採用ブランディングとは。採用広報との違いと、手をつける順番
採用ブランディングとは、働く場所としての自社が何者かを、候補者に伝わる形にする取り組みです。求人広告の出し方や、採用サイトの作り方のことではありません。
伝える前に、伝える中身が要ります。中身が定まっていないまま発信を増やすと、届く量は増えても、届く内容が人によって変わります。
この記事では、採用広報や採用マーケティングとの違いをお伝えします。そのうえで、何から手をつけるかを書きます。
採用ブランディングとは何か
対象になるのは、候補者だけではありません。その人の周りにいる人も含みます。
転職を考える人は、応募する前に周りに話します。前の職場の同僚、友人、家族。そこで返ってくる「あの会社って、どういうところ?」への答えが、応募するかどうかに効きます。求人ページを見ている人だけを相手にしていると、この経路が抜けます。
もうひとつ、社員も対象に入ります。自社を説明するのは、採用担当だけではないからです。面接に出る現場の社員、知人に声をかける社員、退職して外から話す元社員。会社について語る人の数は、採用担当の人数では収まりません。
そして、社員が話す言葉は用意されたものではありません。求人ページの文章は推敲できますが、飲み会で聞かれたときの答えは推敲できません。推敲できない場面で出てくる言葉のほうが、聞いた側には残ります。
私たちは、採用ブランディングを「働く場所としての自社を定める作業」として捉えています。発信する作業ではありません。定めたものを発信するのは、次の章で分ける別の仕事です。
業界に定まった分け方があるわけではありません。ただ、相談を受けるときにこの位置に置くと、話が早く進みます。
採用広報・採用マーケティングとの違い
三つとも採用のためのものですが、やっていることが違います。
| 何をするか | 相手 | 効いているかの見え方 | |
|---|---|---|---|
| 採用ブランディング | 働く場所としての自社を定める | 候補者と、その周りの人 | 説明が揃う |
| 採用広報 | 定めたものを届ける | 候補者 | 見られる、読まれる |
| 採用マーケティング | 母集団を集めて動かす | 候補者 | 応募が増える |
この分け方も、私たちの整理です。言葉の使い方は人によって違いますし、三つをまとめて採用ブランディングと呼ぶ会社もあります。どれが正しいという話ではありません。
私たちが分けているのは、三つが並列ではなく順番だからです。
定めていないものは、届けられません。届ける段になって「うちは何を伝えるのか」を考え始めると、そこで初めて定まっていないことに気づきます。そして期日が迫っているので、その場で書ける言葉が採用されます。採用サイトの公開日が決まっていると、この形になります。
届いていないものには、人は動きません。母集団を集める施策は、集めた人に見せる中身があって効きます。中身が薄いまま母集団だけを増やすと、応募は増えても選考の途中で減ります。集めるところまでは数字が伸びるので、うまくいっているように見える期間があります。
逆から見ると、分かりやすくなります。
応募が増えないとき、疑うのは採用マーケティングです。届く範囲の問題なので、媒体や出し方を見ます。
応募はあるのに知られていないと感じるとき、疑うのは採用広報です。中身はあるのに、伝える量や場所が足りていない状態です。
説明する人によって会社の姿が変わるとき、疑うのは採用ブランディングです。この場合、量を増やすと、揃っていない説明が増えます。
三つを混ぜて「採用ブランディングをやろう」と始めると、施策の話から入ります。採用サイトを作る、社員インタビューを載せる、SNSを始める。どれも届ける側の仕事なので、定める工程を飛ばしたまま進みます。
分けておくと、依頼するときにも効きます。同じ「採用ブランディング」という言葉で相談しても、受ける側がどれを想定しているかで、出てくる提案が変わります。媒体の運用を提案する会社もあれば、サイトの制作を提案する会社もある。どれも間違いではなく、扱っている工程が違うだけです。
自社がどの工程で止まっているかを先に決めておくと、提案を比べられます。決めずに相談すると、提案の内容ではなく、提案の見栄えで選ぶことになります。
順番で並べると、どこから手をつけるかも決まります。定める、届ける、集める。この順で見ていくと、自社がどこで止まっているかが分かります。
応募が来ないとき、何を疑うか
先に疑われるのは、たいがい三つです。媒体が合っていないのではないか。給与や条件が見劣りするのではないか。募集要項の書き方が悪いのではないか。
この三つは、実際に原因であることがあります。媒体を変えて応募が増えることはありますし、条件を見直せば届く層が変わります。募集要項の書き方で応募数が動くのも確かです。まず疑う対象として、順当です。
ただ、直しても変わらないことがあります。そのときに次を疑う先が要ります。
