界も、ここで決めておきます。どちらも、なぜ要るのかを一言添えます。余白は、隣に置かれたものとロゴが混ざらないため。小さくできる限界は、細い部分が潰れて形が変わる手前で止めるため。理由が分かっていれば、ガイドラインに書いていない場面でも、受け取った人が同じ判断をしやすくなります。
禁止の例は、図で用意して渡します。言葉だけで渡すと、受け取った人が頭の中で絵にすることになり、そこでまた解釈が分かれます。
他のロゴと並ぶとき
ロゴは、一つだけで置かれるとは限りません。イベントの協賛一覧、取引先の一覧、共同で作るチラシ。ほかの会社のロゴと並ぶ場面があります。
並ぶ場面で起きるのは、大きさと間隔の揃え方の違いです。横長のロゴと正方形に近いロゴを、同じ幅に揃えると、正方形のほうが大きく見えます。同じ高さに揃えると、横長のほうが大きく見えます。並べる人は、どちらかを選ぶことになります。
ここで、自社のガイドラインだけでは決めきれないことがあります。並ぶ相手にも、それぞれの決まりがあるからです。並べ方の全体を決めるのは、並べる場を作る側です。
だから、自社側で書けるのは最低限になります。並んでいても、自社のロゴのまわりの余白は守ること。並べる場面で使ってよいデータはどれか。そして、並べたときの大きさについて相談したいときの連絡先。
ここまで書いてあれば、並べる人は、自社のロゴについて迷わずに済みます。全体の釣り合いは、並べる人の判断に任せられます。私たちも、ロゴを納めるときに、ほかのロゴと並ぶ場面の決まりまで用意することがあります。
渡し方と、置き場所
ガイドラインとデータは、同じ場所にまとめて渡します。
別々に渡すと、データだけが回ります。メールにデータを添付し、ガイドラインは別のリンクで送る。受け取った人はデータを開いて使い、リンクのほうは開かれずに終わることがあります。データのフォルダの中に、ガイドラインも入れておく。そうすれば、データを開いた人の目に入ります。
ガイドラインの中には、問い合わせ先を書いておきます。書いていない場面が来たとき、受け取った人が聞ける先です。判断の窓口をどう決めるかは、ブランドガイドラインの記事で書いたとおりです。
社内向けと社外向けで、同じものを渡す必要はありません。社内向けは、ブランドガイドラインの中にロゴの部分として入れます。社外向けは、そこからロゴの使い方だけを抜き出した短いものにします。抜き出しにしておけば、中身が二重になって、どちらかだけが古くなることを避けられます。私たちも、取引先やメディアに渡すための、1枚程度の社外向けのロゴガイドラインを作ることがあります。
そして、ロゴが変わったときのことも考えておきます。一度渡したデータは、手元から離れています。取引先のサイトにも、印刷会社の作業フォルダにも、前のロゴが残ります。変えるときの進め方はロゴを変更するとき。リニューアルで失うのは、見た目ではなく手がかりに書きました。ガイドラインに版と日付を入れておくと、どれが新しいものかを相手が見分けられます。
ガイドラインとデータを一緒に渡すところまでが、ロゴを作る側の仕事です。
渡す前に、判断を済ませておく
ロゴガイドラインは、守らせるための規則というより、受け取った人の迷いを先に減らしておくものです。
データを受け取った人は、置く場所の事情に合わせて、その場で判断します。その判断を、渡す側で先に済ませておく。どの場面でどのデータを使うか、何をしてはいけないか、迷ったら誰に聞くか。
ロゴは、渡した先で使われます。だから、作り方の出発点は、受け取った人が次に何をしそうかです。