パーパス経営とは。「意味がない」と言われる理由と、中小企業での使いどころ

パーパス経営とは。「意味がない」と言われる理由と、中小企業での使いどころ

パーパス経営とは。「意味がない」と言われる理由と、中小企業での使いどころ

パーパスとは、その会社がなぜ存在するのかを指します。社会に対する存在理由です。パーパス経営とは、その存在理由を軸に経営の判断を行うことを言います。掲げるだけでなく、何を選び何を選ばないかの基準として使うところまでを含みます。

この記事では、「意味がない」と言われる理由から入ります。そのうえで、大企業の型が中小企業に合わない理由と、それでも効く場面を書きます。

パーパス経営とは何か

「経営」がついていることに、意味があります。

パーパスを決めるだけなら、言葉を作る作業です。社会に対して自社がなぜ存在するのかを、一文にする。ここまでは、掲げるところで終わります。

「経営」がつくと、範囲が変わります。投資をどこに置くか、どの事業をやめるか、誰を採るか。その言葉で説明がつく状態までを指します。

つまり、掲げた時点では、まだパーパス経営になっていません。言葉ができた日と、経営が変わる日は別です。

言葉の出来で判定できないところが、この語の扱いにくさだと思います。整った一文でも、誰も参照しなければ経営の話にはなりません。逆に、ぎこちない言い回しでも、断る理由として持ち出されているなら機能しています。

もう一つ、区別しておくと扱いやすくなります。パーパスを策定することと、パーパス経営をすることは別です。

策定は、期間の決まったプロジェクトです。材料を集めて、書いて、決める。終わりがあります。経営のほうは終わりません。決めた言葉を判断に当て続ける作業なので、来期も再来期も続きます。策定の話をしているのか、経営の話をしているのか。ここが混ざると、見積もりも工数も噛み合いません。

私たちは、掲げた言葉が判断に使われている状態を指して、こう呼んでいます。業界で決まった線引きがあるわけではないので、読むときは自社での使い方に置き換えてください。

企業理念・MVVとの関係

パーパスは「なぜ存在するのか」を指します。ミッション(何を果たすのか)と近い位置にありますが、同じではありません。ミッションは会社が引き受ける役割で、パーパスはその手前にある理由です。

企業理念は総称です。何を含むかは会社によって違い、パーパスにあたるものを含んでいることもあれば、含んでいないこともあります。自社の企業理念がどちらなのかは、書かれているものを見ないと分かりません。

見分け方は単純です。掲げてある文のなかに、「何のために存在するのか」に答えている一文があるか。あるなら、それがパーパスにあたります。無いなら、含まれていません。パーパスを新しく掲げるかどうかの判断は、ここから始まります。

この整理は、企業理念とは。経営理念との違いと、作り直すときの判断と、MVV(ミッション・ビジョン・バリュー)とは。3つの違いと、矛盾したときの決め方に書きました。経営理念・社是・クレドとの呼び分けや、ミッション・ビジョン・バリューの違いは、そちらを見てください。

この記事で扱うのは、整理そのものではありません。整理されていない会社がパーパスを掲げると何が起きるか、のほうです。次の章がそれにあたります。

「意味がない」と言われる理由

パーパス経営については、意味がないという言い方も見かけます。

否定しません。そう見える状態が実際にあるからです。ただ、パーパスという考え方そのものに問題があって起きているというより、掲げ方のほうで起きている場合があります。

私たちが相談を受けるなかで見かけるのは、次のような経路です。

言葉が増えただけになる

すでに企業理念がある会社が、パーパスを別に掲げる。この形です。

古いほうは消えません。額は掛かったまま、新しい言葉が増えます。社内には言葉が二つ残ることになります。

そうなると、どちらを参照するかで人が分かれます。前の理念で判断してきた人は前のほうを使い、あとから入った人は新しいほうを使う。判断の基準が二系統になるので、掲げる前より揃わなくなります。

新しく掲げたことで状態が悪くなる経路が、ここにあります。足す前に、すでにある言葉との関係を決めていないと、この形に入ります。

足すこと自体が問題なのではありません。関係を決めていれば、二つあっても働きます。上に置くのか、並べるのか、片方を畳むのか。決めないまま両方が残ることが問題です。

ビジョン・バリューと矛盾したまま並ぶ

パーパスは社会に対する存在理由なので、書くと視野が広くなります。一方、ビジョンには期限があり、バリューは日々の判断に使われます。

三つが並ぶと、ぶつかる場面が出ます。社会に対して掲げたことと、今期の到達点が、同じ方向を向いていないことがあります。

ぶつかること自体は問題ではありません。問題は、どれを優先するかを決めていないことのほうです。決めていなければ、その場にいる人の立場で決まります。そして、決まらない状態が続くと、社員はどれも参照しなくなります。参照しても答えが出ないからです。

