コーポレートアイデンティティとは。MI・BI・VIと、作れるものと作れないもの
コーポレートアイデンティティとは、会社が何者であるかを、社内と社外の両方に対して一貫した形で示すための体系です。CIと略されます。
ロゴや社名の書体を指す言葉として使われますが、枠組みとしてはその手前まで含みます。含む範囲が広いぶん、「CIを作る」と言ったときに何が作られるのかが、人によって違います。
この記事では、CIが何を指すかをお伝えします。そのうえで、そのうちどこまでが発注して作れるものなのかを書きます。
コーポレートアイデンティティとは何か

対象になるのは、会社が外に出すものすべてです。
名刺、封筒、サイト、看板、制服、車両、資料、社内文書。それぞれが別々に作られると、同じ会社のものに見えなくなります。CIは、それらを同じ会社のものとして見せるための体系を指します。
「体系」という言い方をするのは、個々の制作物ではないからです。ロゴ一点を指す言葉ではありませんし、マニュアル一冊を指す言葉でもありません。個々のものが、同じ考え方から出ていること。それが体系という部分の意味です。
日本では、1980年代から1990年代にかけて、大企業が社名やロゴを刷新する取り組みをCIと呼びました。その印象が残っているため、いまも社名変更やロゴ刷新の同義語として使われることがあります。
ただ、枠組みとして見ると、CIが含む範囲は視覚だけではありません。次の章で扱う三つの要素のうち、視覚はそのひとつです。
もうひとつ、CIは社外向けだけの言葉ではありません。社内に対しても、自社が何者かを示す働きを持ちます。外に見せる顔と、社内で共有している自己像がずれていると、外に出すものだけが整った状態になります。
MI・BI・VIは何を指すか

CIを説明するとき、三つの要素に分けた整理が使われます。MI、BI、VIと呼ばれます。
| 略 | 呼び方 | 何を指すか |
|---|---|---|
| MI | マインド・アイデンティティ | 理念、存在理由、大事にしていること |
| BI | ビヘイビア・アイデンティティ | 行動規範、社内の文化、実際の振る舞い |
| VI | ビジュアル・アイデンティティ | ロゴ、色、書体、写真の扱い |
これは私たちの分類ではありません。CIを扱う場ではそう説明されており、私たちもその整理を使っています。
MIは、会社が何を大事にしているかです。理念や存在理由がここに入ります。ミッション・ビジョン・バリューを掲げている会社では、それらがMIにあたる部分を担います。それぞれの語が何を指すかはMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に整理してあります。
BIは、実際の振る舞いです。決めた考え方が、日々の仕事にどう出るか。顧客への対応、社内での決め方、断るときの伝え方。書かれた行動規範だけでなく、書かれていない習慣も含みます。
VIは、目に見える部分です。ロゴ、色、書体、写真の選び方、余白の取り方。会社に触れたときに、いちどに伝わるのはここです。
三つを分けている理由は、役割が違うのではなく、決まり方が違うからです。MIは考えて決めるもの、BIは日々の積み重ねで表れるもの、VIは形にして固定するもの。同じ体系のなかで、成り立ち方が別々です。
決まり方が違うということは、変わり方も違うということです。MIは、決めれば変わります。会議で議論して、言葉を置き直せばその日から新しくなります。VIも、作り直せば変わります。公開した日から、外に出るものが入れ替わります。
BIだけが、決めても変わりません。行動規範を書き換えても、翌日から社員の振る舞いが変わるわけではないからです。変わるのは、その規範が判断の場で使われるようになってからです。
この差が、CIの取り組みが途中で止まる理由になります。MIとVIは着手した期のうちに形になりますが、BIは形になったかどうかが分かりにくい。成果として報告しやすいものだけが進み、残りが手つかずになります。
そして、決まり方の違いは、もうひとつ別の違いを生みます。次の章で扱います。
三つのうち、作れるのはどれか

発注して納品されるのは、VIだけです。
ロゴは発注できます。色の指定も、書体の選定も、それらをまとめたマニュアルも発注できます。期日を切って、成果物として受け取れます。作る側から見ても、範囲がはっきりしています。
MIは、発注できません。会社が何を大事にしているかを、外部が決めることはできないからです。私たちがやれるのは、すでに社内にあるものを聞き出して言葉にすることまでです。決めるのは会社の側で、私たちは形にする側です。
BIも、発注できません。行動は、日々の仕事のなかで積み重なるものだからです。行動規範を文章にすることはできますが、文章にした時点では行動が変わっていません。書いたものと実際の振る舞いが揃うまでには、運用の時間が要ります。
ここに、この記事の要があります。