分かりやすいのは、応募は来るのに、選考の途中で減る場合です。母集団の問題ではないので、媒体を変えても同じことが起きます。面接を重ねるほど辞退が出るなら、選考の場で何かが伝わっているということになります。
伝わっていないのではなく、伝わっている、というのが要です。候補者は会社について何も分からないまま辞退しているのではありません。会って、話を聞いて、そのうえで判断しています。
もうひとつは、入社後に「思っていたのと違う」と言われる場合です。この場合、選考の場では伝わらなかったものが、入ってから分かったことになります。募集要項に嘘が書いてあったわけではありません。書いてあることと、実際に働く場所の間に、説明されていない幅があります。
三つめは、内定を出しても他社に決まる場合です。条件で負けているなら条件の問題ですが、条件が近いのに選ばれないなら、判断の材料が足りていません。候補者は、条件が並んだときに、条件以外で決めます。
どれも、募集要項の書き方では動きません。書き方の問題ではなく、書く前の中身の問題だからです。
なお、募集要項を直す前に「そこではないかもしれません」と言うのは、相談を受けた側の役割です。直してから変わらなかったと分かるまで、時間がかかります。その時間は、依頼した側が払っています。
社内で言葉が揃っていないと起きること
選考の場で、候補者は複数の社員に会います。人事、現場の責任者、役員。そこで聞く話が食い違うと、候補者は判断できません。
食い違いは、対立として現れません。それぞれが自分の言葉で、自分の見ている範囲を話しているだけです。人事は制度と働き方を、現場は仕事の中身を、役員は会社の方向を話す。どれも本当のことです。
ただ、候補者から見ると、同じ会社の話に聞こえません。「この会社は何を大事にしているのか」への答えが、面接ごとに変わります。そして候補者は、変わったことに気づきます。面接を重ねるほど分かるので、後半で辞退が出ます。
気づいた候補者は、その場では指摘しません。話が違うと感じても、選考の場で確かめる立場にはないからです。理由を告げずに辞退するので、会社側には届きません。辞退の理由として返ってくるのは、たいがい別の会社に決まったという事実だけです。
この判定は、インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方の8章に書いたものと同じです。
ふたつめは、採用の場面です。面接官によって会社の説明が変わらなくなったか。候補者から見て、誰が出てきても同じ会社に見えるかどうかです。
採用の場は、社内で言葉が揃っているかが外に出る場所です。社内の会議なら、説明が違っても業務は進みます。日々の仕事では、それぞれが自分の範囲を分かっていれば足りるからです。候補者は、比べる立場で聞いています。同じ質問を複数の人にして、答えを並べる。社内では起きない聞き方をします。
もうひとつ効くのが、入社後のずれです。選考の場で語られた会社と、入ってから見る会社が違う。この差は、入社後にできたものではありません。選考の時点ですでにあって、それが説明されなかっただけです。
理念やMVVを掲げていても、それが選考の場で使われているかは別です。面接で会社を説明するときに、掲げた言葉が出てくるか。出てこないなら、その言葉は判断にも説明にも使われていません。この見方はMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方にも書いています。
手をつける順番
採用ブランディングを始める前に、確かめることがあります。
| 順 | やること | 確かめ方 |
|---|---|---|
| 一 | 社内で言葉が揃っているか見る | 面接に出る社員に、個別に同じ質問をする |
| 二 | 揃っていなければ、先に揃える | 社内に向けた作業になる |
| 三 | 候補者に何を約束するかを決める | 誰に何を約束するかを一文にする |
| 四 | 伝える場をつくる | 採用サイト、資料、面接の設計 |
最初の工程は、その日にできます。面接に出る社員を何人か選んで、別々に同じことを聞きます。「うちは、どういう人にとって良い会社ですか」。会議で聞かず、個別に聞くのが要です。同じ場で聞くと、先に話した人に寄ります。
聞く相手は、役員だけにしないほうが分かります。役員の答えは揃っていることが多いのですが、候補者が会うのは役員だけではありません。現場の面接官まで含めて聞いて、初めて実態が出ます。
返ってきた答えが揃っていれば、二つめの工程は要りません。すでにある言葉を使えばよいので、そのまま次へ進めます。揃っていなければ、そこが出発点になります。
二つめは、社内に向けた作業です。候補者に見せる前に、社内で使われる言葉にします。この工程の進め方はインナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方にまとめてあります。採用のためだけにやる作業ではないので、採用の予算と切り離して考えたほうが進みます。期の途中で始めにくいなら、そこが理由です。