この状態を外から見ると、掲げてあるだけの言葉が増えた、という形に見えます。

外向きの言葉として作られる

これはパーパスに特有です。

社会に対する存在理由なので、社外に向けて書く力が働きます。統合報告書、採用サイト、企業のメッセージ広告。先に外へ出て、社内の判断には降りてこない、ということが起きます。

社員から見ると、自分の仕事と接続しない言葉が増えた状態になります。外向けの発信では見かけるが、目の前の判断には使えない。「意味がない」という言い方は、この位置から出てきます。

外側の見え方を先に整えても、判断の仕方が変わらなければ元に戻ります。リブランディングが失敗するとき、デザインは悪くないで書いた構造が、ここにも当てはまります。

そして、この状態をつくっているのは掲げた側だけではありません。掲げること自体を成果物にした提案が、この形を後押ししている面があります。策定して納品するところまでを仕事の範囲にしているなら、そのあと使われるかどうかは発注側の努力の問題になります。

大企業の型が合わない理由

大企業の事例は、探せば出てきます。何を掲げているかを知るには、あの形が早いと思います。ただ、自社で決める段になると、そのまま当てはまらないことがあります。

書いてあることが間違っているからではありません。前提の条件が違うからです。

大企業でパーパスが要るのは、事業が複数あり、判断する人が離れた場所にいて、株主や投資家に対して説明する必要があるからです。統合報告書やESGの文脈で、外向きに説明する場が先にあります。掲げた言葉は、その場で使われます。

中小企業には、その必要が同じ形では来ません。説明する相手が違いますし、外向きに説明する場が先にあるわけでもありません。

そのため、大企業の型をそのまま持ってくると、外向きの言葉だけができます。使う場が用意されていないので、掲げたところで止まります。前の章の三つめが、この経路で起きます。

条件の違いは、ほかにもあります。大企業は判断する人と経営の距離が遠いので、言葉を介して基準を渡す必要があります。中小企業は距離が近いので、言葉がなくても基準が伝わっている場合があります。言葉が要る理由そのものが違います。

時間の条件も違います。大企業では、掲げてから社内に行き渡るまでに段階が要ります。部門があり、階層があり、伝える経路が長い。だから浸透のための施策が組まれます。中小企業では、その距離が短い代わりに、掲げた言葉が使われていないことがすぐ見えます。ごまかしが効かない、とも言えます。

お金の出どころも違います。大企業は投資家から預かった資金で事業をしているので、何のためにその事業をやるのかを外に説明する義務があります。オーナーが資本を持っている会社では、説明する相手が社内と取引先になります。説明する相手が違えば、言葉の書き方も、置く場所も変わります。

大企業向けの進め方をそのまま中小企業に持ち込んでいるなら、条件の違いを見ていないのは提案する側です。規模が違えば、工数を減らせば済むという話にはなりません。

中小企業でパーパスが効く場面

要る会社と、要らない会社があります。効く場面のほうから挙げます。

一つめは、事業を広げるかどうかを決めるときです。声のかかった案件を受けるか、新しい領域に出るか。ミッション(何を果たすのか)で判断がつくなら、それで足ります。つかない場面が出てきたときに、その手前の理由が要ります。なぜこの会社がそれをやるのか。ここに答えがないと、条件のいい話から順に受けることになります。

断る理由としても使えます。条件は悪くないが、うちがやる理由がない。この言い方ができるかどうかで、事業の輪郭が決まります。

二つめは、採用のときです。規模でも待遇でも大企業と並べません。並べないところで選ばれる理由は、事業内容の外にあります。何のためにやっている会社なのかが、その理由になることがあります。

三つめは、事業承継のときです。引き継ぐ側にとって、なぜこの会社を続けるのかは避けて通れません。前の代から引き継いだ言葉をどう扱うかは企業理念の記事に書きましたが、こちらは続ける理由そのものの話です。

四つめは、取引先を選ぶときです。中小企業は取引が少数に集中しやすく、誰と組むかが会社の性格をつくります。条件だけで選んでいくと、気づいたときには自社の説明が取引先の説明になっていることがあります。何のためにやっている会社なのかがあると、組む相手を選ぶ基準になります。

どの場面にも共通しているのは、判断が分かれるところだということです。分かれないなら、いま要りません。事業が一つで、判断する人が数人で、迷っていない。この状態なら、バリュー(何を選ぶのか)が共有されていれば日々は進みます。