「CIを作りましょう」という提案が、実際にはVIの制作を指している。この形になります。ロゴを作り、色を決め、マニュアルにまとめる。納品されるものだけを並べると、CIはVIと同じ範囲になります。
だから冒頭で書いたとおり、CIはロゴや社名の書体を指す言葉として使われるようになりました。使われ方が間違っているのではなく、発注できる部分だけが目に見えて残った結果です。
そして、そのVIが機能するかどうかは、発注できない二つのほうで決まります。理念が定まっていない会社のロゴは、何を表しているのかを説明できません。色を選ぶ場面で根拠がないので、決め手は好みになります。決めたあとに「なぜこの色か」と聞かれても、答えが出てきません。
行動が伴っていない会社の見た目は、触れた人に見抜かれます。整った資料を受け取ったあとの対応が雑なら、資料のほうが嘘だったことになります。見た目を整えるほど、その差は目立ちます。
つまり、VIへの投資は、残る二つが揃っている前提で効きます。揃っていない状態でVIだけを良くすると、食い違いが見えやすくなる方向に働きます。
なお、何が納品されて何が納品されないかを最初に示すのは、引き受けた側の仕事です。「CIをお願いします」という相談に対して、VIの見積もりだけを出して着手すれば、残る二つは誰も担当しないまま進みます。
似た言葉との違い
CIの周りには、近い言葉がいくつもあります。
| 語 | 何を指すか |
|---|---|
| CI | 会社が何者かを、一貫した形で示す体系 |
| リブランディング | すでにあるブランドを、事業の現在地に合わせて作り直すこと |
| ブランディング | 選ばれる状態をつくっていく活動の全体 |
| コーポレートステートメント | 会社の姿勢を短い文にしたもの |
| タグライン | その約束を短い言葉にしたもの |
コーポレートステートメントは、会社が何を大事にしているかを一文か数文で表したものです。サイトのトップや会社案内の冒頭に置かれます。MIを外向きの言葉にしたもの、と考えると位置がはっきりします。タグラインとの違いは、向いている先です。ステートメントは会社そのものを語り、タグラインは商品やサービスの約束を語ります。
CIとリブランディングの関係は、リブランディングとは。意味・進め方・費用・判断のタイミングの1章に書いたとおりです。CIは視覚的な識別体系を指して使われ、リブランディングはその手前の考え方まで含む。その差が生まれる理由が、前章で書いた「発注できるのはVIだけ」です。
ブランディングとの関係も、範囲の話になります。ブランディングは選ばれる状態をつくる活動の全体で、CIはそのうち「何者かを一貫して示す」部分を担います。CIが整っていても、選ばれる理由そのものが弱ければ売れません。逆に、選ばれる理由があってもCIが揃っていなければ、その理由が伝わるまでに時間がかかります。
呼び方そのものに正解はありません。会社によって指す範囲が違うので、相談の場では先に確かめたほうが早く進みます。「CIをやりたい」という言葉が、ロゴの刷新を指しているのか、理念から立て直す話なのか。同じ言葉で、見積もりが別のものになります。
CIとロゴの関係

ロゴはVIの一部であって、VIそのものではありません。
VIに含まれるのは、ロゴ、色、書体、写真の選び方、レイアウトの決まり、余白の取り方です。ロゴだけを新しくしても、残りが前のままなら、見た目の印象は変わりません。名刺の書体が違い、サイトの色が違い、資料のレイアウトが揃っていない。その状態でロゴだけを差し替えても、同じ会社のものには見えてきません。
逆に、ロゴを変えずにVIを整えることもできます。色の使い方を決め、書体を揃え、写真の撮り方に方針を持つ。ロゴは同じでも、揃えるだけで印象は変わります。費用のかかり方も、この二つでは違います。
ロゴの相談として来た依頼が、実際にはVI全体の話であることがあります。「ロゴが古い」という言葉の中身が、名刺やサイトを含めた見た目全体への違和感であることは、実務で起きます。
見分け方はあります。ロゴを隠して、名刺やサイトを見てもらう。それでも古く感じるなら、原因はロゴの外にあります。ロゴだけを新しくしても、感じ方は変わりません。
順番としても、VI全体を先に決めるほうが進みます。ロゴを先に確定させると、そのロゴに合う色や書体を探すことになり、選べる範囲が狭まります。どういう見え方にするかを決めてから、それを担うロゴを作るほうが、選択肢が広く残ります。
決めたVIを保つには、使い方の決まりが要ります。誰がどこで使うか、迷ったとき誰に聞くか。この運用の話はブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書いてあります。作って終わりにすると、時間とともに元に戻ります。
なお、ロゴの相談を受けたときに、どこまでを対象にするかを聞くのは引き受けた側の仕事です。ロゴだけを作って納めれば、揃っていない状態は残ったままになります。
揃っているかを見分ける