三つめで、候補者に何を約束するかを決めます。全員にとって良い会社にはなりません。誰にとって良い会社かを決めると、同時に、合わない人が決まります。そこを曖昧にすると、選考の途中で判断する材料が誰にもなくなります。決め方はブランドコンセプトとは。作り方と、機能しているかの見分け方と同じ手順です。
四つめが、採用サイトや資料を作る段です。次の章で扱います。
順番を飛ばすと、どこで止まるかも決まっています。最初の工程を飛ばせば、揃っていないまま発信することになります。三つめを飛ばせば、作る段で「誰に向けるか」が決まらず、制作が止まります。写真を選ぶ場面や、載せる社員を決める場面で、判断の基準がないことに気づきます。
なお、この順番を最初に示すのは、引き受けた側の役割です。採用サイトの相談として受けたときに、その手前を確かめずに制作へ入るなら、順番を飛ばしたのは私たちの側です。
採用サイトや動画は、いつ作るのか
揃ったあとです。作ること自体は必要ですが、時期があります。
揃う前に作ると、作った時点の言葉が固定されます。サイトは公開すると直しにくく、パンフレットは刷ると直せません。まだ定まっていない言葉が、直しにくい形で外に出ます。
そして、いちど公開したものは基準として扱われます。次に何かを作るとき、前に作ったものに合わせることになります。定まる前に作ったものが、あとから基準になる。この順序が、あとで効いてきます。
社員が登場する媒体は、揃っていないことが表に出やすくなります。インタビュー記事も、動画も、複数の社員が話します。それぞれが自分の言葉で話すので、揃っていなければそのまま並びます。読む側は並べて読むので、違いが分かります。
撮ってから気づくと、撮り直しになります。私たちも撮影をしているので、この手戻りは実際に起きます。話す内容を先に揃えておけば、当日は話し方だけを見ればよくなります。撮影は日程を押さえる仕事なので、撮り直しの費用は撮影費だけでは済みません。
作ったあとの運用も、先に決めておく必要があります。誰が更新するのか、社員が入れ替わったときにどうするのか。この考え方はブランドガイドラインとは。何を書き、なぜ使われなくなるのかに書いたものと同じです。作って終わりにすると、古い情報が残り続けます。載っている社員が辞めたあとも、その人が語る会社が残ります。
もっとも、いつ作るのが良いかを判断するのは、作る側の仕事です。「まだ早いです」と言えるかどうかで、受け取る側の信用は変わります。相談を受けた時点で作る前提になっていても、手前の工程が済んでいなければ、そこから話すのが筋です。
効果の見方
応募数は、ここに置きません。応募数は2章で分けた採用マーケティングの指標です。混ぜると、2章の分け方が意味を失います。
見るのは四つです。
面接官の説明が揃っているか。最初の工程で聞いたことを、もう一度聞きます。前と比べて、返ってくる答えの重なりが増えているかを見ます。一言一句が同じである必要はありません。同じことを指しているかどうかです。むしろ全員が同じ文を言う状態は、渡された言葉を読んでいるだけかもしれません。
候補者からの質問が変わったか。会社の説明が揃ってくると、質問の中身が動きます。条件や制度の確認から、仕事の進め方や判断のしかたへ。候補者が、比べる段階から確かめる段階に移ったということです。質問が具体的になるのは、応募先として真剣に見ている証拠でもあります。
辞退の理由が変わったか。選考の途中で辞退が出るのは、避けられません。ただ、理由が「話が食い違っていて分からなかった」から「合わないと分かった」に変わっているなら、伝わった結果として辞退しています。それは失敗ではありません。合わない人が早く抜けるほど、選考にかける時間は短くなります。
入社した人が「聞いていた通り」と言うか。入社後に確かめられます。ここが揃っていれば、選考の場で伝わっていたことになります。逆に、入社後の早い時期に辞める人が続くなら、選考の場で伝わっていなかったものがあります。
四つとも、数字では出ません。聞けば分かることばかりです。定期的に見るなら、面接に出る社員に聞く形が続けやすくなります。
なお、何を見れば効いたと分かるのかを、最初に決めて渡すのは引き受けた側の仕事です。測り方を決めずに始めると、終わったかどうかも分からないまま続きます。
揃えてから、伝える
採用で伝わらないとき、原因は伝え方にあることも、伝える中身にあることもあります。媒体や書き方を直しても変わらないなら、後者です。
社内で言葉が揃っていない状態は、外からは見えません。見えるのは、応募が来ないことや、辞退が出ることだけです。そこから遡って、選考の場で何が起きているかを見に行く必要があります。
見に行く方法は、この記事の5章に書いたとおりです。面接に出る社員に、個別に同じことを聞く。それだけで、どちらの問題かは分かります。
順番としては、揃えるほうが先にあります。揃っていれば、伝える手段は選べます。揃っていなければ、どの手段を選んでも、揃っていないことが伝わります。