創業から間もない時期も、急いで決める場面ではありません。何のためにやるのかは、やってみた結果から出てくる部分があります。断った案件も引き受けた案件もまだ少ないうちは、集める材料そのものが足りません。

そして、中小企業のほうが有利な点があります。判断する人が近いので、掲げた言葉が判断に降りるまでの距離が短い。大企業で起きる「外向きだけになる」が、起きにくい構造です。掲げた言葉を、次の週の判断で使えます。

掲げる前に決めること

すでにある言葉との関係を、先に決めます。

足すのか、置き換えるのか、上のほうに置くのか。ここを決めないまま掲げると、言葉が二つ残る形に入ります。

足すなら、ぶつかったときにどちらを見るかも同時に決めます。決めていなければ、矛盾したまま並ぶ形に入ります。

決める前に、いま社内で使われている言葉を確かめます。企業理念があるか、ビジョンやバリューがあるか、それぞれ判断に使われているか。使われていないものが混ざっているなら、パーパスを足す前にそちらを片付けるほうが先です。言葉の数を増やしても、使われる数は増えません。

社外に出す時期も決めます。社内で使われる前に外へ出すと、外向きの言葉として固まります。先に社内で使ってみて、判断に使える形かを確かめてから出す。順番を変えるだけで避けられます。

そして、どの判断で使うかを、決める時点で一つ挙げておきます。次の投資判断でも、次の採用でもかまいません。使う場面が決まっていないと、掲げたところで作業が終わります。

どこまで大きく書くかも、先に決めます。

パーパスは社会に対する存在理由なので、書き始めると範囲が広がります。地球規模の課題、産業全体の未来。書けますが、自分の仕事と接続しない言葉になります。明日の判断に使えない大きさで書くと、掲げたところで止まります。

等身大の範囲で書くほうが、判断に使えます。自社が実際に触れている相手、実際に動かしている領域。そこから外に出ない範囲で書く。小さく見えても、使われる言葉のほうが経営に入ります。

集めるものもあります。これまで断ってきた案件、条件が良くても受けなかったもの、逆に条件が悪くても引き受けたもの。そこに、なぜこの会社が存在しているのかが出ています。白紙から社会的な意義を考えると、どこの会社でも書ける文になります。

掲げたあとに何を見るか

数値目標は置きません。見るのは、判断のほうです。

一つめは、断った案件の理由です。受けた案件ではなく、断ったほうを見ます。受けた理由は後からでも言えますが、断る場面では基準が要ります。そこにその言葉が出てくるなら、使われています。

二つめは、予算や人の配分を変えたときです。なぜそちらに寄せたのかを、その言葉で説明できるか。説明が別の理由になっているなら、掲げた言葉は判断に入っていません。

三つめは、社内から質問が出るかどうかです。掲げた言葉について「これはこういう意味ですか」と聞かれるようになったら、読まれています。自分の仕事に当てはめようとした人が、当てはまらない箇所に気づいて聞いてくるからです。誰も聞いてこないなら、読まれていないか、読んでも自分には関係ないと判断されています。

質問が出ないことを、行き渡った証拠と取り違えないでください。反応がない状態と、揃っている状態は、外から見た形が似ています。

見る間隔も決めておきます。掲げた直後は変わりません。変わるのは、次に大きな判断が来たときです。判断の頻度が低い会社なら、半期に一度の確認でも足ります。

どれも、聞けば分かります。掲げた言葉が経営に入っているかどうかは、外に出した回数では測れません。

社内で使われる状態をつくる作業は、ここから先になります。インナーブランディングとは。進め方と施策、効果の見方に、進め方と、何を見れば効いたと分かるのかを書いています。

掲げないという選択もある

掲げないという判断も、選択肢に入ります。

事業が一つで、判断する人が数人で、迷っていないなら、いま決める必要はありません。掲げていないことと、考えていないことは別です。日々の判断に基準があるなら、それが言葉になっていないだけです。

必要になるのは、判断が分かれ始めたときです。同じ話に別々の答えが出るようになったら、そこが合図になります。

合図は、社外から来ることもあります。何の会社ですかと聞かれる場面が増えてきたなら、外から見た輪郭がぼやけています。事業が増えたときや、看板の商品が変わったときに起きます。

いま要らないと判断したなら、そう伝えるのが引き受ける側の仕事です。要るかどうかを判定せずに進めるほうが、作る量は増えます。私たちも、相談を受けてそう見えたときは、そうお伝えしています。

掲げると決めたなら、作業の重心は言葉を考えるところにはありません。すでにある言葉との関係と、使う場所を決めるところにあります。そう思っておくと、進み方が変わります。

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