CIが機能しているかは、三つの層のあいだを見ると分かります。層ごとに見るのではなく、層と層が食い違っていないかを見ます。
| 食い違い | 表れ方 |
|---|---|
| MIとVI | 掲げている理念と、見た目の印象が合わない |
| MIとBI | 理念に書いてあることと、社員の行動が合わない |
| BIとVI | 実際の仕事の質と、見た目の格が合わない |
MIとVIの食い違いは、外から見えます。堅実さを掲げている会社の見た目が派手だったり、新しさを掲げている会社の資料が古い作りだったり。掲げた言葉と見た目のどちらかが、実態から離れています。
MIとBIの食い違いは、社内にいる人に見えます。理念に「顧客第一」とあるのに、社内の判断では期日が優先される。この状態が続くと、理念のほうが実態のない言葉として扱われるようになります。社内で言葉が揃っていない場合の進め方はインナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方にまとめてあります。
BIとVIの食い違いは、取引した相手に見えます。見た目は整っているのに、実際の仕事の進め方が雑だった。あるいはその逆で、仕事の質は高いのに資料が素人くさい。前者は失望として、後者は機会損失として表れます。
三つとも、新しく調べる必要はありません。すでに起きたことを並べて、食い違いがあるかを見るだけです。取引先から言われたこと、社員が口にすること、資料を見た人の反応。材料は手元にあります。
見るときの順番は、外から内へです。まず取引先や候補者に見えている食い違いを拾い、そこから社内の食い違いに遡ります。社内から見ると、慣れているぶん食い違いに気づきにくくなります。
そして、食い違いが見つかったときに直す先は、見た目とは限りません。理念と行動が合っていないなら、直すのは行動か、理念のどちらかです。見た目を直しても、食い違いの組み合わせが変わるだけです。どちらが実態に近いかを決めてから、もう一方を寄せます。
なお、食い違いを見つけて伝えるのは、引き受けた側の役割でもあります。VIの制作だけを頼まれていても、MIとの食い違いが見えているなら、そのまま形にするのは仕事の範囲を狭く取りすぎています。
どこから手をつけるか
入口は二つあります。VIから入るか、MIから入るかです。
VIから入るのは、見た目に困っている場合です。名刺が古い、サイトが会社の実態と合っていない、資料がばらばら。困りごとがはっきりしているので、着手しやすく、結果も目に見えます。
ただし、VIから入っても、途中でMIを確かめる工程が入ります。ロゴを作るには、何を表すかが要るからです。理念が決まっていなければ、そこで一度止まります。止まること自体は問題ではありません。止まったときに、決めずに見た目の好みで進めると、あとで説明できないものが残ります。
MIから入るのは、社内で言葉が揃っていない場合です。人によって会社の説明が違う、判断の基準が共有されていない。この状態でVIを作っても、何を表せばよいかが決まりません。
判断の目安は、「うちは何を大事にしている会社ですか」を社員何人かに個別に聞いて、答えが揃うかどうかです。揃っていればVIから入れます。揃っていなければ、MIが先です。
BIは、この二つのどちらから入っても、あとから付いてくる部分です。決めた考え方が日々の判断に使われるようになって、はじめて行動が変わります。先にBIだけを整えることはできません。
どちらから入るにしても、着手の前に決めておくと進みが変わることがあります。今回どこまでをやるか、です。三つ全部を一度に扱うと、期間が長くなり、途中で判断する人が入れ替わります。VIだけ、あるいはMIとVIだけ、と範囲を決めて始めるほうが、決めきれます。
範囲を決めるときは、やらない部分をどう扱うかも一緒に決めます。BIに手をつけないなら、いま行動がどうなっているかは前提として置くことになります。前提が崩れていれば、作ったVIは実態と合いません。やらないと決めることと、見ないと決めることは違います。
なお、VIの相談として受けたときに、MIが決まっているかを確かめるのは引き受けた側の仕事です。確かめずに着手すれば、途中で止まる工程が見積もりに入っていないことになります。
作るのではなく、揃える
CIは、作る対象の名前ではありません。会社が何者かが、社内と社外で揃っている状態を指します。
三つの要素のうち、発注して作れるのはVIだけです。MIは会社が決めるもの、BIは日々の積み重ねで表れるもの。その二つが定まっていないまま見た目だけを整えると、揃っていないことが分かりやすくなるだけです。
だから、確かめるのは制作物の出来ではありません。掲げていることと、やっていることと、見せているものが、互いに食い違っていないかです。
食い違いは、外にいる人のほうが先に気づきます。取引先、候補者、辞めた社員。手元にある材料から遡れば、いま揃っているかどうかは確かめられます。作り直すかどうかは、そのあとの判断です。